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長い様に思われたGWは一瞬で終わった。休み明けの初日。昨日、色々とシャルロットと話した悠李が、彼女を起こして共に部屋で食事を取り、身支度をして校舎の方に向かう。まずは職員室だ。
「織斑先生ー。あれ、いない」
「あら、ブラックモアくんに……。あ、聞いていますよ、デュノアくん。おはようございます。ようこそ、IS学園へ」
「はい、おはようございます」
「山田先生、織斑先生は会議ですか?」
「ええ。デュノアくんのことで色々と動いてらっしゃるそうです。……勿論、私も事情は聞きましたよ?」
「なるほど。では、任せても大丈夫ですよね」
「はい!私は先生ですから、もっと頼りにしてくださいね!」
山田真耶。こんなに彼女が自分を推したいのはわけがある。
生徒からはあだ名を付けられ、その上柔らかな性格が災いして生徒に舐められ、終いには先生と呼ばれなくなる。この学園の教師である以上、かなりの実力者であることは間違いないのだが。
目上の人なので敬意を払うのは当然だ。悠李はそう思っているし、また真耶は教師だから信頼のおける人間であることを疑っていない。だから先生と呼ぶし、シャルロットを真耶に任せられる。
悠李は職員室から出た。ピカピカの廊下の先には、眼帯をした長い銀髪の少女。無表情でこちらに向かってくる。悠李はニコリと笑って挨拶をした。
「おはよう」
「……」
だが、反応はない。なんだか寂しい気持ちにはなるが、仕方ない。人見知りなのだろう、と割り切り、悠李は教室へと向かうが、彼女と擦れ違ったとき、少女は悠李の顔を見ていた。
「なにさ」
「……これが、ラグナ・ブラックモアか。腑抜けではなさそうだが、突出したものはないか」
「そういうアナタは軍人さんかぃ?歩き方がかなりカタいなぁ。回りの警戒も怠らず、いつでも行動出来るような身のこなしだねぃ。見えない左目を庇っている訳ではなさそうだけど、でもその眼からはなにやら怪しい匂いがするねぃ」
「観察眼は確からしい……」
物静かに会話を交わし、少女の方が先に動き、職員室へと入っていった。一体なんなんだろう、と悠李は首を傾げた。
それよりも、今日は久しぶりに一夏達と会える。箒も鈴も、セシリアも見ていない。教室に行けば、皆必ずいるだろう。期待を込めて教室へと小走りで向かう。開かれたドアの先には、やはり一夏達がいた。
「おはよう、みんな」
「おっ、ラグナ」
「元気してたみたいだね、その様子じゃ」
「ダラダラしてたよ、俺は」
「ブラックモアは……ああ、帰省していたのか」
「そうだよ。スイーツ選手権も3位だったしね」
「色んな才能があって凄いなぁ。俺も家事は出来る方だけど」
「僕ん家は父さんと交代制だからね」
5日間ほどの休みでは、人はあまり変わらない。悠李はそう実感した。
始業のチャイムが鳴り、真耶が教室に入ってくる。遅れて千冬が来て、その後ろに、シャルロットと先程の女子がついて来た。
「今日は転校生を紹介します」
ここから先は聞き流す程度で大丈夫だろう。悠李はそう思い、窓の外を眺める。シャルロットを見て大騒ぎする教室内。対して、静まっているのは、悠李と銀髪の少女、そして千冬くらいだろう。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
「お、男……?」
「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を──」
「男子!三人目の男子!!」
「しかも、うちのクラス!!」
「地球に生まれて、良かったぁぁ!」
「あー、騒ぐな。静かにしろ」
最早このやり取りは定型化している気もする。悠李が欠伸をしたと同時、千冬の怒号で皆が静まった。
「挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
教官、という単語に悠李と千冬は引っ掛かった。千冬は軍人だったのかと、悠李は疑問に思う。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
"もう"と否定したことから、退役軍人なのだろう。あんなに創龍を知っているのは軍人以外には考えられない。無論、彼等が共闘した仲とは既知のことだが。
ラウラと呼ばれた少女が口を開いた。先程、話を交わしたその人。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「……い、以上ですか?」
「以上だ」
手短な自己紹介。名乗りだけではあるが。ラウラとシャルロットが席を教えられた。その時だった。
一夏の前にずんとラウラが立ち、目には見えぬが激しい怒りを身に宿したことが感じられた。
ん?、と一夏は首を傾げた。その一夏の顔を、ラウラは平手でひっぱたいた。
「いきなり何しやがる!?」
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
突然の行動。ある程度の動作を悠李は見ていたが、止めはしなかった。
「一難去ってまた一難、かねぃ……」
「ふん……」
なるほどどうして、中々深い理由がありそうだ。
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「ブラックモア、織斑。デュノアの面倒を見てやれ」
「了解です」
「よろしくラグナ、織斑くん」
HRが終わり、悠李と一夏にシャルロットの面倒が押し付けられた。実質、悠李だけで十分だが、そういうわけにもいかないだろう。
次は操縦訓練の授業なので、着替えをしなければならない。その更衣室までの道のりが、人為的に遥かに険しいものになることは、一夏と悠李にはわかりきっていたことだった。
「さっさと行かないとやばいよな」
「うん。一夏、先行ってていいよ。シャルは僕が面倒見るから」
「お前ら、幼なじみか?」
「そうだねぃ」
「ボクのお母さんと、ラグナのお父さんが知り合いでね」
「なるほど、ならラグナに任せていいよな?ああシャルル、よろしく。俺のことは一夏でいいぜ。それじゃ、お先に!」
一夏を先に行かせる。悠李達の方が、明らかに機動力はある。女子の大群と鉢合わせしないように、二人で別階段を下り、スムーズに更衣室にたどり着く。
悠李は服を脱いで、下に着込んでいたイギリス軍製の改良型のスーツをあらわにする。以前のスカルスーツとは違う、紫色のフルボディ。余計な文様は一切無く、各所の運動がサポートされている。
「あまり見ないスーツだね?」
「父さんのコネで、イギリス軍特注のものなんだ。っていっても、あっちが推してきたんだけどね」
「あれっ、お前らの方が早く着いたのか」
「一夏?てっきり、先に行っちゃったのかと思ったよ」
「ばったり大群に出くわしちゃったからな」
一夏が遅れて到着する。すぐに彼は制服を脱ぎ、スーツへと着替えた。シャルロットが目を背けると、どうした、と一夏が迫る。悠李はくすりと笑いながら、一夏に早く着るように促した。
「変なやつ」
「シャルは馴れてないんだよねぃ」
「うん、まあ……。他人の着替えもじっくり見るものではないしね」
「それもそうか。あれ、ラグナのスーツ変わってないか?」
「まあねぇ。それより、おしゃべりしてる暇はあんまりないんじゃない?」
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二組との合同授業。今日から射撃及び格闘、いわゆる実戦訓練らしい。悠李は偶然にもラウラの前におり、話に華も興味もないので、静かに寝ていた。
「今日は戦闘を実演してもらおう。凰、オルコット」
指名された、イギリスと中国の選抜されたエリート。
専用機持ちはすぐに始められるから、という理由だが、二人とも嫌そうな声を出す。そんな彼女らに、千冬はある"起爆剤"を撃ち込んだ。
「お前ら、少しはやる気を出せ……。"アイツ"にいい所を見せられるぞ?」
「やはりここはイギリス代表候補生、セシリア=オルコットの出番ですわね!」
「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね!」
先程とは打って変わり、急にやる気になる少女たち。千冬も二人の扱いを心得ている。
「それで、相手はどちらに? わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが?」
「ふふん。こっちのセリフ。返り討ちよ。ラグナでも構わないわよ?」
「……呼ばれているぞ、ブラックモア」
「ふわぁぁ……?なに?」
「慌てるな馬鹿共。対戦相手は――」
ラウラが悠李の背中を叩く。大きな欠伸をしながら悠李は起きるが、相手は全然違う相手だった。
千冬の言葉を遮りながら、高スピードで一夏の上に振って来る人型の何か。悠李は咄嗟に反応し、その何かに飛びつき、ゆっくりと地に降ろした。
「大丈夫ですかぃ、山田先生?」
「ああ、助かりました、ブラックモアくん」
「気をつけてくださいねぃ」
「というわけで……山田先生がお前らの相手だ。さて、小娘ども。さっさと始めるぞ」
「え? あの、二対一で……?」
「いや、さすがにそれは……」
「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける。それとも、山田先生側にブラックモアを付けるか、それともお前らに織斑を付けてやってみるか?――ま、一瞬でお前らは消し炭だがな」
「まぁた面倒なことをやらそうとしますねぃ」
怒らせるのも天下一品だ。まるで動物を扱う調教師の様な千冬。思惑通りに三人で戦わせた。
「ま、本当にすぐ負けると思うけどねぃ。どう思う、ボーデヴィッヒさん?」
「同意見だ。やはり、貴様は並の者ではないな。流石、アルトレア・ブラックモアの息子、というべきか」
「色々知ってるねぃ」
やはり、ラウラは軍人だ。そして、創龍の表の名を知っていることから、創龍にもなにかインスパイアされているのだろう。
ついでに、と戦闘中に千冬が、シャルロットに、真耶が使っているISの解説をさせた。彼女の因縁の組織の製品を、丁寧かつ簡潔に述べている途中、セシリアと鈴が、真耶が放ったグレネードによって地に叩き落とされた。
「連携、って言葉を知らないのかねぃ」
「あいつらには、己の無力さを思い知った、いい機会じゃないか」
「二人とも、一夏とはいい勝負するけどね」
「つまりは、あのボンクラと同等の低レベルな訳だ。――無論、貴様は違うと思うがな。貴様は、教官とも渡り合える」
ラウラが一夏を嫌う理由。千冬と一夏を、必ず比較してしまう理由。それが悠李にはよくわからなかった。そして、自分をここまで高く評価する理由も。
「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、それとブラックモアだな……。では、八人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。だが今回、用意しているISは5機なので、ブラックモアは各所のサポートに回れ。いいな?では分かれろ」
「だ、そうですよ?」
悠李はラウラから離れたあと、ぶらぶらと周りを歩き回る。無論、一夏やシャルロットに集中するのは予測出来ていたが、サポートと言われた悠李にまで人がくるとは思わなかった。
「この馬鹿者共が……。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ、順番はさっき言った通り。次にモタつくようなら、今日はISを背負わせてグラウンドを100周させるからな!それとブラックモアを頼るのは困ったときにしろ!」
「大変だねえ……」
千冬の一声は本当に効く。皆がぱぱっとそれに従って、先程の光景からは信じがたいくらいスムーズに授業が進行して行った。
「ラグナくん、ちょっと助けてもらえるかな……?」
「なに?」
声をかけてきたのは、ラウラ班の女子。どうやら、コクピットまで届かないらしい。その子の前が、直立姿勢のまま外してしまったのだ。
他の班も必ずやらかす奴はいるだろう、と周りを見渡す。その通りで、リーダー達はわざわざ次の子を運んでやっている。つまり、ラウラは手を貸していないと言うことだ。
「やりがちだねー。次の人のことを考えて、ちゃんとしゃがんで止めようね。はい、キミ。僕の肩を踏み台にして」
「うん、ありがとう」
悠李がしゃがんで、その子をコクピットに導いた。他の班も周り、同じ状況の人間を助けてやった。