Infinite Devils Hunter   作:パン粉

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◆◇◆◇◆◇

 

 

 翌朝。早朝と呼べるに相応しい時間に、悠李は久々に箒の稽古をつけてやっていた。悠李は仕事着、箒はジャージ姿での打ち合い。箒が持参した二振りの竹刀で、防具を着けずに打ち合う。

 

 朝の浜辺は潮が引いていて、また砂場であるから足腰が非常に鍛えられる。その利点を理解してこの場所を二人は選んだ。

 

「なんでお前の家族は……美形ばかりなんだ?」

「知らないよ。僕は美形かどうかはおいといて、音姫さんは学生時代から人気あったし」

「なるほど。お前は私から見て美形ではあると思うが。桜姫ちゃんは、お前の母上似か、可愛いな。お前の父上は男の顔で、カッコいいとは思うが」

「そりゃ、どうもっ!」

 

 箒の胴抜きを逆手に持った竹刀で弾き返し、ぽこりと彼女の頭を叩く。ぬっ、と声を出して微妙に悔しがる箒に、悠李は誉め言葉をかけた。

 

「キレはやっぱりよくなってる。流石だね」

「お前のお陰だ、悠李。しかし、破門と言われたときは焦ったがな」

「手合わせぐらいなら別にいいさ。ま、千冬さんにも頼まれてはいるから」

「あの人がか。助かる」

 

 朝日が海から上がってくる。眩しい光が二人の眼に焼き付いた。竹刀を箒に返すときに立ち止まり、手を軽く握って、そして開いた。

 

 手のひらには饅頭があり、悠李はそれを朝食前の腹ごしらえとして箒にあげた。これは魔法、しかも音姫直伝の魔法だ。自然に使えるようになったのではあるが。

 

「便利なものだな、その力は。……んまい」

「こんくらいならね」

 

 悠李といるときも、箒の表情はずっと柔らかくなった。親友たる由縁だろう。

 

 少しして、ゴミとして捨てられていた空き缶を拾った悠李は、懐からいつも使っている銃とは違うものを取り出した。シルバーステンレスの6連装リボルバーマグナム。空き缶を前に放り投げては、ハンマーを素早く起こして、シングルアクションでそれを撃った。

 

 狙いは正確。動いている空き缶を見事に捉えて吹き飛ばした。ぱかりと割れて、備え付けのゴミ箱に入る。

 

「M686はまだまだ現役、ってね」

「よく撃てるな、お前」

「伊達に悪魔狩り名乗っちゃいないからね」

 

 ガンスピンをかましながら胸元にしまいこむ。リボルバーを愛用しているのは信頼性が高く、そしてオートマチックより相性がいいからだ。狙いと速射のレベルが異常な創龍は、オートマチックのデザートイーグルを改造したものを使っているが、悠李はピンポイントショットかつ一撃重視の為にリボルバーを選んだ。マグナムであれば威力が足りないということはない。

 

 唯一持っているオートマチックハンドガン、SIG P320 サブコンパクトを取り出しては、先ほどと同じように缶を撃ち抜く。先ほどより威力もなく、銃声も静かだ。サプレッサーをつければ隠密行動にぴったりのウェポンになるだろう。

 

 スライドが引ききった状態で止まる。マグチェンジを素早く行い、チェンバーに9mm弾を送り込んだ。

 

「射撃練習終わりっと」

「見事なものだ」

 

 

 宿に戻って制服に着替え、起こした一夏と朝食を摂りに広間へ向かう。途中、中庭の不自然なウサ耳と立て看板に気付き、一夏は気まずそうな顔をした。

 

 悠李もそれが誰の仕業かわかっている。面識も勿論あるのだ。おまけに、二人は仲が良い。天災のいたずら、これはまだ可愛い方だろう。

 

 向かい側からセシリアがやってくる。先に行くね、と言った矢先に一夏がその耳を引っこ抜くと、聞き慣れた甲高い声が空に響いた。

 確信犯な一夏の行動。また災厄が訪れる。セシリアが立ち止まって、悠李は呆れたようにこれを見た。

 

「いっくーん!お久しぶりだねー!」

 

 無論ながら、声の主は篠ノ之束。箒の実姉で、ISの開発者、そして世界一のトラブルメーカーである。一夏に抱き着いてスキンシップを測ると、彼女は箒の居場所を聞いた。相変わらず、箒は彼女のおもちゃになっていそうだ。

 

 箒ちゃん探索レーダーなる、これまたウサ耳のついたロッドを取り出した。ハイテンションな彼女。顔を振った先に束の眼に映るのは、神威悠李本人。

 

「あっらぁ?」

「変わらんね、ウサちゃん」

「そう人は変わらないよ、ゆーちゃん!」

 

 セシリアを連れて先に行くのは一夏になった。一夏よりも緩やかに悠李に抱きつく束。恍惚とした表情を浮かべる顔は、悠李の唇をナチュラルに奪った。

 

「束さん以外の味がするー……」

「いつから僕はウサちゃんの彼氏になったのよ」

「えー?違うのー?」

 

 束を引き離して、箒の方へ行くように促す。それで一旦は落ち着いた。だが、偶然通り掛かった鈴が一部始終を見ていて、悠李の顔が少し歪んだ。

 

「……あ、アンタ!今の誰よ?!何してたのよ?!」

「ま、まあ、海外式の挨拶?」

「信じらんない!!シャルロットにチクるわよ!?」

「待ってよ……」

 

 悠李の予感は正しかったのだ。災厄に巻き込まれる。それが朝からとは。

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 なんとかスイーツで鈴の口を封じて事なきを得た悠李は、日中の授業で真耶の補佐を千冬に頼まれた。ISスーツに着替えて砂浜に集合すると、真耶の隣には水色の長髪を携えた、長身の美女がいて、悠李はやはりと呟いた。

 

「キリエさん、お久しぶりです」

「ラグナ。お久しぶりですね」

 

 キリエ・レイソン。創龍の相棒で、こことは別世界から来た戦乙女。齢1000を超えても少女のような外見とあどけなさを持ち、ユーモアに満ち溢れた人だ。

 

 悠李との関係は、創龍の妹弟子で、同僚であろうか。槍の名手である彼女だが、独学で体得した教養知識と戦術はハイレベルである。

 

「初歩の戦術と実践の訓練を、織斑先生の代わりに手分けしてしてくれるそうです」

「依頼がありましたからね。生徒の皆さん、お願いします」

 

 元気のいい返事が海原に響く。にこりと微笑み、悠李の方を向いた。

 

「皆さんはISを身に纏い、それらを扱うわけですが、身に纏う、ということは、勿論身体的な面でも強化しないといけないわけです」

「そこで、フィジカルマネジメントのプロであるレイソンさんをお呼びしたのです」

 

 そんな資格は彼女にない。あるわけがない。彼女が持っているのは運転免許証とクレジットカードぐらいだ。確かに、身体はしなやかな筋肉で覆われていて、非常に女性的なプロポーションを保ちつつも戦いに特化している。

 

 今立っているところは砂浜。そして、勿論靴を履いている。やらせたいことはすぐにわかった。ランニングだ。

 

「恵まれた環境ですよ。身体を支える筋肉を鍛え、それをISに活かせるようにしましょう。継続すれば、山田先生みたいに美しいスタイルに、そして織斑先生のように強かになれることでしょう」

「レイソンさんったら、お上手なんですから……!」

 

 真耶の腰は確かに細い、それでいわて胸も大きい。女性ならば憧れるスタイルであろう。この人も生徒の心をつかむのがうまい。やはりと言うかなんと言うか。

 

「そういや、織斑先生は?」

「代表候補生と織斑くん、篠ノ之さんを集めて特別講義を行っているとか。なぜブラックモアくんは呼ばれなかったんでしょうね?」

「目論見があるんでしょう、千冬さんには」

 

 ニコニコとして答えたキリエの言葉を信じ、悠李も列の一番後ろで走り初めた。

 

 

 浜辺の外れにある断崖の上には、一夏ら6人とジャージ姿の千冬がおり

、特別講義を行うためにある人を待っていた。無論、一夏と千冬はわかっている。束だ。

 

 あの超マイペース人間を待つのには馴れてはいる。恐らく今は箒がいるからすぐにくるだろう。そして、その推測は的中し、訳の分からぬメカで跳ね跳びながら篠ノ之束は現れた。

 

 早速千冬に抱きつく。鬱陶しがりながら千冬は彼女に自己紹介をするように促すが、簡単にしかしない。それほど、大抵この場にいる人間に興味がないのだろうか。その証明として、セシリアの応対は散々なものであった。

 

「私、セシリア・オルコットと申します。常日頃から、篠ノ之博士を尊敬しておりますわ」

「は?今、数年ぶりの感動の再会の最中なんだから空気嫁よB****。これだから白人は……」

 

 この有り様である。口が悪いのは元からであるのかもしれない。だが、さらっと差別用語を言い放つのはどうかと思う、と皆が思った。

 頭に付けた箒レーダーは鋭敏に反応しており、岩陰に隠れていた箒をすぐに見つけ出した。可愛らしい実妹の成長した姿、特に年齢に不相応な胸に束は興味津々であった。

 

「いっくんとはどこまでいったのかな?ベッドでそのスイカおっぱいをふんだんに使ったR指定はもう済ませえふぅっ!?」

「殴りますよ?」

「うぁーん殴ってから言ったぁ!しかも木刀で!」

 

 仲が良いのか悪いのか。束が篠ノ之家を分裂に追いやった元凶であるのに。だから、箒は束がかなり苦手なのだ。

 

「あれ?ゆーちゃんは?」

「ゆーちゃん?誰?」

「そこのオレンジちゃんの幼なじみで、ちーちゃんがその腕に惚れてて、この束さんをもメロメロにさせた罪深い少年だよ!ま、いないなら後で探すか……。それよりも箒ちゃんの専用機が大事だからね!」

 

 ヒントを与えすぎだと思うが。しかしそれよりも箒の専用機という言葉に皆が気になった。束が指をぱちんと鳴らすと、 上から赤いISが降ってきて、箒の目の前に着地した。

 

 生徒達が唖然とする。だが、箒本人は、すぐにそれを強い眼差しで見た。これが、今から彼女の剣となるのだから。今、しっかりとその目に焼き付けていないと。

 

 だが、その反面、非常に難しい気持ちも混ざっていた。自分の人生を狂わせたISという存在。これを操り、姉の操り人形になる。そのような、下衆の勘繰りのような思考が頭の中を走る。

 

 ーーこういうとき、神威悠李はどうするのであろうか?

 

 親友であり、現在の師である悠李の意見を扇ぎたいが、今はいない。しかし予想は着く。

 

 ──もっと力を。護りたいものを護り抜ける力なら、なんだって得てやる。

 

 今の本当には、自分の大切なモノを壊させない力が必要だ。その想いにただひたすら向かえばいい。自分は意思を持つ人間であって、命令に忠実なロボットではない。束の道具になる前に、束を止める。それも、自分の想いに真っ直ぐであることに違いはない。

 

「箒、お前の眼……」

「織斑先生。姉さん。ご指導、ご鞭撻、宜しくお願いします」

「まっかせなさい!私は実の可愛い妹のためならなんだってするよ!」

 

 紅い機体ーー紅椿に触れた。激しい光に包まれて、箒の身体に紅椿が纏われた。いつもの打鉄より遥かに軽く、フィードバックが尋常でない。

 

「第四世代のロールアウト完了!」

「第四!?」

「んじゃ箒ちゃん、テストドライブ行こうっ!」

 

 さらりと漏らすは、最新鋭の情報。やっと先進国が第三世代の配備に取り掛かっているのに、もう第四とは。

 

 一夏の白式は確かに束製。だとするならば、一夏も……。推測は絶えない。

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