戦火の玉響   作:凱旋門

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三話

 凱は、病院の屋上でそのヘンテコに見える機械――オーブリングを眺めていた。

 七海に言った一旦家に帰るというのは嘘だった。

 凱という男は、昔からそうなのだ。昔から嘘をよくつく。重要なことではない。小さな嘘をたくさんつくのだ。ただなんとなく、自分というものを誰かに知られたくないというか、理解されたくないというか、そういうものかもしれない。

「そんな俺に……か」

 凱はオーブリングから目を離し、空を見上げた。そこに広がるのは、とても美しい空だった。

 昔、空を飛んでみたいと思った。疲れたら雲の上で休憩し、わたあめのような雲を食べて腹を満たし、そしてまた空を飛ぶ。だから、雲がただの水で、乗れないものだと知ったときはひどく落ち込んだ。それでも、空への憧れは消えなかった。いつか――いつかあの空を自由に飛び回ってみたいと、そう思った。

 だが、大人になるとその夢は跡形もなく消えていた。おかしなものだ。子どものときには絶対に叶えてやると思っていた夢が、大人になると、下らないことだと思うのだ。

 でも、それが大人になるということなんだと思う。叶わない夢は捨てて、現実を見る。

 凱は思わず深いため息をついた。

 自分で勝手に考えて、勝手に落ち込む。おかしなことだ。落ち込むくらいなら最初から考えなければよかった。頭ではそう思っていても、つい考えてしまう。人間とはとても不思議で、バカだと思う。

 その時、背後で扉が開く音がした。驚いて振り向くと、そこにはあの子がいた。

「お、偶然だな。どうした?」

 自分は果たして、きちんとあの子の従兄弟として対応できているだろうか。七海にこそああ言ったが、自分があの子の従兄弟だと嘘をついてるのは、あの子の叔父の命を守れなかったことが理由だ。

 それは、欲張りだとわかっている。やつがあそこに現れたと知ってからどう足掻いてもあれ以上に速くあの場に行くことはできなかった。最初からオーブになるという手段もあったが、背の高い木々が立ち並ぶあの山であの子らを探し出して助けるのは運任せもいいところだった。

 そして少女は何も答えずに凱の横まで歩いてきて、そして柵に背中を預ける。その警戒感のない仕草に凱は少しだけホッとした。どうやら従兄弟ということを信じている。おそらくは七海がうまいこと話してくれたのだろう。

「驚きました。叔父さんに隠し子がいたなんて」

 少女が突如言った言葉に内心「はぁ!?」と思いながらも凱はなんとか「そうだよなぁ」と、返した。

 ……いくらなんでも隠し子って。せめて海外にずっといたとか、そういう風にはできなかっのかよ。

「私、咲空(さく)っていいます。清野咲空です」

「俺はさっきも言ったけど、紅凱。苗字が違うのは――」

「七海さんから聞きました。母方のほうの苗字だって」

 それを聞いて七海もなかなか使えるな。などと凱は思った。やはり女っていうのは男が説明するよりも同じ女が説明したほうが安心するし、信じるだろう。

 会話は、そこでぷつりと途切れてしまった。両者何もいうことなく、なんの話題もなく空を見続ける。そうしていると雲がゆっくり、ゆっくりと動いているのがわかる。

 二人はしばらく、ゆったりと流れる雲を眺め続けていた。ずっとずっと、眺め続けていたいと思える――そんな空だった。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。
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