東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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喘息マジで辛いです(´・ω・`)


56話 奴が来る

 幻想郷は今日も平和である。

 俺は霊夢と一緒に人里までの道を歩きながら、時々襲い来る妖怪をシバいていた。もちろん街に住んでいたときのように襲い来る妖怪を片っ端から皆殺しにするわけではなく、ちゃんと幻想郷のルールに則って弾幕を用いて合法的に退治しているのだ。

 最近の『実用性』よりも『面白さ』を追求し始めた俺の弾幕は、弾けたり増えたり回ったりと、不規則な動きをする弾幕へと変化した。いやー、これ綺麗だね。

 そんなわけで通常なら飛んで向かう人里に、俺と霊夢はのんびりと歩いて向かっている。

 

「耐久スペカの精密度も雑にしないとなぁ。初見だと不可能、でも馴れれば何とかなる……みたいな?」

 

「師匠のスペカって鬼畜仕様多いもの。避け続けないといけない耐久スペカで二秒すら耐えられなかったわよ? 綺麗なのは認めるけど、認める前に心が折れる」

 

「未来にも言われたわ、それ」

 

 紫苑の鬼畜外道さが耐久スペカに顕れてるよ、とか未来が煽ってきたぜ? 酷い言いようだ。

 かという未来のスペルカードは一直線上に展開するタイプの弾幕が多く、実用性よりもロマンを追求した仕組みになっており、俺としてはアイツのカードを目指して制作中。斬撃のような光を一直線上に振り下ろすスペカなどは面白かった。

 ヴラドのスペルカードは見たことがないけれど、どうせ派手なシロモノに仕上がるだろう。見てなくても予想がつくわ。

 

 こうやって考えるのはすごく楽しい。

 下手に殺し合いを意識せず、未来やヴラドを合法的にボコボコにすることが可能なゲームという時点で、弾幕ごっこは俺にとっての神ゲーだ。

 

「けど下手に緩くするとアホ共と勝負にならないんだよね」

 

「……貴方達の回避能力が尋常じゃないからよ。一日中ずっと弾幕ごっことか、私や魔理沙でも考えないわ。もうこれからは『先に当てた方の勝ち』なんて言わないで」

 

「さすがに反省してるぜ? 泥沼化するとは思ってたけどさ、面白いを通り越して面倒だった」

 

 先日に行われた未来との弾幕ごっこ。

 スペカを散々ばら蒔き、耐久を意地張って回避し続けた挙げ句、いつの間にか24時間越えてたという頭の悪い結果を叩き出した。夢中だったから気づかなかったけど、よくもまぁ長時間もやってたなと我ながら呆れたのは内緒だ。

 あのアホは面白かったとケラケラ笑ってたが。

 

 っと、また妖怪か。

 前から襲ってくるのは3.4匹の異形の怪物。博麗の巫女や俺から見れば歯牙にもかけないような敵。

 霊夢も肩を落として溜め息をつき、俺はスペカの実験台が来たと新作を構える。さて、せめて昨日実験台として付き合ってもらった魔理沙が涙目にならない程度の威力になってれば――

 

 

 

 ズドンッ!!!

 

 

 

「「……は?」」

 

 目標が百メートルも満たない位置に来たときに、その不思議な現象は起こった。妖怪の居た場所が急に爆発したのだ。

 骨の髄まで響くような振動と共に抉られた地面の残骸が周囲に散り、こちらにも飛んできたので『風』の化身を用いて振り払う。地面が大きく揺れ、霊夢が足を縺らせて俺にしがみついた。地雷でも埋め込まれていたのかと錯覚するくらいの規模に、俺は眉を潜める。

 粉塵が舞い散るなか、霊夢は目を丸くしながら俺に問う。

 

「な、何が起きたの?」

 

「その反応からして、幻想郷の日常ではないってことか。さぁ、俺も詳しくは分からんから……」

 

 空中の物体が地面に落ちるニュートンの法則は適用され、粉塵はやがて晴れて視界が良くなる。

 そこで俺は気づいた。

 中に人影がある。そこには――

 

「あれ誰?」

 

「………」

 

 俺は今どのような顔をしているのだろうか?

 粉塵が晴れた先には、小柄な一人の少女らしき人物が佇んでいた。艶やかに輝く金髪をおさげのように後ろで束ね、紫紺の瞳をゆっくりとこちらに向ける。綺麗に整った顔を台無しにするかのような仏頂面を全面に出し、俺と霊夢をじっと見つめていた。

 これだけなら美少女が目の前に現れただけの王道ラノベ展開。しかもチルノなどの妖精達より少し大きい程度の身長に加えて、メロンを彷彿させる大きさの胸に目が行く。ロリ巨乳だぜ? 普通の男達なら大歓喜間違いなし。

 

 しかし、どうしても俺達は地面に突き刺さる禍々しい黒色の大剣と、肉片を撒き散らせた妖怪の成れの果てに視線が誘導されてしまう。

 明らかに彼女が着地すると同時に、妖怪達を皆殺しにしたようにしか見えない。霊夢は険しい表情で少女を睨む。俺達が歯牙に掛けないとはいえ、相手は地面を陥没させながら現れたのだ。危険視するのも無理はないだろう。

 

「そこのアンタ、何者?」

 

「………」

 

「無視とはいい度胸ね……ねぇ、紫苑さ――紫苑さん?」

 

 金髪の少女は無言でこちらに歩いてくる。

 特徴的なアホ毛を揺らしながら迫り来る少女を警戒しながら霊夢は話しかけてくるが、俺としてはそれどころじゃない。

 なぜ彼女が幻想郷(ここ)に居るのか。どうせ暗闇が余計なことをしたと考えれば辻褄が合うので、この疑問は置いておこう。今重要なのはそこじゃないのだよ。

 

 さて、読者の諸君。

 もしも面倒事が彼方から舞い込んで来て、それは自分がやらなくても良いことであり、逃げる選択肢があるとしたら……そのとき君達はどんな行動をとるだろうか?

 厄介事に自ら立ち向かう勇者もといドMも少なからず存在するだろうが、往来『勇者(いさましいだけのひと)』は早死にすると相場が決まっていると、俺の友人は語っていた。

 この話で俺が言いたいことは一つ。

 

「………」

 

「ちょ、師匠!?」

 

 全力で逃げることである。

 

 

 

「……逃がさない」

 

 

 

 

 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!

 怨嗟のような声が聞こえた気がしたが構わん。俺は『大鴉』の化身まで使用し、彼女から逃げるのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「というわけで匿ってくれ」

 

「どういうわけよ」

 

 そんなこんなで金髪の化け物から逃げてきた俺は、どうにかこうにか紅魔館に滑り込むことができた。門番さんは寝てたので、意外と簡単に紅魔の主の前へと拝謁する。

 咲夜は美鈴をブチのめす……鉄拳制裁を喰らわせるために場には居らず、俺は玉座にいるレミリアを見上げている。レミリアは何か思うことがあるのか嘆息し、頬杖をつきながら俺を見据えた。

 

 一見してレミリア・スカーレットにカリスマがあるかのような描写をしてみたが、間違えのないように正直に言おう。

 服装はジャージである。

 

「貴方が珍しく血相変えて飛び込んでくるものだから、こう見えて焦ってるのよ? ちゃんと私にも分かるように説明しなさい。もう面倒事に巻き込まれるのは慣れたから、一応は協力――」

 

「それ、ぶーん!」

 

「あはは! おじーさま速ーい!」

 

 俺が説明しようとしたタイミングで、金髪吸血鬼のフランを肩車して走るヴラド・ツェペシュが応接の間に現れる。王の威厳やら怪異の主としてのプライドをミクロ単位でも感じ取れない、孫バカの醜態をさらけ出すジジイ。

 両腕を広げて飛行機のように走る姿は、保育園の先生を彷彿させる。吸血鬼の王に抱くイメージではないのは承知している。でも似てるもん、あれ。

 孫と遊べて楽しいのは分かったから、少しは落ち着いて欲しい……って、レミリアは考えてるんだろうなぁ。顔にそう書いてる。

 

「あ、お兄様!」

 

「神殺ではないか。セミの裏側みたいな顔をして困って、何かあったのか?」

 

「おいクソジジイ、表出ろや」

 

 ここに『白馬』でも投下してやろうかと考えたが、フランやレミリアもいるので我慢する。

 その上重要な情報も与えるんだから、俺超優しい。

 

「ヴラド、落ち着いて聞いてくれ」

 

「ほぅ? 貴様が取り乱すなど珍し――」

 

 

 

「――アイリスが来やがった」

 

 

 

 その時のヴラドの表情はなんとも言いがたい。

 だいたいの予想はしていたが、言葉に出さずとも「えぇ……」と表情が物語っていた。吸血鬼の王にこんな顔をさせる『アイリス』という人物のことが気になったのだろう。レミリアが興味半分でアイリスのことを聞いてくる。

 止せばいいのにさ。

 

「アイリスって誰?」

 

「……俺が前住んでた街で仕事してた時の部下だった奴なんだけど、単純な力技なら俺やヴラドも凌駕する化物だよ。とにかく『人の話を聞かない』特攻兵器みたいな、極力関わりたくないタイプの女神様さ」

 

「貴方の仲間って一癖二癖あるような部下ばっかね」

 

「そりゃ寄せ集めの集団だったからなぁ」

 

 街の連中はどこか螺子の外れた妖魔が多かったけど、暗闇が面白半分で集めた屈指の変人が俺の率いていた部隊なのだから、幻想郷の住人以上に常識がないのは仕方のないことだろう。まぁ、俺が引き入れた奴も混じってたけど。

 愛しのおじいさまが頭を抱えているもんだから、暇になったフランは俺の話を聞いて「私もお兄様の部隊に入りたい!」と抱きついてくる。狂気が完全に取り除かれていない吸血鬼の彼女ではあるが……うん、なんか違和感なさそうだ。ぶっ飛んでる奴等も多いし、むしろフランはマシな方かもしれない。

 

 現部隊長のアイリスを筆頭として、鴉天狗の切り込み隊長に、絶対半径(キリングレンジ)20kmのスナイパー大天使。筋力命の森の賢者だったはずのハイエルフや、掃討戦最強のショタ悪魔、菜食主義の狼男など……挙げたらキリがないわ。

 暗闇もこんな変人どこから連れてきた?って思う。類友? 俺はあんな変人じゃないぜ?

 

「それで、貴方はその『アイリス』って娘を女神と呼んでいたけれど、彼女はどこの神話の女神なのかしら?」

 

 俺が遠い目で懐かしんでいると、部屋に入ってきたパチュリーさんが尋ねてくる。恐らく俺達の一部始終を見ていたのだろう。別に勝手に見られてたことに怒るつもりはない。

 それよりも、これは教えてもいいのか悩む。

 曲がりなりにも部下だった者の情報を他者に言いふらしていいのか……とは全然思わず、この名前を教えたことで紅魔館の住人に迷惑をかけてしまうのではないかと考えたからだ。

 厄介なことに神々の真名は、見知っているだけで災いを生む。ソースは俺。

 

 少し悩んだ結果、俺は教えることにした。

 どっちにしろ奴が迷惑を生むのに変わりはないし。

 

「アイツの名前はアイリス・ワルフラーン。神名は『アテナ』。ギリシャ神話において知恵や戦争を司る大地母神。他地域でも名前を変えて奉られる、現代に名を残す代表的な女神だ」

 

「あ、アテナ……?」

 

 どうしてレミリアの声が裏返ったのだろう。

 あ、そっか。コイツはヴラドと街に行ったのか。なら知っていても不思議ではないな。ギリシャ神話で一番やべー奴として。

 やること為すこと全てが型破り。代表的な知恵の女神にも関わらず、本当に脳みそ使っているのか疑うくらいに破天荒な行動をとり、何より人の話を聞かないことで有名。アイツは『知恵と知識は違うもの』という意味を行動で教えてくれた。

 だって文字書けないもん。始末書は俺が代わりに書いてたもん。

 

「『アイリス・ワルフラーン』っつーのは暗闇がつけた名前だ。どうして他神話の名前をつけたのか知らんけど……」

 

「あ、でもお兄様。霊夢を置いてきちゃって大丈夫だったの? そのアイリスって奴、強いんでしょ?」

 

「その点は問題ないだって――」

 

 

 

「――見つけた」

 

 

 

 割れる窓ガラス。飛び散るガラス片。

 非常識な方法で紅魔館に侵入してきたのは、仏頂面をした金髪の女神様。ふわりと地面に着地する姿は、天上から下界に降臨したであろう神々を彷彿させ、キラキラ光る破片は彼女の神々しさを増長させた。

 

「ひぃぃぃぃいいいい!?」

 

 んな描写してる暇はないけど。

 俺は反対方向にある扉から逃げる。

 

「……待って」

 

「だぁれが待つかボケぇ!」

 

 街では日常的だった光景。

 名物『神殺と女神の鬼ごっこ』が幻想入りした瞬間である。

 

 

 

 

 

『あの女神の行動原理は紫苑に依存しておる。だから博麗の巫女に目もくれず、あの男を追いかけるわけだ。まぁ、あれも紫苑に救われた身だ。紫苑の剣にして盾を自称する戦女神。見ている分には愉快なものだぞ?』

 

『……まさか、あれ単純に夜刀神のことが好きなの?』

 

『さすがレミたん』

 

『その呼び方は止めて……』

 

 

 

 




紫苑「とうとう来やがった」
ヴラド「紫苑の不幸で飯が美味い(*´ч ` *)」
紫苑「あ゛?」
ヴラド「‹‹\(´ω` )/››‹‹\(  ´)/›› ‹‹\( ´ω`)/››」

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