魔法使いを居候させる。私って、けっこうとんでもないことをしでかしたのではないでしょうか。
「なにこの建物!まさか鉄でできてるの!?それにあそこでいっぱい走ってる物体も鉄の塊だよね!?てか地面がなんか黒くて整ってる!溶岩流が固まってできたものなのかな!?すっげぇ!まさかベルカ以上に発展した世界があるなんて!」
彼――――夜天の王?を家に迎えた翌日、彼の生活に必要な物を調達するために外に出て、改めてそのことに気付きました。遅すぎですね、はい。あれですか、深夜テンションっていうやつだったんですかね。
まぁ、そんなことも今となっては後の祭り。せっかく異世界人との共同生活なのですし、此方の世界では聞けないようなことを聞いて、楽しみたいと思います。
「ねぇねぇ、この世界にすごく驚いてるみたいだけど・・・・・・そっちはどんな世界なの?」
「どんなって・・・・・・建物は木造か石造りが基本で、移動は一部の騎士か魔道師以外は馬が主流な世界だよ。地面だってこんな滑らかじゃなかったし。あ、魔法はあったけどね」
「空飛ぶ戦艦があるのにそういうところは中世ぐらいなんだ。随分技術の偏った文明だったんだね」
「チュウセっていうのはわかんないけど、うん、典型的な軍事・魔法特化の文明。おかげで戦争しだしたらえらいことえらいこと・・・・・・戻ったら復興作業で大忙しだと思うと気が重いよ」
「復興作業、ね」
空飛ぶ戦艦、戦争、復興作業。不穏なキーワードが次々と飛び出してきます。
あえて口にはしませんが、彼の世界は、平和とは言い難い情勢にあるようです。数ある漫画やアニメで見る異世界も争いごとは絶えませんが、どうやら『本物』の異世界でもそれらは変らないみたいです。
そういった意味では、異世界ってあんまりこっちと変らないんだなぁ、と思ってしまいました。
「しっかし、暑いねぇこの世界。焼けるように暑いっていうのはまさにこのことだよ」
思考が遮られます。
横を向けば、あちぃ、とぼやきながら手を団扇のようにしている彼の姿がありました。
それを認識したのとほぼ同時に、体に暑さが伝わってきた・・・・・・ような気がします。元から暑かったのですが、考え事をしていたせいで、それすら忘れてしまっていたようです。
ポケットからハンカチを出し、額に浮いた汗を拭いながら、彼の言葉を拾います。
「そっちは夏は暑くないの?」
「ナツって何?」
「へ?」
「その口ぶりから気象現象的な何かだってことはわかるけど、こっちじゃ聞いたことないよ」
これには驚きました。彼の世界では『夏』に該当する言葉がないみたいです。よくよく考えてみれば、こっちの世界でも夏に該当する言葉がない国はありますが、異世界のこと、というのもあり、余計に興味を引かれます。
「なら、春も、秋も、冬も、聞いたことは・・・・・・」
「ない・・・・・・から、それがどんなのか夜天さん気になります!」
異世界の文化や言葉を知りたい――――向こうも同じことを思っていたみたいです。
ハンカチをしまい、スマートフォンのマップで目的地までまだ距離があるのを確認してから口を開きます。
「この世界――日本には四季っていう概念があるの。暖かくて人も動植物も過ごしやすい春、今みたいにジワジワ暑~いけど楽しいイベントいっぱいの夏、風情があって食べ物が美味しい秋、すっごく寒いけどそれが逆に幸せを運んでくれる冬。どれも素敵な季節なの!」
「ほぇぇ、そんなに気候がコロコロ変るんだ。うらやましいなぁ、ベルカは一年中寒くてしょうがないのに」
「試される大地ってやつだね!」
「・・・・・・?何言ってるのユミナ」
そこで真顔にならないでよ。
「君はどの季節を体験してみたい?」
「さっきのはどういう」
「ん?何か言った?」
「グラシアに通ずる覇気を感じる・・・・・・!」
グラシアさんが誰か知りませんが、無意識に私のミスをナイスキャッチして投げ返してくる彼を牽制します。その場のノリで変なことを言った私が悪いのですが、おっとりおねーさん系キャラのプライドの問題があるので今回は黙ってもらいます。
「ユミナはおねーさんっぽくは見えないなぁ」
ん?
「なんで私の思ってることがわかるのかな?」
「相手の心の中を覗ける魔法というのがありましてね・・・・・・」
「・・・・・・」
「あ、痛いユミナ、嘘だから、そんな便利な魔法ないから脇腹のお肉をつねらないでっ」
「異世界流ジョークは聞く人によってはジョークにならないよ!」
ごめんなさーい、と反省の色があまり見えない謝罪をしながら、彼は先ほどの苦し紛れの質問に丁寧に答えを話し始めてくれました。
「どの季節を体験してみたいか、だっけ?私はハルっていうのに興味があるなぁ。私たちの世界は魔法で気温の管理をしないとずっと寒いから、自然な暖かさっていうのを体験してみたいね」
試される大地かと思ったのですが、どうやら魔法の力で試されない大地になっているようです。
ですが、彼の発言を聞くかぎりでは、自然な暖かみというわけではないみたいです。日光と暖房の違いのようなものなのでしょうか。
「自然な暖かさ、ね。魔法ならそれくらいできそうだと思うけど」
「魔法は基本的に科学の延長線上のものだから、ある程度は限界があるの。例外的なのもいくつかあるけど、それらはちょーっと世界の理とかから外れてるおっかない魔法だし・・・・・・」
「今の君の口からとんでもないことが飛び出したわけだけど、お店がすぐそこだから聞かないことにするよ」
聞いてもまた混乱しそうなので、魔法が科学の延長線上のものだとか世界の理から外れているだとかいう発言はあえてスルーしておきます。やっぱり異世界人ヤバいです。
さて、色々なお話をしていたらあっという間に目的地です。前方には全国に展開している某大型ショッピングモールが佇んでいます。東京ドーム何個分かとよく言われるだけあって、一日で回りきるのは難しいほど広く、様々な店舗が入っています。
この現代的な建築物に彼はどのような反応を示してくれるのでしょうか?若干の期待を含んだ視線を向けると、
あれ、いない。
「ユミナ何してるの!早く行こうよ!」
「はやっ!?ちょ、ちょっと待って!君、お店分からな・・・・・・もうっ、待っててばぁ!」
お店の場所も分からないのに猛ダッシュ彼を追って、私は、ショッピングモールの自動ドアをくぐりました。
◇
「つ、疲れた・・・・・・」
「なんでそんな疲れてるの?」
「君が場所も分からないのに走り回るからなんですけど・・・・・・!」
「あっはっはっ!楽しくってついね!」
無事に彼の生活必需品を調達し、今晩のご飯の調達も済ませたので、私達は少し歩を緩めながら帰路に就いていました。両手いっぱいにあった荷物はもれなく彼の黒い本へと収納されています。曰く、空間拡張と物質量子化を利用した複合魔法らしいです。ちょっと何言ってるのか分かりませんね。人間も入れられるってとこが更に理解を遠ざけてくれます。
談笑の合間に腕時計に目をやると、時刻はまだ午後二時過ぎ。家に帰って夕飯の支度をするには、まだ早い時間です。
と、いうことは、
「八神堂だね」
「ヤガミドウ?」
彼は、なんだそれ、といった風に首を傾げます。
彼が興味を持ったことを確信した私は、十数メートルほど先にある看板を指さします。
「すぐそこ・・・・・・ほら、あそこにある本屋さん。君、魔法を使って会話はできるみたいだけど、文字の読み書きはたぶん出来ないでしょ?」
「うん、視覚情報の上書きはデータがある程度必要だから、今まだできないね」
「せっかく異世界に来たわけだし、その世界の文字とかを勉強したらどうかなぁ、って私は思うんだけど・・・・・・」
「いいね!他文化に触れるのは悪いことじゃないし、ユミナがそう言うならそうしてみるよ!」
向上心のある子は嫌いじゃありません。
ですが、こう、なんと言いますか・・・・・・・この従順で、尻尾が付いていたら、ふりふりしてそうで、キラキラと輝く瞳は、
「・・・・・・犬?」
「?」
「ご、ごめん!何でも無いよ!」
「ふふっ、ユミナって中々変った子だよね。独り言みたいなの多いし」
「ぐぬっ・・・・・・!よ、余計なこと言わないっ!ほら、入るよ!」
クスクス笑う彼の手を強引に引き、店に入ります。
窓のない店内は、入り口から差し込む太陽の光だけではやや薄暗く、少々熱気が籠もっていました。比較的小さな店内に並ぶ大きな本棚にズラリと並んだ数々の本が、なんとも言えぬ圧迫感を与えてきます。ですが、不思議と居心地は悪くありません。むしろ、この独特な雰囲気が私は好きです。
入り口から見て正面にあるカウンターには、見慣れた女の子がパタパタと団扇を扇ぎながら、何かの資料を眺めていました。
忙しいのかな、と思い、そっと本棚の方へ移動しようとした矢先、女の子の視線が此方に向きました。そして、見慣れた笑顔を浮かべ、
「いらっしゃい」
八神はやてちゃんは、私達に挨拶をしてくれました。
「こんにちは、はやてちゃん。元気だった?」
「はやてちゃんはいつでも元気やよぉ。最近、ちょっと暑すぎるって思うくらい・・・・・・でぇぇぇぇぇえええええっ!?」
突然の大声に私も、隣にいた彼も驚き、肩が跳ねます。何事でしょうか。
「は、はやてちゃん?急にどうし」
「あ、あ、あの控えめな性格のユミナちゃんがボーイフレンドを連れとる!」
「ボッ・・・・・・!?違うよ!この子はただの居候!」
「イソウロウってのは分かんないけど拾われました」
どうして火にガソリンを注ぐ必要があるんですか。
「ユミナちゃんが私の知らんところでオトナになってまう・・・・・・」
どうにかして誤解を解かないと後日、私が色んな意味で大変な目にあってしまいます。
この状況を切り抜けるには、
「こ、この子は・・・・・・そう、知る人ぞ知る凄腕マジシャンの子供なの!お父さんがその人とフランスで知り合いでね、少しの間、預かって欲しいって頼まれたから今は私の家にいるの!」
完璧です。私が両親と世界中を飛び回っていたという情報を知っている相手だからこそ違和感なく浸透させられるフランスでの出会い。更には、彼が万が一魔法を使っても極力怪しまれないマジシャン設定。死角はありません。ボーイフレンド説を否定しつつ、彼が異世界からの来訪者であることを隠せます。
はやてちゃんは、本当かなぁ、と呟きながら、私と彼を交互に見ます。思いっきり怪しまれています。勘が鋭いです。
私は、なるべく不自然には見えないよう、彼にウィンクを使って合図を送ります。
「・・・・・・!」
此方の意図を理解してくれたみたいです。彼もウィンクを返してきました。やりました、作戦成功――――、
「そういう設定でいけばいいんだね!」
ぅんんんんんんんんんんんんんっ!?
「こここっ、このすかぽんたんっ!口に出しちゃったらダメでしょっ!?」
「ユミナ、正確な情報伝達は口頭か念話じゃないとダメ。常識だよ?」
「だからって今はそういうタイミングじゃないでしょぉっ!?目の前に相手がいるのに口に出したらバレるでしょうが!」
「・・・・・・っっ!!」
「今気付きましたみたいな顔をするなぁぁぁあああっ!!」
あぁ、もうメチャクチャです。
「・・・・・・ぷっ、くふっ、ふっふふふっ」
作戦失敗の絶望にうちひしがれていると、はやてちゃんが、まるで堪えきれない、といいたげな様子で笑い始めました。
「は、はやてちゃん・・・・・・?」
「いや、なんかもう、ごめんなっ、くふふっ・・・・・・ちょっぴりからかっただけでこんな必死になるとは思わんでな、ふふっ」
「か、からかった!?」
「さすがにあの奥手なユミナちゃんに急に彼氏ができるなんて思わんよ。そちらさんからもそんな雰囲気せんしな」
「なんだこの機械・・・・・・羽みたいなものが回って風を生み出してる・・・・・・」
どうやら、私はもて遊ばれていた、というわけらしいです。
無駄に焦ったのが馬鹿みたいです。はぁ、と大きなため息をつき、お客さん用に用意されている椅子に腰掛けます。
「――――で、ほんとのところそちらさんは何者なんかな?」
扇風機をじっと観察する彼を見ながら、はやてちゃんは興味津々といった様子でそう言いました。
これ、どう説明したらいいのでしょうか。昨日庭の木に引っかかってた魔法使い、なんて言い出した日には頭の痛い子認定が確定してしまいます。ぶっちゃけ、さっきのマジシャン設定が一番しっくりくるのですが、既に嘘とバレているみたいだし。
さて、どうしたもので
「魔法使いだよ!」
・・・・・・これ私が隠す隠さないを決めることじゃなくない?
堂々と自らの正体を明かす彼の行動に、今更ながら気付かされました。思考を放棄したわけじゃありません。断じてありません。
はやてちゃんは、私の髪を指でくるくると弄りながら、彼の発言に苦笑いしました。
「凄腕マジシャンの息子からまたえらいぶっ飛んだ設定になったなぁ・・・・・・」
「設定じゃないもん!これでも私、単騎で国を討ち滅ぼせるって恐れられたくらいの魔道師なんだからねっ・・・・・・今は大規模魔法を使うにはちょっと魔力が足りないけど」
「ふうん。ほんなら、大規模じゃなかったら魔法が使えると?」
「もちろんさ!――――こんな風にね!」
彼はどこからともなく黒い本を出現させました。
黒い本は独りでにページを進めていき、あるところでピタリとめくるのを勝手に止めます。
黒く輝く魔方陣が彼の元に現れます。薄暗い店内を怪しげに、そして幻想的に照らす光に、はやてちゃんは、団扇を持ったまま口を開けて固まっています。
そして、彼がカウンターにあった水の入ったペットボトルに指を指すと、
――――瞬間、一陣の冷たい風が私達の間を駆けました。
じんわりと浮かんでいた汗は初めから無かったかのように引き、冷気に撫でられた肌には鳥肌が立っていました。
「これで信じてくれるかな!」
そう言って彼は、
はやてちゃんは、凍り付いたペットボトルを無言で受け取り、じっとそれを観察しています。その目は、自分ここにあらずといった様子です。
当然の反応と言えるでしょう。私も魔方陣は見ましたが、視覚的に変化の分かる魔法は荷物を吸収したものくらいしか見ていません。このように派手なものを見せられ、改めて驚かされています。
いくら大学を飛び級で卒業した天才っ子のはやてちゃんとはいえ、こんな非現実的な事態にはそうそう対応は、
「・・・・・・・・・・・・よぉし、分かった。認めるわ。君はホンマもんの魔法使いなんやな」
「いよっしゃあ!」
ふぁっ!?
「そんなすぐに認めちゃうのっ!?」
「ふっふっふ、はやてちゃんは不測の事態への対応も完璧なんやで」
「・・・・・・ぶっちゃけ?」
「考えても無駄やからとりあえず受け入れてみた!」
「ああ、うん、知ってた」
やっぱり人間どうしようもない事態に陥ると、とりあえず受け入れてしまうみたいです。後で対応策を練れればいいってことですね。簡単だね。
あ、ちょっとそこの魔法使いさん、危ないから喜びのあまり炎とか電気を出さないで。
「いやはや、魔法使いとか実在するもんなんやなぁ。ザフィーラに初めて会った時よりも衝撃的や」
「しゃべる犬も普通じゃ無いんだけどね・・・・・・こう、魔法よりかはインパクトに欠けちゃうかな」
「魔法・・・・・・・・・・・・あ、あぁっ!そうやった!ユミナちゃん誘おうと思ってすっかり忘れとった!」
「私?」
しまった、といった様相ではやてちゃんは、椅子から立ち上がり、慌てながらスカートのポケットから綺麗に折りたたまれた一枚の紙を取り出しました。
私の好きな本の著者の関係かな、と思いましたが、怪しげに笑いながら紙を広げる姿を見ると、そうではないのが自然と分かりました。
折りたたまれた紙が本来の長方形の姿を取り戻すと、そこには細かいいくつかの文があり、真ん中には目立つように赤い大きな文字でこう書かれていました。
「なぁ、ユミナちゃん――――魔法、使ってみとうない?」
『BRAVE DUEL』と。
4000字越えた辺りから厳しくなってくる。
次回は初ダイブに戦闘まで一気に終らせられるよ!やったね!
ところでたまにTwitterとかで生存報告とか進捗情報を報告する作者さんがいるけどああいうのがあった方が読者さん的には便利なんすかね。