盛大に残念がる声が青空へと響く。
何人目か判らない男子が大の字になって地面に転がり、尻を押さえて悶えている……彼は何度目の挑戦だったか。
子どもの元気の無尽蔵っぷりを甘く見ていた。
幾人かの子は満足したのか別の遊びを始め、疲れた子は少し早いが昼寝へ。
この時点で半数が脱落し安堵したのだが後の半数が問題だった、中々に粘るのである。
今倒れているこの子を含め、何人かは動きが良かった。
ーーいや、動きが良過ぎる。
明らかに何かしらの教えを受けている動きが観て取れる。しかも、似たような動きとくれば疑いようもない。
全員が同じ人物の指導を受けているようだ。
それに気付いたのは少し前、今は手加減を少しずつ止めて稽古をつけている。しかし、本当に誰なのか。
首を捻っていると騒がしく此方にやって来る人影。
「あら? なんでみなさんお外で寝ているのかしら?」
「
「いやぁ、お嬢。部屋の中でウダウダ腐っているよりは子どもは子どもらしく鼻垂らして遊び回っている方がいいでしょうに」
「……クロウ。流石にそれは失礼だから」
「こいつぁ、失礼しやした」
かなり体格の良い男性に同年代の少女二人、男性はお目付役といったところか。
庭に転がるお友達を不思議そうに見ている少女は何処ぞのお姫様のように蜂蜜色の髪を揺らしキラキラと輝いている、対してもう一人は神秘的な雰囲気を漂わす黒髪の少女。
どちらも方向性が違うものの美少女である。
だからこそ際立つのが背後に控える漢。
彫りが深く、傷痕の目立つ顔は堅気にはとても見えない。
それに加えて帯刀しているのだから中々に近づき難いだろう。だが、二人と話す顔はどこか愛嬌があり、端的に表現するならばーー大きな子どもだろうか。
「クロウだー!」
「また仕事さぼってるのかー」
「
近寄る人物が誰だか判ると寝転がっていた子どもも含めてわらわらと集まり始め、あっという間に囲まれてしまった。
これはこれは子どもに大人気なんだな。
「おうおう、来てやったぞ〜ガキンチョども。あ、あとウチの大将には秘密だからな。な! 絶対に言うンじゃねぇぞ?」
残された少女達はいつものことらしく彼から離れーー私と目が合った。
黒髪の……面倒だ、多分クオンらしき少女が訝しげに此方を見ていて、もう一人……フミルィルらしい子はパタパタと此方に近づいてきたーーって警戒心とか無いの!?
「はじめてお会いしますがどなたですか?」
にっこりと笑い、興味深く見つめてくる姿は同性ながら実に愛くるしく、早くも傾国の美女の片鱗を覗わせる……云うならば傾国の美少女か。
ふんわりとした独特の空気に包まれるのが幻視出来そうですらある。
「もうフミルィル。置いていかないでよ!」
少し距離を取り、警戒心を見せつつ追いついた少女がフミルィルの前に立つ。この頃から苦労してきていると思うと涙がじんわり滲む。
「それで貴方は誰?」
言葉遣いから察するに公人としての扱いではない方が良いのだろうか、思わず跪いての返礼を押し止め。
「ラナヤと申します。こちらには訳あって宿泊させて頂いています」
「……なんか堅くるしい」
あ、なんか非道いこと言ってくれましたね皇女様。
言われ慣れているとはいえ気にしない訳ではないんです。
特に同年代の悪意ない一言とか、大人に言われるよりも深く突き刺さります。
「もぅ、クーちゃんったらいじわる言って!」
窘めるようにプンプンしているフミルィルの空気が軽い。本気で怒っていらっしゃるようだが如何せん迫力が皆無で効果は薄そうだ。
「気にしないで下さい。慣れているので」
と、少し強がってみる。
幼くとも武士の端くれなのだから。
「お! オマエさんがコイツらを伸したってェ嬢ちゃんかい?」
いつの間にか二人の後ろからズイっと顔を伸ばす。
私を観察していたクロウが前に出た、あくまでお目付役としての動きを悟らせないように軽口を叩きながら二人を背に庇い立っている。
考えてないようで常に思考している、実は真面目な彼だが表面には決して出さない。
「ちゃんばらの延長のようなものです。武器を失うか打たれたら負け、伸してなんていません」
少し強く尻を引っ叩いたがアレは伸したとは言えないと思うんだがどうだろう。
「ほ〜。ほうほう……」
何が面白いのか、ニヤニヤと嫌らしく嗤い頷くクロウの目が私を捉えて離さない。
これは……イヤな予感がする。
「いいねェ。それじゃーー今度はお兄さんと遊ぼうぜ!」
子どもの遊びに大人が加わるのは色々と駄目だろう。
ほら、クオンとか半眼で冷めた瞳でクロウ見ているし。
しかしそんな外野の視線など露にも気にせず、鎧を脱いで身軽になり躰を解して備えている。
駄目だ。我が道を行くにも程がある、話なんてまるで聞いちゃくれないだろう。
あ、とうとう素振りを始めた……荒事からご無沙汰?
これ、やらないと駄目なんだろうか。
私は子どもの指導してただけなんだが。
凄く、すごーく嫌な顔をしてクロウを見てやる。
「最初に言いますが『遊び』ですから」
「へいへい。判ってますって。『遊び』でしょう?」
凄く、すごーくイイ顔をして私を見てくる。
絶対に判ってないことが判った。
流石に得物は互いに木の枝、本来の得物を使うことはない。
当たり前だ、使われたら即死する自信がある。
私の身長を優に越える大太刀とどうやって仕合えと。
仕合が死合に早変わりしてしまう。
さて、相手はクロウ。
國中で強さを数えたら上からの方が早い相手にどうしろと言うのか、胸を借りると思って踏み込むか?
一歩。そう、一歩踏み出した所で気付いた。
これ以上は踏み込めないことに。
「お。気付いちまったかい?」
ニタリと笑う顔は子どもに向けて良い顔じゃない。
体格の差があるのもそうだがこの男の間合いは恐らく思っている以上に広いようだ。
動いた時に肌に感じた寒気にも似た嫌な感覚が物語っている。
気にせずもう一歩踏み込めば打たれていたはず。
本当に大人げない男である。
全力ではないが私がぎりぎり勝てない位の力量で挑んできているあたりイヤらしい、楽しくて仕方がないのか先程から笑いが崩れないし。
「相手は子どもですよ」
「だから嬢ちゃんに合わせてんだろ?」
んん?
あ……これはもしかして私が稽古つけられているのか。
てっきり巫山戯て乱入してきたと思ったが、今度は私が挑戦する側に変わっただけだったとは。
そうと判れば遠慮なくーー
「そぉいッ!」
と、思い切って打ち込もうとした瞬間に打ち込まれた。
走る軌道は正中線。急遽、踏み足を軸に半回転し跳ぶ。
綺麗に鼻先を掠めた枝がピシッと空を斬った。
…………おい、手加減はどうしたクロウ。
私の髪が数本切れて風に舞ったのが見えたぞ。
「オイオイ。コレも見切りやがるか」
口では残念そうにしながらも瞳が完全に獲物を狙う獣そのもの、遠慮などしていない。
ああ、もうコレ絶対に稽古なんかじゃないじゃないか。
悲嘆に暮れる私の心は更なる苦難に吹き散らされた。