Infinite Devils Hunter   作:パン粉

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◆◇◆◇◆◇

 

 

 朝食を摂り終わった後、悠李は部屋に戻って歯を磨いて、余裕を持って教室に入る。ペンや教科書などは、イギリス軍から貰ったタクティカルバッグに入れ、階段を飛び越え、制服を乱さずに教室に飛び込んだ。

 

 途中、悠李の移動速度に眼を見張る者が多かったが、それをじっと見つめられる時間を与えず。唯一悠李が彼女らに魅せたのは、舞い散る白い羽根のような、そんな幻影。それは掴めないし、触れることさえ叶わない。

 

 ゆっくり自分の席に着く。一夏やセシリアはまだいない。少しして悠李に挨拶してくれるクラスメイト。彼も軽く笑みながら返した。

 

「ち、遅刻は……」

「まだまだ時間はあるさね、そんな慌てなくても」

 

 時計を見ていないのか、一夏が急いで駆け込んできた。その後ろの箒はゆったりと落ち着いて入室する。早朝から騒々しい彼に、悠李はクスリと笑った。

 

 ありったけの教科書を突っ込んできた様なバッグ。それを大雑把に机に広げた。IS学園の机は、モニターやら何やらがついていて、テキストなどはデータ化されている。が、手書きでなれている者は、テキストを別個に買って、ノートに書き込むスタイルを取っている。悠李は、教科書やノート、メモ帳はページが破れたりしなければ決して無くならない、優秀な記録媒体と考え、手書きでノートに書き込むスタイルだ。デジタル化したデータは、下手をしたら消えてしまう。

 

 朝のSHRが終わり、少しして一限の授業。普通の高校の様に、一般教養もIS学園では指導している。悠李は父や軍部の知り合いから、とても高度な教育を受けているため、こんなものは聞く必要も無かった。

 

「さあ、この式のグラフを……。ブラックモアくんは、寝てる程余裕があるんですねぇ……。ブラックモアくん、面積求めてみなさい!」

「はへ?」

「あの面積、求めろって……。でも、まだ習ってないよね?」

「積分?区間は……はいはい。6分の1かっこβーαかっことじ二乗ですねえ。区分求積は……」

「あら、本当に余裕なのねぇ……。いつ数2をやったのかしら?」

「親父に習いましたよ、極限や漸化式やら」

「もう寝てていいわよ……」

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 3限目のISの基礎理論については、しっかり起きて授業を聞いていた。悠李は、ISの知識はほとんどないし、また千冬の授業ということもあって、昨日一夏が出席簿で一閃されていたように、自分も叩かれるやもしれないからだ。

 

 千冬の授業は堅苦しくはあるが眠くはならない。要点だけをまとめ、ノートに書き下ろして、その作業を何度か繰り返す。

 

 彼女も専ら授業はアナログ派な様で、黒板とチョークを駆使した、一世代前の講義であった。字は何もいうことがないくらい綺麗で、また日本語もうまく纏めてあるので、とても読みやすい。

 

「ここまでで質問のある奴、いるか?」

 

 

「一夏はわかったの?」

「あ、あんまり……」

 

 教科書を音読させられていた一夏だが、内容はあまり掴めていない。それは悠李も予想できていた。理論とは、根本的なモノから繋げ、無数に枝分かれさせていくものだ。多分一夏はその能力が弱い。

 

 悠李は根本の部分をノートで見せ、そこから一夏に枝を分けさせてやる。これで彼の知識はより強く頭に残り、より深く追求出来るはずだ。是非ともこういうノートの取り方を、一夏だけではなく、クラスメイトにもしてほしい。教壇上から悠李のノートを覗いている千冬が思った。

 

「話は逸れるが、ブラックモア。君は一限の数学で寝ていたそうじゃないか」

「はい」

「その時に指されても、即座に積分計算でその場を切り抜いた。また別解も言ったらしいな。授業を睡眠学習にするのはあまり感心出来ないが、しかし知識の連結と、それを組み合わせたやり方は賞賛に値する。勉強とはそういうものだ、みんなブラックモアを見習え」

「本当にいきなりですね」

 

 授業とは一応関係あるのだろうが、それでもクラスメイトは違和感しか湧かなかった。

 

 ――この人、もしや天然だな?

 

 堅苦しそうに見えて、可愛い一面もあるじゃないか、と悠李は思い、意図せず笑ってしまった。

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 箒が篠ノ之博士の実妹だったり、セシリアの専用機がピックアップされて彼女がどや顔してたりと、色々なことがあって、取り敢えず今日の授業は終了し、一夏に特訓の時間だと急かされて、アリーナへ向かおうとすると、悠李は廊下で千冬に呼び止められた。

 

「僕、なんかやらかしましたっけ?もしや数学の件で?」

「あー……。違うんだ。決闘の件についてなんだが、君にはハンデを課してもらいたくてな」

 

 

 一夏にはそんなことを言わないのに、悠李だけは特別に、戦闘能力を意図的に下げてほしいと言っているのだろう。だとするならば、ドレッドノートは使えないし、ましてや愛刀すら持ち込めない。

 

 だが、悠李は別に構いはしなかった。むしろ、彼は丸裸でも構わない、と思っていた。

 

「別に良いですよ、生身でやり合っても」

「それは立場上許せないんでね、ラファールか打鉄(うちがね)を使ってもらいたい」

「ラファールだったら、この前使いました。あれを最大限に軽くして貰って、ハンドガンと、ナイフかなにか、近接装備を付けてくれるなら」

「それくらいなら大丈夫だ。ハンドガンは、君のリボルバーを使えば良い。ただ、装甲を削れば、その分シールドも薄くなる。余計なハンデになる」

「軽くすれば、より速く動けますよね。というかシールドなんざ要らないですよ。全てかわしますし」

 

 自信に満ち溢れた言いぶり。勝つと決まっているような、そして、セシリアと遊んでやると言っているような、そんな二つの意気が見える。

 

 ただ、この男ならやるだろう。千冬の目の前にいるのは、ヒトから掛け離れた"悪魔"。所詮エリートといっても、ヒトという狭くカテゴライズされた中の一つに過ぎないし、ましてやセシリアは場数の少ないまだ15の"小娘"。悠李は百戦錬磨の、15にもなる"ベテラン"。とても小僧とは言えない。

 

「トリガーの引き方は知っていても、当て方は知らないはず。それを教えて差し上げるのが、英国紳士の勤めですんでね」

「随分と乱暴な紳士だな。俺からは野獣にしか見えねぇよ」

「話は纏まった、後は3日後だな。オーダーしたラファールは、いますぐにでも用意出来るが、使うか?」

「使わせていただきます。ついでに、一夏にも打鉄貸してあげてください」

「わかった、すぐにアリーナに届ける」

「ありがとうございます」

 

 礼儀は正しい、確かに紳士の素振りはしている。だが、廊下を歩く悠李の背中は、一夏の言った通り、野獣のごとき荒々しさが滲み出ていた。

 

「蛙の子は蛙、ということか……」

 

 10年前を思い出す。日本刀一本で、核ミサイルを2000発落とした、あの荒武者を。あの時は、ISを纏っていても、恐怖が伝わり、背筋が凍り、冷や汗が流れて、鳥肌が立っていた。

 

 ――やりすぎなければいいが。

 

 そんな心配は稀有に終わるよう、千冬は祈った。

 

 

 英軍から渡された、スニーキングスーツのようなものに着替え、一夏共々アリーナに入ると、こちらの要求通りのモノが用意されていて、悠李はよしと拳を握って嬉しさをあらわにした。

殆ど生身のIS、余計なアーマーが削ぎ落とされ、本当に最小限しか守られていない。五体はただ金属の一枚板が覆うだけ、スラスターだけ変わらなかった。

 

「おいおい、いくらなんでもやりすぎじゃないのか?」

「まさか。これくらいが普通だよ」

「普通の規準が全然違う!!」

 

 一夏でさえ、ただの飾りとも言えるラファールに驚いた。今から彼が使う打鉄とは正反対の性格のISなのだ。しかも、極限まで装甲を取り除いた、カスタムチューンのラファール。一撃で堕ちてしまいそうだ。

 

 悠李はすぐラファールを着込み、武装の確認をする。"レッドパレット"――51口径のアサルトライフルに、"アーマーシュナイダー"――いわゆるフォールディングナイフ、そして"グランドスラム"、試作の大型剣の様だ。悠李のフィードバックを取り入れて開発しようということらしい。成る程、これなら遠慮せず思い切り振れそうだ。折れてしまったら強度不足と言えば良い。

 

「さあ、一夏。僕と模擬戦だ」

「待った!!一夏ではなく、私とやらないか」

 

 悠李の戦いを止めたのは、ISスーツに着替えて駆け込んできた箒。一夏を押しのけ、彼女は打鉄を展開した。考えはわかる。当日までとっておけ、と言うことだろう。

 

「別にいいよ。試験運転だ、僕もどこまでやれるか試したい」

「それにベンチマークとしては、十分だろう?さあ、どこからでもかかってこい」

「そいじゃ、遠慮なく」

 

 悠李がスラスターを吹かす。極限の軽さを手に入れたラファールは、アリーナの地面に砂塵を起こし、箒へ一直線に飛ぶ。

 

 姿を捉えるのさえ至難の技。だが彼女は戸惑わず、打鉄の近接ブレードを突き出した。悠李はそれを上へ飛ぶことで回避した。だが、彼女はしつこく悠李へ刃を向ける。

 

 悠李はブレードのリーチスレスレを飛びつつ、レッドパレットを箒に向かって連射。そして後ろへ飛び抜けると、アーマーシュナイダーを抜いて彼女へ投げた。予想通り、ブレードでそれを弾くが、それを狙い、無反動旋回し、またもや直線的に――今度は先程より速く――グランドスラムを突き出しながら突っ込んだ。その衝撃の強さは絶対防御を引き起こし、またも箒は悠李に敗北してしまった。

 

 一撃必殺、電光石火の彼のその戦い方は、アリーナでの他の生徒全員の目を惹きつけた。超軽量の、余計なモノを削ぎ落としたIS。それ以上に光る、卓越した悠李のバトルセンス。だが、彼の本気はこんなものではない。

 

 もっと速く、もっと強く、もっと華麗に。今はまだその力を持て余しているが、全力を発揮できる日は近い。

 

「そんなに強いISなら、俺もそれを使いたいな」

「いいよ、今外すから」

 

 地上に足を着け、ISをパージすると、そのまま一夏にラファールを渡した。一夏が展開して、悠李みたくスラスターを吹かすと、予想だにしない程の速度が一夏を翻弄した。

 

 先程吹っ飛ばされた箒が、一夏の慌てる様を見ながら、ゆっくり悠李に近寄る。ああ、あのラファールは、この化け物だから、思い通りに動かせたのか。ピーキー過ぎるそのISは、最早悠李専用とも言えるだろう。

 

「大丈夫か、一夏は。背骨が砕けてなければいいが」

「大丈夫でしょ、Gはいくらか緩和してくれるはず」

「他人、事、ぜぇ、ぜぇ、みたいに、はっ、はぁっ、言いやがって……」

「大分体力は削られたみたいさね。一夏大丈夫?肺潰れてない?」

「綺麗なお花畑に囲まれた壮大な川を渡り切る寸前だった。容赦なくGがかかるんだ」

 

 ――いったい、ラグナ・ブラックモアは、どんな身体の作りをしているんだろう?

 

 一夏が言うには、加速時にかかるGフォースは約16G。体重の16倍の重さが掛かっているのだ。息をしたら肺は潰れるし、下手したら骨だってぐしゃぐしゃになるだろう。それをなんともないように扱える悠李は、正真正銘の化け物。箒や一夏とは、種類が違う。

 

「一夏がこれじゃあ、おそらく僕以外には動かすのは無理なんだろうね」

「デチューンというより、パワーアップに近い様な気もするな。確かに、シビアな操作がいるかもしれないけど、このラファールはラグナ用とも割り切れちまうし」

 

 2機の専用機持ち、と言うことになってしまうのだろうか。一応これは学園のだから、決闘が終わったら返さなければならない。

 

 戦闘データ以外にも、一夏のデータが取れたのはよしとしよう。想定外ではあったが、物事がプラスの方向に傾いているから構ったことではない。

◆◇◆◇◆◇

 

 

 少しばかり、箒や一夏と手合わせをしたあと、スーツから着替えて自室へ戻る。シャワーを浴びて、上を何も着ずに、部屋で寛ぎながら、今日の戦闘データを纏めた記録メディアを手の平で弄ぶ。

 

 少しすると、千冬がドアをノックして入ってきた。悠李はワイシャツを着てから対応を始める。

 

「データ収集の協力に感謝する、と技研の方々が言っていた。どうだった、御望み通りのISは?」

「今日のはこのメモリに入ってます。主観的には、感度が抜群に良くなったし、動きも軽くなりました。ただ、客観的に見れば、どうしてもピーキーなマシンになっちゃうみたいで、一夏が乗った時はキツそうでした」

「あいつもこれにも乗ったのか……。さぞかし、いいデータが取れたんだろう」

「ええ」

 

 他人があのISに乗るなど思いもしなかった。一夏は身体が頑丈な方だが、それでもあいつがそんなことを言うのだから、さぞかし尖ったラファールになっているというのがわかる。

 

 技研も悠李も恐ろしいものを作ったものだ。IS適性がCというのは嘘だと思えてしまう。さらに見るべきは悠李のそのセンス。ISのカスタマイズ能力もさることながら、戦闘もやはり一流。流石あの人の息子、と言うべきか。

 

 そんな話を変え、そういえば、と千冬は切り出した。

 

「一夏はどうだ?まともな勝負は出来そうか?」

「僕にとっての"基本的"な戦い方は一通り教えました。後はオルコットさんの専用機対策ですね。一応、彼女の機体のデータも渡してあります」

「あいつは、特徴は見抜けたか?」

「すぐに気付きました。そのウィークポイントをどう突くか、ですね。機体の性能差、経験値、どれをとっても劣ってはいる。しかし、一夏の成長速度は目を見張るものがあります。僕の教えたスキルを熟達すれば……」

「そうか。ああ、そうだ。あいつの機体の心配はいらない」

「え?」

 

 弟の成長を喜ぶように千冬が言う。さらに彼女は、新しいオモチャを買い与えてやった様で、それをも自慢するべく悠李に喋った。

 

「あいつには、専用機がある」

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