戦火の玉響   作:凱旋門

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五話

『現在接近中の台風7号は、尚も北上を続けておりこのままだと明日午後8時ごろに東京に上陸――』

 つけっぱなしのラジオから流されるそんな内容が、右耳から入って、左耳から抜けていった。どうやら台風がここに来るのは午後9時ごろになりそうだ。

 田舎なくせに各地から疎開してきた人たちがいて人口密度が高くなっているから、台風がどれほどの被害をもたらすかが心配である。

「……大丈夫ですかね」

 突然、咲空がそう言ってきたことに凱はとりあえず「そうだなぁ」と返した。しかし、ラジオの内容が台風ではない内容に変わっているのだと気がつき、慌てて「なんのこと?」と聞き返した。

「自衛隊の戦闘機が撃墜されたみたいです。なんでも台風と関係があるとか……」

 はて、なにかあったのだろうか? 確か航空機は台風の中でも飛べるはずだが。ミサイルの誤射かなにかだろうか?

「大丈夫なんですかね。地球軍は……」

 凱は思わず頭がくらくらした。

 こんな女の子の口から地球“軍”などという言葉が飛び出してくるとは。

 いや、女の子だからと言っては差別だと言われるかもしれないが、それでもやはり違和感がする。これが戦争というものなのか。

 凱は少し悲しくなった。しかし、咲空のその言葉が、ただの興味本位ではなく、本当に心配しているのだと、凱は気づいた。

 咲空が震えていた。本当に彼女は怖がっているのだ。無理もないことかもしれない。彼女は目の前で親戚の人の……あんな無残な姿を見てしまっているのだ。それが彼女に死の恐怖を強く植え付けていても、なんらおかしいことではない。

「……なにも心配することないさ」

 こういうときに、励ますというのは、もしかしたら間違ったことなのかもしれない。ただなにも言わずにそっと寄り添ってあげることが正しいことなのかもしれない。だが、凱にはそれができなかった。彼女の言葉は、まるで誰かに大丈夫だと言ってもらいたくて、言っているような気がしたからだ。

 それに、凱自身も自分に言い聞かせたかった。地球軍は負けない。そして自分がこの力を使うことはないのだ、と。

 昔、この力をきちんと制御できなかったときのことは、今でも覚えている。奴らに対する怒りのあまりすべてを破壊した。それで怪獣は倒せたし、その場所は外国の山中だったために死者こそはいなかった。しかし、木々は燃えた。

 炎は生命を焼き尽くし、山火事が収まったあとにそこにあったのは黒く焦げた木々だけだった。

 あのときのことを思い出す度に、怖くなる。

 制御すらできない力を持っている自分自身が、悪魔のように怖いのだ。

 だから、地球軍は強いのだと、そう思っていたい。

 

 気象庁の衛星『ひまわり』は、台風7号の動きを監視していた。

 今のところ、太平洋上を進む台風7号に異変は見られない。しかし、気象庁の一部はその正体を知っていた。そして、7号に異変が現れればすぐに首相官邸、そして防衛省へと連絡を取ることとなっている。

 突如、モニターを見ていた気象庁の職員たちが息をのむ。

「7号、速度大幅に上昇!!」

 それを聞いた中年の男が声を張り上げる。

「急いで首相官邸と防衛省へ連絡!」

 頼んだぞ地球軍、自衛隊。中年の男はそう心の中で願った。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。
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