東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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24話 外食

side 紫苑

 

何かに夢中で時間が過ぎてしまった、なんてことは皆様も体験したことがあるのではないだろうか? 興味のあることに時間を費やしていると、時間の流れが早く感じる。

逆に嫌なことや面倒なことをしているときはは時間の流れが遅く感じられる。アホ共や部下の始末書書いてるときや、始末書作ってるときや、始末書制作してるときとかは特に苦痛であった。

 

話を戻そう。

時間ってのは物事に集中していると体感で早く流れるのだ。

そういう俺も、非日常の織り成す幻想郷に移住しても変わらぬことで……。

 

「やっべ、もう13時か」

 

洗い物をしていて、ふと時計を見て気づいた。

今日の晩飯後に出す予定だったデザートを作っていたところ、妙に凝ってしまい昼食の準備を忘れていてしまったのだ。

台所にあるデザートを作るときに使用した道具を片付けている最中ではあるが、今から昼飯を作る気分ではない。腹は減っているけれど晩飯まで待てないほどではないから、昼飯をとるか迷ってしまう。

いっそのことカップラーメンで済まそうかな……とか考えていると、何もない空間からスキマが出現し、紫が顔を出してきた。

 

「こんにちは、師匠」

 

「おう、こんにちはー。今日は何の用だ?」

 

紫は俺が持っているカップラーメンを視界に入れて、なぜか目を光らす。まるでナイスタイミングとでも言いたげな表情だ。

 

「昼食はまだなのでしょうか?」

 

「ちょっとデザート作ってたら昼飯食い損ねたわ。カップラーメンで軽く済ませようかと思ってたんだが……」

 

「なら……人里に外食にでも行きませんか? 藍と橙も一緒ですが」

 

俺は紫の提案を聞いてカップラーメンを見つめる。

そういえば、幻想郷に来て人里で食事をしたことはないな。買い出しで訪れることはあるが、家で作って食べることがほとんどだ。晩飯を食いに来る連中もいるから尚更なので、人里で作られる料理には俺も興味がある。

図ったように食材の備蓄も少なくなってきたし、人里へ買い物行くついでに食事をしてみるのも悪くないか。

 

「いいぜ。買い物ついでに行こうか」

 

「準備が出来たら声をかけてください」

 

「OK、少し待っててな」

 

俺はカップラーメンを戸棚に仕舞って、財布とスマホを取りに行った。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

side 紫苑

 

場所は変わって人里の賑わう通り道。

 

「んで、何食う?」

 

「藍様にお任せします」

 

「紫様にお任せします」

 

「師匠にお任せします」

 

流れ流れに俺に選択権が回ってくる。

決めてないのかよ、と俺は溜め息をついた。

 

人里にスキマで快適に到着した八雲ご一行と俺は、いつも賑わっている人里を並んで歩いていた。

まぁ、歩いてるだけで飯が食えるわけではないので、3人に要望を聞いてみた結果がこれだよ。こんなのアホ共に聞いたら口揃えて『肉!』って答えるのに……なんとまあ謙虚なことか。

 

というか人里で食える場所を俺が知るよしもなく、目測で周囲を見渡す。昼食決定が俺に託された訳なので、人里の飯が食えるところをを探していると……ある定食屋が目に入った。そこそこ人がいる。

 

「あそこにしようぜ」

 

定食屋に入った俺たちは4人用のテーブル席に座る。俺の前が紫、横に橙。紫の隣が藍。

メニューはそこまで多くはないが、簡素に定食の名前が書いてあって逆に迷ってしまう。横目で周囲の人里民が何を食べているのか確認したところ……圧倒的に『きつねうどん』を食している。

 

 

 

……ここ、定食屋だよな?

麺所じゃないよな?

 

 

 

「うーん……無難に『唐揚げ定食』でも頼むか」

 

「なら私は『きつねうどん』で」

 

「『冷し中華』……この時期に?」

 

紫と藍はメニューを決めたようだ。

藍は『きつねうどん』を頼むのは……うん、知ってた。紫の『冷し中華』は物珍しさって感じかな? 冷し中華を冬に出すこの店も相当チャレンジャーだとは思うが。

 

「私は……えーと……」

 

「焦って決めなくていいぞー」

 

自分以外が決まったということで、焦ってる橙の頭を優しく撫でる。

俺はロリコンじゃないけど、橙の頭の撫で心地は表現しずらいほどに気持ち良い。

 

実は橙との交流ってのは意外と少ない俺。

冬が近いせいもあってか、俺の家に藍と一緒に来ても大半は寝ている。俺がリビングのカーペットで雑魚寝してると、俺の腕を枕代わりに使用してることもあるが、会話したことなど数えるほどしかない。

幻想郷に来て1ヶ月経っていて、家にもよく来ているのに交流が少ないのも妙な話だがな。

 

「――紫苑さんと同じものにします!」

 

「そうか、なら店員呼ぶぞー」

 

定食屋で働いている人間を『店員』と呼んでいいのかは分からないけど、俺は近くにいた人を呼んで注文をする。若くて可愛いお姉さんだった。

 

注文した後は待つだけなのだが、俺は無意識にスマホへと手を伸ばして苦笑いを浮かべる。なんというか……外の世界では待ち時間にスマホ弄るのが癖になっていて、ここでも同じようなことをしてしまうな。

というか幻想郷で電話機能が使えないわけなのだが、なぜかSNSは使えるのだ。まぁ、あの上司から渡されたスマホだし、別れ際に『ボクのツイート見てね!』みたいなこと言われたから、SNSが使えるのは予想の範囲内だった。

上司の食レポにクソリプを大量に送っていると、紫が会話を振ってきた。俺はクソリプを中断する。

 

「最近どうですか? 幻想郷に慣れましたか?」

 

「慣れてきた、って言ってもいいのかな。霊夢や魔理沙、アリスと妹紅やらが毎晩飯を食いに来る光景が日常となるくらいには慣れたよ」

 

「れ、霊夢が毎晩?」

 

「うん」

 

引きつった笑みを浮かべる紫に、俺は隠すことでもないので素直に答えた。藍も額に手を当てている。

えぇ、毎日来ていますよ。欠かすことなく。

 

「まったく……あの子ったら……」

 

「ちゃんと毎回おかわりまでするぞ」

 

「すみません、今度厳しく言っておきます」

 

「気にすんな。あんな毎回笑顔で食べてくれると作ってるこっちまで嬉しいし、最低限のマナーを守って食ってくれるから苦にならん」

 

当代の博麗の巫女は面倒くさがり屋と噂で聞いたことがあったが、所詮は百聞は一見に如かずって身を持って思った。家で靴を脱ぐときはきちんと揃えるし、頂きますご馳走様も言う。皿洗いまで率先してやってくれるし、とても良い子だと感じる。

ちなみに彼女にはカレーの日に残ったカレーをタッパーに入れて渡している。

次の日にはタッパーを綺麗に洗って返してくれるのだ。『とても美味しかったわ!』って笑顔で言ってくれるから、こちらも自然と笑顔になるってものさ。

 

「魔理沙は迷惑をかけておりませんか? アリスや妹紅は大丈夫だとは思うのですが……」

 

「え? 魔理沙も食後の台拭きとかしてくれるよ?」

 

「何か盗まれるようなことは?」

 

「藍さんは心配性だなぁ。彼女も手がかからない良い子じゃないか」

 

そういえば地下の書庫から本を借りていくことがあるな。

前に『死ぬまで借りていくぜ!』とか言ってたときに、ついアホ共と同じ感覚で言葉を返してしまったことを少し後悔している。あの日以来から魔理沙が物を返すようになったと報告を受けたし、結果オーライ……なのかもしれない。

ちなみに魔理沙はキノコ系の料理が好きで、余ったものを渡すと上機嫌で帰っていく。

 

アリスは藍さんの言う通り、霊夢の洗った皿を拭いてくれる。上海と蓬莱と一緒に。

家に早めに来る彼女は人形達と部屋の掃除まで手伝ってくれるから、いつもリビングは清潔に保たれている。素晴らしすぎて涙が出るわ。

 

妹紅は……他3人程じゃないけど、週3.4くらいのペースで食事に来る。

幻想郷にとってオーパーツである掃除機を何気に使いこなしている辺り、物覚えが良い子なのかなって感想だ。

 

というか4人とも食材を持ってきてくれることもあるから、むしろ自分が助かってる節があるような。

 

「師匠の手を煩わせないなら別にいいのですが……」

 

「考えすぎだって」

 

「紫苑さんの料理は美味しいのですか?」

 

「なんなら橙も晩飯食いに来るか?」

 

4人からは俺の料理が大好評らしいので、とりあえず食べられるものは出せるはずだ。

妖怪の口に合うかは定かではないが、紫と藍さんも食ったことはあるし大丈夫だろう。……とりあえず猫が食えないものは料理の中から省いておくか。

 

「はいっ」

 

「なら今晩は何を作ろ――あ、料理が来た」

 

それぞれの前に注文したものが運ばれてくる。

ファミレスなら作った順番に来るせいか、バラバラに運ばれてくることが多いが、ここは一気に出してくるのか。

それじゃ手を合わせて、

 

「頂きまーす」

 

「「「頂きます」」」

 

「……ほう」

 

出てきた唐揚げを口の中にいれると、肉汁が口の中に広がった。

外はパリパリ中は柔らかい唐揚げに、思わず感嘆の声をもらす俺。

ぜひともレシピを知りたいところだが、これを商売として出しているのだから、聞くことは不可能だろうな。また来よう。

 

「あちっ」

 

「大丈夫か? できたてだしゆっくり食べないと」

 

橙が舌を冷ましている様子を横目で気にかける。

橙は猫舌か。いや、猫だから当たり前か。

ある意味では紫が美味しそうに食べてる冷し中華が、橙には会っていたのかもしれない。

 

「……70点」

 

藍さん、なんでうどんに乗ってる油揚げを採点してんの?

うどん評価しようぜ?

 

それにしても他人と外食なんていつ以来だろうか?

そうやって、あの化け物連中のことを思い出していたからだろう。八雲一家の食事を眺めていたら、

 

 

 

 

 

『オイ! 俺様の肉取るんじゃねェよ!?』

 

『早い者勝ちだよー』

 

『このピーマンは儂のものじゃぁ!』

 

『店の迷惑になるから静かにして下さい!』

 

 

 

 

 

一瞬だけ――そう、一瞬だけアイツらで行った最後の(・・・)外食を思い出した。まだヴラドのじーさんが生きていたとき。そういえば、あれ以来外食には行ってなかったな。

アホ共のアホ共によるアホ共のための焼き肉戦争。金に困ってない連中が集結しているにも関わらず、俺を含む5人が大人げなく肉を巡って争っていた昔。

あの頃は……本当に楽しかった。

 

そこまで思い出して、俺は頭を振った。ここは幻想郷だ。

所詮は過去の思い出に過ぎない。

アイツらとは違って八雲一家の食事は静かなのに、なんで昔のことを思い出したのか……?

 

「……紫苑さん?」

 

俺の表情がいつもと違うことを察したのか、橙が不思議そうに首をかしげていた。紫と藍さんにはバレているらしく、すっごい不安そうにこちらを見ている。

 

いかんいかん。

俺はすぐに笑顔を向けた。

 

「さ、食べたら買い物だな」

 

「……師匠」

 

「俺は大丈夫さ。ここも楽しいからな」

 

そう、外の世界以上に優しい幻想郷。

不満などあるものか。毎日が充実している。

 

 

 

 

 

なぜか後半に食べた唐揚げはしょっぱかったけど。

 

 

 

 




紫苑「困った時の晩飯・カレー」
霊夢「ひゃほおおおおおおいいい!!」
紫「年頃の女の子が出す声じゃないわね……」
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