からくりパレェド ~エクストラキャストは躍り狂う~ 作:紙ブクロ
これまで何度も、何度も記憶の中で繰り返される言葉、
お前はかわいそうな人形だ…
空っぽの私に初めて存在の意義を与えてくださったおじい様の言葉。
勝を守ってごらん
私が私であるための
そうしたら…おまえは
人形じゃなくなる
でも、今は少し違う。思い出すのは、おじい様ではなく、あの人の怒った顔、困った声、あの人の笑顔…。
人を笑わせるのが下手な、お坊ちゃまを助けて、瓦礫の中へ消えていったあの人…。
おまえは…おかしいなァ
加藤 鳴海、あの時私は貴方に笑ってあげられることが出来なかった。
だから、
だからもう、私は…
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「お坊っちゃまの教室はここか」
小学校に侵入したしろがねは首尾よく目あての場所を見つけ出す。
外の窓枠から教室内を覗くとそこに自分の主人、茶色がかった髪の額をバンダナで隠した人の良さそうな少年、
(お坊っちゃま、しろがねはここでお坊っちゃまをみまもっておりますから!)
本当ならばこのような覗き行為は勝の望むところではないし、しろがねも主人の嫌がることは極力避けたいのだか今回はそのように出来ぬ訳があった。
それはこのクラスでの勝の扱いにある。
ちょっと覗いたかぎりでも、黒板には勝を弄るための悪意のこもった落書きがなされイスには画ビョウがばらまかれていた、勝が上履きを履いていないのは恐らく何者かに隠されたからであろう。
「やはり…、お坊ちゃまはいじめられている…」
たとえ子供であっても己が主人に危害をくわえるものを放っておけはしない。
叩き伏せる。
しろがねがそう決意した時、三人の男子が勝に詰め寄っていた。
「久しぶりにガッコー出てきて、なんの挨拶もなしかよ、勝」
「あ…、ごめんね…、あの」
「バカヤロー、なめんじゃねえよ。甘ったれのボンボンがよ!」
その中で特に体格の良い男子が勝を突き飛ばす。クラスメートの女子が止めようとするが無駄である。当の勝は動じた様子も見せずにただ笑って構えていた。
「何笑ってんだよ、おめえ。また、歯ァへし折ってやらあ!」
とうとうたまりかねた男子が勝を殴ろうと腕を振りかぶる。
「お坊ちゃま!」
窓から入ろうとするしろがね、がしかし、
「は~い、スト~~~ップ」
グイッと襟首をつかまれて外に引き戻される。
「何者!?」
「うわっと!? 落ち着けって俺だよぅ」
「タイガ?」
すぐに捕まれた手を振り払ってみるとそこに今日会ったばかりの級友の姿があった。
「どしてここに…、いえ、それより今は」
「だから落ち着けって!」
再度窓に飛び込もうとしたしろがねを何とか押さえつける。
「くっ! 離せ!」
「頭冷やせよ! ガキのケンカにオトナが入っていったってこじれるだけだって! それに…」
そう言って窓の向こうを覗く。
「あのコ、どうやら負けてねぇみたいだぜ」
「なに?」
教室の中は驚きと困惑で固まっていた。
男子の拳は確かに勝に当たった、しかし殴られて退くはずの相手は拳を受けても動じず、ただ立っていた。
その額から巻いていたバンダナが落ちる。そこには端正な顔には似つかわしくない大きな傷跡が刻まれていた。
「な…何だ? そのキズ…」
その様子に虐めていた男子たちは自分たちの獲物が過去と違うことにようやく気付く。
「ごめんね…驚かしたくなくて隠してたんだけど…」
そう言って勝は服のボタンをはずしていく。
「どうせわかっちゃうのにね。次の時間、体育で、プールだから…」
脱いだ見せた肌には大小様々な傷が刻まれていた。
「こんなこと…、言いふらすコトでもないんだけど………、ぼくは…、すごくコワイ目にあったんだ…」
そして知ったこの世には人を人と思わず、簡単に人を殺せる人間もいるという事。その悪意が自分に降りかかり、死ぬほどの傷を負った。その時の痛みに比べたらいじめられようがどうということもない。
「でもね…、言いたいことはそんな事じゃないんだ…」
助けてくれた人がいた。
今でもその人の顔を、言葉を、頼もしい後ろ姿が目に焼き付いている。
その人は、どんな時でも負けなかった。どんな危険な時だって笑ってたんだ。
「だから…、その人みたいになるには…」
鳴海兄ちゃんみたいに強くなるには…。
「ぼくは、笑わなくちゃ」
そこにいるのは、もうかつてのいじめられっ子ではなかった。いじめっ子達は口々に捨て台詞を吐きながら退散していく。
「お坊ちゃま…」
たくましくなった己の主人に感動し、安堵するしろがね。
「な? 大丈夫だったろ?」
そこに声をかける大河。
「え、えぇ。でもな…」
「こりゃ! 君達!! こんなところで何してる!」
「やべぇ!? 逃げるぞしろがね!」
通りがかった用務員に見つかり、走り出す二人。走りながらも、どうしても気になりしろがねは一緒に走る大河に話しかける。
「タイガ、何故あんたはお坊ちゃまが無事だと分かったのですか?」
「うん?」
「あなたが私を止めたのはその確信が…」
「んなもん、ねえよ」
「な!?」
「ガキのケンカなんだから、絶対なんてねえよ。なんだったらこのあと殴り合いするかと思ってたぜオレァ」
「は?」
しろがねは大河の言うことが理解できなかった。
いったいこの男はなにを言っているのだ。ではこの男は殴り合い前提で自分を止めたと言うのか。なんの確証もなく我が主人を危険にさらしたというのか。
「貴様、どういう事だ!? では何故あの時止めた!」
「うお!? ご、ごめんって!」
あまりの剣幕にたじろぐ大河。
「悪かったって。でもあのまま出てっても解決にならなかったのはホントだ」
「…では、なぜお坊ちゃまが大丈夫だと?」
「いや、大丈夫かは分かんねぇけどさ、あのコの目が言ってたんだ、自分はこいつらに勝てないかもしれない、でも『絶対、負けねえ』って」
絶句するしろがね。とてもじゃないが理由にもならない根性論である。しかしそれを言い放つ大河の瞳は真っ直ぐにしろがねを見ていた。それはとても眩しく、キレイな…。
「さあ、早く戻んねぇとセンセに大目玉食らっちまうぜ!」
そう言って笑う。その笑顔はどこかしら自分の知る、あの男の笑顔に似ている気がした。
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午後、
「いやー、今日の学校はホント面白かったぜ!」
帰宅の途中だが、今日の出来事を思い返すとどうしても笑いが抑えられない。
あのあと結局大河たちは一時限目に間に合わず説教を食らうことになった。
大河は普段寝坊でやってしまう事もあったがしろがねに関しては初日から授業サボタージュという伝説を打ち立ててしまった。
それだけでも充分だったがソコで終わらなかった。
現国の授業で詩を朗読をすれば、外人とは思えない流暢さと持ち前の美声で男女問わず聞くものを魅了した...、と思えばそれを黒板に書くよういわれると小学生レベルのおぼつかないカタカナを書き始める。用意した教科書に大きく書いてある、どう見ても『ツロガネ』としか読めない署名が証拠だ。
聞いた話では男女別の家庭科の授業でフルコース料理を披露したらしい。どれもプロ級の味だったとか。
極めつけは体育で魅せた体操選手顔負けのアクロバットである。朝のやり取りでしろがねが恐ろしく身軽なことは知っていたがそれでも思わずその演技に見惚れてしまった。
とにかく一日何をしてもしろがねは皆の注目の的であった。そして面白いことに本人はどうやらあまり目立たず静かにしていると思っているらしい。
根本的にずれている。
「マッタクよぅ、コレの時はスゲー目にあったぜ」
苦笑しながらポケットに入っているものを取り出す。そこには良くできた形のいいクッキーが入っていた。
昼休みの時である。
「大河、よろしければ朝の礼にこれを...」
そういって綺麗に包んである袋を差し出してくるしろがね。
「へ? い、いやぁ礼なんてそんな...、おお、クッキー! 何? 食っていいの!?」
「はい、授業で作った余りなのですが、良かったら」
「もちろん! 貰う貰う!」
と、手を伸ばそうとした瞬間、
「「「「「「「「待てえええぇぇええいぃぃ!!!!!」」」」」」」」
何処からともなく男どもが群がり大河に襲いかかる。
「よこせええ!」
「オレのしろがねのクッキィィ!」
「渡せぃ! あの指がこねた粉をを食うう!」
口々に叫んで包みを奪おうとする、が。
ガン! ゴン! ドゴオォォン!!
「…お前らよう、ケンカする相手は選んだほうがいいぜぇ」
跳びかかった瞬間、大河に叩きのめされていく。
「チキショー、やっぱりダメだぁ~」
「誰だよう、いくら望月でも大勢で囲みゃ大丈夫っていたやつぅ…」
そんなこんなで勝ち取ったクッキーである。
「帰ったらゆっくり食べよっと。へへ、楽しみだなぁ」
その日の足取りはいつもよりも軽いものだった。
「ただいまっと、ん?」
帰宅してみるといるはずの父、紫朗はどこにも居らずかわりにリビングの机に書置きがあった。
大河へ
急に海外の取引先の方から緊急の連絡があったのでそちらへ飛ぶ。
スマンがまた暫く留守番していてくれ。生活費はいつもの口座に預けておく、無駄遣いするなよ。
それから、ついでに家の奥の倉庫の整理をやっておけ。やらないとお仕置きだぞ。
PS・冷凍庫の中の高級アイスクリーム食ったら殺すぞ パパより
「ッッッッ~~~~~!!!! 何がパパだクソ親父イイイイイィィィッッ!! 雑用押し付けていきやがってッッッ!!」
どんなに叫ぼうが当の紫朗はもうこの家にはいなかった。
「クソ! めんどくせぇナ」
ガチャガチャと掃除用具を持って家の奥へと進む、倉庫の整理などやりたくはないがやらなければさらに面倒なことになると考え嫌々重い腰を上げる。ちなみにアイスクリームはもう大河の胃の中に納まっている。
入り口にある南京錠をあけて重い扉を開ける。暗く、埃とカビの匂いが鼻をかする。物をよけながら進み、一つだけある小さな窓を開け、新鮮な空気を入れる。かなり広いスペースでその中には様々なものが押し込められている。
使わない電化製品や書類、本などを置き場所に困るとここに放り込んでいっため、様々なものがここにはある。中には和ダンスや着物の入った葛籠などもあるこれらは両親が結婚した時に実家から持ってきたものらしい。
「とっとと終わらせてやる」
そういっているものと粗大ごみとして出すものを仕分けしていく。それが粗方片付くと次に乱雑に築かれた本の山に取り掛かる。えらく高積み上げられていて、そのせいで山の向こう側にいくことものぞくこともできなかった。それをどんどん仕分けしていく。
とその時一冊のアルバムをみつけて手を止める。
「…これ、ここに入れてたのか。全然見ないから忘れてたぜ」
それは、まだ
「ハハッ、間抜け面してらぁ」
赤ん坊のおむつ替えでおむつとと格闘している父、カメラに向かって当時のヒーロー番組の主人公のポーズをとる小さい自分の姿、本を読んでいたところを撮られ少々あきれ顔の兄の写真。そして、
「母ちゃん…」
家の前で撮ったのであろう集合写真、笑う紫朗の横で微笑んでいる母の姿があった。
しばし、それを眺めていたのだが、これでは整理が終わらないと気づき気を切り替える。
「だああぁ! こんなんしてたら終わらねぇって!」
バン!っとアルバムを置き、作業を再開しようとする。しかし力加減を間違えてしまい、バサバサと本の山が崩れ落ちていく。
「うわわわ!? やっちまった!」
見事に崩れていき奥の見えなかった一角が露になる。
「うん? あれなんだ?」
そこには布袋に包まれた棒状のものが一本だけおかれていた。興味が湧き、拾ってみると想像以上に重たい。
「この形ってもしかして…」
袋の紐を解き、中の物を出すと思った通り、
「これは、刀だ」
一振りの日本刀が入っていた。
「はあ~~~! すっげぇ!? こんなのあったのか!」
柄などはそれほど劣化しているようには見えず、暗くてよくわからないが鍔や目貫には細かい装飾が彫られているようだった。
大河の中にうずうずとある衝動が沸き起こる。
(抜いて見ても、いいよなぁ…)
刀があったら抜きたくなる、男子ならあらがえない誘惑である。
「もしかしたらすっげぇお宝だったりして…」
刀の柄を握る、その時。
パシィッ
瞬間、自分の中に何か衝撃が走った。なにかが繋がったような不思議な感覚が広がる。それに従うように体が自然と刀の鯉口をきる。ゆっくりと鞘を引いていくと中の刀身が少しづつ姿を現す。
刃には綺麗な波の紋様が現れ、漏れてくる光に対しその刀身はどこか碧みがかった光を反射させていた。それは鉄のくすんだ輝きではなくもっと澄んだものであった。
余りの美しさに発する言葉が出てこない。
(あぁ……、なんて、なんて……)
『綺麗じゃろう…』
『銘は
ぼぅ…、と顔の正面に輪郭が浮かび上がる。
『大切な人から頂いた、ワシの宝物じゃあ…』
そこにはくたびれた着物の男が覗いていた。
その顔に目はなく、両目のあるであろう箇所に真っ暗な穴が開いているだけ、鼻はなく、口は粘土に刃物で切り込みを入れただけのような歪なものだった。
まるで子供の描いた絵が勝手に抜け出してきたようなのっぺりとした顔だが暗所でみるそれは恐ろしく不気味である。
瞬間、背中におぞけが走る。と同時に身体は普段の感覚に戻る。
「うわわあわわああああああぁぁ!!?」
「ひゃあああああぁあぁあああ!!?」
驚きの声を上げて退く大河、その声に驚いたのか相手も妙な悲鳴をあげる。
「なんだなんだ! お前なんだ!?」
『ビックリしたぁ...、急に大きな声が出さんでおくれよぅ』
「おい、話し聞け! こんチクショー!」
「あーあぁ、こんなに散らかして...後片付け大変じゃぞぅ」
話しかけているのだがどうにも相手は話しかけていると気づいていないようで、こちらを見ようとしない。フヨフヨと浮きながら崩れた本を覗いているだけてある。履いている袴の裾が揺らめいていたがそこに出ているはすである足は見当たらなかった。
大河は今視ているものが世間一般で言う幽霊にあたるものだと決める、信じらるないが実際見えているのだからしたない。しかも当の本人は見られているのに気づかずのんきに本の心配をしている。
さすがにイライラしてきてその辺にあったものをひっ掴みおもいっきりヤツに放り投げる。
『うひゃう!?』
命中、と思いきや相手の体をすり抜けて壁にあたる、しかし注意を引くことはできたようで、変な声をあげながらこちらを振り返る。
「お前だよ! いったいなんなんだよ!」
『へ?』
「お前ェだよ、そこの着物ヤロー! 何で家にユーレーなんて居やがるんだ!」
ソコでようやく【それ】は自分に話しかけてると気づく。
『ひょえええぇぇ!? あんたワシがみえとるん!?』
「おう、しっかりな」
その顔が一瞬驚きの表情で固まるが次の瞬間、
『う、うええぇえええぇぇぇええええぇんんん!!!』
いきなり大号泣しながら突っ込んでくる。
『一人は寂しかったよぅ~、暗いとこ怖かったようぅ~、うえええぇぇん!!』
「うわ、うわわわわっっ!!!」
まるで子供のように大河にすがり付いてこようとする幽霊(?)、どうやらすり抜けて大河にはさわれないようだがそれでも自分の体を腕やら体やらが通っていくのを見るのはたまったものではない。
「お、落ち着けえ! わかったって! 話し聞いてやるから!」
『っ! 本当に?』
やっとこさ落ち着かせてなんとか話しをしてみるのだが、
『な~~~んも覚えて無いんじゃあ...』
「はぁ!?」
どんなに質問しても大事だという刀の銘以外、いつ死んだかはおろか、自分の名前も忘れていた。
どうやらここに来るまでにはまだ記憶はあったようなのだがここに納められる頃にはもうすっかり忘れ果てていた。
何処かに行こうにも大事な刀を置いていけず(離れられず?)ずっとここに籠っていたという。
「そうか、じゃあどうしようもねぇな」
そういって立ち上がる大河だが、
『そんなこと言わんでおくれよぅ~~、もっといてくれよぅ~~!』
幽霊(?)は必死で引き留めようとしてくる。
「だあああ! うっさい!!」
『ぴぃ!?』
「ここにいても何にも出来ねえだろ! お前ェはここで待ってろ、オレがちょっと親父に電話してコの刀の持ち主が誰か聞いてくるから」
そういって倉庫をでる。リビングに戻り紫朗の携帯に連絡を入れるのだが、
「クソ、出やがらねぇ。何でこんなときに...」
『ほおおぉ、最近の屋敷は変わっとるのぅ、なんだかみんなピカピカじゃあ』
頭を抱えた大河横にはあの幽霊がいた。
「何でくんだよ! 待ってろって行ったろがよ!」
『だだだだだってぇ、刀持っていくんじゃもん』
「あ~~! もう!」
急いで引き返し、倉庫に刀を投げ込み扉に鍵をする。息を切らしながらリビングへ戻る。
「全部クソ親父のせいだぜ、早く電話に出ろよ」
『あ、あのぅ』
そこには、すまなさそうにニヘラっと笑う幽霊がいた。その顔は何とも情けなくて、もはや沸点を越えて呆れさえ出てくる。
「なあよぉ、オレは待ってろっつったよなぁ...」
『それなんだけどよぅ...。い、言うから怒んないでくれよぅ?』
「とりあえず聞くぜ」
勉めて申し訳なさそうに口を開く幽霊。
『そのぅ、確かにオレは刀から離れられなかったんだけどよぅ、どうやらさっきあんたが刀を抜いたとき
「.........い、いったい何が移ったんだ」
それは、大河の日常を壊滅させる言葉だった。
『ワシ、アンタに、憑いちゃった』
「...ふ...ふふ」
「ふっっっざけんなああああああああぁぁっっっ!!!!」
『ぴぃぃぃぃ~~!? ごめんよううううぅぅおぅおぅ!!』
二人の声が家に響き渡る、しかし残念ながら近所には大河の怒声だけがもれていたそうな。