東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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42話 共同戦線

 

 

 

「どう……なってんのよっ……コイツ等っ!」

 

「私に聞くなよ!」

 

私が夢想封印を放ち、魔理沙がマスパを目の前にいる妖怪――否、不気味な化け物に炸裂させる。

しかし、私達の攻撃を受けた化け物はというと、少々の傷を負っているようにも見られるが、致命傷とまではいかず私達に襲いかかってくるのだ。これが一体なら時間をかければ済むのだが、三体もいるとなればそれ相応の力が必要。

その力というのが今の私達に不足していた。

 

この化け物が神社に来たのが一時間程前。

いつものように魔理沙と雑談していたのだが、急に前触れもなく夜のように周囲が暗くなり、蒼い三日月が空に浮かんだのだ。

 

「霊夢! 異変だぜ!? 異変だぜ!?」

 

「ちょっと魔理沙、少しは落ち着きなさいよ。……まったく、あの紅魔館の吸血鬼幼女が起こしたんじゃないわよね?」

 

もし上から目線のかりちゅま吸血鬼のせいならば、ボコボコにして賽銭をふんだくってやろうと決意する。

異変の予感に私は溜め息をつき、魔理沙が目を輝かせて私を急かそうとしたとき、感じたことのない濃い妖力が神社に接近してくる気配を覚えた。上位の妖怪だろうか? 面倒だと思いつつ私は懐から札を取り出して、博麗神社に足を踏み入れようとする無礼者を迎え撃とうとした。

 

 

 

 

 

そして――それ(・・)が現れた。

 

 

 

 

 

一般的な人間よりも少し大きいくらいだろう。けど人間とは圧倒的に違う部分が目前の妖怪にあった。

上半身は顎鬚を生やした人間の顔と人間の体なのだが、頭の左右から生えている角冠、鳥の体の後ろ半分と鉤爪が蒼い月で鈍く光り、蠍の尾を持つ。背中には悪魔のような翼。それがゆっくりとした速度で三体ほど境内に侵入してきた。

虚ろで瞳に光のない気味の悪い妖怪は、のそのそと私達に近づいてくるのだ。

 

あんな妖怪なんて見たことがない。

底知れぬ恐怖心で私は一瞬固まり、隣の魔理沙も小さく悲鳴を上げた。

 

「な、何なんだコイツ等!」

 

「知らないわよ。……でも」

 

異形の妖怪が私達の敵であることは理解できた。

私は札を化け物の一体に構える。そしてスペルカードの名を高々に叫ぼうとした。

 

「『霊符・夢想――」

 

「дЬЪУЭнЧ○£νυЦ○■∑щ†∇χμ┝ыэЯ」

 

「――なっ!?」

 

言語を介しているとは思わなかった。

耳障りで眉を潜めてしまう音。

札を向けた相手が悲鳴や金切り声に近い音を出した刹那、瞬きをしたときには私の目の前に巨体を滑るように移動し、大きな鉤爪を私の脳天目掛けて振り下ろそうとしていたのが瞳に写った。

 

勘。

そう、勘だった。

博麗の巫女として持ち合わせている勘。それが生死の境目を分けたと思う。

 

身を投げるように反射的に飛んだ。

受け身もとらずに石畳に体を打ち付ける形となったが、その後に聞こえた轟音に、とった行動は正しかったのだと自覚する。私が顔を上げると、私がいた位置の石畳は振り下ろされた鉤爪によって粉々に粉砕されていた。

もし一瞬でも判断が遅れたらなんて考えるまでもない。

背筋が凍った。

 

それが合図となったらしく、他の二体も雄叫びを月に向かって吠えながら私と魔理沙を襲い始めたのだった。

 

攻撃しても攻撃しても、形振り構わず鉤爪を輝かせて突進してくる。攻撃だけは正確なのに、行動がそれに伴わない。

しかし、それだけじゃない。

この不気味な化け物は妖力と比例した知識がないのだ。

 

微量の妖力を持つ下級妖怪なら分かる。けれども、この化け物共は紫や藍に近い妖力を持ちながら、知性の欠片が見受けられない。これほどの力をもっているならば、普通は言葉を理解して発するだけの知性を持ち合わせているはずなのだ。本当ならば。

しかし人間と同じ口から出るのは不鮮明な音。どう解釈しても知性があるようには思えない。狂気にとり憑かれている様子もない。

 

 

 

じゃあ、コイツ等は何なのか。

私が考えられる要因は一つ。

 

 

 

「……操られてる?」

 

考えられないことでもないが冷や汗が止まらない。

こんな化け物を従える大元が幻想郷にいるという事実に、だ。下手すれば紫よりも強大な黒幕がいるということになる。

つまり……紫苑さんや九頭竜さんと同格の相手なのだろうか? そんなの手に負える訳がない。

 

「дЬЪУЭнЧ○£νυЦ○■∑щ†∇χμ┝ыэЯ」

 

「――っ!」

 

「霊夢!」

 

よそ見をしていたら左腕を切り裂かれた。

浅くもなく深くもなく、傷口から真っ赤な液体が流れる。再起不能という程でもないが、縫わないと治らないであろう深さとでも言うべきか。あの大きな鉤爪から考えれば浅い方だと思う。

でも痛いことに代わりはない。唇を噛み締めて魔理沙の前で醜態を見せないように堪えているが、内心は涙が出るくらい痛くて堪らない。心臓の鼓動が早くなり、深呼吸をして痛みを紛らわそうと試みる。紫苑さんもフランに腕を粉砕されたとき、こんな気持ちだったのかな。

 

魔理沙は私を庇うように前に立つ。

その金髪の魔法使い目掛けて化け物は鉤爪を――

 

「――魔理沙っ!」

 

 

 

 

 

ぐしゃっと肉体を貫く音。

 

 

 

 

 

それは私の友人――からではなく、今にも凶悪な爪を振り下ろそうとした化け物から聞こえた。

腹から突き出た真っ黒い刃が真上にそびえ立ち、化け物を貫いて墓標のように現れたのだ。異形の怪物は刃を抜こうともがいたが、己の身長の三倍はあるであろう刃に貫かれ、地面から浮いているとあっては容易に逃れられない。

緑色の液体が刃を伝うように下へ落ちる。

 

どこから刃は現れたのか。

それは刃が突き出た地面を見れば一目瞭然だった。

正確には地面から突出したものではなく、見慣れている不気味なスキマから飛び出ている。

 

「博麗の巫女とあろう者が情けない……なんて言うのは可哀想かしらね。経験不足の貴女が相手できるほど生易しい存在ではないのだから」

 

ふわりと舞い降りる胡散臭い妖怪。

紫を基調とした着物を靡かせ、私達と化け物の間に降り立った。目標を変えた残りの化け物も、違うスキマから出た真っ黒い手のようなものに阻まれる。

 

「紫! この変な奴等は何者なんだぜ!?」

 

「ある程度予想はついているけど、どうして起こったのかは知らないわ。兎も角、これらを排除しないといけないことに代わりはないんじゃない?」

 

魔理沙の問いに余裕の笑みを扇子で隠すスキマ妖怪。

紫苑さんの前では面影すら見せない胡散臭さを、堂々と発揮させる紫。やっぱり本質は変わらないか。

 

「人里にもこれの集団が千単位で襲いかかってるけど、あれは無視しても問題はないわね。九頭竜未来が食い止めているし、とりあえず彼女にも頼んだし」

 

「九頭竜さんが……大丈夫なの?」

 

「心配するだけ無駄。師匠にも助力を頼んだのだけれど、彼がいれば問題ないと仰っていたわ。街の上位七名の一人よ? 『一人なら優勢、二人なら不敗』なんて格言は伊達じゃないの」

 

優勢で十分と言いたげな口調だった。

私達の方を向いていた紫は着物を翻し、立ちはだかる化け物を前にして大妖怪の名に恥じない威厳を以て対する。

無理矢理スキマの拘束から逃れた化け物は雄叫びを上げた。

 

「дЬЪУЭнЧ○£νυЦ○■∑щ†∇χμ┝ыэЯ」

 

「……噂でなら耳にしたことがあるけど、まさか彼の王の軍勢を前にするなんてね。悪夢そのものだわ」

 

けど――と開いた扇子をパチンと閉じて化け物に向ける。

それが合図となり、紫の背後に大きなスキマが二つ開いて、化け物を抑えていた真っ黒い禍々しい手が顕現する。次に何十のスキマから黒い刃が化け物に向けて顔を覗かせた。

それらが纏う妖力は、化け物を圧倒的に凌駕する。

 

紫がどのような表情をしているのか確認する術はない。

しかし声は怒りを滲ませていた。

そもそも紫が異変解決に参加すること自体が珍しいといっても過言ではない。というか私は前例を知らない。

 

「まぁ、主のいない化け物なんて恐れるに足らず。この程度の有象無象など、夜刀神の弟子を名乗る私の敵ではない」

 

大妖怪・八雲紫は告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――さぁ、喜劇(ころしあい)と洒落込みましょう?」

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「よっ……こらせっと!」

 

外見は何の変鉄もない無骨な両手剣。

普通なら剣の方が砕け散ってしまうはずの一撃を、僕は〔全てを切り裂く程度の能力〕を用いて、襲いかかる異形の怪物達を次々と屠る。屍は塵となって跡形もなく消えてしまうのが幸いし、快適な足場で敵を殺すことができる。まぁ、足場が良かろうと悪かろうと結果は大して変わらないけどね。

西洋の両手剣の特徴は『叩き潰す』ことに特化していること。言わば斧とかと大きな差はないのだ。『斬り殺す』刀と違い、ぶっちゃけ鉄の棒よりは斬りやすいって感覚。

 

けれども僕は能力の恩恵で易々と敵を撫で斬りにした。

蠍の尾を持つ竜を鱗を貫通させて絶命させる。尾に即死性のある猛毒を含んでいるのだが、触れずに殺してしまえば的と同じ。

 

「おっと危ない危ない」

 

言葉とは裏腹に飛びかかってきた獅子をバク宙で回避。

そして落下を利用して先程の獅子に強烈な兜割りをお見舞いする。大地を陥没させながら石榴の如く血溜まりを形成した。

ついでに周囲の敵が多くなってきたから回転斬りで一掃。

 

血肉を飛び散らせ、ひしゃげた骸が地面に落ちる。

それも数えるほどの時間もかからず、淡い光の塵となって風に飛ばされてゆく。

 

「あ、ちょっと待って! そっちは駄目だよ!」

 

僕を無視して人里へ向かおうとする集団目掛けて両手剣を渾身の力をを込めて投擲。

轟音を響かせてクレーターを一つ作り、半人半獣の破片が彼方に消えていった。

 

満足した僕は虚空から新たなクレイモアを取り出す。

ストックだけは無駄にあったからね。今使わないで何時使う?

かいてもない汗を拭って一息つく。

 

「……ふぅ」

 

「дЬЪУЭнЧ○£νυЦ○■∑щ†∇χμ┝ыэЯ」

 

「数だけは多いから面倒だよね、コイツ等。なんか見た感じ減ってるようには見えないし」

 

目測で軽く千体は殺したはずなんだけど、どう考えても減ったように感じない。つか減ってない。

こうなるとジリ貧以外の何物でもないし疲れたし怠い。空を見上げると蒼い三日月が上弦の月へと変わっていた。

 

いっそのこと僕の能力をフル解放させて群がる雑魚共を一掃しようかと思ったけど、そうすると相応の妖力を使わないとダメだし、最悪の場合だと幻想郷の結界ごと切裂いてしまうだろう。んなことしたら紫苑にガチで殺される。

単純作業自体が僕の肌に合わないから当然だよ、うん。裁縫関係だと何時間も続けられるから不思議。

 

満月になるまであと何時間だろうか?

地面に突き刺したクレイモアに寄りかかりながら時間を数えていると、活動を再開した異形の者共が金切声や咆哮を交えながら突進してくる。

やれやれと肩をすくめながら両手剣を引き抜いて払う。

 

「よっこらせ――」

 

 

 

 

 

――ズドオオオォォォォォォオオオオン!!

 

 

 

 

 

背後から聞こえた壮大な爆発音。

両手剣をさっき投擲したような音が世闇に鳴り響き、月の光源によりその姿がはっきりと映し出された。ちなみに爆発に巻き込まれて数体ほど吹き飛ばされる。まるでゴミのようだ。

爆煙が踊る中、化け物同士の乱戦に介入してきた人物の肖像。それは僕が知っている人物であり、そもそも人ではなかった。

 

緑色の髪をした女性。落ちると同時に突き立てた傘を引き抜き、不機嫌そうに僕を睨む大妖怪。ここに来ること自体が不本意であると言いたげで、勢いよく落ちてきたのも八つ当たりのように思える。

落下してきた妖怪――風見幽香は刺のある言葉を吐く。

 

「まだ掃除が終わらないのかしら?」

 

「ゴミが多いと片付けが遅くなるのは必然でしょ? 君は異変解決に乗り出すようなタイプの妖怪だとは思わなかったからビックリしたよ。それともどさくさに紛れて僕でも殺しに来た?」

 

「それは素晴らしい提案ね。時と場所によっては即実行してもいいわ。実行させなさい」

 

皮肉で言えば皮肉で返ってくる。

紫苑と会話しているようだと笑った瞬間、傘を構えたゆうかりんが突進してきて、僕――の背後を爪で切り裂こうとした蠍竜を叩き落とし、傘を振りかぶって遠くに打つ。

野球で言えばヒットかな。砂埃を巻き上げながら吹っ飛ばされたけど。

 

ブンブンと傘の調子を確かめて顔をしかめるゆうかりん。

 

「……無駄に固いわ」

 

「簡単に貫通できるんなら僕が全部斬り裂いてるよ。僕は全力出せないし、知能の欠片もなく全力出せる相手だから余計にさ」

 

「面倒だけど珍しく紫に頼まれたの。引き受けなければよかった」

 

「御愁傷様」

 

アンタに言われたくないわ、と更に顔を歪める花の妖怪。

僕は悪戯っぽく笑いながら両手剣を構え、ゆうかりんに背中を預けるような位置をとる。それに気づいたフラワーマスターは鼻を鳴らして同じように背中を合わせる。

 

共闘、か。

たぶん壊神辺りがこの光景を見たら顎の関節が外れるくらい驚くかも。重奏メンバー以外に自分の背中を任せるなんて初めてだしね。

けど風見幽香は紫苑の弟子。

それだけで任せる価値はある。

 

それに面白そうじゃないか。こういう展開とか。

異形の怪物に囲まれる中、僕は不適にほくそ笑む。

 

 

 

 

 

「後ろは任せた、ゆうかりん♪」

 

「黙りなさい腐れ外道」

 

 

 

 

 

有象無象が二人の戦闘狂に群がる。

 

 

 

 




未来「前半は共同戦線じゃなくね?」
紫苑「それな」
紫・幽香「☆-(ノ゚∀゚)八(゚∀゚ )ノイエーイ☆」
紫苑「まぁ、二人が喜んでるし問題ないやろ」
未来「次回で多分今章終わるよ~」
紫苑「("´∀`)bグッ!」

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