アイちゃんリアルへ行く   作:シュペルロ・ギアルキ

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第4話 アイちゃん悟と話し合う

 いつもの通り疲れきった体を引きずり、悲鳴のような軋み音を上げる玄関扉を開けて帰宅する悟。

 扉に3つの鍵をかけ、ボロボロの靴を脱ぎ散らかしのろのろと廊下を歩く。

 

「疲れた…」

 

 ユグドラシル最終日だからと無理して有給を取った埋め合わせにいつも以上に濃いスケジュールで仕事をしたのだ。

 いつものように、いや、いつもと比べてはるかに重い足取りでキッチンへ向かおうとすると、悟が扉に手をかける前にキッチンの扉が開く。

 

「おかえりなさい!」

 

 中から金髪の美少女が出てきてこれには悟も思わずびっくり凝固。

 長く苦しい仕事時間の間にすっかりイビルアイのことを忘れていた悟である。

 

「えっと、ただいま…です…」

 

 マスクとゴーグルを外しながら返事をする。ユグドラシル以外で、いや、ユグドラシルを含めてもただいまなどと言ったのは何時以来だろうか。

 悟の胸中にむず痒いような暖かいような何とも言えない感触が湧き起こる。

 そんな悟の感慨に気付かず、イビルアイは悟を見上げながら言葉を続ける。

 

「実は簡単にだけど食事を作ってみたんだけど…。事情を話す前に軽く食べますか?」

 

「えっ!?」

 

 イビルアイの頭越しにキッチンの中に目を向けるとろくに物が置いていなかったはずのシンクの調理スペースに見覚えのない鍋や調理器具のような物が置かれ、買った覚えのない木のお皿なども置かれている。

 

「え、アレ…。どこから?」

 

 悟の不明瞭な疑問にイビルアイは少し楽しげに答える。驚愕している悟の様子が面白かったらしい。

 

「大丈夫…です。全部私が用意したものですから。モモン様の物を勝手に使っていたりはしませんので」

 

「ええー…。それでもどこから持ってきたの…」

 

 呆然とした悟のつぶやきに合点がいったというふうにイビルアイが頷く。

 

「ああ、無限の背負袋(インフィニティ・ハヴァザック)に入れてあったものです。魔導国の冒険者の基本キットとして」

 

 いきなりユグドラシル(ゲーム)の単語が出てきて面食らう。

 そんな便利なものが現実に…。

 

「ほら」

 

 あった。目の前に。

 さして大きくない分厚い布製の袋の中からズルーっと大きなスコップが出てくる。

 手渡され悟もやってみる。手品ではない。

 呆然としながら背負袋を弄る悟にイビルアイは呆れたように声をかける。

 

「さて、食事の前に風呂に入ってきたほうが良いんじゃないか? あまり清潔とはいえない感じだし」

 

「うぐぅっ!?」

 

 イビルアイ(美少女)のお兄さん不潔! 攻撃。(童貞)にクリティカルヒット!

 

(いや、実際外出したから汚染大気で汚れてるというただの事実の指摘なはずだっ…!)

 

「わかりました…。身体を洗ってきます…」

 

 なんか覇気がなくなった様子に不思議そうな顔をするイビルアイに見送られバスルームに向かう悟。

 脱衣所で服を脱ぎながら困ったように呟く。

 

「なんか、調子狂うなー…」

 

 しかし、その顔に曇りはない。

 様々な意味でびっくりするような他人に振り回されるこの感覚。悟はそれが嫌いではなかったのだから…。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 スチームバスで身体を綺麗サッパリ洗い終え、部屋着に着替えた悟は微かに湯気を上げながらキッチンに戻るとイビルアイがリビングへと料理を運んでいた。

 

「お、早かったな…ですね?」

 

「もう敬語は無しでいいですよ。敬語が下手なの分かったんで…。その代わり俺も敬語は無しで話すから」

 

 使い慣れていない敬語を聞いているのも精神が疲れるのだ。

 イビルアイの幼い容姿も合わせて社会人になったばかりの自分を思い出してしまう。

 

「そ、そうか? わかった、じゃあそうする」

 

 少し肩の力が抜けた様子のイビルアイに続いてリビングに入ると、椅子と小物を置くキャスター付きテーブルくらいしかなかった部屋に野営時に使う高さ30cmほどの簡易テーブルが置かれ、その上に悟が今までリアルではお目にかかったことがないような料理の数々が並べられていた。

 

「簡単なものだが…」

 

「これで簡単だったら俺が今まで食べてきたのは土と泥だな…」

 

「大げさな…」

 

 呆然と大げさなことを呟く悟にイビルアイは苦笑する。

 イビルアイの作った食事は非常用弁当箱(主菜)(エマージェンシー・ランチボックス)から出てきた内臓も小骨もないまるまる太った大きな魚にカ・レエ・コを擦り込んで焼いたものと非常用弁当箱(副菜)から出てきた豆と葉野菜を使ったスープに非常用弁当箱(主食)から出てきた丸っこいパン2つ。そして無限のワイン瓶(インフィニティ・ワインボトル)から銀のマグカップに注がれたワインである。

 イビルアイの目で見れば初級~中級程度の冒険者の冒険中に食べる食事としてはそこそこ豪華と言った程度だろう。

 正直蒼の薔薇の冒険中に出てきたら皆ががっかりするレベルである。イビルアイは食べないので関係ないが。

 

 しかし悟にしてみればこのような料理は、ゲームやテレビの中でしか見ることが出来なかった、味の想像もつかない非常に豪華な食事である。

 

「色々話したいこともあると思うが、せっかく作ったんだ。ひとまず冷める前に食べてみてくれ。味は悪くはないと思うんだが…」

 

「あっはい…」

 

 客人が家主をもてなすという少々あべこべな状況を気にかける余裕もない悟が言われるがまま腰を下ろし、イビルアイもその対面に座る。

 

「あの、貴女の分は?」

 

 悟が見る限り料理は一人分しか無い。

 

「私は食べなくても平気だ。吸血鬼だからな」

 

 食べられないわけじゃないんだが、と続けるイビルアイの返事を受け、悟は食事に手を付ける。

 

 とりあえずパンに手を伸ばす。手にとって見ると焼き立てではないのか暖かくはないが――そもそも魔法で生み出されたため暖かかった時がないのだが――表面の硬い感触と、手に少し力を入れると表面が破れ柔らかい弾力が伝わってくる。両手に持って力を入れ2つに裂くとバリっと音を立てて褐色の皮から真っ白な中身が覗きふんわりと焼いた小麦の甘い香りが漂う。

 

「はぐっ」

 

 恐る恐る口に入れ噛みしめると、口いっぱいに香りが広がる。そのまま何度も噛み砕くとパンと唾液が混ざり合い、普段摂取している人工甘味料の甘みとは全く違う、自然で暖かな甘みが舌の上をじんわりと覆い尽くす。

 

「う…美味い…」

 

 またイビルアイが、大げさな反応を…。などと呆れ顔をしているのに気付かないまま、悟は続いて魚をターゲットに定める。

 銀のナイフとフォークを手に取り不器用な手つきで魚を切り分け――尾頭付きの魚など生まれて初めて食べる悟には背骨以外に骨も内臓もないこの異様な魚に疑問を感じることもなく――フォークで突き刺し口に運ぶ。

 真っ先に感じたのはカレー粉のスパイシーな刺激だ。液状食料カレー味などでカレーの味を知っている気になっていた悟だったが、所詮合成されたカレー味などただのまがい物だったと思い知らされる。多種多様なスパイスが織りなす複雑な味の広がりに引き立てられるように魚肉の脂と旨味が力強く存在を主張する。

 続けてスープにも口をつける。強めの塩気と胡椒の辛味と香りが味を主張する中に煮込まれた豆と野菜の甘さと柔らかさが舌の上で味のハーモニーを織りなす。

 ワインを口にすれば今までどうしても避けられない付き合いなどで飲むことがあった合成アルコールに色と香りをつけただけの安酒が何だったんだと思えるような柔らかく自然な渋味と酸味が合わさった優しく芳醇な味わい。

 どれもこれも、悟にとって未知の、そしておそらくはこんな事態でなければ永久に無縁な味覚であった。

 

 最初はセーブして食べていた悟だったが次第に抑えが利かなくなりガツガツと貪るようにかき込み始める。

 イビルアイはおかわりのスープを注いでやったり、弁当箱にパンよ~出ろ~と念じながらおかわりのパンを取り出してやったりして悟が満足するのを待つ。

 そして魚を食べ尽しスープを2回もおかわりした悟が、息を吐いてようやく手を止める。

 

「あ~、こんな風にお腹いっぱいになるまで食べるなんて初めてかも…」

 

 少し膨れた気がするお腹をさすりながら悟が呟き、イビルアイに向き直り居住まいを正す。

 

「とても美味しかったです。えーと、なんというか。ごちそうさまでした」

 

 そう言って頭を下げる悟にイビルアイが慌てたように手を振る。

 

「そんな、かしこまって礼を言われるようなことじゃない! 私が勝手にやったことだし。大げさだ」

 

「いえ、そんなことないです。こんなに美味しい食事を食べたのは生まれて初めてでしたよ」

 

 冗談でも誇張でもない。

 悟は今まで天然モノの素材を使った食事など一度も食べたことがなかった。

 今まで食べたものの中で一番いいものでも会社で強制参加させられたイベントの時食べたバイオ食品の中落ち形成モノと言ったレベルである。

 今日食べた食事と比べるのもおこがましい。

 そんな悟の真摯な感謝の言葉に照れたのかイビルアイは顔を赤らめると片付けてくる! と言って慌てたように食器をまとめるとキッチンへ引っ込んでしまった。

 

「あ~、美味かった…。でもこれから話し合いか…」

 

 ぼんやりとユグドラシルで一緒に遊んでいたメンバーの言葉を思い出す。

 

「戦いは始まる前に終わっている、だったか…」

 

 戦う前にどれだけ自分に優位な状況を作り出せるかが重要という意味らしい。

 その観点で言えばイビルアイには圧倒的優位に立たれてしまっていると思っていいだろう。

 こんな料理を食べさせてくれておまけに可愛いとか、もう悟が彼女に対して強く出ることなど出来はしない。

 

「まあいいか…。人間関係は勝ち負けばっかりじゃない」

 

 悟が彼女に要求したいことがあるわけでもない。

 気楽に行こう、などと考えてしまっているのも満腹になって気分が落ち着いている証拠であった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 香辛料の瓶(ペッパーボックス)から出したお茶っ葉で淹れたお茶をテーブルの上に並べ、イビルアイは真剣な面持ちで悟ると向かい合う。

 

「こんなことを言っても信じてもらえないと思うが…。私は多分、違う世界からこの世界に来たんだ」

 

「ああ、うん。そうだと思った」

 

 昨日の夜の段階で言われても信じなかっただろうが、見て、触って、食べてしまった今はすんなりと受け入れることが出来た。

 

「でもそれならなんで俺をモモンガって呼んだんだ?」

 

 異世界の人間がなぜ自分を知っているのかわからない。

 しかしイビルアイは今の言葉に聞き逃せない差異があることにようやく気づいた。

 

「あれ? モモンガ…? モモンではないのか?」

 

「いや、モモンガだけど…? モモンガって呼ばなかった?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 首をかしげる二人。

 ひとまずそこは棚に上げて話を続けることにする。

 

「とりあえずモモンの話は後でするとして。私はアインズ・ウール・ゴウン魔導国の冒険者で…」

 

「アインズ・ウール・ゴウン!?」

 

 素っ頓狂な声を上げる悟にイビルアイが驚いてまた話が止まる。なかなか話が進まない。

 

「あ、ああ…。アインズ・ウール・ゴウン魔導王が統治する国家、アインズ・ウール・ゴウン魔導国だ」

 

 驚愕に目を見開き続ける悟。何かヤバイことを言ったんだろうかと不安に思うイビルアイ。

 

「ちょっと、そのアインズ・ウール・ゴウンの話を詳しく聞かせてくれ!」

 

「え、ああ…」

 

 気圧されるようにイビルアイはアインズ・ウール・ゴウン魔導王について知っていることを話していく。

 数年前に突如として現れたアンデッドの王である魔導王が王国と帝国の間で行われた戦争で力を見せつけエ・ランテルに建国。破竹の勢いで周辺国を平定していく天下布武のサクセスストーリーである。

 悟が魔導王の外見にやけに食いついたが、その後の凄まじい偉業の数々を聞くうちに、あーまあそうだよなー俺と関係あるわけないかーみたいな顔になっていった。

 

 いくら見た目は自分のアバターにそっくりでも、こんな優秀な人間(?)が自分と関係があるとは思えない。何かの偶然の一致だろう。

 

 一通り話を聞いた悟は後頭部のジャックにプラグを突き刺し、手を動かすとテレビをモニターモードで起動させる。

 テレビが突然起動したことにぎょっとしたイビルアイだったが、それも悟が何か操作をした結果だと知り警戒を解く。何らかの魔法道具なんだろう、と。

 

「そのアインズ・ウール・ゴウンってもしかしてこんな姿だったりした?」

 

 そう言って悟はテレビにゲーム内で撮影した自分のアバターの写真を写す。

 

「…たしかに魔導王だ。なぜ彼の姿が…?」

 

 驚いた様子のイビルアイにかすかに誇らしげに悟が答える。

 

「これが俺の『モモンガ』だ」

 

「俺の…?」

 

 今度は悟が説明を始める。

 ゲームのこと、ユグドラシルのこと、モモンガという名前とテレビに写した容姿でプレイしていたこと、アインズ・ウール・ゴウンというギルドのこと、そしてそのユグドラシルも昨日終わってしまったことなど…。

 

 悟が話し終えるとイビルアイが難しい顔で腕を組んで考え込む。なんだか、かつてともに旅したぷれいやーの言っていたりあるとは別の世界なのではないかと思い始めたのだ。

 

「私の世界にはモモン、じゃなくて、ええっと…」

 

「悟でいいよ、鈴木悟」

 

「そうか、サトルだな。覚えた。私もイビルアイと呼んでくれ」

 

「わかった。イビルアイね」

 

「うむ。それでだな私の世界にはサトルとそっくりな顔をした戦士が居たんだ。それが漆黒の英雄モモン」

 

「え、英雄? それに戦士?」

 

「ああ。漆黒の鎧を身にまとい、二本のグレートソードを操る最強の冒険者だ」

 

 そしてモモンの説明をイビルアイが始める。その強さや成した偉業、高潔な人柄や名声等など…。イビルアイがその人物に強く憧れのような感情を抱いていることが悟にも伝わってきた。

 

「という感じだ。本当にサトルそっくりなんだ。私の世界のサトル本人なんじゃないかってくらいにな」

 

「ふーむ、なるほど…」

 

 悟としてもエクストリームな偉業を連ねる魔導王よりはこっちのほうがまだ親近感が持てた。異常な智謀を持って国家を我が手のように操る魔導王よりは、という程度であるが。魔獣を従えたり吸血鬼と戦ったり魔王と戦ったりとか、どれも力があれば十分出来そうなことだ。とはいえそれでもまだハードルが高いが。

 人間種の戦士というのも、仮にユグドラシル2があったとしたらわざわざユグドラシルの焼き直しをするのではなく、新しいビルドとプレイに挑戦するという意味で面白そうだし。

 

「そういえば話が逸れてしまったが、とにかく私は魔導国の冒険者で、魔神と戦った際に魔神の魔法でこの世界に飛ばされてしまったようなんだ」

 

「なるほど…」

 

 長い話で少々飽きてきたのか、結局自分については割と簡単にまとめてしまうイビルアイ。

 

「それで元の世界に戻る宛とかは…」

 

「私が使える魔法の中には世界を移動するものはないし、そんな魔法があるという話も知らない。私は帰る手段を持っていない…」

 

「えっ、魔法が使えるの!?」

 

「えっ?」

 

 イビルアイが帰る方法よりそっちに食い付く悟。話が進まない。

 

「どんなのが使えるんだ!? ちょっと見せて!」

 

 悟の常識ではゲームの中にしか存在しなかった魔法とかはっきり言って興味津々である。

 

「あ、ああ…じゃあ、《クリスタル・ダガー/水晶の短剣》」

 

 見た目に分かりやすく周囲に大きな影響を及ぼさない魔法を使用してみせる。

 悟が驚き目を見開く様子を見ながらもイビルアイは違和感を覚えていた。普段より魔力の消費が重かったような気がしたのだ。

 

「私は土系の中でも特に水晶に特化したエレメンタリストだ」

 

「なるほど、やはり特化するというのは強みだしな」

 

 魔法語りモードに入った悟の目に怪しい光が灯るのをイビルアイが見たのはきっと錯覚ではない。

 そのまま悟は特化型魔法詠唱者の、それも死霊術系の有用性について熱く語りだす。

 最近は魔法について話し合ったりする仲間もいなかったのでまたえらく熱が篭っていた。

 最初はイビルアイ的にもなかなか興味深く聞いていたのだがどんどん深みに進むに連れイビルアイでもついていけなくなりだんだん聞き流すようになっていった。第9位階以降の死霊魔法によるコンボとか特殊過ぎて参考にならない。

 

 しばらく時間が経過し、ようやく悟がイビルアイがうつろな目で話を一切聞き流していることに気付いたのは悟の就寝時間までもう間もないような時刻であった。

 

「ご、ごめん! ちょっと話し込みすぎちゃったみたいで…!」

 

「あ、ああ…。いや、大変参考になったよ…」

 

 参考に出来るとは言っていない。

 

「えーっと、そう! 帰れなくて行く宛がないって話だったね! 大丈夫、家に住めばいい。狭いけど」

 

「あー。いいのか?」

 

「もちろん。それに何だ…『誰かが困っていたら助けるのは当たり前』だからな」

 

 その誰かの言葉をなぞるような言い方に何かを感じたが、それでもイビルアイはその言葉に感謝した。

 そこに自分が惚れたモモンの放っていた輝きを見たような気がして。

 

「それが当たり前か…。すごいんだなサトルは。でも、ありがとう。助けてくれて…」

 

 そう言って笑顔を見せるイビルアイに照れたように目をそらす悟。

 

「じゃあとりあえず寝るところを用意しないと…」

 

「それなら大丈夫だ。これがある」

 

 悟にそう告げるとイビルアイはテーブルを背負袋にしまい込むと、代わりに大きな木の板のようなものを取り出す。

 それをリビングに置き、箱状の形に組み立てると1辺1mほどの大きな木箱が出来た。

 

「ここから入れる。サトルも入ってみるか?」

 

 側面についた小さな扉を開け軽く屈むように中に入り込むイビルアイ。その身体に合わせて扉がうねるように変形するのを悟は見てしまった。

 

「ほら、こっちだ」

 

 中から顔を出したイビルアイに手を引かれ悟も箱の中に入る。

 いくら大きな箱と言えども子供と大人の二人が入ればギュウギュウ詰めになってしまうはずが…。

 

「なにこれすごい…」

 

 中に入ったサトルは目を見張った。

 箱の中は六畳ほどの広さを持つ部屋になっていたのだ。

 床も壁も天井も木の板で出来ているログハウスのような綺麗な部屋だ。

 家具は全く設置されていないが、天井には輝く電灯のようなものが付いていて室内を明るく照らしている。

 

「これはダン・ボル・バコといって冒険者が遭難したときに使う非常シェルターだ。ここに毛布でも持ち込めばサトルの邪魔にならないだろう?」

 

「段ボール箱…?」

 

 自慢げなイビルアイに悟が向き直り、ふと気づく。

 

「…ところで今更だけど、日本は土足で部屋に上がったらいけないんだ」

 

「えっ!」

 

 イビルアイが悟の足元を確認すればたしかに悟は裸足だ。今まで気づかないとは…。

 

「す、すまない! すぐに脱ぐから」

 

 慌てて靴を脱ぎだすイビルアイに悟は優しく声をかける。

 

「謝らなくていいよ。そういう風習は言われなきゃわからないし。ところで引き換えというわけじゃないんだが頼みがあるんだ」

 

「ああ、ありがとう。私にできることならなんでも頼んでくれ」

 

「よし、なら寝る場所なんだけど…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「光よ消えろ」

 

 悟はイビルアイに聞いたとおりに天井に取り付けられた《コンティニュアル・ライト/永続光》の魔道具に向かって消灯のキーワードを呟く。

 徐々に暗くなっていく光のなか、床に敷かれた毛布に包まる。

 

「あぁ、なんだか激動の一日だったな…」

 

 枕元に置いた寝室から持ち込んだアラーム付きの時計のタイマーを確認し、ちゃんと設定されていることを確かめると、ちょうど明かりが完全に消えダン・ボル・バコの中は暗闇に包まれた。

 

 色々なことがあった。美味しい料理に異世界の話、突然の同居人。そして…。

 

「これがあんな小さい箱の中なんて信じられないな…」

 

 思わずニヤけてしまう。イビルアイには自分のベッドを使うように言って、自分がこの箱の中の寝床を確保したのだ。

 ちなみにリビングに置くのは邪魔だからと寝室の片隅に設置されている。

 

「ここにいろんなもの持ち込みたいなー。俺だけの秘密の部屋みたいに…」

 

 ニヤニヤと今後のリフォーム計画を建てながら悟は心地よい眠りに誘われていった。




秘密基地って男の子だよね。
あとイビルアイは寝なくて良いんだけどアインズ様同様精神疲労を癒やしたり気分転換するためにベッドでゴロゴロしたりするのは好きという設定です。
あと、アルベドとかのNPC同様寝なくて良いだけで寝れないわけじゃない感じで。

ついでにイビルアイが持っている食料を生み出すマジックアイテムについて。
アインズはアダマンタイト級に渡すアイテムの種類を減らすようには指示しましたが質については何も言いませんでした。
そのため冒険者組合はアダマンタイト級が持つにふさわしい最高級品質のマジックアイテムを渡しています。
それでもきちんとした天然物の食材や手作りのパンなどと比べると1段も2段も味が劣るものしか作り出せません。
もっと階級の低い冒険者が持っているものだとダボフィッシュとかしなびた野菜とかカチカチのパンとかが出てきたりしますが。
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