Infinite Devils Hunter   作:パン粉

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◆◇◆◇◆◇

 

 

 一夏にシャルロットの存在が知られてから、2日経っただろうか。悠李は、一夏と一緒にラウラに敵対心を燃やされることとなり、しかしその状況を楽しむほどの余裕があった。6月も下旬となり、「学年別トーナメント」なる行事が近付いて来ていることも知り、どうせ自分は出場拒否かハンデ付けを義務付けられるんだろうな、と悠李が思いながら、一人でアリーナ付近を散歩していた。

 

 シャルロットはラファール・カスタムIIのメンテナンス中であり、一夏は箒に連れられどこかに行った。セシリアと鈴もどこにいるのかは知らない。売店で買ったイチゴミルクを片手に、適当に時間を潰していると、鈴がこちらに向かって来る。

 

「あ、ラグナ」

「どったの?」

「特訓しようと思って。この前の山田先生に負けたの、悔しくて」

「それはいいことだね。僕、今ヒマだし、付き合おうか?」

「ありがとう、じゃあ頼むわね」

 

 二人でアリーナの中に入る。鈴の着替えを待つと共に、悠李は上着を脱いで、アンダーウェアとTシャツのみになった。鈴が出て来ると、手の甲の蝶が彼女の気を引いた。

 

「そういや、高校生がタトゥなんて入れてるのって珍しいわね」

「大分前に彫ったやつだよ、これ。2年前くらいかな?」

「痛くないの?」

「全然?ただ、簡単には消えないからやめときな」

 

 二人並んでフィールドに出る。偶然にもセシリアがいて、悠李は"この子も同じ理由かな?"と思い訪ねてみた。

 

「セシリアも、特訓?」

「はい、山田先生に負けたのが悔しくて」

「奇遇ね、私もよ。誰かさんの所為で負けたのよね」

「あら?あの時の敗因、きっちりとさせましょうか?」

「望むところよ」

 

 中々面白い展開になってきたが、悠李がここまで来た意味が無くなる。まあいいか、と悠李は思い、二人の戦いを離れた所で見ようと、足を動かした。

 

 残りのイチゴミルクをぐびっと飲み干し、アリーナ内の自販機からバナナオレを買って、セシリアと鈴の"特訓"を特等席で観戦する。何かしらの乱入があっても、自分がいるし、彼女達2人も代表候補生だから大丈夫だろう、と悠李は安心してみていた。

 

 セシリアのBT兵器を、一夏よりも上手くかわし、反撃に出ようとする鈴。龍砲を上手く使いながらセシリアを接近戦のレンジに持ち込むが、彼女も更に努力したのだろう、近接武器を素早く実体化させて鍔競り合い、

腰のミサイルで鈴との距離を離し、またBT兵器とライフルで鈴を攻撃し始める。甲龍の近接武器"双天牙月"でレーザーを弾いてすぐにレンジを詰めようとするのも、流石代表候補生というべきだろう。

 

「Bravo,だねぃ」

「やるじゃない」

「鈴さんこそ」

 

 二人の組合せは決して悪いものではなかった。セシリアにも鈴にも、確かな実力があるからだ。だが、互いのクセや能力をすぐに把握できなかったから、あんなにあっさり負けてしまったのだろう。今の状態で二人を組ませれば、かなりの強さを発揮するだろう。戦って初めて解る、ということもあるのだ。

 

「ねえ、いいコンビだよ?それに水を差すなんて野暮な事しないよね――お嬢ちゃん?」

 

 その時、セシリアと鈴の間を邪魔するように、この前のリフレインの如く、レールガンが放たれた。咄嗟に反応し、互いに離れて荷電粒子を避ける。勿論、その射手はラウラ・ボーデヴィッヒであった。悠李がははっと笑い、ラウラに話し掛ける。その前に、鈴とセシリアがラウラを睨み付ける。

 

「不粋な――」

「これはどういうつもりかしら?」

「……」

「無視すん――」

「だんまりなんていい度胸してるじゃない」

「最後まで言わせておくれよぉ……」

「何か言うことはないのかしら?」

「……随分と、レベルの低い代表候補だな。この程度が国を背負うなど、笑わせる」

 

 火を付ける言葉は知っているようだ。だが、そこですぐに怒らないのがセシリアと鈴。幾程か成長したようだ。

 

 自分の発言をことごとく遮られたのには若干腹が立つ。だが、それを一々怒っているのもくだらない。悠李のこの性格が似たのであろうか。

 

「言いたいことはそれだけ?生憎だけど、私らはアンタみたいなコミュ障とべちゃくちゃ喋ってる暇ないの」

「わたくしも、あなたのような、初対面の人にいきなり暴力を振るう無礼な人とは関わりたくないんですの。だから早く消えてくださらないかしら、"ドイツの犬"さん?」

「あのような下衆な男を取り合う発情期のクズ共に愚弄されるとは、私も舐められたものだな」

「――今、なんて言った?」

 

 あーあ、と悠李が言葉を漏らした。完全に、鈴とセシリアを怒らせた。今の言葉を聞いたら、千冬は激怒するだろうな、とも考えられたが、その前に彼女達の怒りのスイッチを入れてしまった。

 

「聞こえなかったのか、聾どもが。あのような下衆男の遺伝子を欲しがる雌豚共、と言ったんだ」

「言いすぎじゃないかなぁ……って、鈴さん」

 

 鈴が龍砲を展開し、双天牙月を投げつけた。悠李の予測していた通り、AICにより龍砲は止まった。が、セシリアの機転で双天牙月の刃にBT兵器のレーザーを当て、反射してラウラに一矢を報いる。辛うじてそれを避けたラウラだが、にやりと笑い、更に二人を挑発した。

 

「そうだ、それでいい。それぐらいやらんと、貴様らを殺してしまう」

「やってみなさい、敗戦国の犬!」

 

 セシリアがBT兵器を上手く使い、ラウラを取り囲もうとした。しかし、ラウラはワイヤーブレードを巧みに操り、ビットを4機程破壊して、セシリアに襲い掛かった。

 

「瞬時加速!?」

「セシリアっ!!」

「精々死なんように避けろよっ!」

 

 最初の悠李対一夏の時と同じように、セシリアの腹部にプラズマ手刀を叩き込んだ。絶対防御が発動し、彼女の命は救われたものの、怪我をしたのは間違いない。

 

「そろそろ止めないとマズいかねぃ……」

 

 悠李が観客席から立ち上がり、閻魔刀を呼び出してフィールドに飛び込んだ。龍砲を使える状況になった鈴ではいるものの、こうも素早いとなかなか攻撃を当てにくい。

 

「セシリア、大丈夫?」

「おなかが、痛いです……」

「うん、あと落ちちゃったから、他の所もだね。打撲で済んでるけど……」

「不覚でした……」

「いや、中々の善戦だったよ。……内臓も大丈夫だね、よかった」

 

 回避に専念し続ける鈴を見て、悠李は少し焦った。ラウラもこの前より強くなっているようだ。射撃と格闘のバランスが上手く構築されている。

 

 拉致が開かないと思ったのか、鈴をワイヤーブレードで捕縛し、引き寄せ、近距離でレールガンを撃った。その時見えたのが、鈴からの出血。鈴も絶対防御を起こし、地に落ちる寸前だったのを、悠李はエアトリックという瞬間移動技で受け止めた。

 

「ラグ、ナ……」

「よかった、頭がちょっと切れただけで済んだね」

 

 悠李は、自分が着ていたTシャツを裂いて、鈴の頭に包帯代わりに巻いてやった。この二人なら勝てると思ったが、それ以上にラウラは強かったのだ。だが、これはやり方としては、あまり褒められたものではない。それに、"友達"を不必要に傷付けたラウラに、悠李は怒りをあらわにした。

 

「所詮その程度だな」

「で?僕とは……遊ばないのかい?」

「いいだろう。貴様も"スクラップ"にしてやる」

「やれるもんなら、やってみろぃ」

 悠李が口を開いた瞬間、ラウラの目の前から悠李が消えた。鈴も、セシリアも、そしてラウラもそれに気が取られた。だが、すかさずラウラを後ろから蹴り飛ばす悠李が現れ、地面まで一直線にラウラが吹っ飛ぶ。

 

 またもやエアトリックで移動し、今度はラウラの身体を踏み付けた。それに対抗しようと、ラウラが腕を突き出してAICを発動する。だが悠李はラウラの腕の装甲を幻影剣で地に突き刺し、それを無理矢理解除させた。

 

 喉元に抜き身の閻魔刀の切っ先を突き付ける悠李。二人の位置が、圧倒的な力の差を表していた。

 

「どうだい?"散々馬鹿にした者"に足蹴にされ、殺されかける感覚は」

「……殺せばいいだろう。貴様にはまだ"人を殺した"感覚がないだろうがな」

「脅しを掛けているつもりかなぁ?死にたいのかな、本当に」

 

 足に思い切り力を込めてシールドを突き破り、ラウラの首に軽く切っ先を刺した。首元から流れるは鮮血。悠李は、ここまでやったらもういいだろう、と思って、彼女から足と剣を離す。

 

「セシリア、鈴さん。大丈夫かい?医務室にいこうか」

「おい、貴様……!情けをかけたつもりか!!」

「ああ、そうだよ?君みたいなプライドの高い軍人が一思いに死ねず、敵から情けを掛けられて生き延びる――とても屈辱的で、僕にとっちゃいい気味だねぃ」

 

 先程まで飲んでいたバナナオレをラウラに投げ付けて、セシリアと鈴を両手で抱えて運んでいく。頭から黄色くて甘ったるい液体を掛けられたラウラの怒りのボルテージは、留まることをしなかった。

 

「リベンジならいつでも待ってるよ。学年別トーナメントとか、いい舞台じゃない。それまでに、精々頑張りなよ、"ヤキモチ"ちゃん」

 

 悠李とラウラの力の差は歴然だ。それは今、ラウラが身に染みて思ったことだ。

 

 だが、それでもこんな屈辱は許せなかった。この歳で隊を率い、織斑千冬という世界最強の女性の手ほどきを受け、トップクラスの実力を持つこの自分が、ここまで虚仮にされるのが悔しかった。

 

――雪辱だ。ラグナ・ブラックモア、お前を殺す。

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