◆◇◆◇◆◇
千冬の興味深い発言を聞いた日から3日後、決闘当日。アリーナのカタパルトデッキにいた一夏と悠李、そして身近で見たいと言った箒が、備え付けのベンチに、一夏を挟む様に座っていた。
どう戦うのかは研究してきた。訓練もした。だが一つ、緊張からくる震えと焦りが止まらない。箒は元気づけてやっているのだが、悠李はピット内の自販機で買ったヨーグルトティーを飲みながらぼーっとしていた。
「ブラックモアも何か言ってやれ!!お前の弟子だろう!」
「ん?あぁ……。一夏には、専用機があるらしい」
「……へっ?」
突然のカミングアウト。一夏も箒も、口をぽかんとあけ、「何言ってるんだこいつ」といわんばかりに悠李を見た。
間もなくして、金属の床が、せわしなくスラップ音を響かせた。足音だろう、一夏と箒が音源の方向に顔を向けると、小走りで近付いてくる真耶の姿。
「お、織斑くん!!」
「ああ、じゃあ僕一旦出てるね」
真耶との入れ違いに、悠李はデッキから出る。ピットの待合室内のソファに腰掛け、先程以上に寛いだ。
(白式……)
(フォーマットとフィッティングを行え。すぐに出るぞ)
「白式、ね」
備え付けのモニターを見ると、勢い良く一夏が飛び出した。見る限り、高機動戦闘が可能な、近接を重点に置いたISの様だ。武装はなんの飾りもないブレード一本。一撃必殺の離脱戦法を取るのがセオリーとみた。
「次は君だ。準備はしておいてくれ」
「はい。しかしまぁ、織斑先生も、一夏の専用機があんな極端なISだとは思ってなかったんじゃないですか?」
カタパルトデッキから千冬が出て来ると、悠李の隣に腰を掛け、モニターを見つめて話す。
「まあな。製作者の意図は薄々読めるが……」
「まるで、白騎士や、貴女がかつて駆っていた暮桜の様だ。いや、兄弟機と呼ぶのが正しいんですかね」
「……なるほどな、アイツも粋なことをする」
「暮桜の兄弟機ならば、一撃必殺のワンオフアビリティ、"零落白夜"があるんじゃ」
通常、専用機のワンオフアビリティは、セカンドシフト時に発現する。まだファーストシフトもしていない白式に、使えるはずはない。
モニターを見て、訓練通りにBT兵器を避けては、同士討ちを上手く誘って、攻撃の手段を減らしていく一夏。だが、セシリアの武装はビーム兵器だ。直撃しなくとも、熱は残るため、シールドは減る
。
ちまちまと削り合うかの様に見えたが、一夏の方がエネルギーは少ない。少しばかりピンチだ。だがその時だった。
白式が光り、プリセットされた雪平弐型から、ほとばしる青いエネルギー刃。悠李、千冬、そしてセシリアがそれに驚いた。
「ファーストシフトで、ワンオフアビリティ……!!」
「しかも、あれは零落白夜!織斑先生、もしかしたら、勝て――」
《勝者、セシリア・オルコット》
ワンオフアビリティを発現し、それにより一夏の勝ちが決まったかに思えた。"零落白夜"、エネルギー物質を消滅させるこのアビリティは、自分のエネルギーをも削っていく、両刃の剣。使い所を間違えれば、自滅にしかならない。
一夏はそのアビリティでセシリアのシールドエネルギーを殺そうとした。だが、ワンオフアビリティの特徴も知らず、彼のエネルギーが少ないことも考慮していなかったため、負けてしまった。
「……大いなる可能性を秘めた獣だ」
思わずそんな言葉が、悠李の口から漏れた。使いこなせば、ほぼ無敵のIS。そして、それを操るのは、成長の著しい一夏。流石、千冬の弟だ。
「はい、では出します。ブラックモア、すぐに出るぞ」
「了解です。ラファール……。あれ、なんか違う」
一夏の勇姿を見届け、カタパルトデッキに入る。用意されていたラファールが、この前よりも更にスマートに、そしてブースターが大口径に、更には全体的に黒くカラーリングされ、少ない装甲に白のストライプが入っていた。
「言い忘れてた、技研の方々がお前の為にチューンしたらしい。装甲はこの前の1.5倍薄く、ウェイトを10kg減らしたそうだ」
「ああ、なるほど」
速さだけなら負ける気はしない。バカみたいな軽さだが、それがハンデの面を大きくしてると考えればいいだろう。
ラファール"カスタム"を展開し、カタパルトレールに乗る。一夏を出迎えた箒が悠李を睨みつけ、一夏は悠李に笑顔を見せながら言った。
「お前ならやれるよ。頑張れ」
「……負けたら死ね!」
「篠ノ之さん、キツゥイ」
確かに、教えていた自分が負けたら、面目は潰れるし、信用も失う。だが負ける気はない。悠李はカタパルトから勢い良く飛び出して、セシリアとの戦いに挑んだ。
◆◇◆◇◆◇
「あら、専用機の"ドレッドノート"ではないんですのね?しかも、かなり薄い装甲のラファール……」
空中に飛び、セシリアの真正面まで移動すると、彼女はすぐに悠李のラファールの状態に気付いた。ハンデと言ったら、彼女は多分怒るだろうから、適当にごまかしておく。
「色々と訳ありでね。ISの性能差だと、スピードだけなら負けないから」
「成る程。では、ラグナさん。あなたの実力、試させていただきますわ!」
《戦闘開始》
合図と同時、セシリアのビームライフルが悠李をロックし、火を噴く。ハイパーセンサーでも、感覚でも、その狙いに気付いていた悠李は、横に大きく動いてそれをかわし、急加速をしてセシリアの懐に潜り込んだ。
「かわされ、っ!?」
「まず一太刀……」
この前よりも遥かに速いスピード。横に動いてからほぼ一連の動作だった。グランドスラムの刃を下に向け、そのまま彼女を切り付ける。ブルー・ティアーズの腰部にあるミサイルも撃たせず、BT兵器も射出させない。ほぼなにも出来ない状態を作り出したのだ。
急旋回し、武装をレッドパレットに持ち替える。恐らく次に、彼女はBT兵器を射出するだろう。ビットは計6機。事前にデータを確認していたのだ、対処法は十分ある。
こちらの予想通りにセシリアはビットを射出した。軌道までもが読み通り。弾丸がビットを直撃し破壊、そして悠李は片手にデスイービルを握り、60口径をセシリアに放った。
「くぅっ!?シールドを突き破る!?」
「あっ、やべっ」
ついついいつもの癖で、魔弾を放ってしまった。セシリアの機体に直撃して、装甲を大きく凹ませる。衝突エネルギーを殺せなかった為か、セシリアさえも後ろに吹き飛んだ。彼女のシールドエネルギー残量は0になり、あまりさっぱりせぬまま、悠李の勝利が決まった。
心配になり、セシリアに近寄って、無事を確認する。特に外傷はなく、ほっと悠李は胸を撫で下ろした。
「無事でよかった」
「今日は驚かされることばかりですわ。一夏さんのファーストシフト、ラグナさんの特殊弾……」
「ごめん。つい癖で、魔だ……やべっ」
「まだ……?」
「なんでもないよ、気にしないで」
うっかり口を滑らせてしまうところだった。あまり話すなと言われていたのを忘れていた。
セシリアをピットまでエスコートし、次の対一夏に臨む。まだ機動したばかりだ、余裕で勝てる。補給を済ませ、先にフィールドに出て、一夏を待つ。
「M500なら、大丈夫だろうな」
「わりい、待たせたな」
「いやいや、
その分早く終わらせてあげるから、気にしないでいいよ。こっちも試したい事があるし」
デスイービルをしまい、M500を取り出し、意味もなくガンプレイをし始めた。戦闘開始の合図が鳴り響くと、そのまま魔弾を一夏に向けて放つ。
デスイービルほどではないが、これもかなりの威力を誇る。反動も強烈なものだが、悠李は平気な顔をして、片手でぶっ放している。弾を避けようと一夏が逃げ回るが、正確に魔弾を当てていく。5発当たった時点で、一夏のシールドエネルギーは1/2以上削れている。
「デスイービルなら……。通常弾だとどのくらいだ?」
「すきありっ!」
「詰めが甘いっ」
「ぐふっ!?」
デスイービルにゆっくり持ち替えるときに、一夏が急接近して、零落白夜で仕留めようとするが、それをひょいとかわして、後ろ脚で蹴り飛ばした。
それに追い撃ちをかけるように、デスイービルの通常弾を放つ。一夏のシールドは更に減り、魔弾でなくとも十分な威力を見せ付けた。
「なるほど、大体わかった」
「何を解ったんだよ……」
「ISバトル時における各遠距離武器の威力。実験台になってくれてありがとう」
スラスターからエネルギーを放出し、それを取り込んで爆発させる。イグニッションブースト、と呼ばれる加速方法だ。軽さも合間って、今までで一番速いスピードを出している。その勢いに乗せて、一夏の白式に思い切り右ストレイト。えぐるように腹部に入り、一夏が倒れ、決闘は幕を閉じた。
◆◇◆◇◆◇
「一夏、なにか食べたいものある?」
「トリュフに黒毛和牛にフォアグラにキャビアに……」
「売ってんの?それ……」
決闘後の食堂。一夏をお姫様抱っこでピットに連れていくと、箒が苦い顔をしながら悠李に苦言した。
『やりすぎだろう……。死ねとはいったが、殺せとはいってない』
『勝手に殺すな!』
『あ、生き返った』
どうもISの防御装置が働いたみたいで、一夏も重傷を負わず、悠李も入学早々人を殺さずに済んだ。無論本気では放っていない。フルパワーだったら、一夏の腹を貫いていただろう。
「お詫びに奢るって言ったのはお前だからな!食いたいもんを好きなだけ食わせてもらう!」
「私はきつねうどんで頼む」
「なんでちゃっかり篠ノ之さんも奢られてるのさ」
「この前の二件を忘れてはないだろうな?」
「へ、へーい……」
金はいくらでもあるからいいのだが、何だろう、この屈辱感は。決闘には勝ったのに、何故か負けた気になってしまう。
券売機に大量に札を投入してる姿は、どこから見てもシュールである。周りの女子が携帯で写メり、それに便乗して一夏もその姿を写真に撮った。
「屈辱的だなぁ」
「性格がクズってるな、お前。も一つ腹パンしたろか」
「やあラグナくん、奢ってくれてありがとう」
「現金な奴」
大量の食券を一掴みに持ち、カウンターにどさりと出す。おかげで財布が軽くなった。諭吉が飛んで行って、うら寂しい気持ちになる。
「今度から財布をマジックテープ式にしてやろうか……」
「恥ずかしいからやめてくれ」
万札が飛ぶくらいなら、恥など忍んでやる、と悠李は思った。へんな弱みを握られて、こんな余計な出費をさせられて。いつか千冬に言って叱ってもらおう。
一方、自室にてシャワーを浴びていたセシリアは、今日の戦いを思い返しては、悩んでいた。
一夏には勝った。しかし、ビットの軌道を読まれ、自分の弱点を突いた戦い方は、敵ながらあっぱれであった。それに対し、悠李は、遥かに劣る機体の装甲を落とし、スピードを底上げして、自分を翻弄していた。疾風迅雷の攻撃。ビットを射出したとほぼ同時に破壊し、片手の大口径拳銃でトドメ……。
一夏の場合、天性のセンスで動いている、としか言いようが無い。悠李は、かなり経験がある。冷静な判断が出来ることも強みだろう。
「織斑一夏、不思議な人ですのね……。
それに対して、ラグナ・ブラックモアは、静かな野獣……」
英代表候補生として、自分よりラグナの方が適任だったのではないだろうか。なぜあんな男が、代表として選ばれなかったのだろう。
それよりも、自分の今の実力に疑問を感じる。一夏にももう少しのところで負けていた。慢心が油断を招き、あのような状況に陥ったのかもしれない。そうすれば、ラグナにも一方的にやられなかったはずだ。
「天才、とでも言うんでしょうか、一夏さんと、ラグナさんは」
プライドが高い自分が、あっさり二人を認めている。それほど、彼等は印象的であったのだ。
代表候補生も、クラス代表も、今の自分にはふさわしくない。なら、代表候補生を辞退し、ラグナに譲ろう。
あの男に譲るなら、自分でも納得は出来るのだ。そうだ、それがいい。
セシリアはシャワーの栓を締め、すぐさま着替えて、悠李の部屋に向かった。
◆◇◆◇◆◇
「ラグナさん!……あれ?」
勢い良く扉を開けたはいいものの、部屋はもぬけの殻。人っ子一人見当たらない。シャワーの音も聞こえない。
食堂だろうか、踵を返し、向かおうとすると、ちょうど一夏と箒が戻ってきた。一夏がセシリアに気付くと、何をしているのかと尋ねた。
「ラグナに用事か?もうそろそろ戻って来ると思うよ」
「そうですか……。ああ、一夏さん。今日の戦い、感服致しましたわ。これまでのご無礼、お許し下さい」
「あー、いいよいいよそんな。気にしてないし。こっちも、少しばかりチート使ってたしな」
「ちーと?」
「先週、ラグナが君のデータを俺に見せてくれたんだ。それで、君の癖も見抜けたし、戦法も練れた。でも、俺の機体の特性は知らなかったから、避け方しか使えなかったんだけどな」
だが卑怯、とは言えない。彼はまだ、ISの稼動時間は少ないのだ。実力は時間に比例する。物理法則の力積と同様だ。
「でも、それがフェアってもんだろう?」
「ラグナ、終わったのか」
「うん、やっと解放されたよ。技研のデータ徴収。んで、オルコット嬢はなにを?お散歩?」
制服を着崩した悠李が、一夏の後ろから現れる。二人を比べると、10cm以上の身長差があり、172cmある一夏が小さく見えてしまう。
話がある、とセシリアは言った。悠李は彼女を部屋へ入らせ、綺麗な白色の椅子に座らせた。
冷蔵庫から市販の紅茶を取り出し、グラスに注いで、セシリアに差し出した。
「午後ティーは嫌いかな?というか、飲んだことある?」
「いや、ありませんけど……。それよりも、本当に大事なお話があります」
「なぁに?」
「代表候補生を、あなたに任せたいのです」
悠李がはあ?、と間抜けた声を出した。言ってる意味がよくわからない。
セシリアは続ける。真剣な面で、悠李に事の理由を述べた。
「今回の決闘で、私は貴方に負けました。弱者に代表候補生など相応しくありませんわ」
「弱者?別に君は弱くないよ。自分の負けを素直に認めるってのは、心の強い奴がやれることさ」
「……情けでもかけているおつもりですか?」
「違う。そう簡単に、苦労して手に入れた物を手放して欲しくないんだ」
優しい声音で、悠李はセシリアを説こうとした。プライドの高い彼女だから、中々口説くのは難しいかもしれない。だが、一回の負けで、代表候補生をやめるのは間違っている。
「君は努力して代表候補生になったんだろう。その立場にいれば、たくさんの事が学べるはずだ。代表候補生ってのは、人一倍学ぶ為になってるんだよ。負けたら、そこから学べばいい。君の努力の結晶を、君が裏切ってしまってはダメだ。きっとイギリス本国だって、君が負けたからって、そう簡単に切りはしないよ」
「ならば、貴方が一番学ぶべき立場にいてください」
「僕、面倒くさいの嫌いなんだよ。こんな腐れた人間が代表候補になったら、イギリスからすぐに切られるし、国の信用を落としかねないぜぃ?」
無国籍ではあるが、一応イギリスの人間として来ているのだ。代表候補などまっぴらごめん、とばかりの言いぶり。権力も、地位も、興味はないのだ。
自分の父親とついつい比べてしまう。名家に婿入りした父親。父は引け目を感じ母親の顔色ばかり伺っていた。それを見て育ったので「将来は情けない父親のような男とは結婚しない」と心に誓った。そんな時にISが発表され、女尊男卑の社会になり拍車がかかり、更に父親は、母にへこへこするようになったのだ。
男は情けない。そう思っていた。だが悠李は、強かで、権力にも屈せず、また欲しがらず、ただ己の道を行く。彼の様な男の瞳は力強く、セシリアに尊敬さえ抱かせた。
「父とは違い、貴方も一夏さんも、自分の意志を持っていますのね」
「意志がない人間なんて、生きててもつまらないだろうよ」
「そうですわね……。己の意志を持って、道を進む。他人の顔色も伺わずに過ごしていたら、父に対する見方も変わっていましたのに……」
「親父さん?」
「オルコット家に婿入りした父は、ずっと母の顔色を伺っていました。私は、そんな父が嫌いでした。とある日、両親が車両の横転事故で他界して、相続した遺産目当てに、私に近寄る男性が多くなりました」
富や財宝目当てで近寄って来る、中身のない男共。そんな奴らから、財産を、そして自分を守るために、彼女は血の滲む努力をし、代表候補生になったのだという。
尚更、代表候補生の座を自分に譲ってはならないだろう。悠李はそう思った。無国籍の人で無しな自分にその荷は重い。
「君の両親の為にも、君の為にも、代表候補生を僕に譲るのは間違いだよ。君がどう言おうが、僕はやらない」
「ですが……」
「君は、君に期待を託した大勢の人達を裏切るつもりかい?僕だって、一夏だって、織斑先生だって、君に期待しているんだ。それを裏切るなんてマネ、しないでおくれよ」
悠李の言葉に心が動かされた。自分の心?そんなもの、決まっている。私の為に期待を寄せた大勢の人達の為にも、私は代表候補生であるべきだ。いや、あらねばならぬ。
目の前にいる男は、どこか不思議だ。私の事を、ここまで真剣になって考えてくれている。今までこんな人がいただろうか?
「ありがとうございます。私、代表候補生でありつづけます。失礼な質問をして、すいませんでした」
「水臭いなぁ。気にしないでいいさね。僕らは、親友なんだから」
親友……か。
良い友を持った気がする。だが少し、一足先に悠李と親友になった一夏が羨ましい。
「ついでに、クラス代表は一夏に任せようかな」
「え?あなたがなるのでは?」
「さっきも言ったけど、めんどくさいの嫌いなんだよ。それに、僕は君と一夏に巻き込まれただけだしねぃ」
てっきり、それを忘れていた。