追記:ログインユーザーのみ感想受付になっていたのをそれ以外でも書き込めるよう修正。初期設定だったのねあれ
「・・・・・・えっと」
もしも、自宅の木の枝に引っかかっている男の子を見つけたら、どうするのが正解なのでしょうか。私にはわかりません。
時刻は二十二時三十分ちょっと過ぎ。子供が出歩く時間ではありません。よい子は夢の中、悪い子は自分の部屋でちょっぴり夜更かしを楽しんでいる、そんな時間帯でしょう。
悪い子な私は、自室で本を読んでいました。ある日、両親が海外へ仕事に行っている女の子の前に、異世界から来た男の子が現れ、彼が帰れるまで一緒に生活する、なんていうありがちなファンタジー小説です。八神堂という本屋さんで見つけたものです。
五十ページあたりまで読み終えたところで、バキバキバキ、と枝木を折るような音がしたので、外に出てみると・・・・・・この状況に遭遇しました。
枝に引っかかっている男の子は、とても不思議なデザインの服を着ています。まるで漫画の世界の魔法使いみたいです。手に持っている銀色の杖らしきものと黒い本が、いっそうそれらしさを引き立てています。
怪しい人には近づいてはいけない、と両親には口を酸っぱくするほど言われていますが、同い年くらいの子が相手だと、そんな警告も頭の隅に追いやられてしまいました。
「・・・・・・っ!」
「っ!?」
男の子が突然動き出しだし――――地面に落ちました。頭からです。痛そうなんてものじゃありません。
木の高さは、優に六メートルはありました。そんな高さから脳天直撃コースで落ちれば、基本的に無事ではすみません。すぐに駆け寄ります。
「――――」
「だっ、大丈夫っ!?」
「――――!」
「・・・・・・?」
「――――――――」
「あぁ、やっぱり・・・・・・」
幸いにも男の子はピンピンしていました。一安心です。
ですが、ここで少し困った事態が発生してしまいました。男の子の話す言葉がわからないのです。日本語でも、英語でもない、私の聞いたことのない言語をしゃべっています。父の転勤に合わせ、様々な国を渡ってきましたが、それらのどこでも聞いたことがありません。
何かを伝えようと必死な男の子を無視して立ち去ることはできません。
どうしよう、と思っていた矢先、男の子が何か思いついたかのように黒い本を開きました。
次の瞬間、男の子の足下に、幾何学模様の描かれた黒い三角形の『何か』が浮かび上がりました。
あまりの衝撃に声が出ません。いつかに見たドイツのお祭りで披露された超人的な技の大道芸も、ロシアでの世界的マジシャンによる数々の驚くべきマジックも、この光景の前では霞んでしまいました。黒く輝く光は、満月の夜の月明かりよりも幻想的で、満天の星空よりも美しく見えます。
まるで、この世界のものではないかのような、そんな光。
光が徐々に収まっていくと、男の子が銀色の杖をどこかに消し、喉に手を当て、
「あ、あー・・・・・・これで伝わるようになったかな?」
「・・・・・・えっ、日本語話せたの!?」
「ニホンゴって言うんだこの言語・・・・・・聞いたこと無いなぁ、やっぱりここベルカじゃなさそう」
突然、流暢な日本語を話し始めた男の子は、喉に当てていた手を顎に移し、ぶつぶつと独り言を呟き出しました。
「あの・・・・・・」
「そもそも海上で戦っていたのに陸地に飛ばされてるって時点でまぁ察しはしたけど・・・・・・あの禁忌兵器みたいな爆発が原因なのかな」
「ちょっと・・・・・・」
「でも、人工的に次元転移を行う技術があそこまで小型化してるとも思えないし、無意識のうちに私が魔法を使った可能性が」
「ねぇってばっ!」
「はいっ!?」
少しだけ大きな声を出してみると、男の子は、肩を大きく動かして反応した。
「・・・・・・何か言うことは?」
意地悪っぽく、腕を組みながら、ジト目でそう言った。不法侵入とか、深夜徘徊とか、色々と言いたいことがあったけど、とりあえずは、相手の一言を聞いてみようと思う。
男の子は、至って真面目そうに、真剣そうに、私の手を握り、
「君、可愛いね!」
弾けんばかりの笑顔でそう言った。
「っ!」
「ぐべっ」
気恥ずかしさに思わず頭突きをかましてしまったのは、謝るべきだと思いました。
◇
「――――なにこれめちゃくちゃ美味しい!?」
「何って、ただの唐揚げだけど・・・・・・」
「カラアゲ!革命的な食べ物だよ!私の世界で売ったら大ヒット間違いなしだ!」
・・・・・・その場の流れで家に入れてしまいました。ついでにお腹をすかせていたみたいなので夕飯の残りを食べさせてあげています。自分で言うのもなんですが、お人好しここに極まれりです。
いえ、何もただのお人好しなわけではない、と自分に言い聞かせます。これは、彼が何者かを聞き出すための布石。あの足下に現れた黒く輝く三角形の『何か』の正体を探るためです。返答次第では可及的すみやかに然るべき場所に行ってもらいます。
男の子が一通り食べ終ったのを見計らい、会話を切り出します。
「ねぇ、あなたは、どこから来たのかな?」
まずは根本的な事から把握しようと思います。男の子の格好や不可思議な本などからして、普通でないのは火を見るよりも明らかですが、もしかしたら、彼は凄腕のマジシャンなだけかもしれません。念のための確認のようなものです。
男の子は、私の最初の質問を聞くと、コップに注がれた麦茶を一口飲み、
「ベルカだよ。君たちから見たら異世界ってやつになるね」
落ち着け、私。こんな返答がくるのはなんとなく予想していたでしょ。
平然と言い放たれた異世界発言から逃げたくなりましたが、なんとか正気を保って、次の質問をします。
「あなたは、何者なの?」
「魔法使い。厳密に言えば騎士だけど」
「魔法使い、ね。なら、さっきの黒く光る三角形は・・・・・・」
「魔方陣だよ。私たちは、魔法を発動する時にあれを展開するんだ。ちなみにこうして言語が違う私と君が普通に話せるのはさっき発動した翻訳魔法のおかげだよ」
頭がパンクしそうです。お前は何を言っているんだ、と言ってやりたいです。ですが、グッとこらえます。最低限、聞かなければならないことがもう一つあります。
「・・・・・・どうしてここに来ちゃったの」
「それが私にもよくわからなくてさ・・・・・・『ゆりかご』っていう空中戦艦が率いる艦隊の撃破と聖王を討つのが私の任務だったんだけどね、なんとか艦隊を壊滅させて聖王と一騎打ちの状態まで持ち込んだわけ。すごいでしょ!」
「・・・・・・う、うん、すごいね。続けて」
なんとか笑顔を保ちます。
「で、己の魔道とか格闘技とか信念をぶつけ合って、なんとか聖王を倒すことができたの。し、か、し、ですよ!聖王のやつ自分が倒されたら、体に仕込んであった禁忌兵器で自爆するようにしてやがったの!あ、禁忌兵器っていうのは一発で大地を数百年は人が住めない土地にしたり、街一つを簡単に消し飛ばすヤバい兵器のことね」
「・・・・・・・・・・・・」
自分の顔がどんどん無表情になっていくのがわかります。
「まぁ、ほぼ直撃したよ。防御はしたけど、さすがにこれは死んだなぁと思ったよ。ところがどっこい、何故かここに転移していて助かったんだ。まさに奇跡!でも魔力がスッカラカンだから戻れないっていうね!」
「・・・・・・・・・・・・うぅぅ」
あぁ、これ理解しきれないやつだ。
「私がここに来た経緯はこんなかんじかなぁって、どうしたの?頭抱えて」
「・・・・・・目の前に異世界から来て、かつ魔法が使えますって言う人が突然現れたらどう思う?」
「頭がおかしいんじゃないかと思うね!いるのかよ、そんな奴!」
「あなたの事だよっ!」
男の子は、悪びれた様子も無く、お腹を抱えてけらけらと笑いやがります。完全になめきっています。その態度に対して頬を膨らませて抗議すると、ほんとに君って可愛くておもしろいね、と冗談交じりのような口調で返されました。恥ずかしげも無く、面と向かって言える彼の考えが理解できません。思わず目をそらしてしまいました。
「さてと、お腹も膨れたし、私はそろそろ行くよ」
どこからともなく銀色の杖を取り出し、男の子は椅子から立ち上がると、ポケットから数枚の黄金色に輝くコインを机に置きました。チップだよ、と小さく笑うと、彼は私に背を向けて歩き出します。
控えめに言って不審者か深夜徘徊の男の子が家から出て行くのを止める必要は本来ならありませんが、
「待って!行くって、どこに・・・・・・」
彼の歩を止めに入ります。
彼は異世界からやってきた人間です。向こうがどんな背景を持った世界かはわかりませんが、此方の世界と同じ、或いは似通っているとは思えません。彼の格好や杖、黒い本がその最もたる例です。異世界人がこの複雑なシステムが蔓延る現代社会のどこに行くというのでしょうか。どうあがいても警察に補導される未来しか浮かびません。
そんな心配をする私とは裏腹に、男の子は自信たっぷりという感じで、
「山だよ、山!山は山菜、果実、野生生物と食べる物には困らないからね。残りカスの魔力でも、狩りを行える程度の魔法は使えるし、最適な場所だよ」
「ここ首都のど真ん中だし、山まで遠いよ?それに山で猟をするなら、そこが私有地かどうか調べないとダメだし、狩りの方法によっては免許も必要になるし」
なんとか思いとどまらせようという想いが後押ししているのか、自然と口が回ります。
「・・・・・・めんきょ?」
「まずそこまでどうやって行くの?徒歩じゃ厳しいから電車になると思うけど・・・・・・どの改札口から入って何番線に乗ってどこの改札口から出るか分かる?」
「でんしゃ?かいさつ?」
「あと、その格好だとおまわりさんにも怪しまれるよ!」
「誰?」
「青い服に青い帽子を被ったこわーい人たちなんだよぉ・・・・・・」
「・・・・・・それって聖王より恐い?」
「恐いよ。聖王なんて瞬殺だよ」
聖王が誰なのかは知りませんが、とりあえず大きく出てみました。
「聖王を瞬殺するやつが複数人!?ベルカよりヤバいじゃんこの世界!」
「そ、そうだよヤバい世界なんだよ!なのに君は何も知らずにここを出て行くの!?」
食いかかるように、大きな声を出して詰め寄り、肩をぐわんぐわんと揺らします。あまりの必死さに自分で自分に軽く引いてしまいます。
今日の私は、ちょっと・・・いえ、相当おかしいです。母親譲りの一歩引いた姿勢の『良い子』な私は、どこにいってしまったのでしょうか。
どうして、こんなにも気持ちが高ぶっているんだろう。
「うぅ、どうしよう、聖王を簡単にやれる奴なんて、いくらフルドライブとブラスターが使えても無理だよ・・・・・・」
頭を抱えてうなっている男の子を見て、チャンスだ、と思ってしまうのはなぜでしょう。
頭の隅に、さっき呼んでいた本の、『あの』一ページが浮かんでしまうのはなぜでしょう。
「・・・・・・あのさ、そんな君に耳寄りな提案があるんだけど」
異世界、魔法、不思議な男の子。心の奥底から湧き上がったきたワクワクが止まりません。
「提案・・・・・・?」
あの本の女の子は、確かこう言ってた。
「お父さんとお母さんが今海外に行っててね、私、一ヶ月は家に一人なの」
そう言うとあの本の男の子は、ちょっぴり悲しそうに、こう言う。
「一人かぁ・・・・・・寂しくないの?」
もちろん寂しいよ、と女の子は言う。
私は、あの一文を丁寧に、一語づつ思い出して、
「だからさ――――、しばらくここに居てくれたらなぁって」
頬をかきながら、笑って言いました。
すると、男の子は、パッと明るい笑顔を見せると、肩にかけていた私の手を解き、両手でしっかりと握りました。
「ほんとにいいの!?嘘とかダメだからね!」
「・・・・・・うん。でも、母さん達にはヒミツ」
「よかったぁ!狩りできるくらいの魔力はあるっては言ったけど、いつまでこの世界にいなきゃならないかわかんなくて不安だったんだ・・・・・・」
「つまり、強がりさん?」
「大正解」
包み隠さず大まじめに言われ、思わず吹き出してしまいました。つられてか、男の子も一緒に笑い出してしまいました。
なんだか、とっても『悪い子』をしている気もしますが、それ以上に高ぶった好奇心がそんな考えを霞ませてしまいます。
お互いに落ち着いてきたところで、私は、男の子にまだ聞いていない、大切なことを聞きます。
「君の名前は?」
「夜天の王。みんなからはそう呼ばれてた」
「・・・・・・名前なのかな、それ」
「一応・・・・・・でも、決まった名前とかはないから好きに呼んでいいよ。んで、そっちの名前は?」
自分は言ったから今度はそっち、というわけみたいです。
瞼を閉じ、一度、大きく深呼吸をします。
相手は魔法使い。異世界人。けど、私とあまり変らない年頃の男の子。
瞼を開き、男の子の深い闇色の瞳を真っ直ぐ見つめて、私は、自分の名前を言いました。
「ユミナ。私の名前は――――ユミナ・アンクレイヴ!」
こ、これは息抜き・・・・・・ではなく、真面目にプロットを練って書いたらどれほどの速度で投稿できるかの実験作です(言い訳)
他2作より風呂敷を小さくしたかんじになっているのでそう長くは続きません
風呂敷広げすぎ小説と見切り発車小説の悪いところを改善したんだから完結するに決まってるな!(震え声
あ、夜天の方もちゃんと投稿しますはい。