Infinite Devils Hunter   作:パン粉

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STAGE 5 乙女の心は晴れのち曇り -The Boring Time-
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◆◇◆◇◆◇

 

 

「晴天だねぇ……」

 

 校外実習当日の、移動中のバスの中。窓から、照り付ける太陽の光とそれを反射するアスファルトの地面。少し視線をずらせば海。その様なシチュエーションで、悠李の呟きはのほほんとしていた。

 

 今は布仏本音が悠李の隣に座っている。 彼女も幼い頃に悠李と面識があり、しかも簪の側にずっといた。親友としての間柄の二人、事情を知っている本音は悠李をらぐなんと呼び続ける。シャルロットだけは、僅かに不満げな顔をしてラウラの隣でお菓子を食べていた。

 

「お前の気持ちはわかるさ。好きな者の隣に行けないのはな」

「一夏の隣には、箒が座ってるし、対比すると尚更羨ましいんだよね……。くじ引きとは言え、本当に」

「にしても、更識という血筋は怖いな。あの化け物の教えを受けているとは」

 

 言うまでもなく化け物とはあいつである。本音も僅かながら教えは受けているだろう。その為、戦闘力は見かけによらずある。ここにいる人間を侮ってはならぬのだ。

 

 しかし、結構ラウラは負けたことを引きずっているようだ。もしくは、心にISでのファイトを楽しむ余裕があるのか、学園の楽しみを見つけたか。どちらにせよ、すぐに皆に順応できそうなのは喜ばしいことである。前の方に座っている千冬もそう思っている事だろう。

 

「かんちゃんこないってー。つまらないよね?」

「忙しいんでしょ、自分のことに。機会ならまだ腐るほどあるんだから、残念に思っちゃいないよぼかぁ」

「でも、少しくらいは息抜きしないとねー?」

「それは同意見」

 

 穏やかに話す悠李は、本音のほのかな笑顔に負けずに朗らかだ。意外にもああいう顔をするのかと、彼をよく知らないクラスメイトは悠李へ憧れを抱きつつあった。それをシャルロットが気付かないはずもなくて、バスの窓ガラスに、自分の顔が強張っていくを映ることに気付く。

 

 ──ダメだ。嫉妬している。

 

「そういえばブラックモアくんもめちゃめちゃイケメンだよね……」

「うん……狙い目かな?」

 

 一番狙い辛い悠李を恋愛のターゲットにした。だが、まずはシャルロットを倒さねばならない。そして、その後ろには楯無と簪がいる。壁は遥かに高く強いのだ。

 

 窓際でたたずむ彼。活発な一夏とは対照的に、理知的な男の子。腕もあるし、何より度胸の塊だ。千冬が彼を買うのも頷けるし、真耶が彼を頼っているのもわかる。

 

 つまり、だ。彼氏にする付加価値が高いのは、実は悠李ということだ。なるほど、こんな簡単なことにどうして今まで気付かなかったのだろうか。自分達の目の無さを恨むクラスメイトたちであった。

 

 しかし、そんな邪な考えを持っている人達に絶対に悠李は渡せない。シャルロットの静かな怒りは、ラウラに冷や汗すらかかせていた。少し落ち着け、と声をかけるも、冷たいオーラと共にシャルロットは笑いかける。

 

「どうしてだろうね、なんだかとっても腹の据わりが悪いんだ」

「シャルロット。そんなことをしていたら、悠李に愛想を尽かされるぞ」

 

 必殺の一撃。それだけでシャルロットが鎮まった。悠李の名前は確かに強い。

 

 

 

 宿に着いて早々、悠李は荷物を置いてから、旅館の女将に手伝いを頼まれた。人手の多い方が楽ということで、宴会場にテーブルと座布団を設置し、そのテーブルに箸をセットしていた。

 

 10分で終わらせてから、部屋に戻ると、既にルームメイトの一夏はいなかった。それどころか、宿の部屋が全てもぬけの殻であった。その理由は皆目見当がつく。海に行ったのであろう。

 

 包帯を腹部に巻いてはいるが、どうせ傷は塞がっている。なら、海に行っても問題はない。包帯を外し、貴重品を手に持つ。カーゴパンツに七分袖の白い薄手のジャケットを羽織って、旅館から出て行った。

 

 ブーツで踏みつけるビーチの砂。道中で大量の飲み物を買い、クーラーボックスに入れてきた。皆が悠李のこの姿を見るのは初めてだ。彼がきたのに一番に気付いたシャルロットは、彼の父をその姿に見た。

 

「本当、創龍さんに似たね」

「似てて当たり前さね。血は父さん、肉体は祖父の物だ」

「へ?」

「詳しい話は今度ね」

 

 近付いてきた仲間たち。セシリアや鈴らは、悠李の腹部を気遣った。ペロリと服を脱ぎ、傷痕一つないことを見せつける。最新の医療技術を受けてきたと言い訳した。腕を捲り、筋肉で隆起した身体のラインが、アンダーウェアを着ていない今の悠李を更に猛々しく見せる。ISスーツを着ていないと、こんなにも彼はいかついのか。

 

 千冬の下へ行けば、生徒の目の前で酒を呑むわけにはいかん、というのか、黒いビキニでミネラルウォーターを片手にチェアに寝転がっていた。その彼女さえも、見事な筋肉の固まりに目を丸くした。

 

「何も言わずに先にいかないでください」

「すまん。しかし、いったいどうしたらそんな身体が出来上がるんだ?」

「さあ?少なくとも暴飲暴食しないで鍛えれば太りはしませんよ」

 

 その眼差しは、若干憧れてもあった。鈴に手を引かれると、またシャルロットたちのところへ戻る。浜辺でも遊べることは遊べるし、その途中で多くの女子生徒の視線を悠李の身体に集めていたのは、シャルロットを少し不機嫌にさせる要素であった。

 

「なんか……」

「ええ。私が負けたのもわかる気がします。あのフィジカルに太刀打ちするのはほぼ無理でしょう」

 

 

 風呂に入ってから、浴衣で一夏と客室の窓際の椅子に腰掛けてだらけていると、引き戸を叩く音が聞こえてくる。ゆらりくらりと戸に近付き、それを開ければ、悠李はふっと笑みをこぼした。

 

「入っていいか?」

「どうぞ、箒さん」

 アプローチはやはり箒が早い。後にまた大勢来るであろう。あれほど千冬が口を酸っぱくして禁止を宣告したのにも関わらず、だ。

 

 二人を残して部屋を出る。そういえば身長が伸びたな、とか思いながら。シャルロットがいつもより下にいるのだ。190センチ台も間近か。

 

「段々、お祖父様に似てきたかな」

 

 非常に尊敬している祖父の名前を出す。彼に追い付くのはいつごろか。一生来ないかもしれないが、肉体くらいは追い付きたい。

 

 自分が準備を手伝った宴会場の前を通り、ロビーに入る。千冬がスマホで誰かと通話しているのを見て、椅子に座ってくつろぎだした。

 

「はい。それではよろしく御願いします、レイソンさん」

「……へっ?」

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