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夕食時の宴会場で、悠李の横隣にいるのは鈴とセシリアであった。セシリアの隣に一夏、そしてその隣にはシャルロット。箒の姿は少しだけ遠くにあった。そして、ギラギラと男を狙う視線が非常に気になる。そんな中、キツそうにしているのはセシリアであった。なるほど、慣れない正座であるから脚が痺れているのか。しかしいまここで動くわけには行かない。苦労して手に入れた一夏の隣なのだ。くすくすと悠李とシャルロットは笑った。
そして、箸使いも覚束ない。鈴は流石というべきであるが、セシリアはどうもまだナイフとフォークの文化から抜けられそうにない。綺麗に扱う悠李とシャルロットは流石と言うべきか。
"Black Cherry"で生活していた時のシャルロットに箸の使い方を教えたのは意外にも創龍だ。彼の性格からは意外に思われるのは間違いないが、しかし彼は教師すらやっていた男だ。
「やっぱり優等生なんだなぁ……」
「ラグナのお父さんが上手いんだよ、教え方。音姫さんより綺麗だったし」
「そういうとこに関しては、父さんはめちゃくちゃ丁寧だったからねぇ」
「音姫って?」
「僕の義母だね。元は父さんの教え子なんだけど、色々あって今はウチで働いてるよ」
「えっ……ええっ!?結婚しちゃったの、二人!?」
一番驚いたのは事情をよく知るシャルロットだ。セシリアや箒がその勢いに慌てた。端で聞いていた千冬が、ほう、と笑みながら聞いていた。
更に続けると、妹まで出来た、と悠李は教えた。尚更驚きが深まる。決めた、夏期休暇は絶対に義妹を可愛がりに行こう。
その決心の二個隣で、セシリアに耳打ちをかます悠李。それを聞いて、セシリアは演技をしながら一夏の方へ向いた。
「一夏さん、私、お箸が上手く扱えませんので……」
「おう?」
「食べさせていただけませんかしら?」
「このバカチン!なんで私に献策しないワケ?!」
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部屋に戻って、鈴に散々イジメられた悠李は、来たときと同じように椅子に座って、夜景を眺めていた。先程の千冬の話から聞いた身内の情報。下手をしたらその人が来る。まだどうかはわからないが。だが、それに加えて、何か大変なことが起こりそうな臭いがしてきた。
グラスに注いだバーボンのロックを一口呑む。一夏は隣の千冬の部屋で、千冬のマッサージ中だ。家族団欒の一時を邪魔する無粋なことはしない。
だが、一夏に惚れた子猫たちはそれを実践するだろう。こそこそと足音と息遣いを潜め、襖の前で佇む3人。ラウラと共にこちらに来たシャルロットが、悠李の部屋に来た。
「地雷を踏む勇気は称賛するね、本当」
「それほど、一夏に本気ってことでしょ?いいんじゃないかな、"命短し恋せよ乙女"ってことで」
「ま、それもそうね」
「覗き見というのも悪趣味ではあるがな……。全く、あいつらは」
どたん、と大きな音を立て、隣の襖が倒れた。マッサージの声をなにやら禁断の行為の嬌声と勘違いした小娘達の顔が真っ青になる。様子見で襖を開けた悠李は、ニヤニヤとその死に様を見届けた。
少ししてから、悠李達もそちらに呼ばれた。何故か皆が正座であって、一夏にはお使いを頼んだ千冬。片手には缶ビールがあり、それを生徒達の前でぐびっと飲み干す。
「ぷはぁっ!」
「ホント、いい飲みっぷりで……」
何の話をするかと思えば。悠李はくすりと笑った。ラウラも目を丸くする。ドイツ時代の教官が、こんな可愛らしく人臭い一面を見せるとは。
「まあところで。お前らが一夏に惚れるのも無理はない。あいつは気立てもいいし、料理も美味い、おまけに家事も完璧だ」
「スペック高いなぁ……」
「どうだ?欲しいか、私の弟が」
なぜ一夏の家事スペックが高いのかは悠李はわかる気がする。単に、私生活の千冬がズボラなだけだからだろう。そういう風に言えるのは、千冬の部屋を見たからだ。仕事はバリバリ出来るようだが、身の周りのことは恐らく言われない限りやらない。
くれるんですかと問う3人。だがそうは問屋が、いや姉が許さない。やるかバカ、と一蹴し、シャルロットと悠李がクスクス笑い、当たり前だろう、とラウラがつけくわえた。
「ブラックモアなんかどうだ?彼も家事は出来るし、頭も働く。おまけに収入もあるし……」
「あげませんよ?」
「ふふふ。知っているかデュノア?ブラックモアを狙うのはお前だけではない。更識姉妹も目を付けている」
「ボクの方が付き合いは長いんで……」
「そうだ。ここでブラックモアの父親に聞くとするか……」
ただ自分達で遊んでいるだけだろう、目の前の女教師は。一夏の下りは少し本気だったかもしれないが。
そして、どこからプロジェクターを出してきたがわからないが、テレビ電話で、悠李の事務所に電話をかける。ワンコールで発信を受けるは、神威創龍その人であった。
『よぉ千冬、それにシャルロット。生で見んのは久しぶりだな』
「えっ……」
「ラグナさんのお父上ですか?」
「アルトレア・ブラックモア……」
机に脚を投げ出した、ラフな格好の男。筋肉の鎧を纏った身体は、軍人であることを証明しているかのようだ。
軽やかなジャズがジュークボックスから流れる広いその部屋では、槍と剣が何本か壁にかけられていた。創龍の素性を知っているのは、悠李と千冬にシャルロット、そしてラウラだ。更には、ラウラは千冬の下から離れたあと、創龍の部隊と軍事演習を行った経験もある。そこで少しばかり、創龍から軍事行動の話を聞いた。
一夏がちょうど、ばったり出会した真耶と共に、追加のビールを買ってきて戻ったきた。その時にプロジェクターを見ては、何故か彼はたじろいた。あら、と真耶は言い、ペコリとスクリーンに頭を下げる。手を挙げてそれに答えては、シャルロットが創龍に声を掛けた。
「お久しぶりです、お義父さん」
『おいおいラグナ、もう婚約しちまったのか?』
「いや、まだだけど」
『だよなぁ。簪もいれば楯無もいる、まだまだ先は長そうだぜ』
「お久しぶりです、ブラックモア大佐。2年前の演習以来ですね」
『お、あん時のおもしれェ嬢ちゃんか。黒ウサギ隊だっけか、今は』
「ねえ、この人どこまで知ってるの?」
「君達のことは知らないよ、名前くらいしか」
『そうさね……。まず、そこの黒髪ポニテ女子が篠ノ之箒。ブロンドにヘアバンドはセシリア・オルコット。茶髪ツインテールが凰鈴音。そこのボウヤは、織斑一夏ーー"可能性を秘めた獣"さね』
一夏の紹介は、すなわち悠李がそれだけ買っていると言うことだろう。ここまで来て、一夏も目の前の男が悠李の父親ということがわかった。
創龍の視線は皆に向かっている。何の用件で掛かってきたのかは大体分かる。だが、それよりも伝えたいことがあった。
『まあ、義之に似た奴だな。周りの状況が。んでもって、アレなとこも似てるが……』
「確かに義之さんはアレだったね」
「アレって……」
『取り敢えず、だ。ラグナの恋愛事情か?教えてやるよ』
嫌な予感しかしない。この人は洗いざらい話してしまいそうだ。それに、興味津々なのはシャルロットだけではなかった。
はぁ、と溜め息を一つ。そして悠李は足を崩し、膝を立てた。実の教師がいる前で取る態度ではないが、職務時間外だろう、と悠李の勝手な解釈をし、真耶と千冬も咎める気などなかった。
『学園の生徒会長と、この前のペア戦で組んだ女子な。更識楯無と簪っていうんだが、アレらも一応、ラグナの幼馴染だ』
「そういえば、そんなこと聞いたな……」
『だろ?7にも行かない頃だから、そこそこ長い。二人の親に頼まれて、楯無を教育してたのが俺さね。しかも、ラグナは二人と添い寝まで』
「ラグナ。アンタ結構ジゴロじゃない」
鈴がちょっかいを出してきた。そんな昔のこと、とシャルロットは思い、あまり気にしていなかった。と言うか、添い寝もお風呂も、つい最近までしていたのだから、羨ましくはない。
イマイチわからないのがラウラだ。彼女は異性に興味があるのかどうかすらわからない。千冬にべったりではなくなってしまったが、そこは果たして。
恋バナは、やはり女の子にとっては
面白いものだ。創龍は、誰が誰に好意を向けているのかわかっている。そして、千冬や真耶にも気付いていた。
『勿論教師との恋愛もいいとは思うがな……っと、どした桜姫』
「あ、桜姫。元気?」
「え?この子が妹?」
「……可愛い」
話の途中で、脇から小さい女の子が歩いてきた。創龍が彼女を抱き抱える姿は本当に父親らしい光景だ。クスクスと千冬とシャルロットが笑い、無邪気な笑顔に皆が心を洗われる。
『ゆうにい!ゆうきはげんきだよ!』
「そっかそっか。お父さんとお母さんは仲良くしてる?」
『うん!いつもさんにんでいっしょにねてるもん!』
『ねー桜姫♪』
「音姫さんまで……」
「うわ、めちゃくちゃ美人……」
一家勢揃い。千冬が遂に笑い転げそうになった。長く綺麗な焦げ茶のポニーテールに、すらっとした美しい身体と顔。青いパーカーを着て、悠李とシャルロットに向き直った。
『音姫・ブラックモアです!皆がラグナくんのお友達ね?これからも仲良くしてね。それと、シャルちゃん』
「お久しぶりです音姫さん」
『久しぶり。今度抱き合えるのは、夏休みかしら。でも、いつでもウチに帰ってきていいからね。もうウチは、シャルちゃんの家だからね』
『シャルおねえちゃん!』
「ふふっ、桜姫ちゃん、また今度ね」
あちら側から回線を切った。音姫の心の広さや桜姫のあどけなさ、そして創龍の豪胆さ。それを味わったルーキーとラウラ達。そして、一人別ベクトルで千冬は悩んでいた。
「何で私は君の婚約者候補から外された?」
「へ?」
「それに、私は出産祝いどころか結婚祝い、ご祝儀すら差し上げていない。どうすれば……」