東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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この作品には以下の内容が含まれております。

・作者の妄想から生まれた作品
・痛々しいまでの中二病表現
・拙い文章力
・達観したオリ主

以上の要素が苦手な方はブラウザバックすることをお勧めします。
それでもよろしければ、ゆっくり楽しんでいってくださいm(__)m


序章 賢者の願いと叶える師
プロローグ


 

 

 

語ろうか、終わる物語を。

語ろうか、始まりの物語を。

 

 

 

気まぐれな存在なき存在によって作られた箱庭を生き抜き、あまねく種族から認められた一人の少年の終わりの話を。

その一人の少年から教えを請い、『全てを受け入れる、忘れ去られた者達の楽園』を作り上げた一人の妖怪の終わりの物語を。

 

 

 

終わりは始まり。

始まりは終わり。

 

 

 

歯車は合わさり、舞台は整う。

 

 

 

後は――物語を奏でるだけだ。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

コーヒー豆の香ばしい匂いが充満するお洒落な喫茶店。

その店のテーブル席でコーヒーを飲みながら本をパラパラめくる黒髪の少年がいた。

長めの黒いシャツに、ゆったりとした藍色のカーディガンを纏い、黒い長ズボンを穿いた少年。十代後半だと推測できるが、ハードカバーの有名な文学小説を楽しみながら読む姿は、非常に大人びいている印象を受ける。

 

「ハッピーエンドって最高だよな。心を豊かにしてくれるって言うかさ、世界は何もしなくても勝手に救われるって思わせてくれるところがいいと思う。現実だと、こうはいかないし」

 

店内には人が少なく、少年の独り言は他の客には聞こえることはなかった。

コーヒーカップを手に取り少量口に入れる少年は、また独り言を呟く。

 

「まぁ、理不尽な人生(・・・・・・)を送ってきた俺にとっては、こんな『めでたしめでたし』で終わる物語なんて戯言だろうけど」

 

少年の独り言には周りの客は反応を示さない――否、不自然なほどに少年の独り言は周りに聞こえていない。

そのことに少年は気づいているだろうが、まるで日常生活の一部であるかのようにその摩訶不思議な現象を受け止めている。

テーブルの上にある筆箱から栞を取り出して、本の開かれているページに挟んだ少年は目前にいる誰か(・・・・・・・)に笑いかけながら問いかける。

 

 

 

 

 

「――なぁ、そう思うだろう?」

 

「――そう言われましても、私には分かりませんわ」

 

 

 

 

 

少年の向かいの席に金髪の女性が座っていた。

扇子で口元を隠し妖艶な雰囲気を醸し出す女性は、少年の前には確かに存在しなかったはずである。

まるで――いきなり現れたかのように、少年の目には映るだろう。

しかし、少年は気にした様子もなく女性に笑顔を向ける。

 

「――へぇ、この妖気。紫か」

 

「お久しぶりです――師匠」

 

「師匠、ねぇ……。俺がお前の師匠やってた期間なんて微々たるもんだし、今の力量じゃ圧倒的に紫の方が格上じゃないか?」

 

「ご謙遜を」

 

丁寧に座りながらお辞儀をする女性――八雲紫は緊張した面持ちで問う。

 

「……驚かれないのですね」

 

「そりゃあ、あんな化物連中と年がら年中一緒にいたら驚くも何もねーよ。目の前に人が現れる現象なんて見飽きたわ」

 

「そう、ですか……」

 

「にしても、『久しぶり』と俺も答えたほうがいいのか悩むな。俺にとってはお前と別れたのは3年前って感覚だし……そっちの体感では何千年経ってんの?」

 

「それにはお答えできません。年齢がばれてしまうので」

 

「おっと、こりゃ失礼」

 

何の脈略もない会話を続ける中、終始一徹、紫の緊張した面持ちが変わることがなかった。

恐らく、彼女のことを知る者が今の姿を見たら目を見開くだろう。

『幻想郷の賢者』と称され、最強の一角と恐れられる大妖怪・八雲紫が、たった一人の少年の言動を細かく観察し注意を払うなど想像すらつかないからだ。いつも物事において二手三手先を読み行動する紫が、紫水晶の瞳を揺らしながら、まるで何かに怯える(・・・・・・)ように人間と会話するのは、たとえ彼女の式神ですら見たこともないはずだ。

たわいもない雑談に花を咲かせた少年は、一呼吸おいて小説を自分の横にあったスポーツバッグにしまい、紫に向き直る。

 

「そんで? 俺んところに来た理由は何だ?」

 

「――!!」

 

「まさか雑談しに来たってわけでもないだろ?」

 

黒曜石色の瞳に捉えられ。顔をこわばらせた紫。

少しの沈黙のあと、彼女はテーブルにあるものを置いた。

――錆付いた懐中時計だ。

 

「あんときの時計か。懐かしい」

 

「――師匠、約束を覚えてらっしゃいますか?」

 

「……約束?」

 

「私と別れるとき、『もし人と妖怪が共存する――そんな戯言みたいな世界を作ることが出来たなら、俺のできる範囲内でお前の願いを一つ叶えてやるよ』と」

 

「…………あー。そんな約束したわな」

 

で、そんな夢物語を実現させた、と?

少年の問いに紫は縦にうなずいて肯定し、その世界――幻想郷のことを語る。

その答えに、少年は心の底から感心するように「へぇ」と笑った。

 

「マジで実現させるとは思わなかったな」

 

「……疑わないのですか?」

 

「愛弟子疑うバカがどこにいるんだよ。そんで? 約束は約束だし、お前は俺に何を願うんだ?」

 

「……!?」

 

またもや沈黙が二人の間に流れる。

先ほどの沈黙より長く、少年は『どんな無理難題考えてるんだろ……?』と違う方向で心配する。

紫が沈黙するのには理由がある。彼女の願いが『彼の人生』を大きく――それこそ寿命や環境を大きく変えてしまうような願いであるからだ。自分の内に秘め続けた願いでもあるが、その願いで少年を拘束してもかまわないのだろうか? 紫は約束したあの日から今まで自問自答し続けた願いに答えを出せずにいた。

やがて決心したように顔を上げて少年を見据えた。

 

 

 

 

 

「師匠、私の願いは『私と共に生きて欲しい』です」

 

 

 

 

 

「………」

 

少年は目を細める。

少年が静かに放つ威圧に紫はたじろいてしまう。

 

「それは……俺に妖怪になれってことか?」

 

「い、いえ……ただ、私のそばにいて欲しいというかなんというか……」

 

後半部分のセリフをあいまいにする紫。

少年は大きくため息をつく。

 

「お前は言ったよな? 幻想郷は『外の世界から忘れ去られた者が行きつく場所』だ、と。つまりそこに俺が行けば俺もこの世界から忘れ去られるんじゃないか?」

 

「そ、それは……」

 

「この世界――いや、この街に友人と呼べる者は多い。ここには両親が残してくれたものもあるし、少なくとも俺はここに住んでて不満を持ったことはあるけど出ていこうなんて思うほど嫌いでもない。こんな混沌とした愉快な街、そうは見ないからな」

 

少年が言葉を発するごとに紫の顔色が曇っていく。

 

「さて、そういうことを踏まえたうえで聞こう」

 

少年は声色を低くして、賢者に問う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お前、俺をこの世界から殺す気か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

責め立てるわけでもなく、ただただ自分の疑問を口に出す少年だったが、紫の耳には自分の行動による少年の今を壊す行いを責めているように聞こえ、絶望的な表情を浮かべていた。うつむく彼女を少年は黙って見つめていたが、紫はぽつりと本心を言葉として紡ぐ。

 

「――わ、私は……この願いを叶えるために幻想郷を作りました。いつか師匠に会えることを信じて、だから、私は師匠と一緒にいたくて、それで、ずっとずっと、死にそうになったこともあるけど、でも、また会えるって……」

 

彼女の心の中をそのまま口にしたかのような、ぐちゃぐちゃで意味を成さない言葉の羅列。

消え入りそうになりながらも顔を上げて語る紫水晶の目には大粒の涙がとめどなく流れて落ちた。

その様子に、少年は何度目かもわからないため息をつく。深く深く。

少年の顔には諦めと苦笑の表情が。

 

「あー……もう、はぁ……。幻想郷に行けばいいんでしょ、行けば」

 

「……!?」

 

「どこに行こうが俺の生き方そのものは変わらん」

 

少年はいつの間にか未知の世界への好奇心が芽生えていることに気付き、それを隠すように笑う。

 

「まったく……明日はスーパーで何を買って帰ろうかなどこ行こうか迷ってたのにコレかよ……。さっきはああ言ったが、街を離れることにあまり未練はないし、ましてや頑張って来た愛弟子の願いを無下にできるほど俺は人でなしではないからさ」

 

「じゃ、じゃあ……!」

 

「いいぜ、幻想郷で生きてやるよ。それと――紫、よく頑張ったな」

 

微笑みを浮かべる少年に、幻想郷の賢者は花のような笑顔を少年に向けた。

 

 

   ♦♦♦

 

 

こうして、一人の少年がこの世界から消えた。

彼のことを憶えているものはほとんどいなくなり、少年は幻想となったのだ。

少年の名は夜刀神紫苑(やとがみしおん)

 

 

 

これは――少年達と幻想郷の住人が織り成す軌跡の物語。

 

 

 

 


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