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GWの休暇を利用し、実家に戻って欧州スイーツ選手権に参加した悠李は、総合3位のメダルとトロフィー、そして大量の菓子を副賞として渡され、開催国のフランスの街中で、一人寂しく食べ歩きをしていた。後3日の休日、そろそろ荷造りもしないと、と言う日ではあるが、それよりも悠李は、銃の調達に時間をかけていたのだ。
M500の全損。流石のイギリス軍でさえも歯が立たない程の壊れっぷり。仕方ない、内部構造まで崩壊していて原形を留めていないのだから。50口径のマグナムといえば、M500か、デザートイーグルか、だ。だがデザートイーグルは、オートマチック・ピストルに馴れていない悠李と相性が悪いし、M500も売ってはいない。
そこらのガンショップをひたすら回りまくる。そして15軒目の店で、悠李はやっと望みの品を見つけた。
「レイジング・ブルか。よし、これ買おうかな」
ラグナ名義で銃を買う。クレジットの一括払い。ずっしりとした本体。大きめの手の悠李には、しっくりとくるグリップ。発射する弾丸も、M500と同じ50口径だ。
「お買い上げありがとうございましたー」
大火力の銃を、パーカーの胸元にしまい、そのまま街中を闊歩する。とある駐輪場まで行き、自前のバイクに跨がり、国際空港まで向かおうとする最中であった。
並走する、黒色の高級車。窓ガラスから覗けるは、ブロンドの美少女。どこかで見た顔――いや、馴染み深い、その面立ち。
「ゆうり……?」
「あ……!いやいや、何かの偶然だろう。というか見間違いだろうな……」
もう一度、ヘルメットのバイザー越しに、隣の車の窓を覗いた。こちらをしっかりと見つめる少女。間違いはない。幼馴染みの、姿を消した少女。
どうやら彼女も空港に向かっているらしい。なら、空港や飛行機で話した方がいいだろう。こちらに視線を送る少女より先に空港に着き、バイクを駐輪場に止める。空港の中で待っていた創龍に、ヘルメットと鍵を渡し、乗って帰ってと頼んだ後、そのまま空港のロビーの椅子に座った。
「悠李」
「……やあ、シャル。元気だったかい?」
「悠李っ!!」
「公共の場だよ?」
少しして、悠李に抱き着くは、先程の車に乗っていた少女。彼女は想いをぶちまけながら悠李に抱き着いた。椅子が傾き、悠李は彼女の身体を優しく受け止めた。
「シャル、どうした
の?長い間、どこに行っていたか、気になるんだけど」
「デュノア社に保護されてた。お母さんが、その社長の愛人関係を築いていて、その二人の間に産まれたのが私だって聞いて」
「それで?ここに来た理由は?」
「デュノア社の仕事で、男の子になって、IS学園に入り、織斑一夏とラグナ・ブラックモアのデータを取るように、と言われたの。でも……」
「不本意そうだね」
「保護といっても、実質は研究用のモルモットみたいな扱いの為に引き取られたんだよ。IS適性はA。お母さんが亡くなって、その適性ががわかってから、ボクは拉致同然に……」
気付かない事実。幼かった悠李は気付く由もない。
「なんで父さんは動かなかったんだろう」
「電話とか知らないんだよ、その時は」
「でも、あんなに勘が鋭いのに」
「すぐに連れ去られちゃったから……」
「そっか。ごめん。もし知っていたら、僕が君を助けてあげられたんだけど」
「でも、こうして会えたから、いいんだ。それより悠李は何しに?」
「ふふっ、僕は、"ラグナ・ブラックモア"だからね。IS学園の生徒だし、君のデータ収集のターゲットだよ?」
「君が……。そうだ、悠李?日本に着いたら、色々と案内してくれないかな?それと、デュノア社との縁切りに協力してくれないかな」
「お安い御用だね。それよりも、縁切り?」
「うん。あんまり、関わりを持ちたくないから。あ、でも、ボク代表候補生……」
身の回りには、どうしてこんなにエリートが多いのだろうか。シャルロット・デュノアさえも、代表候補生とは。三国の代表候補と会っている自分は、ある意味幸せなのかもしれないが、如何せん、今までの代表候補生と悠李とのレベル差が開きすぎている。
それとは別に悠李は気付いた。もしかしたら、デュノアと縁を切ったら、シャルロットは代表候補生では要られなくなるかもしれない。それだけではない、代表候補生で無くなったら、フランス本国の国籍は無くなるかもしれないし、行き場も無くなる。最終的な行き場はBlack Cherryがあるが、彼女はそれを望むかもわからない。
「でも、縁切り、ってさ。弊害があるんじゃない?」
「そんなものは百も承知だよ。でも、いつまでも閉じ込められたままのペットでいたくないんだ」
「だよね。今、ちょっとその話を教師に聞いてみるよ」
大事な女の子の為だ。悠李はナノマシンによる無線回線を開き、千冬の端末にCALLを入れた。
無論、回線自体はシークレット状態の物だ。シャルロットは勿論、他の人間にさえ聞こえない。
《こちら織斑。どうした?》
「織斑先生、少しお時間下さい。転校生に、男子がいませんか?」
《どうしてそれを知っている?》
「今、本人に会っています。そしてその子は僕の幼なじみです」
《……ああ。シャルル・デュノア。デュノア社の御曹司で、3人目の男性IS操縦士"ではない"、やつか。バレバレだ、学園で女だと気付いているのは私しかいない。なぜこんな見え透いた偽装をしているのか、理由を知っているのか?》
「流石、優れた眼力をお持ちで。それは斯く斯く然々」
手短に説明。恐らくこれは大変な騒動になるだろう。だが、IS学園も千冬も、親身には対応してくれるはずだ。
《ふむ……。上に一応掛け合ってみるが、すぐに、とはいかないかもしれない。それに、その事情があるなら、シャルロット・デュノアは保護対象になるだろうな》
「対応、ありがたいです。保護対象ならば一応安心は出来ますが、万一の場合は、ウチが引き取りますんで」
《便利な職業だな、便利屋は》
「洒落ですか?全然上手くないですよ」
《意識して言った洒落じゃない。とにかく、こちらで出来る限りの全てはやるさ》
「お願いします。ありがとうございます。失礼します」
回線を切って、悠李はシャルロットに今の通信の内容を話す。いきなり話しはじめたから、なんなのか、と思っていたのだが、体内通信だとわかってからは、それを納得していた。
「取り敢えず、一旦は安心ということだね」
「よかった。本当、悠李のおかげだよ」
「君を守るのが僕の役目だよ?あとは……、そうだな。一応、制服を二着、女子用と男子用を買っておこう」
「あ、制服は男子用のはあるんだ」
「じゃあ女の子用のやつを買おうか。よし、準備も計画も万端だ」
「うん、君がいて本当助かる。あ、それと……」
「なぁに?」
椅子に座りながら、シャルロットは悠李の頬にキスをした。彼女の、積年の想い。勿論、悠李もシャルロットを好いているので、嫌ではなかった。
「ただいま、悠李」
「おかえりなさい、シャル」
◆◇◆◇◆◇
二人を乗せた飛行機が羽田に着き、シャルロットと悠李が寝ぼけた頭を覚まし、眼を擦ると、二人手を繋ぎ、各々の荷物を空港内で受け取ると、悠李はトイレで新調した制服に着替え、電車で市街地に出た。複雑な路線図。そして激しい乗降。はぐれないよう、しっかり互いに手を握る。
途中で乗り換え、IS学園行きのモノレールに乗るが、学園では降りず、まずシャルロットの学生用品を買いに行く。巨大なショッピングモール「レゾナンス」。後々の為の、シャルロットの女子制服の仕立をしに、洋服店に向かった。
「では、採寸しますので」
「後でね」
「ん」
採寸中に、悠李はシャルロットの為に、彼女が使うことになろう教科書やノートを買いに、本屋に足を運んだ。GWということもあってか、IS学園の生徒も多い。男子制服を着ている悠李はやはり眼を引いてしまうが、それでも本に意識を集中する人間が多いので、騒いだりなどはなかった。
教科書を過不足なく買い、ついでにノートやペンなども購入する。おまけに、これからシャルロットが箸を使う場面が多くなるだろうと想定し、彼女用の箸も買った。紙袋を片手に、先程の洋服店に行く。少ししてからシャルロットの採寸が終わり、会計の方も済ませ、モール内の喫茶店に入る。
胸にコルセットを巻き、長いパンツを履いているので、周りには一見女だとは思われない格好だ。ここにも学園の生徒、しかも悠李のクラスメイトもいるので、あまり変な噂を立てられないような格好をしておいて正解だった。
「あれ、ラグナくん。その子は?」
「ああ。僕の幼馴染みで、シャルル・デュノアって言うんだ」
「よろしくね」
「よろしく、王子様」
「いやいや、貴公子でしょ!ねえラグナくん?」
「御曹司、かな」
「まあそんなとこだね」
嘘ではない。だが男というのは嘘だ。こんなに女顔なのに、ばれないのはなぜか。やはり、胸のコルセットが誤魔化しに一番貢献しているのだろう。そのうちばらすのだが、今ばらしては不都合が生じる。
「少ししたら行こうか」
「うん」
ストロベリーサンデーとチョコミルクの、いつもの悠李のスイーツチョイスに、シャルロットが頼んだダージリン。貴族、と勝手に周りがいうが、少なくとも悠李はそんな高尚な人間ではない。
シャルロットより、品格もカリスマもない男が、どうして貴族と間違われようか。見る目がないな、と悠李はぼそっと言った。
「ボクにとっても、悠李は貴族とは思えないな。騎士(ナイト)だとは思うけど」
「騎士道信奉者ではないけど、君を守るためなら、僕はこの身を捧げるよ」
「さらっとかっこいいこと言わないでよ。ドキッてするじゃん」
「ドキドキさせっぱなしにしてあげるよ」
周りに聞こえているのか、かなりの視線を浴び、そして顔を赤らめている大勢の人。悠李はそれに気が付き、てへっと舌を出した。
「やらかしたねぃ。二人きりの時に言えばよかったかな?」
「大丈夫、いつでもボクは君の話を聞くし、周りは関係ないし」
バカップルの会話そのものだろう。周りを見ないのもバカップルの特徴。だが、この格好でやると、二人は同性愛者と思われてしまう。
頼んだものを綺麗に食べたあと、喫茶店から出て、遂に学園へと向かう。シャルロットのキャリーバッグと、自分のリュックを持ち、モノレールに乗り3分程。駅に着くと、寮に直行し、まずは千冬と会いに、寮監督の部屋に行った。
「面倒事が尽きんな。今回も、流石に仕方の無いことだろうが」
「"も"、というと、この前の乱入事件ですか?」
「ああ。それは置いといて、君がデュノアだな?」
「はい。お手数をおかけして申し訳ございません」
「しかし、なぜデュノア社は、君に汚れ仕事を?世界シェアはトップクラスな筈だが……」
「開発の立ち遅れ、でしょうね」
綺麗事では生きていけないのがビジネス。だが、これは余りにも汚いやり方だ。恐らくデュノアはシャルロットを使ったあとは、ゴミの様に捨てるだろう。この計画を発案したのはデュノア本人ではないかもしれないが、その部下達の暴走を止められないならば、最早デュノアも同罪である。
愛人を勝手に孕ませ、妾とはいえ実子を道具として扱う、その腐った性根。幼馴染みとして、人として、悠李はあまりにもその事に怒りを抱いた。
どうやら、千冬も同様なことを思っているようだ。彼女の瞳は、怒りと哀れみ、そして困惑の色が伺える。そして、千冬が口を開いた。
「こちらで出来ることは、全てやってみる。今は、君はIS学園に保護された人間の扱いとして、ここで悠李くんと共に暮らすといい。幸い、この学園は外部からの干渉は一切行えないから、安全は保障されている」
「共に暮らす、って、僕と一緒の部屋ですか。それならより安心だ」
「そうだね。ありがとうございます、織斑先生」
「これは、私からの入学祝いだと思ってくれればいい。それに、そこの男はかなりの強者(つわもの)だからな」
「それは知っていますよ」
信頼は、どこの誰からも得ている。無論、シャルロットからも、絶大的な信頼を置かれているのは間違いない。
「君を守るためなら、自分の身体をも犠牲にするよ」
「悠李……」
「すまない。ラブシーンはここではやるな」
千冬が無表情で二人を追い出す。仕方なく、悠李はシャルロットと手を繋いで自室に入った。
既に鈴は別の部屋に動いた。一夏も一人部屋になったらしい。この周辺で唯一変わらないのは、悠李のみ。お馴染みの綺麗に整えられた部屋に、壁一面を埋め尽くすヴィンテージギター。木の杢目とカラーが部屋を彩っている。
「随分と趣味が変わっちゃったみたいだね」
「そう?」
「そうだよ。やっぱり、おじさんに似たんだね。顔もそうだし。悠李の方が綺麗だけど」
「父さんと比べないでおくれよ」
「ごめん、でも、ボクのNO.1は悠李だけだから」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない」