Infinite Devils Hunter   作:パン粉

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STAGE 4 ブルー・デイズ/レッド・スイッチ -Purple Haze-
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◆◇◆◇◆◇

 

 

「また呼び出しか……」

 

 寮に戻ると、今度は千冬から呼び出しを食らい、渋々寮官室へと出頭する悠李。先程の戦闘がマズかったか、と悠李は思っていた。ドアをノックし、入ると、まだスーツ姿の千冬が、悠李の顔を悲しげな目で見ていた。

 

「悠李くん。怪我はなかったのか?」

「はい。ご心配をおかけしてすいません」

「今回は、完全にボーデヴィッヒが悪い。君に落ち度はない」

「煽ったんですけどねえ、僕。『千冬さんと一夏の関係に嫉妬してるだけだ』、って。あの子、千冬さんを姉やまたはそれに近い存在として見ているようですね」

「なるほどな……。アイツには、家族はいないからな」

 

 それを聞いて悠李が納得した。千冬がドイツ滞在時に、彼女に技術を教え、接してやっていたのだろう。家族の愛に飢えていたラウラは、千冬が日本に帰ってしまったことに、『織斑一夏が私の教官を奪った』などと考えたことを、想像するのは難しくない。あれだけ一夏を嫌悪するのも、やはりヤキモチ以外は有り得ないだろう。

 

 くすり、と悠李は笑った。千冬が首を傾げる。

 

「あの子も可愛いところはあるじゃないですか」

「まあ……嫉妬感をあのような形で爆発させたのは残念だが」

「僕でよければ、いつでもその矛先の対象になりますよ?彼女、なかなか面白い子ですし」

「怪我だけはしないでくれよな。こちらに迷惑がかかる」

「千冬さん、僕達の治癒速度をお忘れで?」

「教え子が傷付くのは嫌だ」

 

 千冬も可愛いところはある。現に今なんかそうだ。やはり彼女も人の子。ラウラも家族はいないけれど人の子だ。

 

 話が終わったようで、悠李は教官室を後にし、自室に戻る。シャワー室から音がするのが聞こえると、恐らくシャルロットが今日の汗を流しているのだろう。悠李はTVの電源を付けて、明日の天気予報を確認すると、ソケットに今日のデータを突っ込んだ。

 

「悠李ー、ボディソープ切れちゃったんだけどー?」

「はいはい」

 

 再生ボタンを押す前にシャルロットから声がかかった。クローゼットから買い置きのボディソープを取り出し、シャワー室のドアを開ける。

 

「はい、ボディソープ」

「あ、ありが……と」

「なぁに固まってるのさ」

「いや……そこまではボクも考えていなかったから悪いんだけど……」

 

 シャルロットは裸であることを忘れていた。だが、悠李は彼女の

身体を見ても何も反応しない。傷がなくて綺麗な身体だな、とは思ったが、シャルロットが顔を真っ赤にしていた。

 

「やっぱり、綺麗になったねぇ」

「あ、うん……」

「傷も作らなくてよかったよ。うん、安心した。君の身体が、何者にも穢されていなくて」

 

 ゆっくりドアを閉めて、自分のベッドに戻ってデータを見始める。内容が、今日のラウラについて。アリーナで回していたカメラから貰ってきたらしい。なるほど、と悠李は呟く。

 

「ふぅ、さっぱりした――」

「ラグナ、メシ食いに――」

「あ……」

 

 シャルロットがシャワーを浴び終え、胸のコルセット無しにはだけたジャージで出て来たと同時、一夏がノックもせずに部屋に入ってきた。

 

「お、お前……誰だ?」

「一夏、シャル。ちょっとこっちにおいで。あ、鍵は閉めて」

 

 悠李は二人をこちらに呼び出し、ベッドに座らせた。早いネタバレ、だと思わせればいいか。シャルロットが悠李の隣に座ると一夏が困惑した顔で二人を見た。

 

「そいつ、シャルルか?」

「うん。正確には、シャルロット・デュノア。色々と事情があって、今は男として生活してるんだけど」

「事情?」

「彼女、デュノア社のスパイとして送られたんだけどね?僕とシャルは幼馴染ってのは言ったよね」

 

 ゆっくり話し出す悠李。一夏も、彼の声のトーンから、真面目さを感じる。いつものおちゃらけた感じはない。

 

 悠李が話を再開した。

 

「フランスの空港で、久しぶりに彼女と再会したときから、そのスパイということに違和感と嫌悪感を持っていたんだ」

「再会、って何かあったのか」

「うん、ちょっとね……。それを知った僕は織斑先生に連絡、そして今はデュノア社から保護して、今は男でいるけど、暫くしたら女の子として通わせて貰えるようにしてもらったんだ」

「ボクも、ラグナと6年ぶりの再会でね?お母さんが亡くなってから、社長との愛人の娘、ってことと、IS適性がA、ってことから、ラグナの家に行く間もなく、デュノア社に連れてかれた」

 

 事の次第は一夏にも理解出来る。ラグナとシャルロットが再会したのは不幸中の幸いだろう。シャルル――いや、シャルロットの境遇には同情してしまう。

 

「父に会ったのは二回くらい、会話は数回くらいかな。普段は別邸で生活をしているんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あの時は酷かったなぁ、本妻の人に殴られたんだ、"この泥棒猫の娘が!"、ってね」

 

 それについては、悠李も初耳であった。そんな仕打ちを受けていたとは。いくら他の女性の娘とはいえ、子供だ。愛情を注いでやるべきなのに、なぜ嫉妬心をぶつけるのか、自分にはわからない。

 

 一番の原因は、孕ませた夫の方だろう。しかし、そうでなかったら、悠李はシャルロットとは出会えていない。そして、守るべき対象が消えてしまう。

 

「参るよね、母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね」

「ただ、なんでお前はその時ラグナに助けを求めなかったんだ?ラグナなら、絶対お前を助け出してくれたはずだ」

 それを疑問に思うのは一夏だけであろう。悠李は頭の中で、どういう状況で、どういう扱いを受けていたのか、推理はできた。なにかしらの力が働いて、勝手な行動は出来なかったのであろう。もちろん、それが父親の判断なのかはわからないが。

 

「電話が勝手に使えなかったんだ。気付かなかった僕も悪いんだけどね。気付けていたら、僕はデュノアの連中を皆殺しにしていたよ」

「それに、ボクはそんなラグナを見たくなかったから。ボクの為に、人を殺してしまうなんて、そんな彼は見たくない」

「お前ら、強いな。やっぱり、俺とは違って、芯が太い」

「一夏だって強いよ。君は、何の偏見もなく彼女を受け入れた。僕なんか、彼女を助けられたのは今となってのことだから」

 

 後悔の念が悠李を襲う。悠李は自分に対する怒りが目に溢れた。彼の怒りは一夏にもシャルロットにも感じられ、その強い気持ちに怯えてしまった。シャルロットが優しく悠李の手を握り、気持ちを宥めてやる。そうすれば、悠李はシャルロットに優しく微笑みかけ、彼女もそれに微笑み返した。

 

「でもさ、君にこうしてまた会えたから、ボクはいいんだ。そして君は、ボクを助ける為に動いてくれた」

「そうだ、お前がシャルル、いやシャルロットを助けてやったんじゃないか!!」

「シャルが連れ去られた時点で、僕は彼女を守れなかったんだ。だから、僕はこれから彼女を守り続ける。それが僕の償いであり、使命であるんだ」

「そして、ボクが出来ることはラグナを信じて、ラグナの背中を守ること」

 

 いつもヘラヘラしている悠李が、こんなに真剣になることは珍しい。それほどシャルロットは特別な存在なんだろう。この二人の強い気持ちが、二人を結び付けた。そう考える他ない。

 

「ラグナがいつもよりかっこいいなんて……」

「ラグナはいつでも一番かっこいいよ。ボクにはそう見える」

「じゃ、この話は終わり。少なくとも、近頃シャルのことは皆に明らかになるから」

「そうだな。じゃ、メシでも行くか」

「あ、コルセットしなきゃ」

 

 胸を押さえ付けるコルセットをしないでいたのは、やはり悠李と一緒の相部屋だからか。ジャージの上からでも解るほどの放漫な胸。一夏が改めて意識してしまうが、悠李が一夏の顔を背けさせた。

 

 その時、ノックの音がした。悠李はシャルロットを寝かせ、掛け布団をかけてやり、そしてドアの方に足を運んだ。扉を開けると、セシリアがいた。

 

「一夏さん、いらっしゃいますか?お隣りにいないようなので」

「ああ、いるよ。一夏ー?」

「うん、セシリア?なに?」

「よろしければ、一緒にお夕食を、と思いまして。ラグナさんとシャルルさんもいかが?」

「ああ~、一夏。いっておいで。セシリア、ごめんね。シャルが風邪っぽいから、僕は看病しなくちゃいけないんだ。だから、また今度」

「あら、そうですの?お大事になさってくださいね、シャルルさん。では一夏さん、参りましょうか」

「あ、ああ。じゃ、まかせたラグナ」

 

 なんとかこの場は凌いだ。後は、食事をどうするか、だ。

セシリアが去った後、上体を起こしたシャルロットがジャージを脱ぎ、コルセットを付けて、はぁ、と息を漏らした。

 

「ナイスアシスト」

「まあね。シャルはゴハンどうする?」

「後で一緒に食べに行こっか。そっちの方が、ボクも悠李を独占できるし」

「わぁお、大たぁん」

「君にしか、こんなこと言わないし、しないからね?」

「わかってるよ、僕はそこまで鈍感じゃないし、君の気持ちには気付いているつもりさ」

「ん。よかった」

「じゃ、さっきのデータの続きでも見よっか。それからゴハン食べに行っても遅くないでしょ?」

 

 再生ボタンを押し、テレビの方に身体を向ける。その時、シャルロットは悠李の背中に抱き着き甘えてきた。悠李はくすっと笑い、シャルロットの頭を撫でてやった。

 

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