東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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30話 3の空白

side 紫苑

 

やることがないってのは本当に暇なもんだ。

 

「ねぇ、アイツのこと教えて」

 

「未来のことか?」

 

「うん」

 

リビングでゆっくり本を読んでいると、いつもどおりホラゲをしているフランが訪ねてきた。というか、カタカタと慣れた動作でPC使ってる金髪幼女ってすげーな。姉よりも使い慣れているような気がするし、IT機器関係の順応性は帝王譲りなのか。

パチュリ―さんは隣で本を読んで、アリスは人形を作っている。幽香は「ちょっと修業してくる」って帰っていった。よほど切裂き魔に負けたことが悔しいらしい。

しかしフランの質問に二人も動きを止めた。

 

「何が知りたいの?」

 

「お兄様が知ってること」

 

「別にいいけど……」

 

「いつかアイツより強くなりたい」

 

幼女が切裂き魔に対抗意識を燃やしていらっしゃる。

フランも幽香も強いけど、未来は別次元の強さだからなぁ。

 

「九頭竜未来、17歳。半妖。街において『絶対に敵対してはならない化け物』の一人に数えられ、『切裂き魔(Airgetlamh)』とか『五重奏(クインテット)』なんて呼ばれてた。能力は〔全てを切り裂く程度の能力〕」

「それってどんな能力なの?」

「形あるものは勿論、下手すれば次元の壁すら切り裂く能力だよ。とにかく『刃さえあれば斬れないものなど存在しない』なんてチート能力さ」

 

次元の壁すら切り裂き移動することも可能という点で言えば、〔境界を操る程度の能力〕を持つ紫に近いな。

 

しょうもない例で例えるのならば『二次元戦争』かな。

昔、未来が『僕の能力で二次元行けるんじゃね?』とか言い始めて、帝王含むオタク集団がガチでやりはじめて、あちこち次元の壁切り裂いて事件レベルにまで発展したことがある。二次元越えは無理だったけど。

その結論にたどり着いた男、串刺し公・ヴラドの『一度でもいいから二次元の女の子と会いたかった』の名言は今でも語り継がれている。『あの野郎呪い受けてから、頭までおかしくなったンじゃねェの?』って壊神の言葉と一緒に。

 

話を戻そう。

アイツの能力は天変地異や天地開脈を起こせるほどのチート能力である。

 

「その能力に加えて、刀術・剣術に関しては天才の領域だ。戦いの中で無理矢理身につけた俺とは違って、剣道を自分なりにアレンジした奴だから、能力使わなくても普通に強い」

 

というか能力を殆ど使ってない気がする。

それこそ物理的に不可能なものを斬るときぐらいしか能力をしようしないし、能力なしである程度のものは切り裂けるし。

魔法使いの二人の表情が引きつる中、俺はアイツの弱点を許可なしに言う。

 

「逆を言えば……刃さえなければ弱い」

 

「呆気ない弱点ね。斬るものを封じれば勝てるのかしら?」

 

パチュリーさんの推測にフランは目を輝かせるが、俺は即座に否定する。勘違いで化け物に特攻してほしくないからな。

 

「パチュリーさん、手刀って知ってる? アイツにとってはアレも刃の部類なんだぜ?」

 

「「え?」」

 

「それに未来は俺と同じように何もない空間に物を収納できる蔵――虚空を持ってる。その中に剣の二・三十本くらい保存されてるんじゃないか?」

 

俺は藍さんに帝を返してもらったときのように、突然現れた黒い歪みに手を突っ込んで刀を取り出す。虚空は街の統括者から与えられるものであり、街で上位に位置する者なら誰でも使える倉庫みたいなものだ。

それを未来が持っていないはずがない。

フランは期待を裏切られたように肩を落とす。なんかごめん。

 

「気になったんだけど、九頭竜って何の妖怪のハーフなの?」

 

首を傾げながら問うアリスの疑問に俺は答える。

 

「サトリ」

 

「「「……え?」」」

 

「覚妖怪」

 

唖然するのも無理はないだろう。

そう、アイツは『人の心を見透かす』という、江戸時代の妖怪画集『今昔画図続百鬼』の記述や、日本全国の民話などで伝えられている有名な妖怪・覚と人間のハーフである。

だから未来は相手の行動をある程度予測(・・)できるのだ。

 

「そ、それじゃあ……」

 

「補足だけど、アイツは考えていることを『何となく』でしか読めないから、全部相手に知れ渡ってるわけじゃないよ」

 

何を考えているのか『言葉』までは分からないと、アイツは言っていた。それでも充分だけどねーって付け加えて。

それに3人は安心したように胸を撫で下ろした。

 

「〔全てを切り裂く程度の能力〕に剣術の才能、おまけに覚妖怪としての『相手の行動をある程度予測する力』――それがアイツが化物と呼ばれる所以だな」

 

「……ありがとう、お兄様」

 

笑顔でフランは言うと、またPCに向き直ってカタカタとリズミカルに音をたてる。その画面を隣で見ていたアリスが引きつった表情を浮かべていることから、もしかして今の情報をまとめてんのか?

495年も閉じ籠っていた吸血鬼は、史上最高の吸血鬼並みにIT機器を使いこなしているようだ。

 

幼女やべぇな、と俺は遠い目をして外を眺める。

相変わらずの雪。吹雪程ではないにせよ、外出なくて良かったと思えるくらいには降っている。

 

ふと脳裏に浮かぶ異変解決に行った3人+肉盾。

 

「……異変解決組は大丈夫か?」

 

「あの3人なら心配ないでしょ」

 

パチュリーさんは自信満々に答えるが、俺は不安が消えないのだ。

加えて切裂き魔までオマケとして同行してるから、滅多なことは起こらないはずなんだが……なぜか『嫌な予感』を拭うことが出来ない。

もしかして異変って毎度毎度に天災レベルの事件がくっついているのだろうか? 未来までいるのに拭えないとか異常だぞ?

つか冥界ってどんな所なんだ?

パチュリ―さんに聞いてみると、本から顔をあげて答えてくれた。

 

「冥界は幻想郷に存在する、閻魔の裁判を終えて成仏や転生が決まった霊たちがそれを待つ間に滞在する場所。そこには四季が存在して、とても美しい場所だそうよ」

 

「へぇ……そりゃ行ってみたいな」

 

「基本的には亡者以外は立ち入り禁止な場所。貴方でも難しいんじゃないかしら?」

 

死なないと行けないのかー。案外すぐかもな(・・・・・・・)

あ、でも俺は地獄行きなパターンか?

観光スポットを見逃したことに、俺は不貞腐れるように仰向けに倒れる。

 

「くっそー。未来じゃなくて俺が行けば良かったー」

 

「紫苑さんは怪我したばかりなんだから休んでないと。いくら完治してるとはいえ、もっと自分を大切にしなきゃ」

 

アリスの忠告に、フランとパチュリーさんも頷く。

もう完治してるんだけど。

 

「冥界には大きな桜の木があるんだから、もしかしたら異変後の宴会で見れるわよ。白玉楼って所にね」

 

「あ、そっか。異変解決後の宴会があるの忘れてたわ。春が戻ってこれたら桜が見れそうだなぁ。その白玉楼って所に行くのが楽し……み……」

 

俺の言葉は後半部分になって小さくなっていく。

待ってくれ。白玉楼(・・・)だと?

 

 

 

 

 

『――ねぇ、紫苑にぃ!』

 

『また遊ぼうね、紫苑にぃ』

 

『紫苑にぃと離れるなんて嫌だよ……!』

 

 

 

 

 

フラッシュバックするは過去の記憶。

ある少女との思い出。

そして――大きな桜の木。

 

俺は腹筋を使って勢いよく身体を起こす。

 

「……なぁ、パチュリ―さん」

 

「――っ!? な、何?」

 

なぜかビクッと身体を強張らせるパチュリーさん。

どうしたのかと疑問に思うが、今はそれどころではない。

 

「その桜の木って名前ある?」

 

もし俺の記憶が正しければ――

 

 

 

 

 

「「西行妖(・・・)」」

 

 

 

 

 

俺とパチュリ―さんの声が重なる。

え、知ってるの?という質問をするパチュリーさんの言葉は耳に入らず、予想が当たってしまったことに舌打ちをしつつ、俺は立ち上がってリビングに掛けていたコートを羽織る。

その行動に3人が慌てた。

 

「お、お兄様!?」

 

「ちょっと出掛けてくる。留守は任せた」

 

「安静にしてって言ったでしょ!?」

 

「あぁ、こんな雪の降ってる外に出るなんて俺でも嫌だわ。――でも、それどころじゃなくなった」

 

俺は3人の声を無視して外に飛び出し、『風』を使って人里に転移した。この化身は一度行った場所じゃないと転移できないし、同時に転送できる人数は3.4人ぐらいが限界。

紅魔館の時は近くの湖にワープしたから早く着いたけど……冥界はどうやら遠いようだ。

 

今回の異変にあの桜が関わっているのは確定だろう。それ以外に未来が処理できない要因が思い浮かばない。

蓋を開けば原因は桜。理由が分かってもアレがあるのなら嫌な予感が消えるはずがないぜ。

 

「よりにもよって……あのクソ桜かよ」

 

俺は大きくため息ついて異変元へと向かった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

side 魔理沙

 

冥界ってのは気味の悪い場所だな。

薄暗い場所で私は思った。

 

ふよふよ浮いてる光のみが光源となり、どうにか遠くに灯りがあるのが見えるくらいだ。

恐らくあそこが異変の原因だと霊夢が言うから、私たちはそこへと足を進める。足音だけが静かに鳴り響き、いっそう不気味さが増す。

 

「この光ってるやつは――魂かな?」

 

「そのようね。ここは死後の成仏・転生を待つ者の場所だから、薄暗いのも納得いくわ」

 

そっかー、と鼻歌を歌いながら進む未来。

紫苑の所でも思ったけど、本当にマイペースな奴だぜ……。

 

私は神社で紫苑にしたことは許せないけど、アイツが何とも思ってなさそうだから未来に何も言わない。被害者が気にしてないのに私が文句を言う資格はないぜ。他の面子はそうは思わないだろうけどさ。

咲夜は特に恨んでるのは今でもわかる。

それでも背中を刺されるかもしれないのに前を歩く未来には感服する。気にしていないわけでもなく、慣れている印象を受ける。

 

ある程度進むと、長い階段が目の前に表れた。

あまりにも長すぎて……これは飛んでいった方が早いな。

ほんのりと階段の横に灯籠が設置されていて、上へと続く道が迷わず分かるのはありがたい。

 

階段の上を飛びながら、霊夢が未来に質問した。

 

「ねぇ、九頭竜さん」

 

「なんじゃらほい」

 

「貴方はどうやって過去に飛ばされた紫苑さんを、元の世界に戻したの?」

 

「いつもどおり次元を斬った」

 

……もう、何も言わないのぜ。

霊夢も咲夜も唖然としている。

 

「あ、今はできないからね? あれ尋常じゃないほどの妖力を使うから、今の僕の妖力程度じゃ時間の壁は難しいね」

 

「……半年間も紫苑さんは待たされたわけだし、そのくらいの代償があったって訳ね。なんか時間を遡れる道具とかイメージしてたけど、貴方本当に半妖なの?」

 

呆れた表情で未来を見る霊夢……だが、未来の反応は違った。

目を細めて、霊夢の言葉を繰り返した。

 

「……半、年? 神殺は半年も待たされた?」

 

「どうなさいましたか? 九頭竜様」

 

「ねぇ、紫苑は半年って言ったの?」

 

「え、えぇ。そうです」

 

咲夜が言葉に詰まるくらい、未来は真剣な表情で俯いた。

情報を整理しているのかブツブツ独り言を呟く。

 

「何か問題があるのか?」

 

「――間違ってはいない。うん、何も間違ってはいない。確かに僕は紫苑からスキマ妖怪と花妖怪の師匠してたのは聞いた。そのときの話も教えてもらった。……でも、その期間(・・)は聞いてなかった」

 

「「「??」」」

 

「確かに半年だね。半年だ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――正確に言えば9ヶ月だけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……は?

 

「ど、どういうこと?」

 

「僕が紫苑を救出したのに9ヶ月かかったのさ。半年とも言えなくはないけど――はたして紫苑はそういう意味で(・・・・・・・)半年って言ったのかな? それとも空白の3ヶ月(・・・・・・)に何かあったのかな?」

 

紫は紫苑が6ヶ月ほど紫や幽香の師匠をしたと言ってたし、そのあと消えたことも言ってた。紫苑も半年かかって戻れたと言ってた。

 

 

 

――けど、紫苑の口から『紫と別れて元の時間軸に戻った』と言ってないのは確か。

 

 

 

紫苑は自分の過去を聞かれないと応えない。そう未来が言ってたから、恐らく空白の3ヶ月に気づかなければ分からなかっただろう。未来さえも知らなかったのだから。

なら――アイツは何をしていた?

謎は深まるばかりだ。

 

「訳が分からないぜ……」

 

「自分からベラベラと過去をしゃべらないからなぁ、アイツは。隠すつもりもなかっただろうけど、こうなると気になるよね」

 

今度問い詰めてみようか?という未来の提案に、異議を唱える者は一人もいなかった。

紫苑は謎が多すぎるし、隠し事も他にあるような気がするぜ。

 

「やること増えたねー。これは早急に異変解決しないと――」

 

「――止まりなさい」

 

前方から発せられる声に、私たちは動きを止めた。

凛とした少女の声。含まれるは敵意。

 

 

 

 

 

「生者よ、この白玉楼の何の用ですか?」

 

 

 

 




紫苑「冥界どこやねん」
チルノ「あ、教官!」
紫苑「お、チルノ。冥界どこか知らない?」
チルノ「あっちだよ!」
紫苑「そっち人里や」

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