『side ○○』というものを外してみました。
誰の視点か分かるでしょうか?(分かるとしたら全話を修正しなければ……)
暗闇と通話して以降、街との連絡がなぜか可能となった。
粋な計らいだよ!と舌を出して笑う暗闇を想像して、無性に腹が立ったのは言うまでもない。
外との連絡手段が増えた今日この頃――つまり蓮子とメリーが幻想郷に来て三日経ち、彼女等が少しずつ今の生活になれ始めた頃。街在住のある人物から電話がかかってきた。
俺の知り合いにして元部下。
そして――帝王の腹心だった男。
「久しぶりだな、ゼクス。元気してたか?」
『はい……まぁ、とりあえずは。紫苑殿もお元気そうで何よりです』
「そりゃ仕事から解放されれば元気にもなるさ」
排他的な吸血鬼という種族の中では、他の種族に強い偏見を持たない珍しい吸血鬼・ゼクスからの電話だった。ヴラドの計らいで俺の部下となっていたが……今では副隊長だったかな?
とにかく有能だったイメージの強い男で、彼が入隊してから仕事が楽になったほど。
心底ヴラドのじーさんを羨ましく思う理由の一つに挙げても何の不思議もない吸血鬼だった。
しかも金髪の超イケメン。
爆発してほしい住民ナンバーワンの吸血鬼であり――
「んで、仕事は大丈夫かー?」
『……自分が不死身の吸血鬼であったことを後悔する日が来るとは』
「そうなるわな」
――最近は
主に始末書量産機の
「やっぱお前が部隊長やったほうがいい気がするんだけど、どうして俺の推薦を辞退したん? 断る理由がないと思うんだけどさ」
『アイリス殿は生粋のトラブルメーカーなのは街にいる古参は全員知っておりますが……戦闘面に関しては有能であることには変わりないんですよね。『重奏』の候補でもありますし』
「なら部下として起用すりゃいーじゃねーか」
『あー……』
帰ってきたのは歯切れの悪い声だった。
まるで『この人は知らないんか』とでも言いたげな声色で、有能な現副隊長がごもることなど稀であり内心驚いた。
『紫苑殿はご存知ないんですよね……』
「何が?」
『あの人は暗闇殿と紫苑殿以外の者からの指図を一切受け付けないんですよ。力で屈服させようにも彼女より上の実力者となると片手で数えるほどしかおりません故、アイリス殿を上司として進言という形を取るしかなかったと言いますか……』
「……マジ?」
衝撃の事実に目から鱗が落ちた気分だった。
変わり者の集まりである俺の元部隊の中でも群を抜いて話を聞かない奴だったけど、それでも肝心なところでは素直に命令を受理するアイリス。まさか俺と
しかし納得がいかないところがある。
「あれ? けど切裂き魔や壊神の言うことは聞いてたぞ、アイツ」
『はい、紫苑殿を出汁にすれば大抵のことは素直になりますからね。そのトリガーの紫苑殿が街にいない今となっては使えない手段ですよ』
「……俺のせいか」
俺はアイリスと別れた時のことを思い出す。
最後の最後まで俺の引退を受け入れず、最終的には自分も幻想郷に行くなどといって紫を困らせていたことは記憶に新しい。……アイツが涙を見せたのもアレが初めてだったよな。
それでも隊長としての責務は果たしているのだから、本当にアイツには悪いことをしたと思ってる。
俺は肩を大きく落とした。
「すまんな、ホント。いろいろ押し付けちまって」
『いえいえ。ヴラド公も孫のように気をかけていたのですし、支えること自体は嫌とは思っておりません』
もうちょっと街の破壊を自重してほしいですが……と少々の冗談と大半の本音を漏らすゼクスに、ヴラド公という単語で思い出した俺は話題を変える。
「一つだけ聞きたいんだけどさ、吸血鬼って不死身なんだっけ?」
『えぇ、生と死を超えた者、生と死の狭間に存在する者、不死者の王……なんて呼ばれていたくらいですからね。人間では致命傷となりうる傷でも、吸血鬼ならば自然治癒で大半は治りますよ』
「それはヴラドもだったんだよな?」
『? はい、我等が王は不死性が異常でしたから。太陽が照る炎天下の往来を悠々と歩き回り、行きつけのラーメン屋でニンニク増しの豚骨ラーメンを食し、聖水をラッパ飲みするほどには破天荒で常識にとらわれない御方でしたので』
「俺もあいつを見てると吸血鬼って何なのか分からなくなったからな」
弱点らしい弱点が見当たらない化物だったし、伝承の弱点をついても死なない。
だから……あのじーさんは至高の吸血鬼だったんだ。
俺の笑い声が聞こえたのか、電話の向こうにいるゼクスが心配してくる。
『そのヴラド公がどうなさいましたか?』
「いや、何でもないよ。ただ――」
――そんな化物が冥府神の呪い
その言葉を呟こうとして止めた。
所詮は俺と未来の希望的観測に過ぎない。
だから飲み込んだ言葉の代わりに、仕事に関しての手助けを提案した。
「殺し合いには参加できないけど、書類程度なら仕事の手伝いするぞ? PCにデータ送ってくれれば」
『よろしいのですか!?』
「幻想郷は暇だからな。逆に何か収入源が欲しい」
『それならばお言葉に甘えて。ちょうど明日までに提出しなければならない書類があるのですが、その二割ほどを手伝っていただけないでしょうか?』
「二割と言わず半分くらい寄越してもいいんだぜ?」
俺は仕事内容も聞かずに承諾した。
「メリー、紫苑さんは?」
「
「お仕事なのかな? 紫苑さんも大変ね」
♦♦♦
「おねーさまー。おじーさまってどんな吸血鬼だったの?」
そうフランが小首を傾げながら質問されたのは、テラスで午後のティータイムを楽しんでいるとき。
『常に優雅で在れ』という亡き帝王の言葉だったが、私個人としては純粋に妹との時間を大切にしているだけだった。異変前は狂気に取り憑かれたフランと、こうして笑いながら紅茶を飲めるとは夢にも思わなかった。
こうして雑談をしながらお菓子を小動物の如くポリポリかじっていたフランの素朴な疑問。
私はどうして聞きたいのかを確認する。
「だって……私はおじーさまのこと何も知らないんだもん。お兄様もお姉様も知ってるのに」
他からの交流を絶っていたフランはおじいさまのことを知らない。
そして妹が知りたい人物はもう存在しない。
なるほど、彼のことを知っている夜刀神や私から聞きたいと思うのは当然の事だろう。
「それに悔しいもの」
「悔しい?」
「九頭竜に負けたくない」
ムッとした表情でフランは不貞腐れる。
紅茶を注いでいた咲夜も珍しく不機嫌になる。
九頭竜――私は一度も会ったことはないが……出会い頭に夜刀神を斬殺しようとした、おじいさまとも面識のある男としか情報を持っていなかった。
それに咲夜から聞いたことであり、やけに九頭竜を嫌っていた印象を持つ。それはフランも同じで、対抗意識を燃やしているところを多々見る。
公平な立場から判断するために、後からパチェに彼のことを確認してみたぐらいだ。
『あれは紫苑と同類よ。半妖が至る強さの究極にして完成形。紫苑が自分の強さを謙遜していたのを前々から不思議に思っていたけれど、あんな規格外の化け物が他にいるのなら納得だわ。私も紫苑のことで九頭竜には好印象は持てないわね。悪い人ではなさそうだけど』
お、おじいさまの盟友って……一癖二癖ある連中が多くない?
人間の慣用句に『類は友を呼ぶ』なんてものがあるが、思わず納得してしまう妙な関係だと思った。
話を戻そう。
おじいさまの話か。
「……おじいさまは世界各地に伝わる吸血鬼伝説が生まれる前から存在する、世界最古の吸血鬼よ。おじいさま曰く『気付いたらそこにいた』と言ってたし、私ですら詳しいことは知らないわ」
伝承がないのに強力な妖怪。
不可思議なのは確かだが、身近な例としてスキマ妖怪・八雲紫がいる。あれは伝承が不明であるにも関わらず、幻想郷でも三本の指に入る実力者だった。『だった』と過去形なのは、今は
フランには難しい話かと思ったけれど、意外にもフランは興味深そうにキラキラした瞳で私の話を聞いていた。
「そういえばお兄様が『ヴラドと紫は似てるな』って言ってた」
「?」
「どっちも『伝承で生まれた妖怪』じゃなくて、そこに
私は夜刀神の考察に一理あると考えた。
ふむ、吸血鬼の伝承により生まれた妖怪ではなく、彼がいたからこそ吸血鬼の伝承は生まれたということか。それならばおじいさまが強大な存在であるのにも納得がいく。
「こういうの『鶏が先か目玉焼きが先か』ってやつだよね?」
「卵を焼いてどうするのよ……」
それを言うなら『鶏が先か卵が先か』だ。
しかも、この言葉の意味は鶏は卵から生まれる存在として、ならば最初の個体はどのようにして生まれたのか?という『X が Y 無しに立証されず、Y が X 無しに立証されない場合、最初に生じたのはどちらか?』なんて人間の考えた哲学だ。まったく……人間は本当に奇妙なことを考えるものだわ。
まぁ、フランの言葉の使うタイミングとしては間違っている気がするが。
おっと、話が逸れてしまった。
おじいさまの勇姿を語らなくては……とは言ったものの。
「……ごめんなさい、フラン。おじいさまが比類なき伝説の吸血鬼だってのは周知なのだけれど、私自身が彼の伝説をも目にすることはほとんどなかったの」
「そうなんだ……」
おじいさまの強さは一言で表すのならば『圧倒的』に尽きる。
それこそ己の能力を使わずとも、至高の吸血鬼は強かった。故に、私はおじいさまの実力というものを直に目にすることがなかったのだ。
というか私はおじいさまの能力を知らない。
そう説明するとフランは残念そうに目を伏せた。
昨夜はフランに気を遣うように顔を覗き込み、私も妹の疑問を解決できなかったことが心に残る。
「けど……おじーさまが本気を出せないくらい強かったってことだよね?」
「そうね。全力を出せないことをおじいさまは非常に悔やんでいたし――」
そこまで口にして、私はふと黒髪の外来人のことを思い出した。
あぁ、彼がいた。
「私達の義祖父であるヴラド公の強さなら、夜刀神が良く知っているのではないかしら?」
「あ、そっか!」
異変後に夜刀神は『帝王に良くて辛勝、悪くて敗北の繰り返し』と言っていた。
輝く黄金の剣を見た私からしてみれば、アレに勝てるとか本当に帝王は最強だったのだと誇りに思える。対等に戦えた夜刀神も大概だが。
おじいさまの本気、か……。
一度でも良いから私も見てみたかった。
もう不可能なことではあるけれど。
「お兄様からは詳しいこと聞かなかったからなぁ……」
「少しは聞いたの? 夜刀神は何て言ってたのかしら?」
「一言で表すなら『救いようのないオタク』だって」
「それ貶してない?」
初めて聞く単語だというのに褒めてるように聞こえないのは気のせいだろうか。
夜刀神と帝王の関係はライバル関係みたいなものだと言ってたし、相手の良いところを素直に言葉にしなかっただけなのかと思ったが、彼の性格からして可能性は薄かった。
オタクとは何なのだろうか?
今度聞いてみようと思う。
フランは上を見上げながら足をぶらぶらさせて呟く。
「……おじーさまに会いたいな」
「フラン……」
それは叶うことのない望み。
しかし私はフランの言葉を否定することが出来なかった。私だって心の底では会いたいのだから。
妹や従者の見えない位置で拳を強く握りしめた。
些細なすれ違いで別れ。
二度と会うこともなく。
遺言は盟友が運んでくれた時には手遅れ。
『どうして』という言葉しか思い浮かばない。
そのような後悔を口にしてしまいそうな瞬間だった。
「お嬢様、あれは……?」
「どうしたの、さく……や……」
私は従者が指差した方向に視線を向ける。
「――え?」
そこには。
蒼い三日月が大きく輝いていた。
♦♦♦
吸血鬼は生と死の狭間に生きる者。
不死身の王にして超越者。
ましてや彼は生粋の王。
同胞の絆を束ね、君臨する至高の王。
『死』の概念すら超えられずして何が『王』か。
神殺の妖刀。
夜刀神と九頭竜の記憶。
――二人の幼き吸血鬼の想い。
さぁ、準備は整った。
始めよう、蒼き月の満ちる刻まで。
踊れ踊れ、道化が如く。
示せ示せ、己が力を。
控えろ、数多の種族よ。
王の帰還だ。
紫苑「読者の皆様お久しぶりです」
霊夢「どうしてこんなに期間空いたのよ」
紫苑「作者が学園祭間近だからじゃないか? なんか絵の〆切がどうのこうのって」
霊夢「文芸勢じゃなかったけ?」
紫苑「学年合同の絵の話。個人製作は別」
霊夢「じゃあ、次も遅くなる感じ?」
紫苑「なるべく早くはなるんじゃないかなぁ。バイト先もリニューアルで今月いっぱいは休みになるって話だし、今章も佳境になりそうだし」
霊夢「異変がヤバイ予感」
紫苑「あ、異変は俺参加しないから。そのための始末書描写だし」
霊夢「ゑΣ(・ω・ノ)ノ!」
紫苑「俺だって書きたくないわ(´;ω;`)」