インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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ep.45 苦労人シャルル・デュノアの日常

sideシャルル

 

 

 

シャルル「ーー以上が、今回の報告です」

 

シャル父『ふむ、分かった。しかしタッグトーナメントとはな。締め切りが近いようだが、ペアは決まったのか?』

 

シャルル「はい、同室の天城一夏君にペアを組んでもらう事になりました」

 

シャル父『そうか。正体がバレる事が無いよう、細心の注意を払え、分かったか?』

 

シャルル「はい、それでは」

 

通話を切り、自分のベッドに横になる。今日も無事バレずに一日を終える事が出来た。二組の鳳さんに胸を触られそうになった時はどうしようかと思ったが、直前で真月君が止めてくれて九死に一生を得た。でも、一体何で胸を触られそうになったんだろう?野生の勘って奴かな?

 

シャルル「……いつまでこんな事をしなきゃいけないのかな、僕は」

 

ポツリと、そんな事を呟く。こんな事を言っても何も変わらない、そんな事は分かっている。それでも僕は呟かずにはいられなかった。このままスパイを続けた先に僕に待っている結末は二つ。スパイ行為がバレて本国に強制送還されて、そのまま消されるか。もしくは無事にスパイ行為を成功させて本国に帰還するか。どちらを選んでも、私に自由は無い。それどころか、成功させても口封じに消される可能性だってーー

 

シャルル「……やめよう」

 

これ以上考えてしまうと、ただでさえ低いモチベーションが最底辺まで落ちてしまう。

 

シャルル(先の事は考えるな、今を生き抜く事を第一に考えろ。目の前の任務にだけ集中するんだ、シャルル・デュノア!!)

 

沈みかけたテンションを無理矢理持ち直し、明日にそなえて眠りについた。

 

 

 

シャルル「……朝か」

 

僕、シャルル・デュノアの朝は早い。ルームメイトの一夏が起きるより先に起床し、制服に着替えなければいけないからだ。一夏は篠ノ之さんの朝練に付き合っているので起きるのは大体五時くらい、その為僕は遅くとも四時半には起きて、万一の事が無いようにしないといけない。

 

シャルル「……ん、んんん〜!」

 

大きく伸びをした後、制服に着替える。一夏が起きていないか、一番ドキドキするのはこの時だ。下着姿を見られるのは勿論恥ずかしいが、それ以上に自分の正体がバレるのだけは絶対に避けなきゃいけない。よって着替えは無駄の無い最小限の動きで、尚且つ素早く行わなきゃいけない。この辺りは、デュノア社での速着替えの訓練が生きた。この学園に来るまでの間、全ての時間をその訓練に費やした僕は、上下含めて一分も掛からずに着替えられるようになった。これは僕のちょっとした自慢だ。

 

シャルル「……何を言ってるんだ僕は」

 

自分で言っていて虚しくなってきた。本当に何で僕はここに来るまでの時間をこんな事に費やしてきたんだろう。何か他にやれる事があった筈なのに、こんな事に費やしてしまったのは何故だろう。あ、ヤバい、何だか急に死にたくなってきた。

 

シャルル「しっかりしろ僕。しっかりするんだ僕。ひたすら着替えを繰り返したあの日々は無駄なんかじゃない、現に一夏達にバレる事なく素早く着替える事が出来てるじゃないか。だから無駄なんかじゃないんだ。あれ、そもそも何で僕は速着替えなんて必死になって練習したんだろう。もしかして僕はもう無意識の内に一生を男として生きる覚悟をしてしまっているんじゃーー」

 

一夏「……何やってんのお前?」

 

シャルル「ーーハッ!?い、一夏ぁ!?」

 

壁に頭を打ちつけていると、不意にベッドの方から声をかけられた。正気に戻って振り返ると、何か奇妙な物を見たような顔をした一夏と目が合った。

 

シャルル「み、見てたの……?」

 

一夏「おう、全部見てたぞ」

 

シャルル「ーー〜〜〜!?」

 

顔が火がついたと思うくらいに熱くなる。さっきまでの奇行を見られていた事が死ぬ程恥ずかしい。

 

シャルル「わ、忘れて!?別にいつもやってるとかじゃないの!?ちょっとした気の迷いだったの!?」

 

一夏「お、おう。分かった分かった。しかし大丈夫か?頭から血が出てるぞ」

 

シャルル「……へ?」

 

言われて初めて足元に小さな血の水溜りが存在する事に気付く。恐る恐る手を当ててみると、そこには大量の血が付着していてーー

 

シャルル「いっ、痛たたたたたた!?頭が、頭が!?」

 

自分の頭から夥しい量の血が流れている事に気付いたその瞬間、激しい痛みが襲って来て、堪らず床を転げ回る。

 

一夏「あっ、馬鹿、暴れんな!?治療してやるから大人しくしろ!?」

 

結局その朝、一夏に無理矢理押さえつけられて治療されるまで、僕は血塗れの床を転げ回っていた。

 

 

 

シャルル「うぅ、ごめんね一夏。僕のせいで朝練サボる事になっちゃって……」

 

一夏「いやあの状況でお前を置いて朝練行ける程非情な人間になった覚えは無いぞ俺は。というかシャルル、良かったのか制服着替えなくて。ウチの制服は白だから血が凄い目立ってるぞ?」

 

シャルル「あはは……」

 

朝から流血沙汰を経験した後、僕は一夏と一緒に食堂にゴハンを食べる為に廊下を歩いていた。……血塗れの制服のまま。

 

シャルル「いや、僕だって何とかしたいなとは思ってるんだよ?でも制服の予備は一つしか無いし、その予備も昨日クリーニングに出しちゃったし……」

 

シャルル(あの状況で着替えたら絶対にバレるし)

 

廊下ですれ違う人皆がギョッとした表情で僕を二度見する事に恥ずかしさを感じながら歩いていると、前の方に見知った顔が見えた。

 

本音「お〜?シャルるん真っ赤っか〜!」

 

ミザエル「……一体何があった」

 

シャルル「あはは……おはよう二人共」

 

僕の血塗れの制服を見てけらけらと笑うのほほんさんと、溜息を吐きながら何があったかを聞いてくるミザエル君。転入してから僕が見た限りでは、二人はいつも一緒だ。

 

一夏「おはようミザエルさんにのほほんさん。いや、シャルルがちょっと頭を怪我しちゃってな。思いの外出血が酷くてこんな感じに」

 

ミザエル「そこまで服を血に汚すとは、どれだけ酷い怪我だったんだ全く。……シャルル、少しじっとしていろ」

 

そういうとミザエル君は僕の方に近寄って来て、制服の血の付いた部分に手を当てた。

 

シャルル「えっと、一体何を……」

 

ミザエル「……もういいぞ」

 

シャルル「へ?……ってえええぇぇぇ!?」

 

ミザエル君が手を離した時、僕の制服は血の色一つ無い綺麗な白色になっていた。

 

シャルル「え!?えぇ!?何で血が無くなってるの!?ミザエル君は魔法使いだったの!?」

 

ミザエル「私はそんな大層な人間では無い。これは私のISの力を使っただけだ」

 

シャルル「単一能力……衣類にこびりついたしつこい汚れをキレイに落とす能力?」

 

ミザエル「そんな家庭的な能力な訳が無いだろう!?それをISに搭載する意味が何処にある!?」

 

一夏「ぶっふぉ!?ははっ、ははははは!そ、その答えは予想してなかった!家庭的な能力を持ったISかあ、今の兵器としての使われ方よりよっぽど素晴らしい活用法じゃないか!ははははは!」

 

ミザエル「なにツボに入ってるんだお前は!?……兎に角血は落としてやったぞ」

 

シャルル「うん、ありがとうミザエル君」

 

どんな単一能力なのかは分からないけれど、その力に助けられたのには変わりない。僕がミザエル君にお礼を言うと、ミザエル君は少し険しい顔になって私にこう言った。

 

ミザエル「ふん、礼など無用だ。あのまま血塗れで歩き回られて、騒ぎを起こされても困るから助けただけだ」

 

本音「あはは〜!ミザやんツンデレだ〜!」

 

ミザエル「誰がツンデレだ誰が!」

 

本音「あいたぁ!?」

 

ミザエル君がのほほんさんに拳骨を食らわせる。蹲って涙目で頭をさするのほほんさんの姿がとても可愛らしく、思わず携帯電話で一枚撮ってしまった。

 

一夏「……シャルル、確かに今ののほほんさんの姿は可愛かったけどさ、大の高校生が同年代とはいえ小さな女の子の泣き顔を撮るのは凄い犯罪的だぞ?」

 

シャルル「……ハッ!?違う、違うからね一夏!?僕はロリコンじゃあ無いからね!?今のは無意識にというか、ちょっと魔が差したというか……!?兎に角!僕は至ってノーマルだからね!?」

 

掛けられたロリコン疑惑を慌てて否定する。当たり前だ。僕はノーマルだ、女の子は恋愛対象じゃないんだ。その筈なんだ。

 

ミザエル「……漫才でもやっているのか貴様らは?」

 

本音「むぅ〜!酷いよミザや〜ん!ちょっとからかっただけなのにぃ〜!」

 

ミザエル「からかったお前が悪い。……まあ、流石に拳骨はやり過ぎた。詫びとして食堂で何か菓子でも奢ってやるからそれで気を直せ」

 

本音「ほんと!?やったぁ〜!ミザやん大好き〜!!」

 

ミザエル「……現金な奴だな、お前は」

 

本音「わ〜いわ〜い!そうだ!シャルるんとイッチーも一緒に食べようよ!ね、いいよねミザやん?」

 

ミザエル「……二人が良いならな」

 

一夏「俺は別に構わないぞ。シャルルはどうだ?」

 

シャルル「僕も別に構わないよ。断る理由も無いしね」

 

本音「やった〜!それじゃあ早く行こ〜!」

 

ミザエル「おい!手を引っ張るな!?」

 

嬉しそうに駆けていくのほほんさんに手を引かれながらミザエル君は食堂に向かって行った。

 

一夏「……俺達も行くか」

 

シャルル「……そうだね」

 

 

 

本音「いっただきま〜す!」

 

ミザエル「本音!ちゃんと手を合わせてから食べろ!」

 

一夏「いただきます」

 

シャルル「……い、いただきます」

 

食堂に着いた僕達はテーブルに座って、それぞれ朝食を食べ始めた。僕は牛乳とバタートースト二枚、一夏はカツ丼とお味噌汁。反対側に座るミザエル君は唐揚げと白米とお味噌汁と卵焼き、そしてのほほんさんはお茶漬けと焼きジャケと……卵?

 

本音「んっふっふ〜!折角一緒に食べるんだし、二人にとても美味しいお茶漬けの食べ方を教えてしんぜよう〜」

 

シャルル「美味しい食べ方?」

 

一夏「へえ、そりゃ良いな。是非教えてくれ」

 

本音「おっけ〜!ま〜ず〜、お茶漬けに焼きジャケを乗っけます」

 

そう言ってのほほんさんはお茶漬けの上に焼きジャケを乗せた。鮭茶漬けってやつかな?確かに美味しそうだ。

 

本音「つ〜ぎ〜に〜」

 

一夏「ふんふん、次に?」

 

本音「卵を入れます」

 

一夏・シャルル『……!?』

 

焼きジャケが乗った茶漬けに、のほほんさんが卵を割って中身を入れる。お茶漬けに卵、日本の食文化にあまり詳しくない僕にも、それが何かおかしな組み合わせだと理解出来る。

 

本音「ぐりぐりぐ〜り〜!」

 

卵を入れたお茶漬けを、のほほんさんは箸でぐりぐりと掻き混ぜていく。卵の黄色がお茶漬けに侵食して、段々とグロテスクな物に変貌していく。

 

一夏「…………」

 

一夏も顔を引き攣らせている。やっぱりこれは一般的には考えられない食べ方らしい。

 

本音「か〜んせ〜い!」

 

ミザエル「……本音、行儀が悪いからその食べ方はやめろと前にも言った筈だが?」

 

本音「え〜?美味しいよこれ〜?ずずず〜っ!」

 

ミザエル「美味かろうが行儀が悪いのには変わりないわ!あと音を立てて食べるな行儀悪い!」

 

本音「ぶ〜!ミザやん厳しいよ〜!」

 

ミザエル「お前はもう高校生なんだぞ!もう少し高校生らしい振る舞いをしろ!」

 

本音「むぅ〜!」

 

ミザエル「唸るな喧しい!大体お前はいつもいつもーー」

 

膨れるのほほんさんを叱りつけるミザエル君。僕が来てから何度となく見た光景だ。その光景が僕にはとても眩しくて、とても尊いものに見えた。

 

シャルル「……ふふっ、あはははは!」

 

ミザエル「……何がおかしい」

 

シャルル「いや、ごめんね。笑うつもりは無かったんだけど、そうやっていると、二人が兄妹みたいに見えて来て」

 

ミザエル「きょ、兄妹だと!?コイツと私がか!?」

 

ミザエル君の険しい表情が崩れ、素っ頓狂な声を上げる。これは中々に上手い事を言ったかもしれない。こんな顔をしたミザエル君は初めて見る。

 

本音「兄妹、兄弟かあ……ふふふ!それじゃあミザやんはお兄ちゃんだね〜!」

 

ミザエル「黙れ!?お前のような手のかかる妹なんぞ欲しくないわ!?同じ妹ならメラグの奴の方が数倍マシだ!」

 

本音「……むうぅ、ミザやん私が妹じゃ嫌なの〜?」

 

ミザエル「絶対嫌だ!第一お前には既に姉がいるだろ!」

 

本音「……ふむふむ、それもそうだ。ならミザやんが私の弟だ!ほ〜れほれ、本音お姉ちゃんだよ〜!」

 

ミザエル「黙れえぇぇぇ!?お前が妹なのも嫌だがお前が姉なのはもっと嫌だわ!?自分の姉がこんなだらしない奴だったらストレスで倒れるわ!?」

 

本音「そこまで言わなくても良いでしょ〜!?ミザやんのアホ〜!」

 

ミザエル「お前にだけはアホと言われたく無いわ!この大馬鹿者が!」

 

本音「なにを〜!?」

 

そうして二人はまたギャーギャーと騒ぎ始める。新しい火種を投下した僕が言うのもアレだが、ミザエル君も割とのほほんさんと同レベルだと思う。

 

一夏「……先に行くか」

 

シャルル「……そうだね」

 

未だ口論を続ける二人を置いて、僕達は食堂を後にした。

 

 

 

千冬「ふんっ!」

 

本音「あだっ!?」

 

ミザエル「ふっ!こんな物に私が当たるとでもーー」

 

千冬「避けるな馬鹿者」

 

ミザエル「フェイントだと!?っぐおおおぉぉ!?」

 

一限目開始時、盛大に遅れて来た二人が織斑先生の出席簿の餌食になるのを、僕は自分の机から見ていた。

 

ミザエル「ぐっ……!貴様本音の時より強く叩いたな!」

 

千冬「布仏の時と同じ力でやっても貴様は全く堪えないだろうが」

 

ミザエル「貴様……後で覚えておけよ!」

 

千冬「教師を恐喝するな」

 

ミザエル「ごはぁっ!?」

 

あ、また殴られた。

 

本音「ううぅ、ミザやんの所為だよ!」

 

ミザエル「何だと!元はと言えばお前がーー」

 

千冬「まだやるか!」

 

本音「あいたっ!?」

 

ミザエル「がはぁっ!?」

 

千冬「全く貴様らは、どうしたら堂々と目の前で喧嘩出来るんだ?」

 

本音「ミザやんのば〜か!あほ〜!おたんこなす〜!」

 

ミザエル「貧相な語彙で人を馬鹿にするお前のほうがよっぽどアホだ!第一何だおたんこなすって!?ナスが一体どうした!?」

 

本音「ぷぷぷ〜!おたんこなすの意味も知らないとか、ミザやんは馬鹿だな〜!」

 

ミザエル「お前にだけは言われたくないわ!?」

 

本音「ぷぷぷぷぷ〜!ば〜かば〜か!」

 

ミザエル「本音ぇぇぇぇぇぇ!!」

 

千冬「いい加減にしろ貴様らぁぁぁぁぁ!!」

 

本音・ミザエル『いったぁぁぁぁ!?』

 

千冬「廊下に出ろ貴様ら!私直々に説教してやる!……すみません山田先生、この馬鹿二人は放っておいて授業を始めてください」

 

麻耶「あ、はい分かりました」

 

千冬「ありがとうございます。ほら立て貴様ら!」

 

本音「ううぅぅぅ!」

 

ミザエル「離せ!自分で歩けるわ!」

 

織斑先生が蹲る二人を引きずって教室から出て行き、教室はなんとも言えない雰囲気に包まれた。

 

麻耶「……あー、えっと、授業、始めますね?」

 

『は、はーい……』

 

僕達もこのまま気まずい空気の中にいるのは耐えられないので、山田先生が授業を始めてくれるなら大歓迎だ。

 

麻耶「はい、それじゃあ授業を始めましょう!一限目はアラスカ条約についての話です!教科書の130ページを開いて下さい!」

 

こうして、若干2名が欠けた状態で僕達の一限目の授業が始まった。

 

 

 

一夏「いやぁ、今日の朝は面白かったなぁ!ミザエルさんのあんな姿見れるなんてさ」

 

真月「あはは、確かに今朝のミザエルさんの姿は新鮮でしたね」

 

簪「何それ凄い気になる」

 

昼休み、僕と一夏は同じクラスの真月君と真月君のルームメイトの四組の更識さんと一緒に昼食を食べていた。

 

シャルル「更識さんはのほほんさんと仲が良いんだよね?のほほんさんって昔からあんな感じなの?」

 

簪「簪で構わない。本音は昔からマイペース。……でも意外、本音が誰かと言い合いになるなんて」

 

真月「そうなんですか?簪さんの幼馴染と以前から聞いていたので、喧嘩の一つや二つ余裕で有ったと思っていたんですが」

 

簪「一切無い。本音は昔からずっと笑顔だった。本気で悲しむ事も怒る事も無い、ただニコニコと笑うだけだった。誰かと喧嘩する事は勿論、ちょっとした言い合いをする所だって、私は今の今まで見た事が無い」

 

一夏「へえ。怒る事も悲しむ事も無かったなんて、のほほんさんは相当のんびりとした人間なんだな」

 

真月(……違えよ一夏。生まれてからずっと怒らない、悲しまない、いつもニコニコ笑顔。そんなの普通の人間じゃねえ、人間として破綻してるんだよ。更識の従者の家系ってトコから嫌な予感してたが……いずれ更識家にも探りを入れた方が良いかもしれないな)

 

簪「だから安心した。本音が家に居た時より生き生きしていて」

 

ミザエル『本音!だからその食べ方は行儀が悪いからやめろと言っただろうが!』

 

本音『もおぉぉぉ!一々煩いよミザやん!どう食べようが私の勝手でしょ〜!!』

 

簪「……生き生きし過ぎてる気もするけど」

 

シャルル「あはは……」

 

何か重い話だった気がする。なに、なんなの?何でお昼時の他愛もないお喋りでこんな真面目な話聞かなきゃいけないの?

 

ラウラ「……ふむ、布仏はのほほんさんというあだ名があるのか。今度それで呼んでみよう」

 

シャルル「あれ、ラウラさん?どうしたの?」

 

いつの間にかテーブルの近くに居たラウラさんがそう言って僕の隣の空いている席に座る。

 

ラウラ「突然で悪いが一緒に食べないか?一人で食べるのは少々寂しくてな」

 

真月「ああ、大丈夫ですよ!簪さんもそれで構いませんよね?」

 

簪「……零が良いなら別に構わない」

 

ラウラ「感謝する。では、いただきます」

 

ラウラさんは私達に短く礼をすると、手を合わせて黙々と料理を口に運び始める。食べているのはうどん。箸をまだ上手く扱えない僕には、まだ手をつけにくい料理だ。

 

ラウラ「……ふむ。これがかの有名なジャパニーズヌードル、うどんか。美味いな、おかわりも貰ってくるか」

 

シャルル「あはは、すごいねラウラさんは。僕はまだ箸が上手く使えなくて、箸で食べる料理は頼めなくて」

 

ラウラ「日本に来る際にこちらの文化については部下からひとしきり教えて貰ったからな。箸の使い方もその時に練習したんだ」

 

真月「へ〜、ラウラさんは勉強熱心なんですね!」

 

ラウラ「そんな大層なものじゃないさ。日本で生活する以上、日本の文化に倣うのは当然の事だ。『郷に入っては郷に従え』、日本のコトワザにもそう書いてある」

 

真月「そこが凄いんですよ!そうやって考えても、それを実際に実行出来る人はそういません。やるべき事の為に努力が出来るラウラさんは、とても素敵な人です!」

 

ラウラ「そ、そうか?そういう風に言われると、少し照れてしまうな……」

 

簪(……ふぅーん、ラウラはそんなに素敵なんだ。そんな事私には一言も言ってくれないのに、ラウラには言うんだ。ふぅーん)

 

目を輝かせた真月君と、顔を少しだけ赤くして照れているラウラさん。あ、今のラウラさんの顔凄い可愛い。一枚撮っておこう、それパシャリとな。

 

一夏「……シャルル、俺はいつかお前が盗撮で捕まるんじゃないかって心配してるよ」

 

シャルル「ーーハッ!?また僕無意識に写真撮ってた!?違うから!?僕はロリコンじゃないから!?」

 

ラウラ「む?別に写真程度、幾ら撮られても私は構わないぞ?」

 

シャルル「あ、そう?じゃあもう二、三枚程……」

 

一夏「……シャルル」

 

シャルル「ってあああぁぁぁぁ!?また写真撮ろうとしてるぅぅぅ!?違う違う違う!?僕はノーマルなんだあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

拝啓お母さん。このIS学園に転入してから早一週間が経ちますが、どうやら男装生活は順調に僕をおかしくしているみたいです…………もう帰りたい。

 

 

 

シャルル「……ふぅ、今日は疲れたなぁ」

 

放課後、何とか無事に学校での生活を終えた僕は部屋でゴロゴロして一日の疲れを癒していた。

 

一夏「はは、随分と年寄りみたいな事言うな」

 

シャルル「それくらい疲れてるんだよ。あの後も散々な目にあったんだよ?」

 

そう、僕が必死になってロリコン疑惑を晴らした後も僕は災難に巻き込まれた。放課後真月君とラウラさんの練習に付き合ったら、何処からか鈴さんとセシリアさんが襲撃して来て乱戦になったり、何故か簪さんに全く笑ってない笑顔で威嚇されたり。一体僕が何をしたんだ、完全に被害者だぞ僕。

 

シャルル「あのさあ一夏、簪さんってもしかして……」

 

一夏「ご想像の通り、簪さんは零に惚れてる。それも超が付くくらいのゾッコン」

 

シャルル「ああ、やっぱりそうなんだ……」

 

ああ、あの威嚇は僕じゃなくて、真月君の側にいたラウラさんに向けられたものだったんだ。うん、取り敢えず僕が睨まれた訳じゃないと分かって良かった。

 

シャルル「何ていうか、あの時の簪さん凄い怖かったんだけど。簪さんっていつもあんな感じなの?」

 

一夏「ああ、簪さんは零が絡むと大体あんな感じだぞ。当の零は簪さんの好意に全く気がついていないみたいだが」

 

シャルル「……大変だね、真月君も簪さんも」

 

病的なまでに好意を向けられる真月君も、それだけ好意を向けても振り向いて貰えない簪さんも、どっちも苦労するなあと僕は思う。僕個人としては、同じ女性として簪さんの恋が成就する事を願っているが。

 

一夏「そうだな、俺もそう思う。ああそうだ、思い出した思い出した。シャルル、前に言ってた露天風呂なんだけどさ、用務員さんに頼んで俺達も利用出来るようにしてもらったぞ」

 

シャルル「本当!?」

 

ベッドから飛び起きて一夏の方を見る。今日は散々な日だったが、最後の最後で良い知らせがやって来た。

 

一夏「おう、本当だ。今日から使えるしから、今から行ってみるか?」

 

シャルル「うん!行く行く!」

 

少し食い気味にそう言う。ちょっと変に見えたかもしれないけど気にしない、久しぶりのお風呂の前ではそんなもの些細な事だ。

 

一夏「はは、シャルルは風呂好きだな。まあ俺も風呂は好きだが。そんじゃあ行くか、ちょっと遠いけど我慢してくれよ?」

 

シャルル「大丈夫!さあ行こう!」

 

そうして僕は一夏の後を付いて行き、久しぶりのお風呂目指して出発した。

 

 

 

シャルル「ふぅ……気持ち良いなぁ……!」

 

部屋を出て歩き出す事二十分、漸く辿り着いた露天風呂を僕は堪能していた。一夏は企業の仕事が残っていたとかで慌てて寮に戻って行ったので、僕はこの露天風呂を時間を気にせず楽しむ事が出来る。

 

シャルル「日本の露天風呂の事は気になってたけど、こんな素晴らしいものだったなんて。僕が男子だったら他の男子の事を一々気にせずにのんびり入れるのになぁ……」

 

毎日通いたいくらいだが、同居人の一夏にいつバレてしまうか分からないのでそう頻繁には通えない。

 

シャルル「女子は此処よりずっと広い浴場を毎日使えるんだよねぇ、ずるいよなぁ。どんな感じなのかなぁ、羨ましいなぁ」

 

偶々日本の旅行雑誌を読んだ時に見たのだが、日本の温泉には牛乳風呂みたいな変わったものもあるらしい。とても興味深いが、僕の立場上そういう所に通う暇が無いのが辛い。

 

シャルル「……浴場は、簪さんやのほほんさんやラウラさんも使ってるんだよね」

 

ふと今日話した人達の事が頭に浮かんで、ついでに彼女達がお風呂に入っている光景が頭に浮かんだ。

 

シャルル「待てよ、正体をバラして女子として入学し直せば、合法的に彼女達の裸を見られるのでは?って何を考えているんだ僕は!?……なんか、段々変態的な思考になっている気がするなぁ、僕」

 

男子として生活してから、一夏達男子の思考が移ってきてるような気がする。少なくとも日本に来る以前は普通だったと胸を張って言えるのに。……うん、普通だった筈。

 

シャルル「……出よう、そして風に当たって少し頭を冷やそう」

 

このままではどんどん思考がエスカレートしてしまいそうなので、今日はこれで上がる事にした。

 

シャルル「……ふぅ、さっぱりした」

 

しっかり寝巻きに着替えて露天風呂を後にする。素晴らしいお風呂だった、日々の疲れが一気に取れた。

 

シャルル「一夏には感謝しなきゃなぁ。お、噂をすれば」

 

前の方から一夏が歩いて来るのが見えた。

 

シャルル「お〜い、一夏〜!」

 

一夏「お、上がったかシャルーー!?」

 

シャルル「……?」

 

僕に気がついて手を振ろうとした一夏の表情が固まる。あれ、何かあったのかな?

 

シャルル「どうかしたの一夏?あっ凄いお風呂気持ちよかったよ!本当にありがとうね一夏!……一夏?」

 

一夏「……いや、いつかボロ出すとは思ってたけどさ、マジか、それマジか……!?」

 

シャルル「えっと、何を言ってるの一夏?」

 

一夏「……本当に気付いてないのか?」

 

シャルル「何が?」

 

一夏「……シャルル」

 

一夏が僕の胸を指差す。そこにはいつも通りの大きな膨らみがーー膨らみ?

 

シャルル「……あ」

 

そう、膨らんでたのだ。男子として編入した僕に縁が無い筈の膨らみが、僕の胸にあったのだ。それは、つまりーー

 

シャルル(コ、コルセット……着け忘れたああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)

 

 

 

拝啓お母さん、どうやら僕の人生はここで詰んでしまったようです……

 

 




次回予告

一夏「……まさかあんな形で正体を現すとは思わなかったよ俺は」
シャルル「うう、言わないでよ一夏ぁ……」
一夏「……まあ、それについては本編に置いておくとして俺達は次回予告をやるぞ」
シャルル「……うん」
「……僕はね、妾の子なんだ」
「え、妾がいるのって駄目なのか!?」
シャルル「次回も僕メインのお話だね」
一夏「初っ端からどシリアスな話題だなオイ。あと零は一体何を言ってるんだ……」

次回、インフィニットバリアンズ

ep.46 シャルロット・デュノア

シャルル「次回も、見てくれると嬉しいな」
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