東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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 今回のコラボはなかじい先生の『東方刀妖の旅』です。
 なんか本編の伏線にもなってる気がする(´・ω・`)


二話 東方刀妖の旅

 この幻想郷の人里にある、ある店には不思議な客が来る。

 

 

 

 紫苑は諸事情からその店の店主に店番をお願いされた。店主には常日頃お世話になっているので。

 店を任されるとき、店主から妙な話を聞かされる。

 

「――は? 変な客が来ることがある?」

 

「時々ね。人里では見かけたことのない客が、夜に来ることがあるんだよ。紫苑ちゃんなら何かされる心配もないし、ちゃんと金を払って帰ってくれるから心配ないんだけど……」

 

「おばちゃん、『ちゃん』付けは止めてくれ……」

 

 そんなこんなで紫苑は夜の居酒屋を任されることに。

 料理を作るのは慣れてるから心配ないとして、問題は『時折来る見慣れない客』。被害を被ったという話は聞かない上、変でも客は客だからと黒髪の少年対応することになった。

 

 ――少年は知らなかった。

 その店の扉は夜零時に空間そのものが捻じ曲がることを。

 とある悪戯好きの存在により、現在過去未来、あらゆる時空・次元の客が迷い込んでしまうことを。

 

 

 お披露目するは一夜限りの邂逅。

 交わるはずのなかった物語の主人公との出会い。

 その出会いは偶然か必然か。

 

 

 今宵、店の扉は開かれる。

 短い出会いの中、あなたは何を得る?

 ほら、扉を開けたその先には――

 

 

 

 

「――いらっしゃい、お客さん」

 

 

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「………」

 

 シャコッ、シャコッ、シャコッ。

 客のいない時間に俺は包丁を無心に研ぐ。レンガ程の砥石をキッチンに置き、包丁の刃をなるべく水平になるよう心掛けて、ギリギリ目視できるくらいの刃の凹凸をなくしていく作業。

 この包丁は店のおばちゃんが大切にしていたもので、元々は刀造り専門の鍛冶職人が作った業物らしく、こと切れ味に関しては店にあるどの包丁よりも鋭い。俺も刀鍛冶の作った包丁を何本か所持しているが、ここまで使い込まれた刀包丁を見るのは久しぶりだ。

 刺身とか解体するときもスムーズにさばけるんじゃなかろうか。

 

「………」

 

 故に俺は真剣に研ぐ。

 店の明かりに照らしては刀包丁をゆっくり整える。

 あんまり研ぎ過ぎると刀身がなくなっちまうからね。

 

 そして俺が満足する刀身になり、思わずニヤけ顔で包丁を眺めていた時――その現象は起こった。

 

「……ふぅ、今日も疲れたぜ」

 

 まるで風呂上がりのオッサンみたいな声を上げながら、その客は入ってきた。

 瞳を閉じたやや赤みがかった黒い髪をオールバッグに流し、赤と黒の着流しを綺麗に着こなす美男子。俺よりは少し年上の外見だが……外見なんて年齢を計る基準になり得ないのは俺が良く知っている。

 またあの暗闇(アホ)の仕業か。嘆息しながらも、俺は頭をかきながら入店してきたお客さん(異界人)をカウンター席へ促す。

 

「いらっしゃい、お客さん」

 

「……はい?」

 

 やっと目を開いた男性はきょろきょろと周囲を見渡し、ようやく自分の状況を把握したのか、焦りながら入ってきた扉を開けて外を見る。もちろん彼の居たであろう世界には繋がっておらず、俺の見知る幻想郷の人里の夜特有たる静かな舗装されていない道が広がるだけだろう。

 驚く男性は外と店の中を交互に見て、俺に視線を移す。

 その瞳には疑心が映っていた。

 

「……お前がやったのか?」

 

「さぁ? 俺は君がここに来た理由は知らないし、ただ入店してきた客をもてなす一介の店員に過ぎないぞ」

 

 その言葉に嘘がないと分かってくれたのか、渋々と彼はカウンター席に座った。

 ……うん、嘘は言ってない。連れてきた野郎に心当たりはあれど、()()()()()()()()()までは検討もつかないからだ。

 

「……一つだけ言っておくと、この店には奇妙な客が来るって噂がある。まぁ、適当に飲み食いしたら帰れるってのは確認済みだし、ゆっくり寛いで行くがいいさ」

 

「お前って歳の割には妙に爺臭いこと言うんだな」

 

 男性のストレートな発言に心抉られる爺臭い俺。

 し、仕方ねーじゃん。

 俺の周囲には齢数億年とかいう化物がいたんだからよ。

 

 しかし俺は店員。そのような心の傷を気取られることなく、メニューを黒髪の男性に手渡した。

 男性は適当に魚物の酒のつまみになりそうなものと、最近入荷した珍しい日本酒を注文する。メニューとか言ってるが出すものは俺に一任されているため、魚のカルパッチョを手慣れた手つきで作る。

 この料理は街にいた時の上司『要塞』が好きだったものだ。

 

 鯛の白身の部分を薄く包丁で切っていると、黙っていた男性は不意に声をかけてきた。

 俺は手を止めずに応答する。

 

「なぁ、ここはどこなんだ?」

 

「うーん……分かり易く説明すると、現世で忘れ去られた人間や妖怪とかが細々と生活する最後の楽園ってところかな。ここは人里ってところなんだけど、もちろん妖怪や神様も存在するわけだ」

 

「人間と……妖怪が……共存……?」

 

 信じられないと言いたげに驚愕を露わにする男性に、俺は赤ピーマンや玉ねぎ、黄色いパプリカを薄くスライスしながら、アkレに見えないように苦笑いを浮かべる。

 俺だって言っときながら未だに信じられない。

 紫が作ったと言ってなかったら――それこそ切裂き魔などが発言したのなら「寝言は寝て言え」と一蹴すると確信している。

 

 そのあとも彼は幻想郷の特色や建物、どんな人や妖怪がいるのかなどの質問をしてくる。それに実名は伏せた状態で彼の質問に答えられるものは全て答えた。

 答えながらも手は止めないがな。

 一個のレモンを半分に切り、半分の皮の方を薄く細かく切り刻む。そして大きく平たい皿に、花になるよう鯛の刺身を円を描くよう盛り付け、中央にピーマンや玉ねぎなどをスライスした山を綺麗に飾る。鯛の刺身の上にはレモンの皮を少し散りばめ、パセリを山の上に添えた。

 最後に味付けとして塩とブラックペッパー、オリーブオイルを鯛の上に渦巻き状に描きながらかけて、残った半分のレモンを絞り汁を全体にかける。ほら、完成。

 

「へい、お待ち」

 

「うおっ……こりゃ凄いな」

 

 出された皿に盛りつけられた料理を見て、男性――斑雲陣(むらくも じん)は歓声を上げる。

 料理の見た目も彩に溢れているから、これを若い女性達に振る舞うと喜ばれることが多い。しかも酒に合うし、知人からも人気の逸品だ。

 名前は話している途中に教えてもらった。

 

 それと注文していた日本酒も瓶一本を渡す。

 水割り用の冷や水とコップも一緒に、だ。

 

「いただきまーす……うわ、美味っ!」

 

「作った甲斐のある反応ありがとうな」

 

 これだから料理というのは止められない。

 陣さんの美味しそうに頬張る姿に、微笑みながら料理の後片付けに取りかかった。

 

 

 

 

 

「なぁ、紫苑さん」

 

 こう話を切りだしてきたのは料理が半分になってから。

 ふと真剣な表情で俺を見据える男性に、俺はいつも通りの対応をする。

 

「どうした、お客さん」

 

「人間と妖怪の共存は本当に可能なのか?」

 

「無理に決まってるだろう?」

 

 率直かつ素直に答えてみたが、ほろ酔いの陣さんは目を見開いた。

 ここが『人間と妖怪の共存する世界』なだけに、その間逆のことを俺が言ったからだろう。

 

「確かにここは人間と妖怪の共存に限りなく近い世界だ。それは否定しないし、偽りようのない真実だよ。だが、本当の意味で『共存』できるなんぞ思ったことは一度もないな。実際にここのシステムは『人は妖怪を畏れ、妖怪は人を襲う』だからな」

 

「……それは共存って言えるのか?」

 

「だから言っただろ? 限りなく近いって」

 

 まな板の汚れを水で流しながら持論を語る。

 

 妖怪という生き物が『人の畏れ』から生まれた存在である限り、人間と妖怪は相容れない存在だということは街で嫌というほど理解した。街の妖魔達は幻想郷以上に能力至上主義で、人間を見下す輩と多くで会ってきた上での回答だ。一方の人間も排他的な種族で、自分とは少しでも違うものを過剰なまでに迫害する傾向がある。

 以上の連中が共存? 手を取り合って笑い合う?

 幼稚園児の夢溢れる理想論じゃねぇんだよ。

 

 無論これは俺の見解で完全に正しいとは思わない。

 それでも彼は酒で喉を潤しながら俺の声に耳を傾けていた。

 

「――だが、妖怪も人間がいなきゃ生きられない」

 

「食料って意味でか?」

 

「それもあるけど……もっと重要なことだ。要するに、人間が『妖怪』を認知しないと妖怪は生きていけないってことさ」

 

「……あぁ、なるほど」

 

 妖怪は畏れにより生まれた。この事実が覆らない限り、人の記憶に『その妖怪』が消えてしまうと妖怪は存在を保てなくなる。

 これが『妖怪も人間がいなきゃ生きられない』って意味だ。

 だから人々に忘れ去られた妖怪は幻想郷に逃げ込んでいる。

 

「人間は妖怪を作った要因であり、妖怪は人間が存在しないと生きられない。これを共存と呼ぶべきかどうかは知らんが、少なくともここでは以上の事実で均衡を保っている」

 

「うーん……」

 

「納得するかしないかは、お客さん次第だけどね。どんだけ悩もうと変えようのない事実だが」

 

 『何を以て共存とするか?』が個々によって違う限り、この問題は延々と平行線を辿ることだろう。実際に紫は幻想郷という共存の場を作り、博麗の巫女というストッパーを置いたけれど、これが共存と呼べるかと自分達の友人に聞いたら様々な見解を得られるはずだ。

 俺は紫の作った幻想郷が正解に近いと思うがな。

 

「紫苑さんは随分と中立的な立ち位置だよなぁ」

 

「俺は人間だけど妖怪が襲ってきたら腕力と権力の全てを以て排除するからねぇ」

 

「……もしかして紫苑さんって結構強い?」

 

「ははっ、俺はか弱い人間様だぞ?」

 

 腕力(自分の持ちうる全ての能力)と権力(霊夢や紫などの人妖関係)に縋ることしかできない一般人だ。伊達に『敵に回してはいけない化物』の中で最弱を誇っていたわけじゃない。

 なんて『何を以て共存とするか?』議論をしていたら閉店時間となった。

 議論とは白熱すると時間を忘れるものだ。

 

 帰り間際に「あ、お金……」と真っ青にした黒髪の男性に、ポケットの中を指摘すると、見覚えのない金が入っていたことに驚いていた。

 これは暗闇の常とう手段だ。俺も前にそういう方法で渡された経験がある。

 

「料理美味しかったぜ、また来るよ」

 

「ありがとうございましたー」

 

 こうして男性は元の世界に戻っていた。

 俺は片付けをしながら彼のことを思い出す。

 

 どうも斑雲陣は『人間と妖怪の共存』は不可能だと思っている節があるよう見受けられる。だから俺に『人間と妖怪の共存』を尋ねてきたのだろう。俺の意見が参考になるのかは彼次第だけれど、彼なら自分の立ち位置を明確に決めるだろう。

 不思議と……そんな気がする。

 

 もう会うことはないだろう異界の彼に届くことはない「頑張れよ」を呟くのだった。

 

 

 

 




【作品名】東方刀妖の旅
【名前】斑雲 陣(むらくも じん)
【年齢】不明(見た目は大学生位)
【能力】刀剣を創り出す程度能力。手から刀や剣を生やす。デメリットは無し。
【性格】温厚で平和主義だが、意地が悪い。睡眠時間が足りないと常にイライラする。
【話したいこと】幻想郷のこと、と人と妖怪のあり方。
【食いたいもの】酒のつまみになるもの(魚介系)。

 とのことでした。
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