からくりパレェド ~エクストラキャストは躍り狂う~   作:紙ブクロ

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ビースト

    …目…、

 

 

    駄目よ…、

 

 

    誰か…、あの子を…、

 

 

    あの子を…、止めて…、

 

 

    私の、……を…。

 

 

    

    誰か!

 

 

 

 

〓〓〓〓〓〓〓

 

 

「うぁ…」

 ベッドの上、まるで冬眠の獣のような声を漏らす、どうやったらそうなるのかよく分からない体制のまま、重い瞼をこする。

 何か妙な夢をみた気がするがどうにも思い出せない、頭はまだぼんやりと霞がかかるように鈍かった。

 窓のカーテンの隙間からはもう朝の光が漏れて、日が高いことを知る。

 今日は休日、このまま起きるかそれとも休日の特権である二度寝を思案しているとき、

『大丈夫かよぅ、うなされてたけど…』

 ヌッと埴輪のような顔が目の前に現れる。

「ウオオッ! 近ぇよソータ!」

『ご、ゴメンよ! つい』

 もう見慣れた顔とはいえ、起き抜けにいきなりこの蒼太郎の顔は少々心臓に悪い。だがおかげで眠気は何処かへ飛んでいってしまった。

『でも、なんだか苦しそうだったからよぅ、なんか悪い夢でもみたんかい?』

「…う~ん、なんか誰かの声がきこえてたような…」

 と、頭を捻りが結局思い出せない、その内腹がなってきたので何か食うかとベッドを這い出たとき、居間から電話の着信音が響く。電話に出ると相手は父の紫朗であった。

『お前、千葉のおじさん覚えてるか?』

「あぁ、ちっちゃい頃兄貴と一緒に遊んで貰った…」

『そうそう、その人がな、今腰をいわして入院したそうなんだ。私はまだ日本に帰れそうにないから、お前代わりに見舞いに行ってくれんか』

「えぇ~、面倒くさ…」

『行ってくれるなら、交通費多めに出すぞ』

「何ぃ?」

『おじさんのほうからも久しぶりだし、何か貰えるかもなあ…』

「直ぐ支度するぜ!」

『現金じゃのぅ』

 そういうことになった。

 

 

 

〓〓〓〓〓〓

 

 

「いやぁ、わざわざすまなかったね」

 数人部屋の病室の奥で人の良さそうな中年の男が少し薄くなった額をなでる。

「この人ったらぎっくり腰ぐらいで大げさなんですよ」

 ケラケラと横で奥さんが笑う。

「なにおう…、アタタタッ」

「ほら、あなた大人しくしてなさい」

「これ、親父持ってけって、果物」

「あら~、悪いわねぇこんなにして貰って、ありがとうございますぅ」

「い、いやぁ、大したことはないっス、アハハハ!」

『小遣いに目がくらんだだげじゃがのぅ』

「うるせぃ」ボソッ

「ん? 何か言ったかい?」

「いやいや! 何でも無い何でも無い! それより、今日は一日休みだからさ、夜までなら何か手伝うぜ」

「そう? じゃあ悪いんだけど買い物手伝って下さる? この人がこれだから重いもの運べなくって」

「おう、任せてくれよ!」

 とそんな話しをしていると、隣のベッドから、声が聞こえる。

「ありゃ~~! 大変なことになっとるな~~!」

 気になって目を向けると、お爺さんが病室のテレビを凝視していた。

『これが昨日15日に多くの人々を殺傷しバリシャームサーカスから逃亡したトラ、通称[ビースト]です』

 テレビ画面に檻に入れられた巨大なトラが映る。体長4メートル20センチ、その眼光はまるでカメラの奥の獲物を睨むように爛々と輝いていた。

『ひえぇ、大きなトラ猫じゃのう』

「あぁ、そうだな…」

 サーカス、いう言葉が耳に残る。なんだか最近そのようなものと縁があるようだ。ニュースは続いてビーストが起こした惨劇の場を映す。その場の人間は思わず息をのむ、死体こそ無かったがそこにはおびただしい血痕の跡が残りその無残さは十分想像できた。実に23人の死者を出して逃走したという。

「恐ろしいわねぇ、早く捕まるといいけど」

「大丈夫さ。プロが動いてんだから」

「あ、あぁ。そうだね」

 そう返事したものの、どうにも大河の気分は晴れなかった。どうしても、画面の中のあのビーストの瞳が頭の奥にこびりついて離れなかった。

 

 

 

=======

 

「助かるわぁ、色々持って貰って」

「こんくらいどうってことないサ!」

 おばさんと二人近くのショッピングセンターにきた大河、その腕にはトイレットペーパーや特売の食材等を抱えていた。

「おかーさん! これ買って!」

 ふと、声の方向を見る。

「もう! こないだ新しいおもちゃ買ってあげたばっかでしょ!」

「やあだ! 欲しい!」

 子供がおもちゃ屋の前でだだをこねている。このような場ではお馴染みの光景だ。

 ふと、笑みがこぼれる。

(オレも、あんな事してたなぁ、母ちゃん困らせてよ…)

 

 

   ヒーローババーンの人形買ってよ母ちゃん!

 

 

   もう、困った子ね、大河

 

 

   ねぇ、いいでしょ! ちゃんとお手伝いするから!

 

 

   そうねぇ、じゃあ次に来るまで大河がいい子だったら買ってあげる

 

 

   本当に! 約束だよ!

 

 

   えぇ、約束、指切りげんまん

 

 

 懐かしい思い出が甦る。少し目頭が熱くなってきた。

『どうした? 気分悪いんか?』

「何でもねえさ、ちょっと昔のこと思い出しただけサ」

 そう言って誤魔化す。そうこうしてる間に買い物も終わりになってきた。

「さてそろそろ戻ろうかし…」

そうおばさんが切り出そうとしたとき、急にセンター館内のアナウンスが流れる。

『皆様、毎度ご来店頂きましてありがとうございます。本日これより皆様への感謝の印と致しまして、【サイガ電気】と【サイガ玩具】の製品の、無料プレゼント会がございます。家電、オーディオの最新モデル、お子様のおもちゃなど各先着200名様に無料で差し上げます。皆様、今すぐ近くにあります学校校庭までお越し下さい』

 

 放送を聞いたお客は皆直ぐに動き出す。ただで大企業サイガ製の商品が手に入るのだ、行かない訳には行かない。ただ一人、大河だけがその場で凍り付く。

(サイガ、だって? まさか、まさか!?)

 直ぐに一人の少年の顔を思い浮かべる。そしてあの夜の恐ろしい思い出が甦る。

「大変! 急がなきゃ無くなっちゃうわよ!」

「おばさん先行ってて。オレは用事が出来た」

「? え、えぇ、分かったわじゃあ後でね」

 そう言って去っていくおばさんを見送る。

『大河よう、サイガってまさか…』

「あぁ、いやな予感がしやがるぜ」

 背中に下げていた刀袋を下ろし、布越しに剛刃・流走を握りしめる。これから何かが起こる、根拠はないが確信があった。

『どうするんじゃ』

「皆が出て行った方向と逆の出口だ。何かが来るかお出迎えと行こうぜ」

 そう言って走り出す。

 

ショッピングセンターの入口に向かうとそこにはパトカーが集まり道を封鎖していた。

「なんかあったんすか!?」

 一番近くの警官に質問する。

「まだ残ってたのか? 君、ここは危ない! 例のサーカスから逃げ出した猛獣がここに迫って来てるんだ!」

「なんだとぉ!? チッ!」

「あ! 待ちなさい!」

 バリケードを越えようとするがすんでで警官に取り押さえられる。

「放してくれよ! 知り合いが来るかもしれないんだ!」

「一体何を言っているんだ」

 そうやってもみ合っているとき、

 

「「おい!! 大変だ、タンクローリーが突っ込んで来るぞ!!」」

 

 声に反応して道路の方を見るするとすぐそこまで巨大な車体が迫ってきていた。

「うおおおおおおああ!!」

 すぐにもみ合いを止めて飛びのく、大河がいたところをタンクローリーが通っていく、一瞬、運転席のあるほうを見やる。正面のガラスは割れ、そこには、

 

「GuuuuuAAAaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

 獣がそこにはいた。一瞬だがハッキリとその恐ろしい姿を視認する。

 タンクローリーはそのまま店の入り口に激突して止まる。頭から突っ込んでいたがおそらくそんなもので死にはしないだろう。

「ホントに来やがったぜ…」

「お兄ちゃん!」

「勝か? ってうおおおおおおおおお!?」

 唖然としてその光景を眺めていた時、後ろから声がかかる。声を聞いて振り返るもそこでまたしても驚きの光景がある。一匹のライオンが目の前にいて、そのすぐそばに勝が立っているのだ。

「勝! 離れろ!!」

 すぐさま勝へと駆け寄り刀を抜く、そのまま切りかかるがライオンは飛びのいて躱す、その隙に勝を庇い、間に立つ。

「この野郎! 勝には触れさせんぞ!」

「お兄ちゃん! このライオンは味方だよう!」

「はあ!? どういうことだ?」

「驚かせて、スミマセン」

 混乱する大河に一人の少女が声をかける。年は大河と同じくらいの可憐な少女である。舞台衣装である看護師服のキャップから美しい黒髪が覗く。

「あんたは?」

「リーゼロッテと申しマス、猛獣使いデス。ドラムは私の家族、人を襲うことはありまセン」

「猛獣使い? じゃあ…」

「はい、ビーストは私の双子の姉さんの仇、ビーストと決着をつけるため、来ましタ。ここから先危なイ…、二人は外で待ってイテ…」

 そういってドラムと呼んだライオンと共にショッピングセンターの中へ行こうとする。

「そんな、リーゼさん一人で…」

 勝が心配の声をかけるが、

「ここから先はサーカス アーティストのリングデス。私とドラム、必ずビーストを仕留めマス、きっと…、外で見届けてくだサイネ」

 突き放す返答が返ってくる。

「う、うん」

「ありがとう…、あなたは最高の

 

 さいごの観客デス」

 

 

 そう言い残し去っていく。リーゼ。取り残される勝と大河。

「さいご…、最後って、おかしいよリーゼさん。まさか…」

 何かに気づき後を追おうとする勝の肩を大河が引き留める。

「勝、ここで待ってろ。ちょっと見てくる」

「お兄ちゃん! 僕も…」

「お前はここでしろがねを待て、オレが行く」

「でも…!」

「じゃあな!」

 そういうなり走り出す大河、

「大河お兄ちゃ~~~~~ん!」

 勝を残し、一人リーゼの後を追う。

『ホントに大丈夫なんか? 相手はあのバケモンじゃぞう』

 蒼太郎が怯えた声で聞いてくる。大河も内心ビーストが恐ろしい、しかし、どうしてもあの少女を一人にしておく気になれなかった。

「オレだって怖ぇよ、でもさ、」

 ふと、首をかしげる。

「な~~~んか声がした気がするんだ…」

『声?』

「あぁ、あのコをほっとくな、てさ」

 

=======

 

「GaaaaaaaAAAaaaaaaaa!!!!!!」

「Guoooooooooooo!!!!!!」

 

 

 二匹の獣が館内で対峙する。大型の肉食獣がお互いの爪と牙を相手に突き立てる。おおよそ現実ではあり得ない場面である。しかも、その戦いの行方を操っているのは、

「ドラム! 下から蹴爪(デウクロー)で引きずり倒して!」

 一人の少女である。ライオンは指示どうりに動き、ビーストを抑え込む。

「やった、ドラム!」

 このライオンドラムは普通のライオンではない。スペインにある伝説、その尾の房毛の中に必殺の毒針をもつ悪魔のライオンである。かつて、人食いの逸話のあるビースト共に、サーカスの目玉になるはずであった。しかしそれはかなわなかった。ショーの最中、リーゼの双子の姉をビーストが食い殺したことでその話は露と消えていった。

 いつも姉はリーゼに怒鳴っていた。双子のくせに全然似てない、と。

『あなたは黙って姉さんの言うことを聞いていればいいの』

 いつもそういってリーゼの頬を叩いた。

『あなたはあたしなしじゃ生きていけないのよ』

 そういって見下す姉の顔。

 リーゼの胸にあの日の姉の眼が浮かぶ。

 

 

   フクシュウ シナサイ

 

   フクシュウ シナサイ

 

   ビースト二

 

   ビースト二

 

   ビースト二

 

 

(えぇ、姉さん。あなたの言うとおりに…)

「ドラム! テイル!」

 毒針を突き立てようと尻尾が動くしかしあと少しえビーストがドラムを払いのける。その勢いで吹き飛ばされるドラム。

(やはり、年老いたドラム…、若いビーストを抑えるコト、できナイ…)

 ビーストの双眼がリーゼを捉える。この凶獣はリーゼがドラムの主であることを理解している。

(だけど…、それでイイ…、ドラムが跳ね飛ばされ、私が狼狽したふりをすれば、貴方は必ず私を襲うワ)

 身を屈め、襲撃の体制に入る。

(ごめんネ、ドラム、あなたは私を守らなくていいの…、そして「その時」あなたは尾の棘でビーストをつきさしてネ)

 跳びかかるビースト、

(ビースト、私を引き裂き 食べなさい

 姉さんにおまえがしたように

 

 ああ、姉さん

 天国で、また私を しかってね)

 爪が迫るその瞬間、

 

「バッカ野郎オオオオオオオオ!!」

 

 誰かがリーゼを抱え上げビーストの突進から逃れる、見ると先ほど勝と話していた青年である。二人はそのまま床に倒れこむ。

「あなたは!? なぜ!?」

「行ってる場合か! 立て!」

 青年、大河はすぐに立ち上がるとリーゼの手を引いて立ち上がらせる。二人がいた場所をビーストの爪が掠める。

(なぜ、なぜ来たノ? なぜジャマをするノ!? もう少しで、もう少しで…!)

 走る二人の後ろをビーストが追いかける。

「クソ! 追いつかれる」

「放して! ほおっておいて!」

「あぁ!? 何言って…、うおお!」

 二人に向かってビーストが前足を振り上げる、しかし、

「GROOOOoooooooooooo!!!!!!」

 回復したドラムがビーストに体当たりしてこれを阻む。

「お兄ちゃん! リーゼさん!」

「勝! ついてきちまったのか!?」

「あぁ、そんな勝さんまで…!」

 リーゼにとって完全に想定外である。先程までの毅然とした態度はもうなく、ただただうろたえるしかなかった。

「……勝、このコ連れて隠れてろ」

「? お兄ちゃんは?」

「…選手交代、さ」

「え? お兄ちゃん!」

 勝の声を背にビーストに向かう。剛刃・流走を抜き、鞘を放る。

『ああぁ、結局こうなるんじゃのうぅぅ』

「悪ぃな、付き合ってもらうぜ」

 目の前では猛獣二頭が激しく争っている、人の入る余地はどこにもないように見える、がそれでもやらねばならなかった。後ろの二人を逃がすためにも。

 リーゼは先程、これはアーティストのリングだと言っていた。ならば今の大河はプロの世界に素人が突然割り込んだ、ということになる。狂気の沙汰だ。足が震える、顔が引きつる。心臓が跳ね上がり呼吸が乱れる。

 だが、それでも、目の前の獣に切っ先を向けて精一杯の勇気と空元気を持って吼える。

 

「人間、大河! 飛び入り参加だ、よろしくな!!」

 

 

 

 

 

 

 

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