東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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33話 語られぬ過去

 

 

昔々、二人の妖怪の師匠をした少年がいた。

後に忘れ去られた者達の楽園を作る賢者と、楽園最強を誇るであろう花妖怪の師たる少年は、彼女達の引き留めにも関わらず結晶となって消えた。そして元の時代へ戻るはずだった。

 

『はぁ、やっと戻って来――』

 

少年の目の前に広がったのは――大きな屋敷だった。その屋敷の造りから、少年は平安時代によく見られる屋敷造りであることを結論付けた。

元の世界に戻れなかったことも。

 

『嘘だろオイ……』

 

絶望的な少年であったが、そこで少年は一人の少女と出会った。

歳は13歳、桃色の髪をした珍しい少女であった。

 

『貴方は……誰……?』

 

『俺の名前は夜刀神紫苑。お前は?』

 

『私は……西行寺幽々子』

 

屋敷の外に出たことのなかった少女にとって、少年は初めて出会った異性であり人間だった。

少年が行く宛のないことが分かると、少女は少年を自分の屋敷に泊めさせることにした。屋敷には少女と庭師しかおらず、その少年を見た庭師の老人が、

 

『幽々子様をたぶらかしおったなあああああああああああ!?』

 

『知らねぇよおおおおおおおおおお!?』

 

ちょっとした殺傷沙汰になったが、最終的には少女の仲介によって事なきを得た。

 

少年は居候させてもらっている身として、屋敷内の家事をすべて請け負った。特に料理に関しては異常で、普段は少食な少女でさえ少年の料理は残さず食べ、少年に厳しい老人も評価せざるを得なかった。

少年が暇なときは少女と遊んだり、老人の修練に付き合ったりした。

 

老人の修練は常人ではないほど厳しかったが、少年は家事の合間にこなすほど余裕であった。

剣術では達人の領域にある老人から見ても、実践で鍛え抜かれた少年の我流の太刀筋には感心し、数日もたたないうちに2人は意気投合した。

 

『中々やるではないか、紫苑よ』

 

『あんたもな』

 

そのような生活が一ヶ月たったある日。

少年は前々から気になることがあったので、剣術の修練の後庭師の老人に尋ねた。

 

『なぁ、妖忌。この桜おかしくないか?』

 

『……お主も気づいたか』

 

屋敷にあった大きな桜。

老人曰く、この桜は少女の父親の愛した桜で、歌人だった父親が『自分もこのような桜の下で死にたい』という意味の句を読み、宣言通り桜の木の下で死んだという。

その句に共感した者が次々とこの桜の下で亡くなり、その精気を吸い取った桜が妖と化したものらしい。しかもこの桜、少女の能力と同じものを備えている、と。

 

『幽々の能力?』

 

『あぁ、お主には教えても良いかもな。幽々子様の能力は〔死を操る程度の能力〕だ』

 

『……んだと?』

 

その話を聞いた少年は、誰もが寝静まった桜の木に細工を施した。

少年にとって前までは興味のないことだったであろうが、二人の幼い妖怪を弟子に持っていた彼には許せなかった。

 

『とりあえず誰にもバレないように、条件式発動型にするか。これが使われないことを願うばかりだが……』

 

少年の持つ〔十の化身を操る程度の能力〕の1つ――第10の化身『戦士』を使用して、桜の根本に黄金の剣を突き刺した。

少年の使った『戦士』は攻防に優れた自立型の(・・・・)化身だが、本来の効果は『能力の打ち消し』である。少年はその本来の効果で、桜が暴走しても一時期だけ時間を稼げる結界のようなものを施した。

 

そして時は流れていく。

 

『おぅ、機嫌悪そうだな』

 

『幽々子様のお見合いじゃよ。まったく! 近頃の若いもんは、根性のある奴がおらん!』

 

『良さそうな奴がいなかったってわけか』

 

『……お主のような者なら、幽々子様を任せることができるんだがなぁ……』

 

『それは無理だな。俺みたいなクソガキと釣り合わないさ。もっと良い条件の貴公子が現れるって』

 

『そうかのぅ……』

 

老人も少年を認めるくらいにまでになった。

 

『紫苑にぃ! 私、紫苑にぃのお嫁さんになる!』

 

『んー……幽々には少し早いかなー。もうちょっと成長したら結婚してあげるよ。(どうせ俺はいなくなるし、俺よりまともな奴と結婚させるだろ。妖忌が)』

 

『うん! 分かった!』

 

少女も少年に恋するくらいに仲良くなった。

 

 

 

しかし。

 

 

 

そんな時間も終わりを告げる。

 

『……そろそろ、ここを出ようかと思う』

 

『え!?』

 

『それは……寂しくなるのぅ』

 

少年の発言に少女は泣きわめき、老人は孫の旅立ちを悲しむような表情を向けた。3か月という短い期間ではあったが、少年は彼女らの生活の一部となっていた。

それに――少年はかつての弟子との別れと同じように、もうすぐ自分がこの時代から消えることを察していたのだった。

 

『紫苑にぃと離れるなんて嫌だよ……!』

 

『って言われてもなぁ』

 

『幽々子様、紫苑を困らせてはいけませぬぞ』

 

少年は別れ際に少女に言った。

 

『もしかしたら――また会えるかもしれないだろ?』

 

『で、でも……!』

 

『じゃあ、約束しようか。また会おうな、幽々』

 

もう会えないことは老人もわかっていたが、それが少年の優しさだった。

 

そして少年は元の世界に戻った。

 

 

 

 

そして現在。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

side 紫苑

 

恐れていたことが現実に――なんて言葉にふさわしい光景が、『風』を全速力で使い『大鴉』まで使ってきた俺の目の前に広がっていた。

 

唖然とする魔理沙と咲夜。

涙を流す紫と銀髪の少女。

なんか倒れてる藍さん。

ニヤニヤ笑う未来。

 

 

 

――クソ桜に飲み込まれている幽々。

 

 

 

……ここまで腸が煮えくり返るのは久しぶりだ。

いいだろう、教えてやる。てめぇ(・・・)が誰に手を出したのかをな。

とりあえず俺は近くにいた紫に話しかける。

 

「紫、叢雲寄越せ」

 

「は、はい」

 

渡してもらえるか不安だったけど、紫はあっさり渡してくれた。

久しぶりに流れてくる叢雲からの神力。自分の体内に存在する神力と合わさっていく感覚に、思わず笑みがこぼれた。これなら戦える。

 

次に俺は未来に説明を求める。

相変わらずニヤニヤ楽しんでやがる半妖に苛立ちながらも、コイツはいつもそうかと諦めの境地で尋ねた。

 

「おい、未来。状況を手短に説明しろ」

 

「幽々っちピンチ」

 

「……OK、だいたい把握したわ」

 

聞いた俺が馬鹿だった。

そんなアホは放置し、俺はクソ桜に飲み込まれている幽々に、安心させるように笑顔で話しかけた。

……ホントに綺麗に成長したもんだ。3ヵ月間の付き合いだったけど、『大人の女性』に成長していることは俺でもわかる。千年の歳月は大きいなぁ。

俺がいるという現状を受け入れられないのか、俺の名前を連呼している。

 

「幽々、大丈夫か?」

 

「どう……して……」

 

「言っただろ、また会おうって」

 

まさか本当に再会するとは思わなかったけどさ。

千年という時を経て、時間を越えた少年と少女の幽霊が再会したというわけだ。さすがは『すべてを受け入れてくれる幻想郷』だな。そのうち死んだ奴にも会えるんじゃねーか?

誰かのフラグ立てた気がするけどよ。

 

幽々は頬を涙で濡らし、静かに泣く。

俺は覚じゃないから幽々子の心は読み取れない。だが分からないわけでもない。

 

「……紫苑にぃ」

 

「どうした?」

 

ポツリ、と。

恐らくこの距離から聞こえない音量。

でも、俺には確かに聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たすけて……紫苑にぃ……!」

 

「任せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はリミッターを外した。

己の神力も、叢雲にあった神力も解放する。

こいつは――幽々を泣かせやがった。傷つけやがった。

 

極悪に兇悪に無情に無慈悲に残酷に無道に残忍に非道に陰惨に無残に凶悪に暴虐に無惨に酷悪に惨忍に苛酷に猛悪に、殺してやる。

叢雲を借りたのもコレをするためだ。俺の内包している神力では物足りない。絶対的な絶望を以て西行妖を完膚なきまでに滅ぼさないと気が済まない。

 

「やっぱ幽々っちの言ってた『お兄ちゃん』は紫苑だったんだね。後で過去で紫苑がやらかしたこと聞かなきゃ」

 

「お前には教えねーよ。つか俺が来ること知ってたのか?」

 

「幽々っちの発言と、紫苑の気配が猛スピードで迫ってきて分かったよ。幽々っちが言ってる『お兄ちゃん』が紫苑だってね。3ヶ月も兄やってたのかー」

 

「……ホントに頭が切れるよな、お前って奴は。それを仕事で発揮してくれたらどれ程嬉しかったことか」

 

ヘラヘラ笑いながら歩いてくる未来に愚痴る俺。

俺の神力と未来の妖力が接した瞬間にバチバチと音を鳴らす。

 

「ほれ」

 

「お、帝か。これは嬉しいねぇ」

 

「ちゃんと返せよ」

 

「はーい」

 

俺は妖刀を未来に投げる。

 

 

 

「手伝え、切裂き魔」

 

「あいよ、神殺」

 

 

 

咲くは妖怪桜。

迎えるは神殺と切裂き魔。

 

さぁ、西行妖。始めようじゃないか。

 

 

 

 

 

「手始めに――喜劇(ぎゃくさつ)と洒落込もうか」

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

side 霊夢

 

私は『夢想転生』の術式を解除した。

維持するのも疲れるだけだし――これはもう必要ない。

 

「……なぁ、霊夢。紫苑は人間だよな?」

 

「……本当にそう思ってるの?」

 

目の前に展開される神力と妖力の嵐を見て、もはや立っていること自体が限界だと言いたげに、魔理沙は私に問う。もちろん、私も同じなので質問で返すのだった。

幽々子が紫苑さんに何かを言ったようで、とても小さく聞き取れなかったが、その瞬間に神力が大爆発を起こしたような錯覚に陥る。昔の書物に載っていた『火山噴火』を連想させた。

 

二人の外来人が起こした神力と妖力の嵐。

それは冥界までもを揺るがす災害のようなものであり。

 

 

 

 

 

九頭竜さんと紫苑さんの本気(・・)は――天災の領域だった。

 

 

 

 

 

西行妖を倒すにはそのくらいの力が必要なのは知っていた。私の展開しようとしていた『夢想転生』も、そのくらいの霊力を使った必殺の一撃である。しかし、半妖の九頭竜さんが纏う妖力が尋常ではないのは知っていたが、人間の紫苑さんの神力は異常(・・)だ。

初めて思ったときも感じたけど、あれは現人神の領域に到っている者が持つ力。

 

九頭竜さんは彼を『神殺』と呼んでいた。

恐らく『帝王』や『切裂き魔』と同じような、彼等にとって渾名のようなものだろうけど、私には今の紫苑さんなら文字通り神を殺せるのではないかと錯覚してしまう。

 

吹き荒れる黄金の神力の中央で嗤う紫苑さん。

その声は敵味方問わず恐怖を駆り立て、強大な敵――いや、獲物に立ち向かう姿は『血に飢えた獣』を彷彿させた。

倒せない敵に立ち向かい、そして紫苑さんは勝利(・・)しようとしている。しかも、それを紫苑さんが成してしまうと確信してしまう。――これが〔あらゆる障害を打ち破る程度の能力〕。

 

「……やっぱり、こうなってしまうのね」

 

「ゆ、紫」

 

ひどく疲れた眼差しで、紫は紫苑さんを見ていた。

紫水晶の瞳に宿るのは畏怖と畏敬。

 

「西行妖と師匠が対峙したらこうなる予感はしてたけど、西行妖に師匠の剣が刺さっていた時点で確信したのよ。『師匠は西行妖について知ってる』ってね」

 

「……なんか紫苑さんのこと知らなすぎて驚くことばかりだわ」

 

「私でさえ師匠のことについては詳しく知らないのよ? スキマを使えば簡単に知ることが可能だけど……そんなことしたくないし」

 

紫ですら彼のことを知らないのか。

……もっと、紫苑さんの話聞きたいな。

いや、それよりも。

 

「紫」

 

「どうしたのかしら?」

 

私は西行妖と睨み合っている紫苑さんを見て思う。

今までなら面倒なことなどする気もなく、自分の才能だけで異変を解決することができた。自分と同じ力量は魔理沙ぐらいで、弾幕ごっこでなんとかなると思ってた。

 

けれど、それだけじゃダメなんだと紫苑さんや九頭竜さんの在り方(・・・)――腕を失おうとも他者を救おうとする黒髪の少年や、私達のために汚れ仕事を自ら引き受ける白髪の少年の姿を、間近で見て感じた。

最近では私では対応できない異変が起こっていて、現在も紫苑さんに頼っている状況。自分の無力さを嘆きたくない。もう足手まといは嫌。

博霊の巫女として……なのかな? 他の感情も混じってるかもしれないけど、私は紫苑さんの隣に立ちたい。追い越すなんて贅沢なことは言わない。少しでも追いつきたいのだ。

 

「――私、強くなりたい」

 

「霊夢!?」

 

魔理沙はあんぐりと口を開けて叫ぶ。

紫苑さんと会う前なら絶対に言わなかったことだから、魔理沙が驚くのも無理はない。私だって、こんな風に考えたのは始めてだから内心驚いている。

紫も一瞬驚いたが、優しく微笑んだ。

 

「……師匠に聞いてみるといいわ。あの人の修行は厳しいわよ?」

 

「チルノの虐待レベルの修行でしょ」

 

チルノがボコボコにされていた光景が脳裏に過った。

………………ちょっと一瞬迷ったけど、ぐっと堪える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死に晒せ。西行妖」

 

「木っ端微塵にしてあげる」

 

 

 

今、妖怪桜と2人の外来人の戦いが始まる。

 

 

 

 




紫苑「殺して」
未来「解して」
紫苑「並べて」
未来「揃えて」
紫苑・未来「「晒してやんよ」」
紫苑・未来「「ぃぇ━━━ヾ(・∀・。)人(。・∀・)ノ━━━ぃ♪」」

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