東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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31話 庭師vs剣士

side 咲夜

 

目の前に現れたのは一人の少女だった。

その少女は無表情で私たちを見る。

銀色のショートヘアーに小柄な体格、周囲に霊らしきものが彼女の回りを浮いており、彼女が人間ではないことがわかる。長刀と短刀の二振りの刀を携えていた。

 

「白玉楼は生者が気軽に足を踏み入れて良い場所ではない。疾く去るがいい」

 

「それは出来ない相談だね。わざわざ僕達が冥界まで足を運んだんだよ?」

 

少女の忠告に白髪の男――九頭竜……様は否定した。

 

私の愛する人を刺した半妖。

決して許すことは出来ないが、今は私情に流されている場合ではない。加えて紫苑様の御友人。信頼されているような場面をよく見るので、ある意味では嫉妬しているのかもしれない。

 

霊夢は立ちはだかる少女に言った。

 

「私は博霊の巫女。冬が終わらない異変を解決するために来たわ。早く責任者出しなさい」

 

「我が主・西行寺幽々子様に何用だ?」

 

「もし異変の首謀者なら退治するだけよ」

 

「……ならば通せないな」

 

少女は静かに長刀を構えた。

それだけで彼女の剣の腕が常人の域ではないことが、刀を使ったことがない私でも察することができた。この少女は『斬る』と言ったら本当に相手を斬る凄みがあった。

しかし、私たちは3人。スペルカードでなら時間をかけずに突破することが可能であるのも事実。

 

そんな一触即発なムードの中、空気の読めない男が口を開く。

 

「1つだけ質問していい?」

 

「……何だ?」

 

「君の名前は何て言うのかな?」

 

「……魂魄妖夢(こんぱくようむ)。白玉楼の庭師兼幽々子様の剣術指南役をしている」

 

少女――妖夢は眉を潜めながら答える。

私たちも九頭竜様がなぜ今ごろ名前を聞くのかを理解できない。本当にマイペースな人です。

そして緊迫した状況を簡単に壊す。

 

「うーん……どうしよっかなー」

 

「??」

 

「『妖ちゃん』と呼ぶべきか『妖っち』と呼ぶべきか……凄く迷うよね。君はどっちがいい?」

 

「「「「はぁっ!?」」」」

 

思わず全員の声が重なった。

彼の頭の中は花畑なのでしょうか?

 

「私をそのように馴れ馴れしく……!」

 

「あれ? さっき一人称が『我』じゃなかった?」

 

「――あ」

 

「あんまり難しい言葉を使わない方がいいよ。間違ったときに死ぬほど恥ずかしくなるからさ。あ、これ暗闇の実体験ね」

 

「~~っ!」

 

もはや妖夢は涙目である。

肩や剣先を震わせて、どうにか泣くのを堪えているようだ。

 

「あ、それなら『みょん』にしよう。なんか天啓が聞こえた気がする」

 

画面外の人の心からハッキリ聞こえた、と意味不明な呟きをする九頭竜様。彼に言っていることには脈略がなく、恐らく意味すらない。霊夢も魔理沙も頭を抱えていた。

その当の本人はというと、長く続く階段の上にある建物――白玉楼だったか、なぜか(・・・)淡い光に包まれているそこを目を細めて見ている。一通り妖夢をからかった(本人には自覚がないかもしれないが)九頭竜様は、私たちに耳打ちした。

 

「――ここは僕に任せて、君たちは白玉楼に行っちゃって」

 

「「「は?」」」

 

「適材適所ってやつさ。僕がみょんを足止めしておくから、霊っちたちは白玉楼にいる異変の首謀者……えっと、幽々っちだっけ? 彼女をパパッと退治してきてよ。――まぁ、それだけで終わるのなら万々歳だけど」

 

それだけ言うと彼は懐からナイフを取り出し、くるくると手の中で転がした後、妖夢に向かって刃を構えた。私が使っているナイフより刃渡りが長く、相当使い込んでいることに加えて、手入れが行き届いてることを察することが出来る。構え方も様になっており、紫苑様が彼を『切裂き魔』と呼ぶ気持ちが理解できた。

凄腕の暗殺者顔負けのナイフ捌き。

彼の雰囲気が変わったことで、気を取り直して刀を構える妖夢。

 

「……私とそのナイフ一本で戦うとでも?」

 

「あはは、面白いことを言うね。本当なら素手でも勝てるけどあえて(・・・)君の土俵で戦ってあげようとしてるんだよ? これから始まるのは――ワンサイドゲームさ」

 

「馬鹿にしてるのですか!?」

 

不敵に笑いながらナイフを持っていない左手の人差し指でで自分の首筋を叩く九頭竜様。

まさに傲慢という言葉を彷彿させる笑みではあるが、それを許容してしまうほどの威圧(・・)を放っていた。かつて紅魔館で紫苑様が放っていたのとは同種のようでまるで違う、妖怪特有の『畏れ』をまとった威圧だ。

九頭竜様は威圧に強張る妖夢に問う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ところで、みょんの首に切り傷あるけど大丈夫?」

 

「え?」

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

side 妖夢

 

私は首筋に手を当てると、ぬめっとした感覚があった。

その手を見てみると赤い液体がこびりついていた。見間違えることのない、自分の血だ。私は手を震わせながら、目の前にいる白髪の男に恐怖を再度覚える。

 

誰がやったのかは言われなくてもわかる。

問題は、一体いつ男が私の首を切り裂いたか、だ。

 

博霊の巫女や魔法使い、メイドが私の横を通りすぎたが、私は目の前にいる敵に釘付けになった。彼女ら3人なら幽々子様でもなんとかなると思ったからだ。しかし、この男は格が違う。

『この男を絶対に通してはいけない』という使命感と、『この男には絶対に敵わない』という恐怖観念に、私の身体が支配される。

 

「……貴方は何者ですか?」

 

「九頭竜未来、外来人。よろしくね~」

 

ふざけたような自己紹介ではあるが、先ほどの事もあり彼の言動を注意深く観察する。

今はナイフを構えていない。だらんと下げたままの姿。

けれど身体の軸が今までずっとブレていないことを思い出した。底知れぬ威圧を放つときや、ふざけたような事をしていたときも、彼は絶えず自分の軸を崩さなかった。

 

 

 

簡単に言えば隙がなかったのだ。

 

 

 

「どうしたの? さっきから黙って」

 

九頭竜未来は覗き込むように私を見た。

 

 

 

 

 

――初めて。そう、初めて自分の軸を崩して。

 

 

 

 

 

(今だっ!)

 

私は自分の最速で動いて、長刀・楼観剣で男の避けられない場所を狙って斬り込む。

銀色に輝く一閃。

致命的な傷を負うであろう一撃。

 

私は手応えを――

 

 

 

 

 

「なんだろうね、ここまで簡単に予測出来る軌道はないなぁ。もしかしてわざとやってる?」

 

 

 

 

 

彼の身体に刀身が触れる直前で、ナイフに火花が飛び散り阻まれる。

ナイフのギザギザした部分で楼観剣の刃を受け止め、それが引っ掛かって刀を動かすことができない。

九頭竜未来は笑った。

 

「見事な一閃だったよ。ここまで美しい型は今まで見たことがないってくらい、完成された剣筋だ。これが神楽的なものだったら思わず拍手してしまうくらいだね。美しすぎて――予測しやすい」

 

「くっ……!」

 

「君さ、自分より強い人との対人経験少ないでしょ? だから僕が適当に体勢崩したら、引っ掛かって攻撃してくる。ブラフだと気づけない」

 

反論できなかった。

私より強い人との手合わせなんて、先代の庭師にして祖父である魂魄妖忌しか記憶がない。そもそも強者との実戦なんて今が初めてだ。

白髪の男は静かに語る。

 

「みょんは僕の友人より剣の才能があるよ。けど、今のみょんじゃ僕の友人に掠り傷一つすら与えられないって断言できる。アイツは実戦で無理矢理作り上げた我流だけど、対人ならみょんの剣術なんて敵じゃない。今の隙だって、アイツなら絶対に引っ掛からないよ」

 

「そんなことはない!私だって……」

 

「だからこうやって……こうすればっとっ!」

 

ナイフを巧みに操って楼観剣を絡めとり、思いっきり上に投げる。

体勢を崩した私は楼観剣を手放したため、慌てて短刀・白楼剣を抜こうとするが、その前に九頭竜未来が私の首筋にナイフを当てる。

回転しながら楼観剣が彼の真上に落ちてきて、九頭竜未来はそれを受け止めた。そしてナイフを当てながらも、楼観剣の刀身を眺めた。

 

鮮やかな一連の流れ。

呼吸するように形勢は彼に傾いた。

 

「……とても良い剣だね。鬼刀よりは劣っちゃうけど、名刀と言っても差し支えないレベルだ。これ貰っていい?」

 

「か、返して!」

 

「と、聞いてはみたものの、敗者に拒否権なんて存在しないからね。これをどうしようが僕の勝手かな?」

 

「そん、な……」

 

目の前が真っ暗になる錯覚。

楼観剣は祖父が残してくれた刀。

それを意図も簡単に奪われて、あまつさえ男からは命を握られている。

頭のなかがぐちゃぐちゃになり、何を考えているのか自分でもわからないくらいだ。

 

「ちょうどナイフじゃ心許なかったから、名刀ゲットはありがたいな。あ、ついでに短刀も貰っちゃおうかな」

 

「………」

 

「――なーんてね。僕は自分の得物は選ばないタイプだから、こんな名刀持ってても宝の持ち腐れさ。ほら、真の剣士はどんな剣だって魔剣の如く扱うって言うじゃん? だからこの刀もみょんに――あれ? みょん聞いてる?」

 

考えてもわからなくて。

でも力でも敵わなくて。

 

 

どうしようもなくて。

どうしようもなくて。

どうしようもなくて。

 

 

 

 

「――うわああああああああああああ!!!」

 

「ゑ!? ちょ、待!?」

 

 

 

泣いてしまった。

泣いても事態が解決しないのはわかってる。でも感情が堪えられなくなって、涙が止まらないのだ。

 

「ほ、ほら! 刀返したよ! ここに置いたからね!? 目の前にあるでしょ!?」

 

「わ、わだじだっで! わだじだっで頑張っでるのに! まいにぢちゃんどげいごしでるもん! うわああああああ!!!」

 

「うんうん! みょんは頑張ってるよ! 一人で身に付けたにしては素晴らしい型だからね! ただ経験が少しばかり足りなかっただけさ! 向上心は大切だよね!?」

 

「ひぃっぐ、おじいさまああああああああ!!!!」

 

「おじいさまカムバアアアアアック!!!!」

 

 

 

 

 

   ~十数分後~

 

 

 

 

 

なんと気まずい時間だろうか。

階段の段差に並んで座る私と彼。

 

「も、申し訳ございませんでした」

 

「………………うん、いいよ」

 

泣き終わってから、私は九頭竜未来……さんに頭を下げた。

彼は私が無様に泣いている最中、ずっと傍に居て泣き止むまで手を握っていてくれた。楼観剣もちゃんと返してくれた。

今の未来さんは何か悟ったように遠い目をして、私と戦っているときよりも疲弊している。本当に申し訳ない。

 

「僕も言い過ぎた。みょんも経験積めばもっと強くなるよ」

 

「そう……でしょうか?」

 

「当たり前さ」

 

未来さんは私の頭を撫でてくれた。

それはどこか祖父に似た温かさを感じて、なぜか心が満たされるような気持ちに――

 

 

 

 

 

ゾワッ!

 

 

 

 

 

「「――っ!?」」

 

私と未来は反射的に立ち上がった。

視線の先には白玉楼。感じたことのないような濃密で邪悪な妖気が、遠く離れているここにまで漂ってくる。恐らく妖気の発生している白玉楼では、吐き気がするくらい濃いのだろう。

その妖気に、未来さんでさえ冷や汗をかきながら苦笑いをしていた。

 

「こ、この妖気は何ですか!?」

 

「僕にはわからないけど……ちょーっとマズイかもしれないなぁ。ひょっとすると大変なことになってるかも。みょん、ここは一度休戦して様子を見に行こう」

 

「は、はい!」

 

休戦も何も私の完敗だったのだが……。

 

二人で白玉楼へと向かった。

 

 

 

 




未来「こうやって……こう!」(スパーン)
妖夢「手刀で酒瓶の口を斬った!?」
未来「これができてこそ剣士なんだよ」
妖夢「ハードル高過ぎません?」
未来「ちなみにみょんの首の傷もこれでやった」
妖夢「いつの間に……」
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