東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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辛かった
何というか……その、描写が辛かった(´・ω・`)


51話 吸血鬼の古戦場(下)

 闇マ初日。

 百戦錬磨の人ならざる者達が街の中央区域にある大きな会場に集合する。しかし今回は小さな違和感があった。

 朝早く設営を行う段階で、参加サークルの面々は異様な光景に首を傾げていた。特に自分達の売り子として雇っていたはずのサークルなどは聞かずにいられなかっただろう。

 

 当サークルではなく他サークルが雇った売り子達が、設営を行っていたのだ。それも場所が『壁』ともなれば尚更だろう。そこは有名所の歴戦の猛者達の玉座とも呼べる場所なのだから。

 天使の羽を生やしている者、神秘的な存在感を放つ少女、古老の中でも若き吸血鬼。種族がバラバラではあったが、設営している者達の共通点は、全員があの(・・)第一部隊に所属する精鋭。それだけで大半の者達が「あぁ、紫苑(あれ)絡みか」と興味を無くす。いや、興味を無くすと言うよりも、どうせ何やってるのか考えても分かるわけがないという感情を抱いていた。

 不敗の魔術師はやること成すこと型破り。その共通認識のお陰か、企んでいる者の正体がバレることはなかった。

 

 第一部隊の人外に尋ねても頑なに語らず、力ずくなど神聖な祭典の場である会場で実行するなどもってのほか。

 主催者の暗闇に直接聞いた者もいたが、いつものように悪戯っぽい笑みを浮かべてはぐらかすのだった。

 

 

 

 

 

『ちょっとしたサプライズさ。見てなって』

 

 

 

 

 

 知りたい気持ちは山々だったが、自分達の設営やら審査やらで忙しい現状、変化が訪れるまで壁にある無人のスペースのことなど忘れ去られていたのだった。

 少しの間だけだったが。

 

 各サークルが設営も終わって互いに挨拶回りをしている最中、それが現れた。その時の会場が凍りついたように止まったのは言うまでもないだろう。

 最初に気づいたサークルは、並んで歩く二人に眉を潜めた。

 戟厨の天狗と、街では見たことのない幼女。とうとう鴉天狗がロリコンに目覚めたかと歓喜するサークルだったが、次に二人の後ろを堂々と歩く背の高い青年に驚愕する。

 

 

 

『こっちで合ってるのかしら? というかソレ重くないの?』

 

『鍛え方が違うッスから! 紫苑隊長の仕事手伝ったときとか、これ以上に重いものを毎日持ってたッスよ』

 

 

 

 鴉天狗は描写する必要もない。恐らく同人誌やらグッズの入ったダンボール箱を数個持ちながら歩いていて、街で奴が荷物運びをしている姿など見飽きていたからだ。

 重要なのは鴉天狗の横を歩く幼女だ。街では見たことがなく、彼女の名前は誰も知らない。しかし、彼女の外見は街でも中々お目にかかれないほど美しく、そして可愛かった。高貴な雰囲気漂う紫髪の幼女に、ロリコン共はハイテンションになっている。

 誰も『設営来るの遅せーよ』とは思わない。

 可愛いは正義なのだ。

 

 さて、問題は後ろを堂々と歩く青年。

 前の見知らぬ幼女の可愛さを以てしても、後ろを歩く妖怪の存在感は消えることなく、特に彼の同胞は自分の震える手を押さえることが非常に難しかった。

 格好ならば三人に違和感はない。自分達が売り出すのだろうキャラが印刷されたTシャツ(通称・痛T)をそれぞれ着用し、通気性が良く動きやすそうな服装だった。青年が背負っている鞄からはスポーツ飲料が覗く辺り、この闇マのハードさを知った歴戦の猛者であることが伺える。

 だからこそ――彼等は確信してしまったのだ。

 本来居るはずのない妖怪であることを。

 

 ハッと我に帰ったのは古老の吸血鬼。

 朱色の髪をした老人が、青年の横に跪き頭を垂れて言葉を発するのだった。そこには長年の貫禄があり、魔法少女のコスプレをしていなければ見映えのよいものだっただろう。クオリティーが高いだけに、一般人ならば目を背ける出で立ちだ。

 三人は立ち止まる。

 

「発言を御許しください」

 

 

 

 

 

「許す」

 

 

 

 

 

 この会話だけで皆は理解する。

 『この王は本物だ』と。

 威厳や覇気だけではない、発音から言葉のスピードまで、自分達が何億と聞いてきた王の御言葉を聞き間違える訳がない。

 

「お……おぉ……!」

 

「発言になっておらぬではないか! ……まぁ、此度は目を瞑ろう」

 

 古老の吸血鬼は滝の涙を流す。

 フリフリの魔法少女のコスプレをしたまま。

 

 闇マに参加するであろう他の吸血鬼も、続々と集まって頭を垂れて、目前の吸血鬼のように涙を見せる。

 王が復活されたことに感激しているのか、王の同人誌の続きが見れることに歓喜しているのか、興奮すると語彙力が低下する現代のオタクを忠実に再現しているのか、はたまた美幼女を拝められたことが泣くほど嬉しいのか。

 恐らく全部だろう。

 アニメ・ゲームキャラのコスプレや押しのキャラがプリントされた痛Tを着た老若男女が、頭を垂れたまま一人の青年の前で泣いていた。

 

 これを幻想郷在住の元街住民が見たのなら、『うっわ、ヤバいオタクじゃん。近寄らんとこ』と腹を抱えて笑うだろう。

 まだ(・・)比較的一般人に近い思考を持つレミリア・スカーレットは異様な光景を見て、ポツリと呟くのだった。

 

 

 

 

 

「……何これ?」

 

「レミリアさん、1D6/1D20のSAN値チェックッス」

 

「地味に痛いわね」

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 帝王の再臨。

 それは他の妖怪や神仏にとって吉報とも呼べるものだった。

 闇マが開催されて以降、すぐさま帝王のブースは長蛇の列を作り、吸血鬼の同胞達は新刊を手に泣き崩れたり、「尊い……」と祈りを捧げたりする光景を目にすることとなった。

 街の外で暮らしてきた吸血鬼レミリア・スカーレットは、胸に十字架を切って祈りを捧げてる同胞に猛烈な違和感を覚えたが、彼女は少なからず学習しているのだ。この街は幻想郷以上に常識に囚われてはいけないと。そもそも隣で同人誌を華麗に売り捌いている祖父自体が非常識の塊であると。

 

 だから自分は目に見える全てのものにはツッコまず、苦笑いを浮かべながら売り子に徹する。

 例え――今から新刊を渡す相手がフリッフリのスカートが目立つ魔法少女のコスプレをした、自分でも見知っている吸血鬼が相手だとしても、だ。

 

「レミリアお嬢様、お久しぶりですな」

 

「モーゼル……」

 

「少し見ない間にご立派になられた様子」

 

 貴方は少し見ない間に何があったのよ?とは思わなくもなかった。

 彼はヴラド公の配下でも地位が高く、『古老の十二鬼』の一人として名を連ねる誇り高き吸血鬼……のはずだ。昔は自分のことを世話してくれた好好爺であり、フランの能力の影響を受けないせいか、比較的妹もなついていた。あの頃は、こんなヤバい服装をするようなオッサンじゃなかったはず。

 本人が気にしていない様子なので指摘はしないが……しないのだが……。

 

 彼は自分が手渡した新刊とグッズを受け取ると、客の誘導を慣れたように行っている山田に従いながらも、後方の列に向けて買った新刊を掲げる。それに『うおおおお!!』と歓喜する面々。

 なんじゃこりゃ。

 頭を抱えていると、今度の客も濃いオタクだった。

 

「おやおや、闇マは初参加かね? この程度のことで参っていては、吸血鬼として生き残れないぞ?」

 

 モーゼルに劣らず筋骨隆々の大男。スーツケースを転がしながら私の前に現れたそれは、痛Tに加えて何かのアニメかゲームのキャラが印刷された羽織を着用し、『萌え命』と達筆で書かれた鉢巻きをしている老人だった。

 絶句する他なかった。

 なんだこの変な人は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ゼウスさん」

 

「ゼウスぅっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのポセイドンが言ってた二次元に生きる神。

 ギリシャ神話の主神……のはずの神の名を山田が呟き、私は思わず叫んでしまった。

 彼は私の反応に気を悪くした様子は一切なく、寧ろその反応が正しいと紳士的な笑みで返してくる。海の神の時にも抱いたが、随分と神話との印象と違いがありすぎて困る。

 

 新刊一つとTシャツを購入したゼウス神は、嬉しそうにスーツケースへと買ったものを仕舞う。

 チラッと他の同人誌が大量に入ってたのを見逃さなかった。

 

「ここの新刊は一人につき一冊しか買えないから、痛んだり風化しないように保存しないといけないし苦労するよ。せめて保存用・観賞用・布教用の三点は欲しいところだ」

 

「後で闇ブックスに委託するから安心せい」

 

「待つことにしよう」

 

 あんぐりと口を開ける私に、ゼウスは紳士的に微笑む。

 女癖の悪さで有名なギリシャ神話の神だったはずなのだが、その面影がないどころか女性に興味がないような気がする。

 というか自由すぎないか?

 

「イメージが崩壊していく……」

 

「神話のイメージが強いレミリア嬢は、私が女ったらしのロクデナシだと思っていたのかな? 確かにその認識は正しい。昔は女見かけると孕ませるレベルのプレイボーイだったからね」

 

 ちょっとしたテロではなかろうか?

 

「でも気づいてしまったんだ、私達は」

 

 そう言ってゼウスは遠くを見る。

 何かポセイドンも同じことをやっていたなぁ、と思うと同時に、恐らくこの後とんでもない迷言が生まれると確信した。

 

 

 

 

 

「二次元の方が神ってるって」

 

 

 

 

 

 何言ってるのか分からないのは私だけではないはず。そうよね? そうと言って。

 後方に列が作られており、ゼウス神の語りは周りに迷惑のはずなのに、誰も注意しないどころか彼の演説に頷いていた。それは祖父も例外ではなく、本当は私が間違ってるのかと錯覚を覚える。

 ただ夜刀神のしでかしたことの重大さだけが、現実として私の前に突き付けられるのだ。

 

「まさか三次元のクソさ加減を人間に気づかされるとは思いもしなかった。私は恥じるばかりだよ。特に日本人の作った『エロゲ』なる物は至高の神器じゃないか」

 

「ゼウスよ、三次元がクソとは聞き捨てならん。二次元を作るのもまた、三次元の人間だということを忘れてはならぬ」

 

「おっと、それもそうだ。私も考えが足りないな。というか人間に知恵の実を与えた蛇ってマジ神じゃね?」

 

「それな!」

 

 ……この後もゼウスの語りや、おじいさまの握手会など、内容の濃いイベントが行われたのだが、割愛させていただこう。私はずっと振り回されるように変わり果てた吸血鬼(どうほう)に会ったりと、精神的ダメージが大きすぎたのだから。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「どうだ、レミリアよ。此度の闇マは楽しかったか?」

 

 心身共に疲れ果てた闇マ初日。

 ベッドにうつ伏せになって倒れている私に、おじいさまは心底楽しそうに感想を聞いてきた。同胞からの差し入れで貰った赤ワインをグラスに注ぎ、それを近くにいた山田に渡す。

 そして自分のワイングラスにも注ぎ、色を楽しんでいるようだ。血のように紅いのだから尚更か。

 

 私は倒れながらも今日のことを考える。

 とにかくヤバかった。自分の知ってる吸血鬼とは別方向に進化しており、神話の神々ですら日本のサブカルチャーに染まっていた。見方を変えれば『幻想』が『現実』に影響されており、狭間の世界と言う夜刀神の説明にも納得がいった。

 それはそうとして、驚くこともあったり、呆れることが多々あったけど、楽しくなかったかと問われれば……忌避するものじゃなかったと思う。

 

 確かに他所から見れば皆おかしかった。

 しかし――皆が真剣だった。

 

 真剣に取り組んだものを世間に公開し、それを評価し合う。同じ志を持った者同士が、切磋琢磨するために種族関係なく感想を参考にして次に生かす。

 私だって今日売った同人誌を夢中になって手伝った。

 地獄ではあったし、辛かったけれども、楽しくなかったわけじゃない。寧ろ面白かった。『おじいさまと一緒に何かをする』という理由もあったけど、純粋に絵を描くことが楽しかったのだ。

 

 だから私は返答する。

 顔を向けず、うつ伏せになりながら。

 

 

 

 

 

「……楽しかったわ」

 

「……ほぅ、そうか。そうか」

 

 

 

 

 

 さて、次はどんな変人と会えるだろうか。

 どのような真剣に取り組む変人がいるのか。

 

 まだ闇マは始まったばかりだ。

 

 

 

 




紫苑「4/28」
未来「ん?」
紫苑「ほら、作者が『東方神殺伝~八雲紫の師~』を投稿し始めた日」
未来「……あー、もう一年たつのか」
紫苑「早いもんだねぇ(*´ω`)」
未来「だねぇ」
紫苑「というわけで活動報告でちょっとしたアンケートをしてる」
未来「興味がある方はぜひ覗いていってね(/・ω・)/」

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