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翌朝、6時に起きた箒は、昨夜の記憶が思い出せずにいた。確かラグナといたはず、とうっすらと思い出したが、なぜいたのかはわからない。
気になって、隣の部屋の悠李に話を聞こう、と1016号室のドアをノックする。が、反応がない。二人とも寝ているのだろうか。悠李に限って、そんなことはあるはずはないと思うが、一応呼んでみた。
「ブラックモア!!」
「……ラグナならいないよ」
「鳳だけか」
「うん……朝っぱらからどっか行ったわよ」
なら、探さぬわけにはいかない。大体予想は着くが、千冬の部屋であろう。こんな時間に行くのも気が引けるが、仕方ない。
寮監督室のドアをノックする。千冬が出て、中には勿論悠李もいた。呆れ顔をしながら千冬は箒を部屋に上げた。悠李が自室から持ち出してきたペットボトルのお茶を箒に差し出す。それには手を付けぬまま、悠李に迫ろうとするが、話は千冬から切り出された。
「ドアの鍵も閉めた。これで、外部に盗聴される危険性はない。いいか篠ノ之。いや、今は箒でいいか。お前は、学園とこの少年とが結んだ、最重要機密を知ってしまったらしいな」
「機密……あっ!!ユーリと悪魔狩り!!」
「無論、油断していた私達にも責任はあるが、お前はこのことを外部に漏らすな」
ジャージ姿で、乱雑に積み上げられた書類やゴミなどに囲まれた部屋の中で、こんなに慎重な千冬を初めて見た。悠李は俯きながら目を閉じ、そのまま彼女にコトの次第を話す。
「騙していたワケじゃないんだけど、僕は所謂裏稼業の人間でね。IS学園に入学したあと、ここのセキュリティの保護を任されたんだよ。最重要機密とか、個人情報とか、色々ね」
「で、では悪魔狩りと、あと名前は……」
「この世に存在しうる筈のない生命体。地獄の使者を悪魔って呼んでる。お伽話みたいだけど現実だ。僕はその悪魔を狩る一族の末裔。そしてそれを商売として、表向きは便利屋、裏の仕事として危険な依頼を受けるってわけ」
裏稼業と聞き、ヤクザやら、国家クラスの機密保持やらなどを想像してしまう箒。つまり、こいつは法スレスレのことをやらかしている。いや、もしかしたら法などとっくに犯しているかもしれない。
だから拳銃や刀、剣などを個人で所有していたり、軍と関係を持っているのか。
「僕の祖父は悪魔でね、父さんは悪魔と人間のハーフ。
僕は拾われたらしいけど、なんでか悪魔の血が流れている。軍とは、父さんがイギリス軍人でもあるからね、ここへの入学も、軍を経由して許可された」
「な、名前はどうなんだ!?」
「僕は国に戸籍をおいていないんだ。住んでいる所も、無国地帯。だから、イギリスで偽の戸籍を作って、パスポートを偽造して、ラグナって名乗っている。本名を知られたら、すぐ裏の人間だって、わかる人には分かっちゃうから。色々と、知られたら仕事にも支障が出る」
「千冬さん!!なんでこんな危ないヤツを入学させたんですか!!」
「危ないヤツ?この子は、IS学園の中で、一夏以外に今最も信頼出来る男だ。それに、IS適正が出たからこちらからオファーしたんだ」
納得がいかない。あからさまに災厄をもたらしそうな男をここに入れさせるなんて。箒は、自分がここに入りたくて入ったわけじゃない。迷惑な姉の所為で、入らざるを選なかっただけだ。
悠李は、自らを危ないヤツだと知っている。それなのに、誘いを断らずに、入学した。なぜなのか理解出来ない。自分や一夏、セシリアを殺しかけているこの男を、認めたくはない。
「絶対、認めない……。私は、貴様を友だとは思わん!!機密なぞ知るか!!」
「漏らしたら、退学だぞ」
「元々望んで入った学校じゃないんですよ、上等です!私は、姉さんの所為で、こんな目に……」
「あのさぁ、自分を悲劇のヒロインだと思わないでくれないかな。僕だって、ここにきてまさか仕事するとは思ってなかったんだ」
「だが予想は出来たはずだ!」
「まさか」
「言ったのはこの前だしな……。取り敢えず、お前は機密を知ったんだ。守ってはもらうぞ」
「……なら一つ交換条件があります」
「なにさね」
「お前が一夏の友というなら、裏切らないようにしろ。そしてあいつを守ってくれ」
あからさまに一夏が好きなことをアピールしているとしか思い様が無い。悠李は一夏から離れろ、と言われるのかと思っていた。
勿論、一夏を裏切るつもりはないし、危害を加えるつもりはない。そして、悠李自身は、この学園を守る為にいるのだ。つまり、この学園の生徒を皆守るということに等しい。
悠李はにこりと笑った。当たり前かと言わんばかりに。そして、箒が望んだ答えを、穏やかに言ってやった。
「もちろんさ。僕は、皆を守る為にここにいる」
「……頼んだぞ。では、失礼します」
畳から立ち上がり、部屋を出ていく箒。
悠李と千冬はほっと息をつき、互いに冷たいお茶を一口飲んだ。
「焦った……」
「僕も焦りましたよ。でも、あの子は守りますかね、機密?」
「あいつも信頼はしている。バカな真似はしないだろうな。ここを退学になったら、箒は一夏に会えなくなるしな」
「強がっていても、一夏には甘えたくなる。ウサちゃんの件なら、尚更、か……」
「色々、抱え込むタイプだからな」
「剣の振りに迷いがあるのは、その為ですか」
観察眼の鋭い二人。無論、箒が一夏に惚れていることなど、千冬はとうの昔から知っていて、また彼女の姉でありIS開発者である篠ノ之束の所為で、抱え込むものが多くもなった。
頼れる人間が、あまりにもいなさすぎる。今、彼女が甘えられるのは、一夏と千冬くらいか。悠李は信用されていないから無理だろうし、クラスでは、逆に箒は浮いてしまっている。
色々と力にならねばなるまい。悠李はそう考え、千冬の部屋から出て、自室に戻り、頭の中で、箒への接し方を考えた。
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午後の練習場。いつも通り、一夏の特訓に付き合っている悠李と箒、そしてセシリア。だが悠李は遠くから、一夏と箒の組合を見ていた。
彼女の半径2m以内には近寄らない。箒からの提案だった。やはり自分は嫌われているな、と椅子に座りながら思い、一人くすりと苦笑いした。
一夏から、悠李の体内通信にCALLをする。プライベート・チャネルと言って、専用機持ち同士の、機密性の高い通信だ。戦術を練っては悠李に意見を乞い、そしてその案を活かして戦う。あまり凝ったことは出来ないが、少し戦い方を考えるだけでも、結果が大きく変わることもある。
《なんか元気ないな》
「そう?いつも通りだよ」
《調子が悪いなら、休んだ方がいいぞ。俺にいつも付き合ってくれるのは嬉しいけど、お前の身体の方が心配だ》
「うーん、身体っていうより、心かな」
《話なら、いつでも聞くよ。俺とお前は親友だろ?》
「うん……そうだね」
親友でも、言えないこともあるのだ。例え、親友でも。
武器紹介 その1
・天上天下無双剣(あまさげのむそうのつるぎ)
退魔師として名を馳せてきた、創龍の母の家・神威に代々伝わる魔剣。
人の背丈ほどの長さで細身、鞘もある両刃の剣であり、切れ味は言わずもがな、悪魔に対しては絶大な威力を誇る剣。
もとは創龍が持っていたが、彼自身は天上天下無双剣を振る機会が少ないため、悠李に譲った。
なお、今の神威家は退魔師としての血はほぼ薄まっており、その血を濃く継いだ先祖返りの神威凪(創龍の母)も、この剣の存在を知らぬまま亡くなっている。
現在、神威家は日本舞踊と作法授業で有名となっている。
・閻魔刀(やまと)
人と魔を分かつ、日本刀を催した魔剣。意志を持つとも言われている。
スパーダ、バージルの愛剣で、バージルがネロアンジェロとしてダンテに倒され(デビルメイクライ1)、その倭の破片を悠李が拾い、複製したもの。オリジナルと性能の差はない。
・デスイービル
60口径の回転式拳銃、Pfeifer Zeliskaをダブルアクションにしたり等魔改造を施したもの。連射力、パワーが上がっており、魔弾を発射する衝撃に耐えられるほど頑丈。
銃自体の質量は6kgと重いが、それを感じさせないほどの反動の大きさがあり、常人ではまず撃てない。
悪魔である悠李だからこそ、これを片手で撃てる。