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戦いの当日。一夏のピットに、特別に入れさせて貰った箒とセシリア。悠李は通常のシートに座り、本音らに囲まれ、ポップコーンを片手に映画館感覚で、鈴と一夏の戦いを見ようとしていた。
二人とも出て来て、すぐに戦わず、空中でなにか喋っている様子だった。恐らく、この前の約束がどうたらこうたらだろう。悠李にとっては、二人の夫婦漫才にしか見えないが、特に面白くも無いし、興味があるわけでもない。見たいのは、二人の火花散る熱い戦い。
試合開始のブザーが鳴り響く。両者、共に得物での鍔ぜり合い。鈴の長刀と一夏の雪平弐型の刃がぶつかり、火花が散る。そこから攻めていくのが一夏のスタイルになっていたが、一旦一夏は彼女から離れた。その時、鈴の両肩の非固定装具(アンロックユニット)がスライドし、ぱかっと開く。
悠李は気付いた。あれは、自分の幻影剣やセシリアのBT兵器と同じ武器だと。中の球体が光り、空気そのものを圧縮させ、撃ち出す。方針も弾丸も見えないために、回避は難しいだろう。一夏がそれに直撃し、地面に吹き飛ばされた。
「えっ、なにあれ!」
「ブラックモアくん、わかる?」
「衝撃砲。第三世代型ISの兵器で、オールレンジで攻撃が出来る非固定浮遊型の武装だよ。セシリアのアレと同じやつだけど、あれは360度制限なく撃てるみたいだね」
「らぐなんが考える対処法は?」
「球体が光る時にその直線上から避ける、そして一夏の場合なら突っ込んで破壊かな」
特性は見抜いた。一夏もそれに気付いた様で、タイミングを合わせ、走って逃げていく。うまいこと距離を詰めようとし、なにか言葉をかけて隙を作らせ、悠李と千冬が教え込んだ瞬時加速を使い、鈴に突っ込んだ。
「……嫌な予感がするな」
「どしたの?」
「ん?なんでも……!?」
悠李の予感。外部からの侵入者が現れる、その予感だった。どこかそわそわとし始める悠李だが、悠李の予感は当たっていた。
空が割れ、光条が一夏と鈴の間を走る。大きな衝撃がアリーナ全体を包んだ。次第に目の前にシャッターが降りて、外が見れなくなる。
悠李はすぐさま本部に向かおうと、ポップコーンを片手に椅子から飛び上がり、出口の扉に向かった。そこもシャッターが閉まりかけており、滑り込んで、なんとか通り抜けたものの、これでは皆が避難できない。
「弁償上等でえっ……」
右拳を思い切り扉に当てる。シャッターごとぶち抜いて避難経路を確保した後、千冬達がいる一夏のピットに駆け込んだ。
「よくきたブラックモア!」
「織斑先生、どうなってますか、外は。シャッターもしまるし、開かないから、避難経路確保の為に、扉を一枚壊してきたんですけど」
「それは仕方がない。背に腹は変えられないからな」
「戦闘中止は出しましたけど、二人はあのISと戦う、と言っています」
焦りながらも事態を説明してくれる麻耶。モニターに出ているのは、手が異様に長い、全身装甲(フル・スキン)のIS。そして、アリーナの扉やシールドが全てロックされているということ。一応一枚だけは壊したので、表示が異常になっているが、今では他のロックレベルの方が異常だ。
「今、3年生の精鋭がクラッキング中ですが……」
「ブラックモア。救援、頼めるか?」
「織斑先生、ならわたくしも!!」
「ああ――ん?箒がいない」
「あの子なら、飛び出して行きましたけど」
「あのばかッ……!篠ノ之さんの救援に行ってきます」
恐らく、一夏を鼓舞しに行ったのだろう。あいつらが見えるところと言えば、カタパルト近くだ。悠李は部屋から出ると、すぐにカタパルトに向かう。見えるのは箒の背中。そして、敵目標。
「なにやってんの!!危ないから戻りなさいよ!!」
「ブラックモア!!」
「はやく戻って!」
勿論、半径2m以内には近付かない。こういう非常事態に何をしているのか、と自分でも疑問に思う悠李だが、彼女は頑なにその態度を変えないから仕方ない。
それゆえに、悠李の言うことを聞かないのだ。そこから立ち去ろうとしない。目の前には弾丸が飛び交っているというのに。そして、敵ISの火線がカタパルトデッキを直撃させる。
たった一瞬の出来事。悠李は咄嗟に反応して箒に近付き、彼女をカタパルトの内部に押し倒す。なんとか難を逃れた。が、悠李の制服の腰辺りがレーザーで焼き払われてしまう。
「君は死にたいのか?」
「す、すまない……」
「大丈夫ですの!?」
「大丈夫。今からバリアぶち抜くから、待ってて」
背中から生み出す天上天下無双剣。スティンガーを放ち、バリアを破壊すると、ブルー・ティアーズを展開したセシリアが勢いよく飛び出した。
それを援護するかの様に、カタパルトの端から、剣を横凪ぎしつつ投げ出す悠李。ブーメランの様に、敵ISを切り刻む。
《ラグナ!!俺がとどめをさす!!》
「そうか、君には零落白夜があったね」
《鈴、俺にその砲弾を撃ち込んでくれ!》
《は、はぁ!?》
「なるほど、砲弾のエネルギーを使って、瞬時加速か。よし、鈴さん、一夏に撃ち込んで。一夏は零落白夜発動、セシリアはカバーを」
《了解ですわ》
《頭いいわね一夏!行くわよっ!!》
《おおっ!!》
頭脳とコンビプレーの賜物。この通信をオープンにし、千冬達に知らせる。モニタールームの回線から驚きの声が上がり、千冬からも皆に称賛の声がかかった。
天上天下をしまうと、ピット出口に背中を向け、箒とすれ違いながら立ち去ろうとする。その時、箒が悠李に向けて口を開いた。
「待ってくれ」
「なんでさ」
「謝りたい。お前を疑って悪かったよ。お前は、誰よりも真剣で、強くて、優しい」
「別にどんな風に思われようが構わないからさ、自ら死にに行くようなことはよしてちょうだいよ。一夏に怒られちゃうじゃん」
「私は真面目に言っているんだが」
「僕だって真面目だよ。だから君を庇ったんだ。いいね、人の話はきちんと聞きなさい」
「うっ、すまない……」
悠李の背中の火傷は既に治っている。腰を出しながら、そこから立ち去る悠李はどこかシュールだ。
――強い。強すぎる。あいつに、私が教わったら、より強くなれるだろうか?
だが、箒は己のことのみを考えていた。
《ちいっ、腕一本だけか!!》
《ああっ、カタパルトの方に!!》
《ラグナさん、篠ノ之さん、逃げて――》
「騒々しい蝿だねぃ……」
回線は開きっぱなし。今の現状は見なくてもわかる。悠李は幻影剣を敵ISの周りに展開し、突き刺した。
肩越しにデスイービルを構え、トリガーを引き切ると同時、幻影剣が爆発する。着弾して吹っ飛んだ敵は、悠李の蝶のタトゥーが入った右手を鳴らすと同時、更に爆発し、完全に機能を停止した。
◆
あのISの戦闘の後、一夏が急に落ちたと聞いて、悠李は心配して保健室に行く。ベッドに横たわって眼を閉じている一夏の唇を奪おうとしている鈴。だが悠李が入ってきた途端、咄嗟に彼女は一夏から顔を離した。ちょうど一夏も起き、悠李と鈴を見て、ああ、と思い出したように声を出した。
破れた制服の腰辺りを見て、カタパルトデッキを直撃した火線から箒を庇ったのだろう。一夏は幼馴染みを助けてもらった礼を悠李に言った。
「友達を助けるのは、友達の役目だろ。礼なんていらないって」
「制服はどうすればいい?」
「それは大丈夫。GW中に買ってくるか直すよ。それよりも、銃が1丁壊れてさ」
M500の残骸を取り出す悠李。バレルが折れ、シリンダーが崩壊していた。50口径の弾丸が薬莢ごとバラバラとこぼれる。一夏の手の平大の大きさの弾丸。こんなに大きい物を、片手で撃っているのか。なら、60口径をも片手で撃つ悠李は、とんでもない化け物だというのが改めてわかる。
「デスイービルは問題無いんだけどねえ」
「重そうな銃だよな、それ」
「6キロあるからね、女の子や子供は片手じゃあ持てないだろうね」
「うげっ」
通りで、悠李の腕があんなに太いのか。人一人軽く担げるほどのパワーがあるのだ。そしてあのスピード。器用な人間だ。この腕で振るう剣だから、あれほどの衝撃波を生み出せるのだろう。
一夏達に、今回の件を内密にして外部に漏らさぬように、と教師達が渡してきた誓約書を渡し、悠李は保健室から出た。鈴と一夏で好きにやってくれ、と言わんばかりに二人を残して。
寮に戻る最中に、同じくこの事件に関わったセシリアが、誓約書を書き終え校舎から出てくる。悠李に気付くと、「お疲れ様です」と優しく声をかけてくれた。
「ナイスキャッチだったねセシリア。君がいなかったら一夏は死んじゃってたよ」
「クラスメイトを守るのも、友人の勤めですわ。それに、わたくしは代表候補生ですから、人一人救えないでこの肩書は名乗れません」
「それはそうだねぃ」
「わたくしとしては、あの大剣での撹乱攻撃が、一夏さんが突撃できる一番のチャンスを作れたと思いますの。流石、騎士道は違いますわね」
「おっ、セシリアも僕を騎士と見てくれてるんだね!ありがとう!」
「女性一人だけでなく、私達全てを守られた騎士ですわよ。間違いなく、今日のヒーローは
ラグナさんですわ」
「いやいや、一夏と鈴さんがヒーローでしょう。勿論、君だって」
「ふふっ、皆、先生達からは英雄に見えますわね」
肩を並べて歩く二人。仲睦まじい関係だが、セシリアは一夏に惚れているのだ。最近の行動からしてそれはわかる。二人は、一応同郷の親友。それ以上でもそれ以下でもない。これまでもこれからも。
部屋に着く前に別れ、悠李は1016号室に近付く。その部屋に差し掛かるドアに誰かが寄り掛かっていた。黒色のポニーテール。箒だ。いつもより落ち着いた表情で、箒は悠李を見る。
「一夏は大丈夫か?」
「大丈夫だったけど、どったの?」
「少し、話があるんだ。中に入ってもいいか」
「いいけど」
思わず漏れる疑問の声。あれだけ悠李を嫌っていたのに、今ではこの有様だ。悠李は鍵を開け、悠李の趣味が存分に敷き詰められた部屋に入り、箒をふかふかの椅子に座らせた。悠李は上着を脱いでハンガーにかけ、軽装になったところで、箒の隣にあるベッドに座った。
「これまでのことは済まない。私自身反省しているし、感謝もしているんだ。自分が如何に非力で愚かしいかを再確認した」
「いやいや、気にしないでいいよ。誰だって、あの立場なら疑うもの」
「そうか。それと、頼みがある」
「なに?」
「私を、鍛えてほしい。弟子入りさせてくれ」
「え゙っ゙」
また、面倒事か。悠李ははあ、と溜息をつく。一夏でさえ手一杯なのに、剣道日本最強の女子高生になにを教えろというのか。十分強いこの女子を、これ以上鍛える必要はないように見える。それになにより、悠李は面倒なことはやらない主義だ。
悪いけど、と悠李が切り出した。だが、箒は断る暇を与えず、悠李に迫る。
「勿論お前の秘密は守る!!なんでも言うことは聞く!!この通りだ!!」
「僕、めんどいの嫌いなんだけどさ、もし断ったら?」
「……お前の本名をバラす」
「セコいなぁ」
「強くなりたいんだ!!誰にも負けないくらい!」
「強くなるのは本人の意志次第じゃないかな。僕の技を教えたところで強くなれるわけじゃない」
技よりも、心。技術よりも、体。それこそが強さ。悠李はそう言って、なんとか逃れようとしたが、箒は食い下がらない。渋々諦めて、箒を鍛えるしかないのだろうか?悠李はそう思った。
箒の眼は、未だ真っ直ぐにこちらを見ている。これはやはり、断るのは困難か。しかし、こちらの秘密をバラされても、箒は強くはなれまい。そうしたら、悠李と箒は、この学園から去らざるを選なくなるからだ。
「メンドいことは嫌だ」
「なら、一夏と一緒に……」
「それだって僕に負担が掛かるじゃないか。それに、仮に一夏をセシリアや鈴に任せたとしたら、彼女らに一夏を盗られるよ?」
「あっ……」
「自分で自分を鍛えなよ。本当に暇な時には相手したげるからさ」
「本当か!?」
「うん。篠ノ之さんに何を教えればいいのか、僕はわからないけどね」
「なんでもいい!!千冬さんが使っていた、あのスティンガーという技でも、お前の使った投剣技でも、または身体の鍛練でも!!」
「ネットで調べて練習した方が遥かに効率は良いんじゃないかなぁ……」
石頭の頑固娘。こちらが折れるまでずっとこうだろう。
だが、こうなったら自棄だ。悠李は苦笑いしながらそう思った。