東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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8話 後悔とすれ違う狂気

『――紫苑、あの話を憶えておるか?』

 

『んだよ老害。飯は3日前に食ったでしょ』

 

『ボケた爺扱いするな! 貴様とさっき一緒に食ったではないか! 儂の孫――姉妹の妹の方についてじゃ』

 

『……あぁ、あの胸糞悪い冗談みたいな話がどうしたんだよ?』

 

『儂はな、あの少女を救うことが出来なかったんじゃよ。どれくらい前の話か覚えてはおらぬが、ただそれだけが心残りであり――儂が生涯において最初で最後の後悔じゃった』

 

『……帝王、さすがに仕方ねーんじゃないかな。〔ありとあらゆるものを破壊する能力〕なんて女の子一人が背負える力じゃないだろうし』

『確かにそうじゃ。しかし……悔やみきれんのじゃよ』

 

『………』

 

『――夜刀神紫苑(・・・・・)

 

『なんだ? ヴラド公爵(・・・・・)

 

『もし……その少女――フランドール・スカーレットと会った時は、彼女を救ってはくれぬか?』

 

『……唐突すぎて紅茶吹きそうになったわ。いや、救ってくれないかって……もうちょっと具体的な案をな』

 

『――このとおりじゃ』

 

『……頭下げんなよ、誇り高い吸血鬼はどうした?』

 

『ふん、儂の孫さえ救われるのならば――吸血鬼の誇りなど捨ててやるわ!』

 

『おま――っ! ………………はぁ、期待はすんなよ』

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

side 紫苑

 

紅魔館の中は広かった。

 

というか広いというレベルじゃない。

外観から「相当広そうだなー」とは思ってはいたが、美鈴から聞いた人数が住んでるとは考えられなかった。2階建ての大きな家に住んでる俺が言える立場ではないが、上には上がいると身を持って実感している最中だ。

館というより城の域に達しているレベル。

 

相変わらずの紅い装飾品に悪趣味さを感じながら、俺は美鈴と並んで館の廊下を歩いていた。

 

「ところで紫苑さん、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「堅苦しい敬語で聞かなくていいぞ? ……なんだ?」

 

「あはは、これは癖でして……。紫苑さんが言ってた『壊神』というのは誰なんですか?」

 

「………」

 

……自分で発言した失態なのは確かだが、俺はいったいどんな顔をしているのだろうか?

彼女が知らなくても良いことだし、どちらかと言えば壊神(アイツ)の事は知らない方が今後を楽しく生きられるのは明白だろう。あれは常識あるものが関わってはいけない存在。

 

唸りながら考えること数十秒。

結局俺は教えることにした。

 

「……美鈴、フランドール・スカーレットの能力は〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕というのは知ってる。その能力は、形あるものを破壊するって認識で間違いないよな?」

 

「え? えぇ、妹様は物資から生命まで破壊が可能ですが……」

 

「俺が言った『壊神』って奴は、彼女の上位互換の能力――〔森羅万象を破壊する程度の能力〕を持ってる不老不死のキチガイ野郎なんだよ」

 

「……え?」

 

「〔森羅万象を破壊する程度の能力〕……形あるものから見えないもの――精神や幻想すら破壊してしまう、フランドールよりも相当たちの悪い能力だ。加えてアイツは不老不死の体質っていうオプションまでついてるから、外の世界の大妖怪ですら鼻歌混じりに殺せる正真正銘の化物なんだぜ?」

 

美鈴は目を丸くし、俺にはその反応が当たり前なのだと再認識した。あの街にいると感覚が狂う。

よくアイツとも死闘をしたことはあるが、毎度毎度頑張って辛勝するのが精一杯だった。一歩間違えれば死亡なんてザラじゃない。地面やら建物やら壊していく姿を見て良く思ったけど、俺なんで生きてるんだろ?って闘うたびに考えてたわ。

 

それを言い出したら、他の3人も化物だったけどさ。

 

「ふふっ」

「?」

 

笑い声がした隣を見ると、美鈴が楽しそうに微笑んでいた。

俺の話のどこに笑う要素があったのか首をひねって考える。

 

「紫苑さんは、その壊神さんとは仲が良かったんですね」

 

「んー……仲が良かったか……?」

 

「その人の説明してる時、紫苑さん笑ってましたよ?」

 

え? 俺が笑っていた?

俺は唖然としてしまった。あのキチガイ野郎の話しているときに笑ってしまうとは……。

 

「……確かにアイツらとは仲が良かったよ。まぁ、もう会えないけど」

 

「どうしてですか?」

 

「俺が幻想入りしちまったしな。もう会うことなんてないだろうよ」

 

「……あ」

 

失言だったと言わんばかりに謝ってきた美鈴をどうにかして宥めながら歩いていると、紅魔館の中でも広い空間にたどり着いた。

紅いシャンデリアに紅いステンドガラス、紅のオンパレードに目を細めつつ館内の構造を観察していると、美鈴が広間の一角に向かって走っていった。

そこにいたのは、

 

 

 

 

 

「咲夜さん!?」

 

 

 

 

 

広間に散乱する無数のナイフと、先ほどの美鈴と同じようにボロボロになったメイド服姿の女性だった。

銀色のショートヘアーの美女は美鈴の声に反応して体を起こそうとするが、うまく行かずに仰向けに倒れてしまう。美鈴はメイドに駆け寄り、俺は道端にあるナイフを回収しながら進む。

 

「……中国、何やっているの? 早くお嬢様を……うっ」

 

「咲夜さん! ボロボロなんですから動かないでください!」

 

「でも紅白巫女がお嬢様のところに……」

 

霊夢、なんか嫌なことでもあったのかね?

遠くから見る限り致命的な外傷はなく、ただ動けないほどに痛めつけられたって感じだろうか? 異変の元凶に加担したんだし、当然の扱いか。外の世界だと問答無用で抹殺されてたし、幻想卿のほうがマシと言えばマシなんだろうけど。

俺は十数本のナイフを持って美鈴とメイドの傍に近寄る。その気配を察知した美鈴が振り返って助けを求めてくる。

 

「紫苑さん、治療をお願いできますか!?」

 

「俺は医者じゃないんだぞ? 別にいいけどさ……」

 

俺は美鈴の時と同じようにメイドの腹部に手を当てて第8の化身『雄羊』を使用した。

『雄羊』は西洋で『豊穣』の象徴とされ、雄羊の所有数がそのまま国力を示していたと言われるほどだ。第8の化身は『自分や対象の肉体・力の回復』をする事が可能で、十の化身の中でも1・2位を競うほどの使用頻度が高い化身でもある。

普通ならば使用頻度が低そうな化身のイメージだが、あの化物集団の中にいたことを考えれば当然の結果だとは思う。

 

メイドの体は『雄羊』によって10秒も経たないうちに全回復する。

彼女は自分の体にあった傷がなくなったことに驚きながら立ち上がる。

 

「ほれ、こんくらいで大丈夫だろ」

 

「……ありがとうございます」

 

メイドは警戒しながらも俺に礼を言ってきた。

いくら近くに美鈴がいるからって、紅魔館に見知らぬ男がいれば警戒するのも当然か。

というわけで名乗ろう。

 

「自己紹介が遅れたな。俺は夜刀神紫苑っていう普通の人間だ。能力持ちだけど」

 

「……私は紅魔館のメイド長を勤めております、十六夜咲夜(いざよいさくや)と申します。この紅魔館にどのようなご用件で?」

 

「ちょっと昔の約束を果たしに来ただけだよ」

 

最近のメイド長は戦闘もこなすんだな……とナイフが散らばった風景を横目に驚く。

というかメイドというものを見たことがなく、俺のメイド知識はアニメが基本なので、表には出してないけど本物のメイドにハイテンションだったりする。

 

「彼はお嬢様の古い友人の知り合いだそうですよ」

 

それは俺とお嬢様は赤の他人じゃね?と俺は美鈴の説明を聞きながら素直に思ったが言わない。

 

「知り合いからスカーレット姉妹の話を聞いたことがあって、その知り合いからの伝言とか約束やら頼まれてるってコト」

 

「そうでしたか……これはとんだご無礼を」

 

「畏まらなくていいよ。とりあえずスカーレット姉妹の妹の方に会わせてもらえれば――」

 

妹への面会を求めようとしたとき――

 

 

 

凄まじい爆発音と共に広間の床が木っ端微塵に吹き飛んだ。

その破壊のされ方に既視感を覚え、妹様とやらに会う手間が省けたと思うと同時に、これは荒れてるな……と他人事のように溜め息をついた。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

side 咲夜

 

粉塵が舞い上がり、私と美鈴は唖然とする。

バラバラになった床下から飛び出てきたのは金髪の幼子。

 

「あははハ! 見つけタ!」

 

「妹様……!?」

 

瞳に狂気を宿らせた妹様だった。

口が裂けていると錯覚してしまうほど口を歪めて笑い、手に持っている首のない人形を抱えて立っている。

妹様は周囲を一瞥し、私たち3人を確認すると一層嗤う。

 

「咲夜と美鈴と……玩具?」

 

「玩具って酷いな。俺は紫苑って名前だぞ」

 

私の左に立っている黒髪の少年ーー紫苑様が不満そうに訂正する。

美鈴曰く「お嬢様の友人の知り合い」だそうだが……端から見れば普通の人間にしか見えない。他者を回復させる能力を持っているらしいけれど、戦闘に慣れてるような雰囲気には思えなかった。

それでも紅魔館の客人。私は紫苑様に害が及ばぬよう前に出ようとしたが、先に彼が妹様に近づく。

 

「お前がフランドール・スカーレットか?」

 

「そうだよ! よろしくね!」

 

「おう、よろしくなー」

 

妹様の狂気に気づいているのかいないのか、紫苑様は手を振って友好的に接している。

こちらから彼の表情を窺うことはできないけれど、態度からは妹様を恐れているようには見えない。

同じことを考えたのか、妹様も首をかしげている。

 

「紫苑は私のこと怖がらないんだね」

 

「?」

 

「私はね、〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕を持ってるんだ。だから皆は私に近づいてこないの」

 

「ふーん。まぁ、俺には関係ないことだな」

 

「!? あははハ! 紫苑は面白いね!」

 

「そりゃどうも」

 

紫苑様は何かを考えるように妹様に対応する。

そして彼は主の妹との距離を数メートルまで縮めて、妹様をあまり刺激させないような態度で尋ねる。

 

「フランドール、ちょっと聞いていいか?」

 

「フランでいいよ! どうしたの?」

 

「分かった。単刀直入に聞くけど

 

 

 

 

――お前って誰かを殺したことある?」

 

 

 

 

 

「!?」

 

態度は刺激させないものだったが、質問の内容は地雷を踏むのと同義の威力があるものだった。妹様の楽しそうな表情は一転して、ひどく怯えたように一歩後ずさる。本当に単刀直入だ。

少女にする質問ではないし、妹様の表情からしたことないのは明らかだが、紫苑様は責める素振りもなく質問を繰り返す。

彼が何を考えているのかが分からない。

 

「わ、私は……」

 

「この答えは『はい』か『いいえ』で答えられる質問だぞ? 何を戸惑ってる? 素直に答えてくれて結構だ」

 

「こ、殺してない……けど、私の能力は壊すものだから……」

 

「なるほどなるほど、それで地下に引きこもってたわけか。……壊神よりはマシか」

 

情報を整理するように何度も頷く紫苑様。後半部分の言葉は小さくて聞こえなかったが。

 

この状況をどうすればいいのか美鈴と顔を見合わせたとき、遠くから数人の足音が聞こえた。

振り返るとお嬢様と紅白巫女、パチェリー様に白黒魔法使いが走ってくるのが見える。お嬢様は妹様の姿を確認するな否や、冷たい声で言い放った。

 

「フラン! 地下室に今すぐ戻りなさい」

 

「お姉様……でも……!」

 

「いいから戻りなさい。私の言うことが聞けないの?」

 

「お、おい。いくらなんでも高圧的に言い過ぎじゃ」

 

「人間如きが口を挟むな! これは私たちの問題よ」

 

止めようとした紫苑様の言葉を、お嬢様は覇気を込めて睨み付けて黙らせる。吸血鬼の覇気に思わずあとずさる……ということは全然なく、紫苑様は呆れたように頭を振った。そして「じーさんの言ってたのはコレかよ……」と小さく呟いていた。

お嬢様の言葉に妹様が涙目になり「私は……私は……」と言葉を繰り返しながら壊れた床に踞る。

 

「紫苑さん、何でここにいるの!?」

 

「私用で来た」

 

「今どういう状況なんだぜ!?」

 

「絶賛すれ違い中ってところかなぁ」

 

紫苑様は紅白巫女と白黒魔法使いの質問を一言で片付ける。

あまりにも省略しすぎて、間違ってはいないが肝心なところが伝わっていない。美鈴はパチェリー様に詳細を説明している。

 

お嬢様はいまだに妹様に戻るように命じる。私はお嬢様の言葉を止めることができずにいると、背筋に悪寒が走った。

 

 

 

 

 

「あははハハ」

 

 

 

 

 

妹様の方を見ると踞っていたはずが4人に分身して、4つの小さなはずの口を大きく歪ませ、8つの狂乱に染まった瞳でお嬢様を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「アハハははははははハハハハははははハハははは!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう地下室ハ飽きタ!」

 

「オ姉様! イッぱい遊びマしょ?」

 

「たくさンたくサん壊しちゃエ!」

 

「アハハ!!!!」

 

狂ったように笑い出す妹様達。広間の壁に亀裂が入り、スタンドガラスや照明が次々と粉砕していく。

お嬢様は手に大きな紅い槍を握り、紅白巫女は札を数枚取りだし、白黒魔法使いは八角形の物体を構える。

 

「人間、さっさと下がりなさい!」

 

「そんなこと言ってる場合かよ!?」

 

「紫苑さん、そこ退いて!」

 

――このままお嬢様と妹様を戦わせてはいけない!

私はナイフを手に、我が主の妹に語りかけた。

 

「お止めください、妹様! 今ならまだ……!」

 

「さくヤ? 煩いよ?」

 

フラン様たちが私に目を向けた瞬間――私は強く吹き飛ばされた。

バランスを崩して盛大に倒れ、ヒビが入り抉れた地面に身を投げる。

 

 

 

な、何が……。

 

 

 

状況が掴めず妹様たちを見ると、唖然としたように、怯えたように止まっている。周囲も呆然と私に視線が集まっていることが分かった。

わけが分からず身体を確認すると――メイド服が鮮血に染まっていた。白と黒のメイド服だったが、もはや紅色の部分の方が多い。けれど私は倒れた痛みを一切感じないし、どこも怪我をしているようにも見えない。

 

――ポタリ、と頬に赤い液体が降ってきた。

横しか見てなかったため上を確認してなかった。

私は視線を上に――

 

 

 

 

 

「――え?」

 

 

 

 

 

広がる光景で状況を全て把握した。

 

私を妹様の能力で破壊されないように突飛ばし

 

 

 

妹様の能力を飛ばした右腕で受け

 

 

 

肉片や骨の欠片を撒き散らして

 

 

 

右肘から先を無くした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――紫苑様だった。

 

 

 




紫苑「マジ痛いなぁ」
霊夢「それ痛いで済むレベルなの!?」
咲夜「は、早く手当てを!」
紫苑「いや、後書きで治されると続きが……」
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