Infinite Devils Hunter   作:パン粉

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◆◇◆◇◆◇

 

 

「ラグナ!!」

 

 フィールドに着いた一夏は、すぐに悠李に近付こうとした。それに気付いた千冬もどきが、悠李に近付けまいと一夏の方に向かっていく。

 

 黒の千冬は、思い切り剣を振り下ろした。一夏は白式を展開して、攻撃を雪平で受け止める。だが、その斬撃はあまりにも重く、勢いを止められなくかった。仰け反ったところを逆袈裟斬りで襲われるも、瞬時に後ろに下がって避ける。一旦黒い千冬から距離を取る他なかった。

 

 冷静になろうとすれども、憤りを隠しきれない一夏。箒が一夏の救援に笑顔を見せたが、あまりの劣勢に、途端に険しい表情になる。続いて、簪らをターゲットに戻したらしく、ゆっくり歩いて、簪達を攻撃しようとした。またもや剣を振りかぶり、下に振り下ろす。その時だった。

 

 ――殺されたはずの、悠李がいない。

 

 一夏がそれに気付いた。まさか、生きているはずはあるまい、と思っていたが、その予想は良い意味で裏切られる。

 

「君の相手は僕だろ?ナニ勝手に視線ずらしてンだよ」

 

 ーーゴオッ、と鋭い音が鳴る。突風が吹いた。左脚の蹴りが、黒い千冬の剣を弾いた。

 

 一夏は目を見張るーー悠李だ。間違いない、あのポニーテールに、黒の多いアンダーウェア。腹部は血まみれで、足元に血溜まりを作っていた。

 

 傷はまだ塞がっていないのでは、と一夏が心配した。しかし、悠李は簪を守るべく、彼女の目の前に立った。彼女と眼を合わせれば、微笑みながら言葉を交わす。

 

「かんちゃん、怪我ないかい?」

「うん。大丈夫。ねぇ、ゆーくん?」

「なに?」

「あれ、やっつけて」

 

 ーー了解!

 

 悠李は、すぐさま黒い千冬の懐へ飛び込んだ。先程の怪我も平気といわんばかりのパワフルさ。箒が、一夏が驚愕する。奴は不死身か、と。なぜ、あんなに動けるのか、と。

 

 黒い千冬は、右手の剣を、悠李の顔目掛けて突き出す。それをバク宙で避けて、急降下しながら蹴りを繰り出す。狙いは顔面、剣の腹で止められるも、それを足場にし、前へと飛んだ。

 

 天上天下無双剣を抜くと、兜割りのように、黒い千冬を襲う。それも剣で受け止めたが、悠李は全然力を出しているようには、簪からは見えなかった。

 

 第二波の攻撃が来る。首を刎ね飛ばす勢いで、横凪にくる。太刀の腹で逆立ちをし、カポエラのようにトゥーキックを頭に放つが、もう片方の手でとめられ、宙ぶらりんにされてしまう。そこを狙われ、またもや首を斬り落とそうとしてくるも、素早く身体を起こして躱す。

 

「は、速え……」

「あ、あれが……ラグナの本気か……?」

 

 天上天下をしまい、閻魔刀を取り出す悠李。それを見計らって、すぐさまその大剣を振り下ろす千冬もどき。悠李はにっこりと笑いながら、その剣を閻魔刀の鞘で弾いた。

 

 段々と歓喜に満ち溢れてくる。悠李は、久々の強敵に、心が躍っていた。高ぶる闘争本能を抑え切れず、観客が全員避難したのをいいことに、フィールドを縦横無尽に駆け巡りながら、黒い千冬と暴れ出した。

 

 剣ではなく、拳で悠李を攻撃する。その拳に自らの拳を当てて、力で押し返した。ぎぃん、と鈍い金属音が鳴り響く。腕が仰け反るそのスキを狙い、身体を前に回しながら踵を落とした。

 

「ふぃー。タフだね、わりと。じゃあ、そろそろ力出していくかね。ーー"流水"」

 

 踵を落として、そこから跳ね飛んだ。ぼそりとつぶやいてから、悠李の身体から、紫色の煙――いや、オーラが溢れ出す。簪はこの正体が何だかわかっていた。これは、悠李の「魔力」だ。

 

 芝が凍っていく。空に暗雲が立ち込め、ぽつぽつと雨が降り出した。雷が落ちて、それは悠李の身体に直撃するも、平然と、寧ろ力が増しているように見えた。

 

 なんだ、と、その場にいる皆が恐怖する。悠李が怖い。肌が粟立ち、嫌な汗が毛穴から吹き出てくる。轟々と立ち込める魔力。

 

 だが、それを気にせず、無情に剣を振り下ろす黒い千冬。ふわりと悠李は身体を動かす。その太刀を避けたのは勿論、振りの勢いを活かして、その腕を上からポンと押した。

 

「Show you the nightmare of silence……」

 

 有り得ない方向に腕が曲がり、そのまま腕が千切れた。ぼとりとその腕が落ちて、煙の様に消えていく。

 

 特別に力を入れた訳ではない。相手の力を利用したのだ。いわば、カウンターである。

 

「The frowing controls the running……(激流を制するは静水)」

 

 更なる攻撃として、黒い物体が脚で悠李を蹴り飛ばす。悠李は自ら宙に浮いて、蹴りを避け、黒い千冬の頸を両手で掴み、そのまま地面に叩き付けた。

 

「and the running strows a flowing……(そして、静流には激流を)」

 

 地面に叩き付けられた反動で、気を失ったラウラが飛び出してきた。悠李は宙に舞い、彼女を両手で受け止める。

 

 穏やかな顔をしている彼女は、先程と同じく気を失っていた。フッ、と髪の毛を吹いてやり、邪念を飛ばす。

 

「ら、ラグナ!!大丈夫なのか!?傷は!?」

「傷?ああ……」

 

 先程まで大暴れしていた男に言う台詞ではないだろう。だが、気になるのだ。心配であるのだ。それは、親友であるから。

 心配性だな、と悠李は、片手にラウラを抱えつつ、血で染まったウェアを脱ぎ、その肉体を露わにした。腹部には、先程の刺し傷はどこにも見当たらない。

 

「もう、この通りさ」

「嘘だろ……?」

「しかし、これが現実さ。じゃ、僕はこの娘を送ってから戻る。後は任せた」

 

 服を着れば、ゆっくりとフィールドから立ち去る悠李。その背中を見送る一夏達。やはり彼は人ではない。だが、自分達は彼に守られた。

 

 そういえば、もうすっかり晴れている。ということは、悠李があの雨雲を呼び出したのか。雷鳴轟くあの瞬間は、悠李の心の波を現していたようであった。

 

 

「さすが、悪魔……」

 

 ぼそり、と一言、シャルロットと簪は、そう呟いた。しかし、賛辞である。彼のお陰で、彼女は救われた。そして、自分たちも。

 

 

 

 悠李は、背中に背負っているラウラを、保健室へ連れて行くため、アリーナの外に出た。そこにちょうど千冬が居合わせ、ご苦労さまです、と声をかけた。

 

「すまない。しかし、よくやってくれた」

「気にしないでください。これも"依頼"の内でしょうに」

「そう捉えるか。親子共々、食えんな」

「よく言われます」

 

 すうすうと静かに寝息を立てているラウラを見て、千冬は微笑ましく思った。対照的に、悠李は彼女のISに仕込まれていたものを知りたかった。あのようなモノを仕込むとは、ドイツ軍の中で、何かキナ臭いものが動いていそうで、堪らなかった。

 

「織斑先生。今回、シュヴァルツェア・レーゲンに仕込まれていたのは、何なんです?」

「ヴァルキリー・トレース・システム。過去にモンドグロッソで優勝した人間のデータを組み込んだのだろう。だが、異常だった」

「ここから先は、生徒ではなく、便利屋位置個人としてお話させていただきます……」

 

 顔付きが変わった。キリッ、と凛々しい表情へと変わる。何かが、千冬の中で駆け巡った。

 

 彼の眼の色は、何かを見透かしている色。それを感じ取れる自分も、まだ成長しているということか。

 

「内通者がいる。IS学園にも、ドイツにも。僕はそう思ってる」

「何?」

「少なくとも、学園内に内通者がいるのなら、依頼を受けた僕の落ち度でもある。だけど、感覚だと、IS学園が内通者の組織のターミナルになっている気がしてならない」

 

 深い闇を見ている。それを見越す眼力。只者ではないと知っていたが、まさかこれほどとは。

 

 その内通者の話を聞いて、悠李は楯無がこちらに来ていることに気付いた。暗部からの人間は彼女。しかし、暗部と内通していても、組織事態は悪事などを企てている可能性がない。

 

「生徒だけではない。教師にも、クロがいる可能性がある。だから、僕の前に暗部を呼び入れたのだろう?」

「ああ。そして、大人達は万全を期すべく、君を寄越した」

「最初から依頼目的だった、って訳かい。ま、薄々気付いてはいたけど」

 

 

 意地悪そうに悠李は笑った。腹の中が見透かされていそうだ。それと同時、プレッシャーが彼女にかかった。それは、影で聞いていた楯無にも。

 

「このままだと、生徒が死ぬぜ?」

「ああ……。そうはさせない」

「なら、もっと警戒体勢を強化してください。僕も手伝います。それと?楯無さん、聞いてるんだろ?」

 

 悠李の手からは逃れられない。びくりと楯無が驚くが、相手は悠李だ、不思議ではない。

 

「躊躇わずに、引き金を引く準備はしておいて」

 

 恐ろしいことを口走るものだ。その後、ササッと悠李はその場から消え、変わって一夏がやってきた。

 

「千冬姉、ラグナは大丈夫なのか?傷は確かに無くなっていたんだけど……」

「心配性だな、お前は。案ずるな、あの程度で彼は死なんさ」

「なんで、あいつは無事なんだ?思い切り、腹を貫かれていたのに」

「それは、機密事項なんだ。私の口からは漏らせない。だから、デュノアか本人に聞くといい」

「シャルルも知っているのか?!なあ千冬姉、俺に隠し事してないか?!」

「隠し事?お前に隠すことはない。お前が知らないことは、単にお前が聞かないだけだろう?」

「千冬姉、今日はどこか意地悪だな……」

「しかし事実だ。一夏、お前には、余りくっちゃべっている暇は有るまい?私はこいつを保健室に連れていく、お前はお前がやるべきことに集中しろ。デュノアに迷惑をかけるなよ」

 

 自分を気づかっている千冬の姿は、やはり姉だ。いつも厳しき姉ではあるが、優しさが垣間見れる。やはり、教育者として、そして家族として、この様な姉を持つ一夏は幸せだ。彼自身、そう思った。

 

「ラグナ・ブラックモア……」

 

 それとは別に、悠李の正体が気になる。あいつが隠し事をしているのか。機密事項、とは言っていたが、そんなに大事な人間なのか。

 

 ――いや、人間ではない。人の皮を被った"なにか"だ。

 

 疑問は晴らしたい。戦う前にも、そうしたい。一夏はアリーナに戻り、観戦スタンドに待たせていたシャルロットに話を聞こうと、彼女に話し掛けた。

 

「一夏、トーナメントは中止だって」

「ああ、わかった。それより、聞きたいことがあるんだ」

「なに?まあ、大体予想は着くけどね。ラグナの事でしょう?」

「鋭いな、その通りだよ」

「ここじゃ、あまり話せないんだ。場所を変えよう」

 

 やはり、事は重大、か。親友の真相は。

 

 シャルロットの提案を受け入れ、一夏は人気のない更衣室に移動した。

 

 

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