東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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57話 不器用な初恋

 

 

 

 俺達と壊神の違う点と言えば、それこそ星の数ほど思い付くのだが、その一つとして『意味もなく人を殺す』という点が挙げられる。俺や切裂き魔・帝王とは違って『殺人』に関して目的を持たない奴であった。

 あらゆる行動には理由が発生する。

 しかし、あの破壊の権化は道端を歩きながら気の赴くままに、生きている連中を肉塊にするのだ。

 

 アイツは〔森羅万象を破壊する程度の能力〕のせいで価値観が歪められ、実家からは化け物扱いされて勘当。一時期は『殺人鬼』と呼ばれるくらいには無差別殺人をしていたとか。その後に俺たちの住んでた街に流れ着いたわけだ。

 あの街は無法者や化け物の収容所みたいな節があるからな。街にもルールがないわけでもないし、俺はそれを取り締まる役柄だったが。

 

 俺たちと出会って、一悶着あり、今の壊神になった。

 街に来る前とは打って変わって、だいぶ丸くなった方だ。アイツの外見を目にした奴は信じられないかもしれないけど。

 

 

 

 

 『殺人鬼』の名に恥じない狂気。

 最悪といっても過言ではない経歴。

 俺たちの中で一番気性の荒い男。

 

 

 

 

「かねさだ先生さようならー」

 

「ししおー先生! また明日ね!」

 

「おぅ、気ィつけて帰れよ」

 

 

 そんな歩く災悪が寺子屋で先生やってるとか誰が想像するんだ?

 住み込みで家事してくれる藍さんと途中で会ったアリスと一緒に人里で買い物をしていると、ウザイほど顔見知った面を有り得ない場所で発見して顎の関節が外れかけた。

 開いた口が塞がらない、とはこの事だろう。まったく、閉じなくなったらどうしてくれる?

 あの子供の教育によくない人生送ってきたキチガイ野郎が、子供たちに笑顔で手を振っているのだ。こんなの他の連中……特に一番被害を受けた俺の部隊仲間などが見たらショック死しそうなレベル。

 

「紫苑殿、どうなされました?」

 

「いや……ちょっと寄り道していいか?」

 

「別に大した目的もないし、いいわよ」

 

 二人の了解を得て、俺は寺子屋で働いてそうな殺人鬼に話しかける。近づいて確信する。偽物じゃないわ、コレ。

 

「おい、キチガイ野郎」

 

「んァ? テメェ誰に向か――てめ、紫苑か!?」

 

 物凄く驚いている様子の壊神だが、驚いてるのはこっちも同じだ。なんというか……牙を抜かれているわけでもないのはコイツの瞳で察することはできるけど、いつものイカれた壊神とは違う気がする。

 メンチ切ってきた壊神は俺の姿を見て驚くなり、次の瞬間には破顔する。こんな外見しているけど、仲間想いな奴だから憎めない。

 

「ククっ、数ヵ月ぶりじゃねェか。随分見ないうちに幻想郷に染まっちまったようだなァ。情けねェぜ、オイ」

 

「そっくりそのままお前に言葉を返してやるよ」

 

 壮大なブーメランを見た気がする。

 親しげに変な格好の男と話している俺が気になったのか、藍さんとアリスがこちらに近づいて来た。

 

「この人誰なの?」

 

「コイツは獅子王兼定。外の世界での腐れ縁なんだが、俺や未来が『壊神』って呼ぶ頭のネジ外れたキチガイ野郎だよ」

 

「ふざけた紹介すんじゃねェよ、ぶっ壊すぞ」

 

 兼定の睨みに藍さんとアリスが少し引いてしまう。

 ヴラドの常時カリスマや、未来の真面目にやるときの威圧とは違い、抜き身の刃を振り回しながら歩いてるような危なっかしさを孕んでいるのが兼定という男だ。あんまり幻想郷民に紹介したくないタイプの奴だけれど、会ってしまったのだから仕方なく紹介した。

 この『ぶっ壊すぞ』も昔とは違って本気なわけがないが、この姿のコイツを見ると本当にやるんじゃないかという『凄味』がある。

 

 兼定に抑止力的存在が居れば、もう少し丸くなるんじゃないかとは思うんだが……生憎俺たちではこれが限界だ。

 

「――おや、紫苑君ではないか」

 

 寺子屋前で会話していると、そこで勤務している慧音が出てきた。こんなにうるさくしてたら気づくか。

 俺は頭を下げる。

 

「久しぶり、宴会以来だな」

 

「君も元気そうで何よりだ。あ、兼定、お茶を入れたぞ。君たちも飲むか?」

 

「慧音さんあざーす」

 

 

 

 

 

 慧音、さん(・・)

 

 

 

 

 

 俺は自分の耳を疑った。

 前頭を握り拳で叩き、再確認する。

 

「か、兼定。お前今なんて言った?」

 

「あァ? 麗しの慧音さんに感謝の言葉を述べただけだろうがよ。テメェはお礼すらしないアホなのかァ?」

 

「自分の発言がおかしいと気づけ」

 

 

 いやいやいやいや、おかしいだろ!?

 

 

 あの女嫌い(・・・)で有名だった壊神が女性に『さん』付け、ましてやお礼なんて天変地異の前触れか!? 隕石でも降るんか!? 『老若男女問わず皆殺し』で嗤いながら壊す兼定がだぞ!?

 こんな光景、帝王や切裂き魔に言っても絶対信用しないわ!

 アホ共よりも強かった土御門の姐さんにすら敬意を払わなかったコイツ。それが寺子屋の一教師に頭下げてるとか、この会ってない数ヵ月に何があったのか知りたい。

 

 

 

 幻想郷、明日には滅びるんじゃないかな。

 

 

 

「紫苑さん、行かないの?」

 

「あ、あぁ、今行く」

 

 俺は頭を抱えたまま寺子屋の中に入るのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 物語のような出会いだった。

 『囚われた姫を王子が助ける』……そのような物語(れきし)の一説に近いことが数日前に起こった。まさか――その『姫』が私になるなんて思いもしなかったが。

 

 

 

 獅子王兼定。

 

 

 

 私が彼に持った最初の感情は『恐怖』だったのは間違いない。

 嗤いながら人里に侵入した妖怪を素手で殺していく姿は、まるで『直に人を殺す感覚を味わう』かのようだった。その人の形をした獣に、私を含む周囲にいた者は畏れた。

 あとから来た妹紅は、彼を襲ってきた妖怪と勘違いして燃やそうとしたくらい、獅子王兼定という男は危険な存在だったのだろう。

 そして彼が自分の名前を名乗ったとき。

 

 

 なぜか私には彼が『泣いている』ように見えた。

 

 

 自分でも分からなかった。彼は確かに楽しそうに名乗ったはずなのに、私には『無理して嗤っている』ように見えてしまったのだ。これが自分だと無理矢理言い聞かせるように。

 

 そう見えた瞬間、私は彼に向かって走った。

 考えるよりも先に身体が動いて、私は妖怪の血で染まっていた彼に抱きついた。胸に顔を埋めたので、私は彼の表情を見ることはできなかった。心臓の鼓動だけが私に伝わる。

 『同情』?『憐れみ』?

 分からない。

 こんな感情的に行動したのは初めてだ。

 

「おォ? どうしたよ慧音さん。クソ妖怪の血で汚れちまってるから、そっちの服が汚くなっちま――」

 

「そんな……哀しそうに笑わないでくれ」

 

「慧音さんには俺様が嫌嫌殺してるように見えたのかァ? こちとら殺人鬼なンて呼ばれたこともあるし、妖怪殺したところで悲しくなるわけねェだろ」

 

 ククッと嗤う音が聞こえる。

 その声が――どうしようもなく心に突き刺さる。

 

「……分からない」

 

「なンだそりゃ」

 

「分からない……分からないんだ! 自分でもメチャクチャなことを言っているのは理解している! でも……君が無理してるように笑ってる姿を見ると……心が痛いんだ……!」

 

「………」

 

 私は頬に流れる涙を止められない。

 

 本当にメチャクチャだ。

 自分でも何を言ってるのか分からないのに、彼が知るはずもないのは火を見るよりも明らかなはず。人に教える立場である私が自分の感情すら理解していない。これほど皮肉な話はないだろう。

 それでも――痛かった。

 

 

 

「俺様のために泣いてくれる、そんな酔狂な奴がいるなんてなァ。あの神殺は何て笑うのかねェ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり幻想郷に来たばかりで住むとこもない兼定に、慧音が住居と仕事を提供したってワケか」

 

 私の感情的な行動の部分を省いて、兼定は紫苑君に寺子屋で教師をしている経緯を説明した。教職を勧めてから気づいたことだが、彼は物事を解りやすく説明することに長けている。子供達からも人気なのは、その部分も大きいだろう。

 彼らが親友関係という事実に驚いたが、こう話している姿を見ていると本当のことだと思い知らされる。二人の間でしかわからなさそうな単語を時折耳にする。

 少し……羨ましい。

 

 紫苑殿の隣にそれぞれ座っている藍殿とアリス殿は、兼定と紫苑殿の会話を静かに拝聴している。一言も会話を漏らさぬようにと。

 

「まぁ……とりあえず状況は把握した。ってもお前が寺子屋で教鞭握ってるとはねぇ。この話をしたところで未来とヴラドが信じてくれるかどうか」

 

「……ちょっと待てや。切裂き魔なら話はわかるが、なンでそこで帝王の名前が出てくンだよ。あの偏屈じーさんが生き返ったわけじゃあねェし」

 

「そうよ、そのまさかよ」

 

「……幻想郷はなンでもありだな」

 

 未来……ヴラド……。

 私の記憶が正しければ『蒼月異変』で人里を守ってくれた半妖の少年と、その異変の原因たる吸血鬼の王の名前だったはず。彼等も兼定の知り合いなのか。

 そんな会話をしていると、ふと兼定が真面目な顔で紫苑殿に話題を振る。いつものふざけた態度とは違い、赤い瞳で紫苑殿を捉える。

 

「なァ、神殺」

 

「どうした、急に改まって」

 

「俺様が殺して嗤うときって――泣いてるように見えるか?」

 

 兼定の隣で茶を飲んでいた私の身体がビクッと震えた。

 明らかに私と彼が出会ったときの話だ。

 紫苑殿は目を細めて一瞬だけ私の方を見ると、瞳を閉じながら湯飲みを前の机に置いた。

 

「――知らん。少なくとも俺はお前が嗤ってるときは、心の底から楽しんでるようにしか見えない快楽殺人犯だと思うぜ。泣いてるように見えたことなんて、お前と会って以来一度もないぞ。あの街でも、な。……ただ、あくまで俺から見た感想だから、別に誰とは言わんが俺が間違ってる可能性もある」

 

 紫苑殿は誰が言ったのかお見通しなのか。

 

「なら次の質問だ」

 

「いつから質問方式になった?」

 

「その俺が悲しンでいると仮定して(・・・・)、それを悲しンでくれる奴が存在するって言ったら……テメェは信じるか?」

 

 紫苑殿は目を見開く。呆気にとられた表情だ。

 すると、私にまた一瞬視線を移し――微笑む。

 そして大声で笑い出す。

 

「はははははっっっ、お前は夢物語を語るようなタマじゃねぇだろ。そんな都合の良いお人好しが居たら、それこそ顔が見てみたいわっ!」

 

「……まァな」

 

 兼定はその言葉を肯定したが、紫苑殿は続ける。

 

 

「――でもさ、兼定。そんな馬鹿みたいなお人好しが近くに居るんなら、絶対に大切にしてやれ。お前の人生は長い。お前なんかのために涙を流してくれるような奴だ。せめて一緒にいてやることが、その人への恩返しになるんじゃないかと俺は思う」

 

 

 

 兼定は目を見開いて、いつも通りの人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

 

「例えばのハナシだ。マジレスすンなって」

 

「お前が先に言い出したことだろ」

 

 そして、兼定と紫苑殿は雑談に戻った。

 紫苑殿たちが帰った後、兼定が何を呟いたのか聞き取れなかったが、そのようなことを兼定が気にする必要はないので、夕日が沈む前に帰っていった――

 

 

 

 

「外見だけじゃなく中身もいいなンてなァ。こりゃ本気で恋しちまうだろうがよ」

 

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

「紫苑殿、あれは……」

 

「慧音のことだろうよ。俺には分からなかったが、あのイカれ殺人鬼と何か通じるものがあったのかもしれないしな。別に慧音が殺人鬼だとは思わないけどさ」

 

「通じるもの?」

 

「共感や同情じゃないのは確かだな。もしかしたら、慧音の過去とかも関係してくるかもしれんし、そこまでの領域になると想像になっちまうぜ」

 

「私には兼定殿と慧音殿の気持ちが分かりません」

 

「それが普通だよ。むしろ相手の気持ちがわかることの方が少ないね。気持ちや考えは個人のものだ。他の誰もその領域を勝手に犯すことなんて許されはしない」

 

「そういえば……九頭竜さんもそんなことを言ってたわね」

 

 

 

「覚のハーフである未来ですら、人の心や気持ちを覗いても第三者には絶対伝えない。二人の出した答えは今後を見ていけば分かることさ。焦らなくてもいいだろ?」

 

 

 




紫苑「これで一通りオリキャラ勢は出たな」
兼定「だなァ」
詐欺師「は?」
紫苑「あとは東方キャラだけだなー」
詐欺師「キレそう( ゜Д゜)」
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