Infinite Devils Hunter   作:パン粉

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◆◇◆◇◆◇

 

 

「セシリア、鈴!」

「おや、王子様のご到着だよ?」

 

 セシリアと鈴の怪我を聞き付けて、一夏が保健室に飛び込んできた。幸い大事には至らずに済み、保健室で手当を受けて、安静に、と指示を受けていた二人はベッドに寝ており、悠李は一夏が来るまでずっと二人に付き添ってやっていた。

 

「じゃ、僕は邪魔だろうから――」

「待ってくれ、何があったんだよ!?」

「この二人はボーデヴィッヒちゃんに負けたんだよ。セシリアと鈴さんのコンビはかなり強くなったのに、あっちはそれを上回る成長を見せてね。更にオーバーな攻撃をしていたから、余計な怪我を負っちゃったんだ」

「どうして途中で止めなかったんだよ!!一緒にいたんだろ!?」

「一夏、それを私らが望むと思う?」

「2vs1、それだけでも十分アドバンテージはありましたが、でも負けてしまったのはわたくしたちが弱いからです。それに、不必要な施しは受けたくないんですの」

 

 セシリアと鈴が悠李を"自らのプライド"の為に庇った。それでも、一夏は納得が出来ない。負わなくてもよかった怪我な筈だ。それをさせたのは許せない。

 

「でもっ!?」

「"でも"もなにもないわよ。悪いのは弱い私ら。ラグナに罪はないって、戦いの当事者が言ってんのよ。納得しなさい」

「それに、仕返しはしといた」

「えっ?」

「明日、ボーデヴィッヒちゃんの首を見てみな」

 

 生身であれだけの戦いを見せ付けた悠李に、鈴とセシリアは寒気さえ感じた。二人がかりで負けた相手を、あんなに軽々とあしらってしまう悠李は、やはり実力としては1年生最強だろう。

 

「あれが本気だと思うと、わたくしはやはり、ラグナさんには到底及びませんわね」

「あんなん、少しもギア上げてないよ?あれはエンジン付けただけさね」

「は……?アンタ、あれだけやっといて、それでまだ本気じゃないって言うの?!」

「僕にとっちゃあ、あのヤキモチちゃんなんか、子犬みたいなもんだねぃ」

「マジかよ……」

 

 実際にその場で戦闘を見たわけではないが、ラウラを片手で止めておいて、そして今度は強くなったラウラを"ノープラン"で圧倒したというのは、俄かに信じられないものではあるが、だがこの男ならやりかねない、と一夏は思った。

 

「じゃ、後は君に任せる。ぼかぁ、やらなきゃいけないことがあるから」

「お、おう」

 

 その場を一夏に任せて、悠李は校舎から出た。寮に戻ろうか、と思い、その方向に進んでいくと、大勢の女子が後ろからこちらに向かって来る。

 

「ラグナくん!」

「ん?なにかな?」

「今度のトーナメント、一緒にペアを組んでください!!」

「ペア?個人戦じゃなかったかな?」

「これ!今年からタッグマッチになったんだよ!」

 

 ある一人からチラシを受け取ると、そこには確かに『今年度より学年別トーナメントはペア戦で行う』との字が刷られていた。へえ、と悠李は頷き、そのチラシを返す。

 

「いきなりだからビックリしちゃった。でも、僕はシャルと組むつもりなんだよね」

「あれ?織斑くんがデュノアくんと組むつもりだ、って言ってたんだけど」

「へえ、そうなんだ。じゃ、誰でもいいや。じゃんけんでもして決めてくれないかぃ?僕と組めば優勝は確実だからさ」

 

 言い残して、再び寮に戻ろうとする。だが次は、本当に出くわしたくない場面に、運悪く出会ってしまった。

 

「チッ、何度も言わせるな……。私には私の役目がある」

「このような極東の地で、何の役目があるというのですか!!」

「うわぁ……。通り辛いねぃ……」

 

 ラウラが千冬にひたすら踏みよる。やはり、ラウラは千冬を家族と慕っているのだ。二人のやり取りが終わるまで、どこかに身を隠していようと思い、近くの茂みに匍匐状態で隠れた。

 よく見ると、先程のラウラの傷は癒えていた。は?、と悠李は疑問に思った。『あれは僕の血族か?』、と。

 

「銀髪はスパーダの……まさか」

「……聞こえているぞ。こそこそしないで、出て来たらどうだ」

「やっぱりバレるよねぃ」

 

 あまりにも薄っぺらい擬装を千冬に見破られた。悠李ははぁと息を吐いて嫌々ながら茂みから出て来た。案の定、悠李を物凄い形相で睨みつけるラウラ。これといって恐怖は感じないのだが、とてもいづらい。

 

「貴様もっ……貴様も教官をっ!!」

「まさか。何にもしてないよぅ。千冬さんは僕の父の知り合いであり、そしてクライアントの代表」

「便利屋風情がノコノコと!!」

「言っておこう。この"ラグナ・ブラックモア"は、私の百倍は役に立つ」

「このような凡愚がそんな風に見えるなど……教官はどうかしています!」

「その凡愚にのめされたお前はなんなんだ?」

「うぐっ……」

 

 あれよあれよと考えた、悠李を罵る口言葉が、全て自分の首へ来る。織斑一夏も憎いが、それ以上に悠李が憎い。

ぐうの音も出ないかと思ったが、ラウラは話を変えた。この話こそ、千冬に聞かせたいことらしい。

 

「お願いです、教官!我がドイツで再びご指導を!ここではあなたの能力は半分も生かされません」

「ほう」

「大体、この学園の生徒など教官が教えるにたる人間ではありません」

「そうか。で?実力のある人間ならいいんじゃないのか?ちょうどいいのが私の横にいるぞ」

「千冬さん、それは僕に帰れとおっしゃっているんですか?」

「何なら、アルトレア氏でも紹介しようか。私より実力ある優れた人だぞ」

「話を逸らさないでください!!」

「……あのさぁ」

 

 あまり首を突っ込みたくはないが、ここから離れたいが故の苦肉の策だ。悠李はだるそうに口を開く。

 

「いい加減、おしまいにしようや。いいじゃん、君は3年間ここで千冬さんと一緒にいられるんだから」

「わ、私は……そのようなことを言ってるわけじゃ――」

「一夏に対する嫉妬心。千冬さんに褒められたいが故の暴走。全て空回り。もういいじゃん?君から千冬さんを奪おうなんて、誰も思っちゃいない。君の目からは寂しさしか見えない。別に僕に殺意を抱くのは構わないけど、もう自分のわがままで周りを巻き込むのはやめにしなさいな」

「……私はっ!!そんな陳腐な感情でここにきたのではないっ!!」

 

 激情したラウラが悠李に殴り掛かる。あえてその拳を避けずに受け止めてやり、彼女の気を発散させた。千冬はあえてそれを不問にした。

 

 口の中が切れ、悠李は血を吐き出した。それでもヘラヘラとしている彼の顔に、ラウラの神経が逆なでされ、飛び掛かった。

 

「貴様っ、貴様ぁっ!!」

「やるねぃ、さっすが、スパーダの……」

 

 今度はちゃんとラウラの攻撃を避けた。それでもかかってくる彼女を見て、血は争えないな、と悠李は思った。

 

「さて、クラウスの末裔どの。もう離してやってくれ」

「クラウス……っ!?」

「あれ?スパーダの血族なのに知らんの?」

「貴様、もしや裏の?!」

「そう。神威悠李」

「因みに、ラウラはスパーダの末裔ではないからな」

 

 ラウラを乱暴に下ろすと、さっきとは打って変わり、後ずさって悠李から離れた。顔には驚きと恐怖の入り混じった顔が、そして膝には笑顔が。

 

「泣く子も黙る"Black Cherry"だと……」

「黙るかどうかはわからないねぃ」

「まあ、そういうことだ。ラウラ、お前では到底敵わん相手だということが解ったか?」

 

「認めざるを選ないか……」

「まさに、蛇に睨まれた蛙だねぃ」

 

 悠李がここまで恐れられる理由も判ってはいる。ヨーロッパ中に響き渡る、裏世界の住人。あまりの活躍ぶりに、表にも知られることが多々あり、軍事関係者らも知らないものは少ない。

 

「では、アルトレア・ブラックモアとは、神威創龍……」

「御名答」

 

 とんでもない男を相手にしてしまった。だが、今更引き下がれない。ラウラは、意地を見せ付けるべく、悠李に言い放った。

 

「貴様が誰であろうと……私の邪魔はさせん!」

「いや、しないし」

 

 やっと終わったか、と悠李が感じ取ると、二人は別方向に向かって歩き出した。ただ、悠李は元々の目的である、寮に帰ることがこんなに大変だったとは、と不満を垂らした。

 

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