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「っ……はっ?」
「やっと起きたか」
「教官……私になにかあったのでしょうか?」
「気絶していた」
夕陽が差し込む、保健室の中のベッド。ISスーツのままで、床についていたラウラが目覚め、千冬に事情を聞く。どうやら先程の戦いで、自身の意識が飛んだらしい。よくは覚えていないが、身体には、誰かに抱かれた暖かい感触が残っている。
「しかし、ヴァルキリー・トレース・システムとはな。なかなかエグい真似をする」
「それと私になにか関係が?」
「お前のレーゲンに搭載されていたんだよ。ブラックモアのおかげで、大事には至らなかったが」
「まさか、私がそれを発動して?」
「ああ。同時に彼の腹を貫いた」
――禁忌のシステムで、禁断の過ちを犯してしまった。
ラウラの表情が凍りつく。いくら敵とはいえども、殺してしまうとは。憎い敵といえども、殺意を抱いていたとしても、本当に殺すつもりはなかった。軍人として、裏社会の住民を殺したことは、後々厄介なことにもなろう。
千冬は、そんなラウラの頭をぽんぽんと叩いてやった。彼女の心の中を察するように。そして、事実を伝え出す。
「安心しろ。あいつは無事だ。あの程度じゃ怪我にすら入らん」
「はぁ……え?生きていると!?」
「そうだ」
――奴は不死身か。
しかも、怪我にすらならないとは、どんな身体をしているのか。やはり、彼は人外だ。ISですら、到底敵わない。
そういえば、クラウスの末裔、とか言っていた。クラウスとは、もしかして、とラウラが気付く。嗚呼、なら大丈夫なのも合点がいった。
「あの、ここまではどうやって」
「ブラックモアが、な」
「……そうですか」
あれほど酷い事をしても、手を差し出してくれること。それは、悠李が純粋に優しいから、出来たことだ。それを、ラウラはどこか理解出来る様な気がした。
自分に怒ったのも優しさ。自分を助けたのも優しさ。その優しさは、一体何なのか。なぜ、そのような優しさを彼はもっているのであろうか。
「一体、私は何をしていたのやら……」
「きっと、迷っていたんだ。若さ故の葛藤、孤独故の寂しさ……」
「今まで、私は何であったのかすら、よく解りません」
「ふむ。なら聞こう。お前は誰だ?」
「私は……」
"ラウラ・ボーデヴィッヒ"。それは、今までのラウラ・ボーデヴィッヒだ。誰かに認めて欲しくて。誰かを頼らせたくて。だから、強がってまで、虚構を作り上げていた。
「自分が誰かわからないのなら、これからラウラ・ボーデヴィッヒになればいい。なに、時間は山のようにある。たっぷり悩めよ、小娘」
「いや、今は……私が"ラウラ・ボーデヴィッヒ"だと、わかります。自分自身の脆さを認めて、孤独を認め、そして他人を認め……」
「それほど自分がわかれば、あとは何も言うまい」
千冬が室内から出ていこうとする。その前に一つだけ、ラウラは千冬に問いを投げた。
「教官……いや、先生。"優しさ"とは、強さなんでしょうか?」
「それは自分で考えろ。少なくとも、全く違うとは言えないが、しかし、自分で気付いたら、それが正解であるとは教えておく」
「ありがとうございます……」
「そうだ、一応忠告しておくぞ?一夏と触れるときには、色々注意しておくことだ」
出ていく千冬の背中を、白いベッドから出ずに見送る。そして、入れ違いに来たのは、悠李であった。
身体を心配して来てくれたのであろう。その付き添いで、一夏も来ていたが、最初の様に怒りは浮かばなかった。寧ろ、彼からは親近感を感じる。少しだけ神妙な顔をしているが、悠李はそんな一夏を気にもせず。夕陽が差し込む窓辺の椅子に座った。
「身体はどうよ?」
「大丈夫だ。お前の相方の所為で、少しだけ痺れてはいる」
「やり過ぎたな、かんちゃんは」
「なに、私が弱い証拠だ。それ以外にはあるまい」
「ま、でも無事で良かった。俺も俺なりに心配はしたぞ?」
「私に、か?」
「おう。ああ、あのことを気にしてんのか?俺は別にどうとも思ってないよ。水に流そうぜ?」
一夏がやっと微笑んだ。それに、少しだけ心が軽くなる。ここは、彼の器量に従うことにした。
そして、視線は悠李に向かう。勘付いたのか、パチン、と悠李は指を鳴らした。
「何かしたのか?」
「人払いの魔術。さて、ボーデヴィッヒちゃん?」
「ラウラでいい」
「じゃ、ラウラ。君はこれからどうしたい?」
柔らかな声音、落ち着き払った仕草。その全てを取っても、神威悠李という存在は、ラウラの中で絶対的になりつつある。そんな存在から聞かれようとも、まだすぐには答えは出ない。取り敢えずはこのまま休む方が良いだろう。そうだな、と一夏も賛同した。
飲み物を買ってくる、と言い出した一夏に、悠李はお札を渡した。そして、二人きりの空間。悠李はこの前彼女に付けた首の傷跡を確認しようと、首に触った。
「ないよね。治療用のナノマシンか」
「その鋭い勘は、父親譲りなのか?それとも、経験か?」
「どっちもある。だけど、一番は推理。スパーダやクラウスとか魔剣士の血族なら、そんな傷一瞬で消える」
「そうか。……お前を見習って、そういう勘を鍛えたくもある。人に優しくなりたくもある」
「いい事だよ。部下の思い遣りを持った隊長ってのは、中々優秀なんだぜ」
ぐっ、とウインクしながら親指を立てた。軍にも精通しているから言えるのだ。
この男は、師と仰ぐには相応しい人物だ、とラウラは思った。また、彼と仕合いたい。もっと実力をつけて、今度は一対一で、互いに全力で。
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「あーストロベリーサンデーおいしーい」
「いつもラグナはそればっかりだね」
見舞から戻ってきた食堂で、いつもの倍の量のストロベリーサンデーを、悠李が一人で片っ端から平らげていくのを、相席して夕食を食べていたシャルロットがくすりと笑った。甘党の彼の第一の好物がこれなのは知っていたが、今日はこれを夕食にするつもりらしい。明らかに太りそうな量だが、いつも甘味を口にしている悠李が太ったことはない。
食堂の備え付けのモニターには、トーナメント中止の文字がひたすら浮かび上がり、それを見た生徒たちが喚いたり泣いたりと大騒ぎしていた。落胆の声は大きくて、気付かない訳がなく。
「一体、何なんだろう?」
「ん?ちょいと聞いた話だと、優勝したら一夏かシャルとオツキアイ出来るっていうルールが出来てたんだって。僕は外されてたけどねぃ」
「だったら、ボクは全力出して戦ってたよ」
「ははっ、なら僕わざと負けちゃうかも」
簪が悠李を好いている。それはシャルロットにもわかっていた。試合中のコンビネーションも、自分と一夏のパフォーマンスを遥かに上回る出来であったし、なにより簪が悠李にくっつくのだ。それが鼻につく。これが嫉妬だとはっきり自分自身で理解していた。
「かんちゃん、あのあとすぐに技研行っちゃってさぁ」
「なんで?」
「専用機の組み立てだって。僕、少し見たいんだよねぃ」
「それは、ボクも興味あるなぁ」
「でしょ?ま、僕は少年心ってやつかしらねぃ」
ISの見た目を気にする、それはセシリアにも似たところがある気がするが、悠李は"かっこいいかダサいか"を見ているだけだ。今回の烈にも、千冬に無断で、彼の左のタトゥーと同一の"蝶"のマーキングをしていた。意外にもそれはいいアクセントになっていたし、千冬にも好評だったのでそれはいいのだが。
「シャルのラファールもマーキングしたげよっか?"Black Cherry"のサクランボロゴがあるんだよねぃ」
「あ、いいねそれ。貼っちゃおうよ」
「ぅぉおふっ!!」
「……ふんっ!」
楽しくおしゃべりしていた時に、一夏が箒に思い切り蹴られて悶え、箒はなぜか怒ったままそこから立ち去っていくのが見えた。一夏の痛々しい声でシャルロットが振り向き、悠李がスプーンをくわえ、スペシャルメニューのチョコストロベリーサンデーが入った大きな器を片手に一夏に近付いた。
「おっ、大丈夫か大丈夫か?」
「ああ……はは。なんとか。食事中にうるさくして悪いな」
「一夏、今度はなにしたの?」
「"買い物に"付き合う、って言ったら、いきなりな」
鈍感スキルはここでも発揮されている。むしろこのクラスだと疾患レベルだろう。シャルロットが苦笑いし、悠李は呆れたように溜息をついた。
「部屋に行くのが怖いねぃ」
「いきなり蹴ることはないよなぁ、"悠李"」
「まあすぐ手を出すのも――なんて言った?」
「へ?"悠李"って」
「ボクが教えたんだ。色々と」
「へえ、なるほど。一夏、僕とかシャル、千冬さん以外がいるとこではあんまりそれ使わないでね。"裏にバレたら君も危ないよ"」
「お、おう」
しっかりと釘は打っておく。悠李の心配は、ちゃんと安心に変える為の努力と同時に生み出される、そう感じたシャルロットだった。