東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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ここからリメイク祭りです(`・ω・´)


52話 神殺の修羅な一日(上)

 

 もうそろそろ春が来るかな?と思えるほどになるくらい雪が溶けてきたある日のこと。春雪異変で遅れた春が到来を告げるのも間近、どうせ花見という名の宴会を始めるんだろうなーと思う頃。

 いつも通りの日常を送っていた……のだが。

 

 

 

 とある幻想郷の賢者が言った。

 

「あの……デートしませんか?」

 

 とある四季のフラワーマスターが言った。

 

「私とデートしなさい」

 

 とある冥界の管理人が言った。

 

「私とデートしましょ?」

 

 

 

 

 

 ――同日同時刻を設定して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どーすりゃいーんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ~デート当日~

 

 

「「「………」」」

 

 修羅場、というものをご存知だろうか?

 血みどろの激しい戦いや争いの行われる場所。または、人形浄瑠璃・歌舞伎で激しい戦いや争いが行われる場所。本来はそのような意味で使われ、今では『男女間のトラブル』として使われる言葉。

 少し前の俺だったら『んな物騒な言葉を男女のトラブルに使うなよ……』とか言って呆れていただろう。

 しかし、

 

 

 

 うん、修羅場だわ。

 超血みどろだわ。

 

 

 

 人里の入口に集合――というわけで来たのだが、俺の目の前に広がる光景は確かに『修羅場』であった。思わず木陰に隠れるレベルで。

 紫は警戒するように二人を観察し、幽香は露骨に不機嫌そうな表情を浮かべ、幽々は目を細めながら何かを策している気がする。幽香はまだ分かるけど、紫と幽々は友人関係だったはず。どうしてここまで不仲になれるのか、俺の脳じゃ理解できやしない。したらいけない気がする。

 ほら、人里の門番している若者が怯えているじゃないか。それでも二本足でしっかり立っていられるのは、門番の鏡とも言えるだろう。

 あんなの街でも滅多に見られんぞ?

 

 

 

 

 

 正直言おう。

 あの中に行きたくない。

 

 

 

 

 

 今すぐ回れ右して我が家に速やかに帰宅したい衝動に駆られる。

 俺は切実に思った。

 

「帰りたい……」

 

 そう呟いてしまった瞬間。

 三人が同時に俺の方へ振り返って、声を揃えて呼ぶ。

 

「あ、師匠!」

 

「遅いわよ」

 

「紫苑にぃ!」

 

 見つかったぜ。

 先ほどの空気が嘘のように、爽やかに俺を迎える3人。見事なまでの手のひら返しに、『女は想像以上に怖い生き物』だと改めて認識するのであった。

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 師匠との初デートに心を踊らせていたことは否定できない。

 実際に待ち合わせの三時間前に来てしまったし、服選びには一週間を費やした。

 しかし……まさか他の2人まで待ち合わせていたとは。

 

「お、おう。待たせたな」

 

 待ち合わせ時刻の10分前に師匠は現れた。

 相変わらずの現代風ファッションに身を包み、なぜか顔をひきつらせながら謝ってくる。しかも半泣き。

 師匠を泣かせた奴は後で産まれたことを後悔させてやるとして、私は幽香と幽々子に警戒しつつ師匠に話しかけた。できるだけナチュラルに、他の二人に『先を越された!』と思わせないように。あまり彼女等を敵に回したくはない。

 

「今回は私の我が儘でお越しいただきありがとうございます」

 

「……うん、こっちもさそってくれてうれしいよ」

 

 なぜか口調が硬い。こういう師匠は非常に珍しい。

 すると、こういう場面に一番疎いはずの幽香が動き出す。

 

「ちょっと人数が多いけど、行きましょ」

 

「お、おい!」

 

 何ということでしょう。

 あのバトルジャンキーで戦うことと花の世話以外は素人同然の幽香が、あの(・・)幽香が、『女』を師匠に意識させつつも自然と師匠の左腕を抱き寄せる。文句のつけようのない鮮やかな仕草だった。

 私は唖然とした。

 昔から彼女を知っている私としては、幽香が積極的に動くとは予想してなかった。どちらかと言えば強引に連れ出すことも想定していて、幽香よりも幽々子が『女』として注意するべきだと考えていたからこそ、彼女の行動に一歩遅れる形となってしまった。

 それは計算高い幽々子も同じようで、目を見開いている。

 今がチャンスだ。

 

「そ、そうです! 早く参りましょう!」

 

 私は咄嗟に幽香とは反対の腕――右腕に絡み付く。

 『師匠は女性の胸が好き』という情報を切裂き魔――九頭竜未来から得たので、私の持つ全ての武器を使って師匠を満足させる。

 

 というわけで師匠の腕に形を変えるほど胸を押し付けているわけだが……物凄く恥ずかしい。

 幽香の方を伺ってみると、彼女も顔を赤くしていた。

 男性に慣れていないのは一緒か。

 

「む……」

 

 もう師匠に抱きつくところがないからなのか、幽々子が頬を膨らませる。古くからの友人に申し訳なく思っていると、幽々子は大胆な行動に出る。――師匠の腰に抱きつくことで。

 

「ちょ!? 幽々!?」

 

「……ダメかしら?」

 

「いや……さ、さすがに歩きにくいかなーって」

 

そう師匠が呟いた瞬間、幽々子は幽霊特有の浮遊で問題を解消させた。私や幽香には到底できない芸当だ。

 

「これなら大丈夫ね」

「……うん……はい」

 

なぜ師匠は最初から疲れているのだろうか?

 

 

 

 

 

「で、どこに行くのか決めてるのか?」

 

 人里で3人の女性を侍らせながら歩く師匠が問う。その間、すれ違った住人が私達を二度見するなど、やけに外部からの視線を感じる。特に人間の男などは殺気に近い。

 外の世界なら『ただのクソ男』のように見えるかもしれないが、幻想郷はすべてを受け入れる。師匠くらいの実力を持った男なら、女の3.4人侍らせていても何も問題ない。

 それ以前に人里の人間全員を敵に回しても、師匠なら鼻歌交じりに一掃できるはず。誰も文句なんて言えないし言わせない。

 師匠の質問に、私が最初に答えた。

 

「師匠の服を買いに行きませんか?」

 

「服? まだ着れるものなら大量にあるぞ」

 

「その服装は人里では浮いてしまいます」

 

 それもそうか……と師匠は了承した。

 本音は師匠の和服が見たいだけである。

 

 近くの呉服屋を探すために3人は離れて探していると、師匠は古着屋(・・・)に入ろうとするのを目にした。3人は慌てて止める。

 師匠は止められた理由がわからず困惑中。

 

「どこ行こうとしてるの?」

 

「え……和服って古着屋に売ってるもんじゃないのか? そこまで詳しくないが……え、間違ってた?」

 

「古着屋は質の低い服を売ってるのよ。外の世界風に言うのならば、確か『りさいくる』って奴ね。上質な和服なら呉服屋で買うのが主流かしら」

 

「ふーん、なるほど」

 

 幽香の説明に相づちを打つ師匠。

 師匠は納得すると――また古着屋に入ろうとする。

 

「紫苑にぃ!? 話聞いてた!?」

 

「いや……別に質が低くても問題ないやろ。どうせ人里に買い物するときぐらいしか着ないんだから、わざわざ高い和服を買わなくても……」

 

「そういう問題じゃないのだけれど……」

 

 さすがの幽々子も眉を潜める。

 師匠の服装は外の世界では『普通』の部類に入るが、当の本人はファッションにそれほど興味がないように思われる。その矛盾におかしいと幽々子は疑問に思っているのだろう。

 物凄く嫌な予感がしたので、私は師匠に尋ねた。

 

 

 

 

 

「まさか……師匠って服を自分で買ったこと――」

 

「ないぜ。基本的には古着か、詐欺師や切裂き魔が選んだ服を適当に着てる感じだから……ファッションとか全然分からん」

 

 

 

 

 

 あぁ、ファッションに無関心なタイプの人間か。

 私たち3人は悟ると同時に、師匠に服を選ばせたら大変なことになる!と呉服屋に手を引く。

 

 様々な衣服が並ぶ、幻想郷でも老舗にして大きな店。

 呉服屋を目の前にして、師匠の感想は

 

「なんか高そうな布使ってるなー」

 

 完全にアウトな人の発言だった。

 

「紫苑にぃはよく動くから、単物がいいと思うわ」

 

「ねぇ、2人とも。師匠に合いそうな服の色って何かしら?」

 

「紫苑なら……黒じゃない?」

 

 個人的には紫色を押したいところだが、なぜか腹黒いイメージがついてしまうので、幽香の意見に賛成する。幽々子は桃色を選択肢の候補に挙げていたが、よくよく悩んだ結果断念していた。師匠はなぜか暗色が似合う。九頭竜や詐欺師という人物なども、それを知っていて今の服を勧めていたのだろう。

 次は良さそうな黒色の単物を3人と、店で働いている人間の娘で探しているわけだが、その間に師匠は店主と雑談をしていた。

 

「お、これは夜刀神さん。この間は商品の搬入を手伝っていただき、誠にありがとうございました!」

 

「いやいや、仕事ついでに手伝っただけだし、お礼を言われるようなことしてないぜ」

 

「着物、お安くしておきますよ?」

 

「それは悪いなぁ。そっちも商売だろ?」

 

 いつのまにか出来つつある師匠の人里におけるコネクションを垣間見た気がする。適当に選んだ呉服屋でこれなら、もしかしたら師匠は人里で結構顔の広い人物なのかもしれない。

 

「これなんてどう?」

 

「……それなら紫苑に似合いそうね」

 

「紫苑にぃなら何でも似合うと思うのだけれど……その色は絶対合うわ」

 

 色々探していくうちに師匠に似合いそうな単物をいくつか見つけたので、雑談していた師匠を呼んで試着してもらうことにした。そして一着目――赤い刺繍の入った単物を着た師匠の姿を見て……私たちの時間が止まったような気がした。

 

「ズボンは着たままでもいいよな? ……なんか男性用のチャイナ服みたいな着こなしになるけど、これなら動きやすいから大丈夫か」

 

 師匠は満足したように飛んでみたり回し蹴りを放っていた。

 着物を着て最初に考えるのが『機能性』な辺り、なんとも師匠らしいとも言える。

 確かに飛んだり跳ねたりしても太腿が見えることはないし、何の違和感もなく人里を徘徊することも可能だ。けれど、私たちが気にしているのはそこじゃない。

 

 

 

(((か、カッコイイ……)))

 

 

 

 日本人のDNAを持っているから、という理由では納得できないほどに似合っていた。

 元々顔立ちが良く、何を着ても絵になるのは分かっていた。だから着物もきっと似合うだろうと軽い気持ちで勧めてみたのだが、私の予想を遥かに超えていたのだ。周囲の音・気配が感知できず、見も魂も奪われるかのように人を引きつけ、心臓が止まるかと思うほど美しい。

 店主も『これはこれは……』と感嘆の声を上げ、その娘も師匠から視線を逸らせない。

 その誰もが見惚れるさまを勘違いした師匠が、眉をひそめて私たちに声をかけた。

 

「お、おい。なんか言えよ。そんなに似合ってなかったか?」

 

「――い、いえ! ものすごく似合ってますよ!」

 

「そうか? ならこれ買おうか」

 

 似たような単物と一緒に買おうとして店主に値段を聞いたのだが、我に返った店主は冷や汗をかきながら「お代はいりません!」と言い放つ。

 

「これ俺が見てもわかるぐらいには高いだろ? さすがにそんな高価な着物を3着もタダで貰うわけにはいかないわ」

 

「夜刀神さんがそれを着て人里を歩くだけで宣伝になります! 貴方のような方が私が取り扱ってる着物を着ているだけで、他所への宣伝になりますのでお代は貰えませんよ!」

 

「そ、そうか?」

 

 店主の必死の形相に引きつつも、師匠は納得して自分の所持品を懐に入れた。

 そして羽織っていたコートや貰った着物を妖刀などを収納している空間に放り込む。私のようなスキマに入れるのではなく、ふわっと手にあったものが虚空に消えていくようだった。前に師匠に聞いてみたのだが、機密事項と答えるだけで詳細は聞けなかった。

 私たちは店主に礼を言うと呉服屋を後にする。

 

「うーん、こんな上等なもの貰っちまったから、これからは買い物の度に着物を着ないといけないのか。簡単に破れたら困るし、今度紅魔館に行ったときにパチュリーさんに魔術でも掛けてもらおうかな」

 

「七耀の魔女にですか?」

 

「うん。あ、この色選んでくれたの紫だろ? ありがとな」

 

 師匠はそのまぶしい笑顔を私に向けてくれた。

 

 

 私は――その顔を直視できないほど顔が真っ赤になっていた。

 

 

 




幽香「紫苑のファッションセンスは皆無なのね」
紫苑「ストレートに言われると傷つく」
幽々子「皆無でいられるほど素材が良いのよ」
紫「霊夢たちの反応も見てみたいわ」

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