戦火の玉響   作:凱旋門

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四話


 かつて「ウルトラマン」という特撮番組があった。

 黒いスーツを纏った男はどしゃ降りの雨の中、そんなことを考えていた。

 テレビの中で悪と戦う彼らの姿は、当時の子どもたちの胸に確かな何かをうえ付け、そして何かを奪ったのだと思う。それが何なのかはわからないし、もしかしたらただの勘違いかもしれない。

 だが、諦めない彼らの姿が子どもたちに何かを教えたのは確かなことだ。

 それは果たしてなんだっただろうか。大人になるとそれが急にわからなくなった。でも、もしかしたらそれは俺だけなのかもしれない。他の人はそれがなんだったのか今でもわかるのかもしれない。

 だが、もう俺にとってそんなことはもはやどれでもいい。

 彼はどこかから取り出した黒いカードを見て、狂った笑みを浮かべる。そしてそのカードを、黒いオーブリングに通す。すると黒い一筋の光が軽い曲線を描きながら真っ暗な雲へと向かっていく。

 そして雲の中にその黒い光が入ると、一瞬、禍々しくそれが光った。

 それを見て男は笑う。

 狂ったように、そして無邪気な子供のようにいつまでも、笑い続けた。

 

 日本上空。

 航空自衛隊、F-15Jパイロット……つまりイーグルドライバーの村井は、後輩の藤沢とともに飛行していた。その目的は偵察のようなものだ。気象庁からの報告で台風の目の真ん中に怪獣らしきものが確認されたのだ。

 できれば台風の中を飛びたくないが、台風の動きが自然では絶対にあり得ないものらしいから、上は怪獣が台風を操っていると考えているらしい。

『イーグル・リーダー、イーグル・2、目標地点です。怪獣を見つけたらすぐに報告してください』

 中央指揮所からの無線が聞こえた。

「イーグル・リーダー、了解」

『イーグル・2、了解』

 そして自分たちは機体を操り、台風の目を目掛けて下降を開始する。そしてそれはすぐに確認することができた。

「イーグル・リーダー。目標コンタクト。視認もできます」

『イーグル・リーダー、イーグル・2、目標の様子を報告せよ』

『イーグル・2、目標は我が物顔で台風の目の中心を飛行しています。こちらには気づいていないもよう』

 だが次の瞬間に、村井も藤沢も息を合わせて小さく息をのんだ。

 台風の目の中心にいた怪獣がこちらに気がついていることに、気づいたのだ。そして怪獣がこちらに向かってきていることにも。

「こちらイーグル・リーダー! 目標に気づかれた!! 接近してくる!! 武器の使用許可を願う!!」

『イーグル・リーダー、イーグル・2、怪獣を興奮させるな。武器の使用は許可しない。全力で空域から離脱せよ』

 要撃管制官の声に村井はチキショウ!! と心の中で叫んでからアフターバーナーを使って一気に現場からの離脱を試みる。もはや藤沢のことを気にかけている余裕はなかった。

 ぐんっ! と一気に体が押さえつけられ、速度が急にあがったことがわかる。そしてそのまま、生きることだけを考えてひたすらまっすぐに飛び続ける。

『CCPよりイーグル・リーダー。イーグル・2がレーダーから消えた。状況を報告せよ』

 みょうに落ち着き払っているその声が聞こえたその時、異常接近を知らせる警報音がなる。何かと思ってレーダーを確認しようとした瞬間、目の前にそれが現れる。

「CCP! 武器使用の許可を!!」

 そう言った次の瞬間、なにかがイーグルに接近してくる。

 急降下してそれをかわした村井の耳に、またあの要撃管制官の声が聞こえた。位置エネルギーの関係で、さらにGが強くなる。

『それよりイーグル・2はどうなった?』

「そんなのわからない! もうこちらは攻撃を受けていて攻撃以外には現場空域を離脱できない! 対空ミサイルの使用許可を要請する!!」

『ダメだ。武器使用は許可できない』

 俺に死ねって言うのか! 村井は心の中で叫んだ。

 俺たちの任務は偵察だった。そして怪獣に気づかれた際に攻撃もできるようにF-15Jを選んだのではなかったのか? こちらはもう藤沢を失っている。それなのになぜ反撃が許されないというのだ。

 しばらく悩んだ後、村井は意を決して、機体からミサイルを切り離した。そうすることで少しでも機体を軽くしておこうと思ったからだ。

 逃げ切れる自信はない。しかし、上からの命令がどんなものでも聞く。それが自衛官に求められるものなのだ。

 アフターバーナーをたき、高度をあげる。体がでかいあの怪獣のほうが空気抵抗は大きいはずだからだ。上昇するとこちらもスピードが落ちるが、それでもまだこっちの方が速い……と、願いたい。

 しかし、レーダーはぐんぐんと迫ってくる怪獣の姿を現していた。

「こちら……イーグル・リーダー。現在、対空ミサイルを放棄。全力で空域を離脱しようとするも、我が方より敵のスピードが速く振り切れそうにない。最後に、バルカン砲による攻撃を望む……このままやつを野放しにすると多大な被害がでると思われる。だから……少しでも藤沢の敵をうたせて欲しい」

『こちらCCP! イーグル・リーダー聞こえるか!?』

 そう願って言った言葉に返ってきたのは、まったく知らない男の声だった。

『イーグル・リーダー! 我々は現在まで敵の妨害により通信ができていなかった! さっきまで君が聞いていたのは我々の意思ではない! 敵の妨害だ! 現在イーグル・3とイーグル・4をそちらに向かわせている! それまで逃げろ!』

 ……どういうことだ? 頭ではそう考えていても、どこかではそれがどういうことなのかわかっていた。

 つまり、さっきまで俺は、中央指揮所ではなく、敵と交信をしていたのだ。おかしいくらいに冷静なあの対応も、武器使用を認めないという命令も、すべては敵の……作戦。

 しかし、もうそれに気づくのに遅すぎた。

 目の前にぶわっと黒い影が現れる。こんな天候じゃベイルアウトをしても無駄だろうし、もはやこの台風の外に逃れるだけの時間もない。村井はトリガーの思い切り引き絞った。

 バルカン砲が怪獣の体に吸い込まれていき、その体を破壊していく。そして次の瞬間、村井は緊急脱出のレバーを引いた。ダメだとわかっていても、諦めたくなかった。

 凄まじい逆Gとともに体が放り出され、次の瞬間にはパラシュートが開いたのだが、この悪天候の下でろくな飛行もできるはずがなく、さんざん風に弄ばれた後、村井の体は海面に叩きつけられた。彼の意識は、そこでぷつりととぎれた。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。
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