アイちゃんリアルへ行く   作:シュペルロ・ギアルキ

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クリスマス番外編。
多分二人で過ごす最初のクリスマス。


第?話 アイちゃんとクリスマス

 冷たい重金属酸性雨が降る中、悟は家路を急いでいた。

 とある品物の受取のために寄り道をしていたためイビルアイに告げていた帰宅予定時刻より少し遅れ気味なのだ。

 

「ただいま~」

 

 少し息を切らしながらいつものように悲鳴のように甲高い音を立てる玄関を開けて帰宅する悟。

 

「おかえり! サトル!」

 

 いつものように駆け寄ってきたイビルアイとガスマスクを外した悟は軽く口付けを交わす。

 本当なら今すぐにでも抱きしめたいのだが、汚染大気と重金属酸性雨によって汚れた身体でイビルアイを抱きしめるのは躊躇われる。

 

「今日は少し遅かったな? なにかあったのか?」

 

「うん、まあちょっとね。大したことじゃないんだけど…」

 

 笑顔のイビルアイにコートと上着を渡しながらごまかすように悟も微笑む。

 その笑みを見てイビルアイは悟がなにかごまかしているなという確信を得たがあえて深く追求はしない。

 悟がごまかしていることが何か『イビルアイに悪いこと』なら、彼の胆力ではこんな軽い感じでごまかすことは出来はしないのだから。

 

「ふーん。まあいい、さっさと風呂に入ってこい。今日は腕によりをかけたぞ」

 

「ああ、そうする。楽しみにしてるよ」

 

 上着とコートを魔法で清めながら微笑むイビルアイと再び口付けを交わしお風呂に向かう悟。

 

「早く上がってこいよ~」

 

「はーいはい」

 

 脱衣場で忘れずにポケットの中の小箱を部屋着のポケットに移してからバスルームに入る。

 スチームバスで身を清めながら小箱の中身に思いを馳せ、少し気合を入れ直した。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 イビルアイが作った普段より豪華なクリスマスディナーを食べ終えた二人はリビングのソファーに座って寛いでいた。

 

「…なあ、アイ」

 

「んー?」

 

 悟の胸に頭を預けとてもリラックスしていたイビルアイが目を開けて悟の顔を見上げる。

 悟は少々緊張した面持ちで言葉を選ぶように口を開く。

 

「ええと…。ちょっと大事な話があるんだ…」

 

「なんだ? こんな日に…?」

 

「まあ、こんな日だからというか…」

 

「ふーん…?」

 

 何かを感じたイビルアイもだらけていた姿勢を正し、悟と向かい合う。

 一度深呼吸し意を決して口を開こうとする悟だったが。

 

「あ、そうだ。私も一つ話があるんだ」

 

「うえっ?」

 

 出鼻をくじかれた悟が変な声を上げるが、イビルアイは微笑みながら言葉を続ける。

 

「キーノ・ファスリス・インベルン。それが私の本当の名前なんだ」

 

「キーノ…?」

 

「そうだ。それが本当の名前」

 

 なぜ今のタイミングで…、と一瞬ぽかんとする悟だったが、すぐに思い当たり頭を掻く。

 全てお見通しか…。

 

「キーノ…」

 

 そっとイビルアイの左手を取る悟。

 

「愛している。俺と結婚してくれ」

 

 ポケットから小箱を取り出し蓋を開けると、そこには小さな指輪が収まっていた。

 

「サトル…っ」

 

 その言葉を受けみるみる顔が緩んでいくイビルアイ。そして感極まったように悟に抱きつく。

 

「おわっ」

 

「サトルっ! 嬉しい!!」

 

 急に抱きつかれて危うく小箱を落としそうになりながらも、イビルアイを抱きしめ身体を擦り寄せる悟。

 

「まあ、籍を入れたりするわけじゃなく、精神的なものだけどさ…」

 

「うん…、それでも嬉しい…」

 

 少し身体の間に隙間を開け、もう一度イビルアイの左手を取る悟。

 そしてその薬指に指輪を通し…。

 

「キーノ…。死が二人を分かつまで、俺と一緒に居てほしい」

 

「うん…。死が二人を分かつまで、私はサトルと一緒にいるよ…」

 

 静かに目を閉じるイビルアイを抱き寄せ、口づけする悟。

 体をなで合いながら優しくソファーの上に寝かせ、唇を離し、しばし見つめ合う。

 

「サトル…」

 

「アイ…、いや…。キーノ…」

 

 再び二人は身体を寄せ合い…。

 

 ピ~ンポ~~ン

 

 無粋なドアチャイムの音が二人の邪魔をした。

 

「…」

 

「…」

 

 ピ~ンポ~~ン

 

「何だよもう…」

 

 ぶつくさ言いながら玄関へ向かう悟。

 扉越しに誰何の声をかける。

 

「どちらさまで?」

 

「宅急便でーす。スズキサトルさんにお荷物届いていまーす」

 

 こんな日にご苦労様な…。

 

「はーい、今開けますよ」

 

 悲鳴のような音を立てながら玄関ドアを開け荷物を受け取る悟。

 

「ではこちらにサインか印鑑を」

 

「はいはい」

 

「…はい、ありがとうございました」

 

「ご苦労様です」

 

「はい、では失礼します」

 

 そんなやり取りを終え悲鳴のような音を立てながら玄関を閉め、鍵を3つ掛ける。

 そうしていると、来客が済んだことを気配で察したイビルアイがリビングから顔を覗かせた。

 

「なんだったんだ?」

 

「うん、荷物だって。ええと、送り主は…『ユグドラシル運営』…?!」

 

 驚いた悟は足早にリビングに戻りつつ、箱を開ける。

 興味津々に覗き込むイビルアイを尻目に幾つもの緩衝材を取り除いていると、中から一枚のメッセージカードが出てきた。

 その内容は…。

 

「『毎年毎年クリスマスの夜にもかかわらずユグドラシルをプレイしてくれていた貴方たちだけに』……って…。まさか…」

 

 カードの下に敷かれていた最後の緩衝材を退けると、そこには…。

 

「し、『嫉妬する者たちのマスク(運営、狂ったか?)』…!!」

 

 そう、これこそが12年間に渡って毎年クリスマス夜にユグドラシルを2時間以上プレイし、嫉妬する者たちのマスクをコンプリートした極一部のプレイヤーのみにプレゼントされた、ユグドラシル運営最後のサプライズである。

 

「何考えてんだよもう…」

 

 へなへなと全身の力が抜けていくのを感じる悟。

 嫉妬マスクを取り出し、しばしマスクと見つめ合う。

 

「なんだそれ? 変なマスクだな?」

 

 悟が持ち上げたマスクを興味深そうにつつくイビルアイ。

 すると次の瞬間――。

 

 パキィン!

 

「へっ!?」

 

「あれっ!?」

 

 二人共特に力を入れたわけでもないのに嫉妬マスクがまっぷたつに割れてしまったのだ!

 もちろん原因は成形不良による強度不足なのだが、そんなこと想像もしていなかった悟とイビルアイはオロオロと狼狽える。

 

「え、えぇ!? ど、どうして!?」

 

「なんでいきなり!?」

 

 そんな二人を真っ二つになったマスクがそれぞれの破片で泣いているような、怒っているような、形容しがたい表情で睨むように見つめていた。




シュガールート。
この後嫉妬マスクは製造元に一旦送り返され正常品と交換してもらえました。

嫉妬マスクが配られるのはクリスマス・イヴだったと気付いたのは今更になってだった。
まあ、思いついたんだから仕方ない。

そろそろ気付いてる人も多いかと思いますが私は番外編みたいな単発系ネタをずーっと書いていたいタイプの人間です。
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