Infinite Devils Hunter   作:パン粉

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 学生食堂で、独りで孤高に食事を取っている悠李は、わかってはいたものの、かなり女子生徒の的になっていた。動物園の客寄せパンダの気持ちがわかる気がした。仕方ない、実際パンダではあるのだから。

 

 しかし、こちらはかなり凶暴なパンダだ。シロクマの方が似合ってはいるだろう。愛想を振り撒くシロクマならば、ちょうどぴったりだ。

 

「あら、ラグナさん。独りでお食事でしたら、ご一緒しませんこと?」

「ああ、オルコットさん。多分そっちが困るだろうからいいよ。こんなに視線が集まっていると、あらぬ噂も流されそうだし」

「下らない戯言など気にしませんわ。それよりも、一緒に食べますわよね?」

 

 その席に来たのはセシリア。何でも自分が主体、か。なるべく怒らせないように、彼女の言葉に異を発さずにしたがった。

 

 セシリアはおしとやかに悠李の前に座ると、券売機にはなさそうな豪勢な食事をテーブルに置いて、非常に行儀良く食べはじめる。育ちの良さがここからでも伺え、まさにお嬢様といったところである。その中で、彼女は唐突に話し始めた。

 

「有り得ない話ですわよね?男が女よりも強い、なんてのは今や昔の古ぼけた思想。ましてや平等など……」

「僕はただ、平等ではありたいな。互いを尊重し、互いに助け合い、生きていく。一昔前の様な、男女平等が僕にとっては理想だよ」

「あなたも変わった方ですわね」

「男と女なんて、生物学的には大きく違うけど、ジェンダーの観点から見れば、殆ど同じ立場じゃないか。それに種類は同じ人間なんだし」

「それでも、ISを動かせるのは女性しかいませんのよ?」

 

 同じ結論の繰り返しをさせるつもりだろうか、彼女は。ISを動かせたからといって、社会的立場は変わらないと悠李は思った。女性しか認められないものなど、幾らでもある。軍事バランスを変えたといえども、一般人の立場はそう変わるものじゃない。

 

 そんなにISが使えることをアドバンテージとして扱いたいなら、ここは確かにうってつけだろう。それは否定しない。だが、それだけを頼りにしていては、逆に彼女の価値は下がってしまう。

 

「ISを使えるって言われたって、それだけだったら意味がない。勿論、動かせない女性もいるわけだし」

「それは、そうですけど」

「その人達は、自分が特別だと思っているのは少ないと思うんだ。オルコットさんの、女性は尊重されるべきだ、っていう主張は、勿論認められるよ。だけど、男性を卑下してしまうまでやってしまったら、人種差別になっちゃう。そう思わない?」

 

 なるほど、とまたセシリアは納得した。言われてみればそうだ、私は男性の権利を無くしてまで生きようとは思わない 。それに、人種差別的な振る舞いは、人間としても、淑女としても、あり得ないことである。

 

 自分の在り方を見つめ直そうか、そう考えているセシリアを余所に、悠李は、先に頼んだチーズたっぷりのピザを平らげた。セシリアに席を確保しておくよう頼み、デザートの食券を買いに行く。

 

「ラグナ・ブラックモア……。優しい人ですのね」

 

 ぼそりとセシリアはそう呟いた。彼の人を思いやる心、そして誰も差別を受けないという理想。とても素晴らしいことではあるが、理想だけではこの世は生きてはいけないのではないだろうか?

 

 悠李からは、実現したいという、強い意志は感じられない。まだ"願望"のレベルなのだ。尤もらしいことを言っていようが、それを実現出来なければ。無論、今の段階でそれを判断するのは誤ってはいる。

 

「おまたせ。ストロベリーサンデー、食べる?」

「え?」

 

 しかし、思考は大人なのに、食べ物の趣味は子供のようだ。そのギャップにセシリアは驚かされた。

 

「一緒に食事に付き合ってくれたお礼。甘いものは嫌いだったかな?ああ、紅茶もいるよね」

「いえ、甘味は好きですし、お礼なら、ありがたく頂戴いたしますわ」

「それはよかった。じゃあ、遠慮なく食べてね」

 

 たくさんの苺とクリームがかかった、大きめのサンデー。一口食べるとこれがまた美味しい。イギリスの街中の料理より美味だ。

 

 確かに、下町のフィッシュ&チップスやら揚げマーズバーやら、口に合わないものはある。一夏の言ったことが否定出来ないのも事実。労働者階級の料理を見下しているわけではないが。

 

「日本の食文化を侮っていましたわ……」

「これが日本発かどうかは置いておいて。イギリスは味が単調だからね。塩と酢しかかけないわ、揚げすぎるわ、焼きすぎるわで、そりゃ舌もブッ壊れていくさね」

「ラグナさんは、他国の料理に興味がありまして?」

「ウチは日本食やら、イタ飯やら、ロシア、ドイツ、オランダ、フランスとか色んなもんが出たからね。父さんか僕が作って食べてたから。イギリスの下町の店よりは美味しいものを作れる保証はあるよ」

「なら、是非作っていただきたいですわね。それに私、料理を教わりたいですし」

「ああ、構わないよ?いつでも頼んでよ」

「では、よろしくお願いします」

 

 悠李とセシリアの関係は良好。一夏とセシリアは、双方が突っ掛かる言い方をするから悪いのだが、悠李は穏やかに教えるように話してくれる。それが、衝突を避けているのだ。

こういう技術は、便利屋で接客するために身に着けている。仕事はプロフェッショナルを意識して行うのが、悠李のポリシーだ。

 

「やっぱり、あいつは敵だったんじゃないか!!」

「バカ言え、ラグナは人との付き合い方が上手いだけだよ。それに二人は同じ国出身だから、話も合うんだろ」

 

 その欠点を認めた一夏も同じ様に、悠李を疑い怒する箒を穏やかに窘めた。敵を作ってもどうしようもない。人付き合いがあまり上手くない箒だから、こんな風に言ってしまうのだろう、と一夏は理解を示した。

 

 愛想を振り撒くあの姿。自分らよりも大人びて見える。だから、クラス代表はラグナがやるべきだ、と改めて思う一夏であった。

 

 

 

 翌日の朝早くから、悠李は――何故か剣道場にて――一夏のISの特訓に付き合ってやった。箒も勿論――何故か剣道着と竹刀を持って――ここにいる。

 

 セシリアの無線誘導兵器「ブルー・ティアーズ」を打ち破るには、反応速度、瞬発力、危機察知能力、そして空間認識能力の向上が一番である。悠李は箒に協力してもらい、彼女と一緒に剣を振って、一夏がそれを避けるという訓練を行うことにした。

 

「じゃあ、いくよ」

「待て、ラグナ。お前は竹刀要らないだろ」

「じゃあ、素手でいこうか」

 

 軽くその場でジャブを繰り出す悠李。風圧と速度が凄い。拳が眼に見えないし、顔面に当たる風が視界を遮る。

 

 どちらにせよ、彼が一番危険だが、やるしかない。

 

「じゃあ、行こうか」

「お手柔らかに、よろしく……ぅっ!?」

 

 箒と悠李の、容赦ない攻撃が一夏を襲う。しゃがんで悠李の拳を避けるも、箒の剣はその場にいては避けきれない。地面を蹴って、無理矢理横に跳び、難を逃れた。だが、それに反応するよう、悠李は素早く横に脚を入れ、一夏を蹴り飛ばした。

 

「がはぁっ!?」

「油断しないの。まだ10秒しか経ってないじゃない」

「本当に、人をやめなきゃならないんだな……」

「お前の反射神経はどんなつくりになっているんだ、ブラックモア」

「人よりいくらか敏感なだけさね。一夏、今回は近接だけだったけど、あっちは射撃武器なんだ。しかもISには眼に見えないシールドが君を包んでいる。かすったりしたらダメージを喰らうんだ。だからなるべく小さい動きで、無駄なく素早い動きをしなければ」

「じゃあ、お前がやってみせてくれ」

「いいよ、じゃあどこからでもきなよ」

 

 昨日のことと言うのに、一夏は忘れているのだろうか。あの回避能力と、瞬発力を。

 

 箒は容赦なく悠李に斬りかかる。それを児戯のごとくかわす悠李。箒の力量は確かにある。だが、それ以上に、悠李の身体能力が眼を引くのだ。

 

 ISのシールドを意識しているのか、昨日より余計に移動する。箒が突きを繰り出すとバック転で距離を取り避けた。

 

「ほら、一夏。ぼうっとしないでかかっておいで」

「やめとくよ……」

 

 恐らく、俺では相手にならない。そう考えた一夏は、大人しく悠李が提唱したトレーニングをこなすことにした。

 

 

 

 訓練が終わると、悠李は朝食を取りに向かう一夏達とはぐれ、千冬の元へ動いていた。彼の体内には通信用ナノマシンが流れている。傍受される心配の無い、最新鋭のMI5手製の衛星通信だ。

 

「おはようございます、織斑先生」

「ああ、おはよう悠李くん。入学二日目ではあるが、少し君に頼みたいことがあってな」

「はい?」

「その前に……『JACKPOT』」

 

 それは、悠李がよく知っている『合言葉』だ。便利屋『Black Cherry』は、表向きは便利屋。だが、合言葉を知っている客にのみ、裏の仕事を依頼する権利がある。

 

 その裏の仕事もいささか胡散臭いモノで、『妖怪』やら『悪魔』やら、そういったものをよく取り扱う。

 

「『裏稼業』を、どこでお知りに?」

「神威創龍といったら、それで有名だよ。Black Cherryオーナー、悪魔も泣き出す便利屋。元ロシア陸軍中将、スペツナズ、CIA、グリーンベレーときて、現在はイギリス陸軍大佐、SASスペシャルチーム隊長、MI5のエース……。その体内通信も、MI5だと知っている」

「それで?貴方は何を依頼するんで?」

「私じゃない。IS学園からの依頼だよ。私はトランスポーター」

 

 莫大な資産を持つこの学園からの報酬はいくらなのだろうか?かなり興味がある。そしてこの学園の依頼とは?

 

 考えられる全ての事を想定してみよう。機密保持?生徒の安全保証?それとも、悪魔狩り?

 

「裏稼業だからこそ、だな。この学園を守って貰いたい。ここは日本とは違う"国"とはよく言われる。だがセキュリティは必ずしも絶対とは言えない。もしかしたら、内通者もいるかもしれない。だから、君を雇う」

「随分長ったらしいですね。構いませんよ、僕は。僕一人で対処出来ないかもしれませんが。もしそうなった時は、親父呼びますし」

「そうか、それはよかった。なら、契約書とかは……」

「ああ、持ってますよ」

 

 制服のポケットから、一枚の紙切れを取り出した。千冬に渡すと、学園長から判を貰う、といって、それをしまった。

 

 創龍にも、これは言っておいた方がいいだろう。千冬に少し待ってと言って、悠李は無線で創龍に繋ぐ。

 

《あ?どうした悠李。携帯なんかにかけてきて》

「あれ?携帯?」

《確か、お前のナノマシンには、俺の携帯番号しか入ってないぞ。俺はナノマシン入れてねェからな》

「ああ、そう。千冬さん、繋ぎますよ」

《チフユ?ああ、白騎士ん時にIS着てた奴か。知ってるぜ》

「それはどうも。悠李くんの担任の織斑千冬です。Black Cherryへの裏の依頼を、今悠李くんにお願いしました」

《そうかい。それなら俺に知らせなくともいいのによ》

「いやいや、僕の手に負えない場合があるかもしれないから、父さんに話しているんだよ」

《へェ、なんだいそれは》

「学園の安全保持です」

《そりゃァたまげた。生徒にガッコを守らせるのかい、IS学園は。しかも、本来生徒を守る立場にある教師から依頼か》

 

 厭味ったらしいのは創龍の性格だ。だが、本気で言っているわけではない。悠李が便利屋である、という事を知らせておいてはあるのだ。

 

 千冬はくすっと笑い、創龍に返す。裏稼業の便利屋が義務を果たせずしてどうする、と。

 

《白騎士ん時から何年だ?随分硬くなったじゃねェか》

「10年たった今でも、貴方は変わらないんですね」

「……あんたら二人はどういう関係だよ」

「10年前に核ミサイルを落とした仲でね、8割型あっちが落としたんだけどな」

《とんでもねェパワードスーツも、俺らの前では赤子同然、ってことヨ》

「確かに、そうですね」

 

 昔の戦友か。なるほど、それは合点が行く。昨日の硬い表情は、悠李達と話していると大分柔らかくなっている。

 

 長話をしているが、悠李が使える時間は限られている。ここにいては全て使われてしまう。通信を中継したまま、悠李は朝食を取りに食堂へ向かう。

 

 

 まだ一夏達は着いていないようだ。悠李はまた一人寂しく朝食を取ろうと、一人席を確保しようとする。だが、同じクラスの子だろうか、三人ほどが悠李を見つけると、一緒に食事をしようと誘い、大人数用の席へと彼を引っ張った。

 

「ブラックモアくんって、セシリアと会ったことあるの?昨晩、一緒にご飯食べてたみたいだけど」

「こっちにくる時、ロンドンの空港で会ったんだ。そこから友達になったの」

「ロンドンかぁ、いいなぁ」

 

 外国旅行に夢見る女の子をほっといて、悠李は一旦席を離れて自分の食券を買い、カウンターで料理を受け取った。その時に、どこかまったりした空気を出している布仏本音も、自分の朝食を受け取っていた。

 

「らぐなんおっきーね」

「らぐなん?」

「らぐなんはらぐなんだよー」

「……ああなるほど、ラグナだから、ね。ニックネームかあ」

 唐突に聞かされた自分のニックネーム。中々気に入った。悠李と本音は席に戻ると、いつの間にか一夏と箒が来ていて、既に食事を始めていた。

 

「なかなか早かったねえ」

「ラグナ、あのあとどこ行ってたんだ?」

「織斑先生のとこ。今後について色々とお話してた」

「留学生は大変だなぁ」

 

 一夏の呑気な返事。一応、留学生だけではなく、男として、そして便利屋として、それらがあって大変なのだ、ということは伏せておいた。

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