Infinite Devils Hunter   作:パン粉

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◆◇◆◇◆◇

 

 

 悠李と箒の激闘と同じく、簪とラウラの戦いもまた激しくなりそうであった。睨み合いを暫し続ける二人。口を開いたのはラウラであった。

 

「日本代表候補生、更識簪か。ふん、あのような者と組むとは。専用機はどうした、無くしたか?」

「これで十分」

 

 ラウラの挑発を、挑発で返す簪。余裕を身に着けているのは、客観的に見ても簪の方。それが気に食わないラウラは、すぐさま彼女に近付き、AICを発動した。

 

 身動きの取れない簪。しかし、焦ることはない。今のラウラの弱点は、ウロチョロと飛び回っている。そちらを追う視線を見逃さず、心理戦すら挑める簪は、自らの力に自信があることの証明ができそうであった。

 

「AIC、ね……。で?」

「貴様はもう、反抗することは出来ぬということだ」

「ゆーくんに意識を取られがちな貴女に、どれだけ集中力を保てるかしら」

「フン、ただの民間人がつけ上がる。舐めるなよ……」

 

 感情を動かされている。それは、軍人らしからぬ。そして、精神力が乱れたラウラの、AICの合図である腕を、簪はブレードを振って、更に気を逸らした。

 

「なっ、馬鹿なっ!」

「軍人失格、ね」

 

 芝のようにラウラの顔が青くなる。簪の思惑通りだ。観客席がドッと湧いた。全体的に、簪側が押しているのだ。

 

 空では、悠李と箒の激闘。エンターテイナーのような戦い方を悠李はしており、そこに目を奪われがちなスタンドの眼は、簪の方へも向けられ、二分された。いつもはそれを恥ずかしがる簪だが、真剣勝負の最中、そんなことは気にならない。

 

 そうして、彼女は悠李の真似で剣術を叩き込む。容赦なく、そして華麗な太刀筋。それは、箒の剣にも匹敵する。そう、シャルロットが感じた。

 

(なんだ、この剣の軌道は!?避けられん!?)

「あまり舐めないでね。私は、ゆーくんも、創龍さんの剣も、そしてあの人の技も知ってる」

 

 不自然な剣の軌道だ。ブレードを右に振ったと思えば、右から斬撃が来て、今度は上から振り下ろしては下から攻撃される。いくら軍人といえども、このような攻撃は初めてだ。それを掴みたいが故に、ラウラは離れざるを選なかった。

 

 遠距離武器を持たない打鉄に、アウトレンジから射撃をするのは当然賢い選択だ。レールガンを放って、簪に一泡吹かそうとするも、直線にしか進まない弾丸の性質から、斜線上から大きく離れ、接近していく。乱射するラウラ、しかし一発も当たらない。近付いてきたところをワイヤーブレードで拘束しようとするも、それも避けられてしまう。そうして、ジリジリ詰められて、後ろには壁が、背中と触れていた。

 

「くっ……!!こちらも詰めるしかないか……」

 

 あの太刀筋がわからぬ以上は接近したくはない。だが、こうも悠李の様に避けられてしまうと、近付いて戦うしかないだろう。

 

 流石に代表候補生だ、一度破られたAICはもう通用しないだろう。そう踏みながら、ビーム手刀を発振させ、真っ向から簪のブレードを受け止める。

 

 一方的かと思われていた。そこからの反攻。そうだ、こういうものが、心を震わせるのだ。女子の心といえども、この熱い闘いには魅入ってしまう。シャルロットも例外ではなかった。

 

 あの陽射しのように、いま一瞬が眩し過ぎる。しかし、瞬きはできない。すれば、すぐに状況が変わる。

 

「両手で剣を握ったのが失敗だったな。こちらにはまだ片方、腕が余っている」

「……」

「そしてこの距離、レールガンも裂けようがない!貰った!!」

「早計は、身を滅ぼす……」

 

 レールガンを撃ち、同時に片方のビーム手刀を簪に叩き込む姿勢に入る。だが、簪は落ち着き払っていた。

 

 ブレードを射線上に置いた。そして、それを手から離して、身を引いて手刀を躱す。

 

 レールガンはブレードを跳ね飛ばした。それが宙を舞った。おおっ、とどよめくスタンド。青々とした空、そこにはブレードだけがあるわけではなかった。

 

 チャンスとばかりに、イグニッションブーストを使い、こちらに向かって来るラウラ。だが、それの対処法もすぐに思いついた。宙に飛んでしまえばいいのだ。急に方向転換はできない。しかし、ラウラにはそれができる。

 

「甘いな!」

「そうかな」

 

 そうしながら、スラスターの推力を切る簪。勿論、追い付かれそうになったが、ラウラの下に潜った。そして、少し前に進むと、シャルロットはそれをしっかりと確認した。

 

「お見事!」

 

 簪がくすりと微笑む。その訳はすぐにわかった。

 

 簪の頭上から、悠李がわざと落としたヴェントが落ちてくる。それを彼女は掴んだ。

 

《合言葉、知ってるっけ?》

《勿論。忘れてないよ》

 

 プライベートチャネルで悠李に話し掛けられた。瞬時に悠李が使用許可を出したため、すぐに撃てる状態になっている。

 

 時を無駄にせず、瞬時に目標を補足した。勿論、それはラウラ。空気が彼女に危険を伝えた。しかし、気付くのが遅すぎた。いや、二人のこうどうがはやすぎたのだ。

 

「JACKPOT……!」

 

 合言葉を口に出した。そうして弾丸を連射し、ラウラに全弾命中させてみせる。無論、第三世代のISと言えども、ダメージはかなりのものだ。

 

「お疲れ様、"黒うさぎさん"」

 

 宙から落ちていくラウラ。その彼女に対し、簪は、悠李から教わった瞬時加速で距離を詰めた。

 

 素手で行くのか?と思わせた観客。しかし、ブレードの存在を、スタンドは皆忘れていた。それこそ上手い、とシャルロットと千冬は称した。

 

 進路上に落ちてきたブレードを逆手に持つ。そして、こちらに辛うじて反応できたラウラの腕にぶつけて、手刀を弾いた。その勢いで、ラウラにブレードを突き刺す。

 

 追い撃ちとばかりに、この至近距離で、ヴェントを弾切れになるまで叩き込んだ。その勇姿は、悠李以上。スクリーンには、簪の姿が映る。それを見て、楯無の顔がニッコリと変わった。

 

「流石よ、簪ちゃん。本当に、自慢の妹だわ」

 

 

「き、きさまっ……!!」

「過信が身を滅ぼす、ということがわかったかしら」

「私が、私がぁっ!!」

「口だけは達者ね……」

 

 ラウラのシールドエネルギーは0だ。そして、損傷も予想以上に大きい。しかも代表候補生に、専用機ではなく一般のISで敗れるなど、そんな屈辱、認めたくはない。ラウラのプライドが、そして意地がそれを拒んだ。

 

 しかし、その衝撃に、ラウラは気を失った。遠くまで吹っ飛んだラウラは、壁にぶち当たり、気を失った。その時、ちょうど悠李に叩き落とされ、敗北を受け入れた箒は、打鉄をパージした。

 

 箒は自分の後ろを振り返った。相方の無様なやられ様を見て哀れに思うが、あれほど悠李らを挑発しておいてのこの様は、流石に擁護仕切れなかった。

 

 こちらにはコンビネーションなどなかった。ラウラが拒んだからだ。あまり波風を立てぬことを選んだ箒はそれを選んだのだ。このコンビで負けても、文句は出てこない。そして、相手のチーム、特に簪を称賛する気持ちが前に自然に出てきて、拍手すらしてしまった。

 

 それに観客が続く。拍手の雨霰。惜しみない賛辞の形は、シャルロット、そして楯無からも送られた。悠李はそれを受け、簪をみては笑む。

 

「勝者、ブラックモア&更識ペア!」

 

 アナウンスが改めて事実を発表した。空中で烈を解除し、簪の元へ着地する悠李。それを受けて、簪も打鉄をパージして、顔を赤らめながら喜んだ。

 

「やるじゃん、かんちゃん!流石だよ!」

「うん……!ゆーくんのおかげだよ」

「違うよ、かんちゃんの実力あってこそだよ!だから、連携が上手く行ったんだよ」

 

 褒めちぎる悠李は、簪に抱き着いた。瞬間湯沸かし器の如く、熱が上がる簪。しかし、笑顔は耐えなかった。

 

 ずるい、と思う計二名。だが、今回はそれに見合う働きをしたのだ。フィールド上の箒もそれを見て、くすりと笑った。

 

 少しして簪を離すと、ラウラの近くまで悠李は歩いた。そうして彼女の容態を診るべくしゃがみ込んだ。

 

「気絶してるだけで、怪我はないね。さて、このお嬢さんを連れて――」

「a……aaaaaaaaaah!!」

 

 悠李がラウラを抱えようとしたその時だった。彼女のISから、咆哮と共に、悠李がなにかの衝撃波によって吹き飛ばされた。次第に黒いなにかがラウラを取り囲み、やがて剣を携えた女性の姿が現れる。

 

 宙で体勢を戻し、跪くように着した悠李が眼にしたのは、一夏の一番の理解者であり唯一の肉親の千冬。だが、表情は一切ない。そこからは、不気味な雰囲気、そして敵意と殺意が感じ取れた。

 

「よく出来てるな。けど、のっぺらぼうじゃ……グゥッ!?」

「え……?」

 

 

 悠李がおちょくろうとした時であった。千冬によく似たそれは、躊躇無く悠李の腹部に剣を突き刺したのだ。貫通し、刃に悠李の血が伝う。そのまま宙に掲げられ、地面に血だまりが出来た。そして、思い切り地面に叩き付けられ、悠李はうつ伏せになり、動かなかった。

 

「お、おい……。ブラックモア……?」

「ゆーくん……」

 

 誰もが予想しなかった事態。

場は凍りつき、口が開かない。そして、黒い千冬は、剣についた血を振り払った。

 

 

 観戦スタンドにまで、その空気は広がっていた。中でも、一夏は、親友の有様と、千冬"もどき"の出現に、パニック状態に陥っていた。

 

 

「おい、嘘だろ……。ラグナ!?ラグナぁっ!?」

「い、一夏っ!!落ち着いて!!」

「これが落ち着いていられるかよぉっ!?シャルル!お前の幼馴染みが刺されたんだぞ!?」

「そんなことはわかってるよ!!でも、君が取り乱したって、なんにもならないじゃない!!それに、ラグナは死んでない!!」

 

 必死に一夏を宥めようとするシャルロット。だが、一夏は周りの制止をも振り払って、フィールドに向かった。

 

「は、はやく先生を呼ばないと!?」

「篠ノ之さん、落ち着いて」

「だ、だがっ!?」

「落ち着いて。彼は、そんなにヤワじゃない。それに、今動いたら私達が危ない」

「なら、どうしろと……」

「ゆーくんを、信じて」

 

 フィールド上でも、箒が狼狽し、簪は落ち着き払って今の状況を認識し、箒を抑えた。今、下手に行動すれば、こちらの命さえ危ない。

 

 千冬と楯無も、表情は決して明るくはなかった。悠李の心配もある。しかし、死ぬという可能性は捨てており、この状況の収め方を考えていた。

 

「ゆーくんなら、うまくやってくれるよね」

「悠李君。君に任せた」

 

 ――周りが大騒ぎしている間、大怪我を負った"と思われる"悠李が、その声に答えるかのようにやりと笑った。

 

 簪とシャルロットは、それを見逃さなかった。そして、この場の収拾を悠李に委ねた。

 

 

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