からくりパレェド ~エクストラキャストは躍り狂う~   作:紙ブクロ

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開幕ベルが鳴る

『気まずいのう・・・』

 

 送られている車の車内、重い空気に耐えられず思わずぽつりと漏らす蒼太郎。今大河達は先程カーミラ人形を破壊したメイドと向かい合わせで腰かけていた。

 あの後、家まで送ると申し出る彼女に促されるまま美術館の表に出るとそこにはテレビでしか見たことの無いような黒塗りの車(蒼太郎曰くえらく長い車)、が表に停まっていた。

 明らかに怪しい、出来れば遠慮したかったが後ろにはあのメイドが控えている。警戒しながらもその言葉に乗ることにした。暗い道を進む中、車内は重い沈黙が流れる。

「…あ、あのよぅ」 

 とうとう緊張に耐え兼ね、大河が口を開く。

「オネーサンは一体…」

「クィン」

「は? 何?」

「私の個体名称は【クィン・ビー】と申します。何かお申しつけの際は、どうぞクィンと」

 と、抑揚のない冷たい声が帰ってくる。思わず大河の口角が引きつる。

「じゃ、じゃあ、クィン…さん、さっきどうしてオレを助けたり、送ってくれたりしてるんだ?」

旦那様(マスター)のご命令です」

「あ、そう…」

 大河の問いに、すぐさま無機質な答えが返ってくる。

「じゃ、じゃ…、ますたーってのは一体誰なんだ…です?」

「申し訳ございません、現在私にはその質問にお答えする権限がございません」

「はあ? 何だよそれ!」

「今の貴方様にお教えする必要は無い。ということです。どうかご理解を」

 ますます分からないことになった来た。突然現れて突然助けられ、誰かと尋ねると教えられないと言う。大河の頭ではどうにも分からなかった。

「だからそれがどういうこと…」

『お、おい大河…』

 どうしても聞き出そうと大河が身を乗り出したとき、

 

     シャコン

 

 クィンの手のひらから薄い刃が飛び出し大河に向けられる。手からそのまま生えたようなその刃はゆっくりと大河の喉元に当てられる。

「今はその時では無いということです。これ以上お聞きになるというのでしたら…」

 クィンの声が機械音のように大河の耳に響く。敵わないと判断し渋々身を引くことにする。

「ちぇっ! 妙な手品使いやがって、もういいさ、聞かねえよ!」

 それ以上どうしようもなく、暗い窓の外を眺める以外になかった。重苦しい車内の中、なんとも息苦しそうに蒼太郎は漂うしかなかった。

 

 

「着きました。どうぞ足元にお気をつけてお降りください」

 クィンに促されて車を降りる、降りた先が丁度大河の家の門の前で停まっていた。家をみると珍しく灯りが灯っていた。

「げぇ、親父のヤツ帰ってきてやがる。予定より早いじゃねえか」

 これから起こるであろう説教の嵐を想像して思わず顔が歪む。

「それでは私達はこれで…」

「あ~…、ちょっと待った」

「はい? まだ何か?」

 去ろうとしたクィンを大河が呼び止める。

「いろいろ言いたいことはあるけどよ…、助けてくれたお礼ちゃんと言ってなかったからよ。…どうもありがとう」

 そう言って頭を下げる。

「…私は旦那様のご命令を遂行したまでです。お礼を言われるようなことは」

「じゃあその旦那様ってのによろしく言っといてくれよ! ありがとってさ!」

「…承りました。お伝えしておきます」

「よろしくな! じゃ!」

 そう言って玄関へと入っていく、その後姿が扉で見えなくなるまでクィンは見つめていた。

 

 

「た、ただいま~…」

 玄関に入り恐る恐る靴を脱ぐ、すると奥から慌ただしい足音が近づいてくる。これから飛んでくるであろう怒号に備えて身構える、が。

「大河! 無事か!?」

 予想と違い、深刻そうな面持ちの紫朗が出てきて大河に安否を問うてくる。

「え? お、おう、大丈夫だぜ?」

 面喰った顔で答える大河の様子を見て安心したのか、大きく一つ深いため息をする紫朗。

「……とりあえず、上がりなさい。話はそれからだ」

 そういって居間へと入っていく。大河は不思議に思いながらも言われた通りついて行く。

 居間で向かい合うように座る親子。

「あ、あのよ…」

「大体のことはもう聞いている。美術館のことも、その前の事件のこともな」

「! それって…」

「お前のここ最近の出来事を知らせてくれたお人がいる。どうやらお前もお世話になったようだな、後でお礼を言わなければ…」

「親父の知り合いだったのかよ」

「あぁ、取引先の方でな、ありがたいことにいろいろ取り計らって下さっている。それより、」

 一呼吸置いて真っ直ぐに大河に目線を送る紫朗。

「一体何があったのか、お前の言葉で聞かせてくれないか?」

「え?」

「お前の口から聞きたいんだ。頼む」

「……親父」

 それから、ぽつりぽつりと今まであったことを語りだす。しろがねと出会い、殺し屋に襲われたこと、千葉で逃げ出した猛獣と対峙した話し、そして今回のカーミラ人形の件、順番ずつゆっくりと話していく。その一つ一つを紫朗は黙って時折頷きながら聞いていた。

「随分と戦ってきたんだな…」

 一通り話し終えた後、紫朗が呟く。

「ん、まあな…」

「怖かったか?」

 不意に質問を投げられる。そこには心配をする親の顔があった。思わず嗚咽が漏れそうになるのをぐっとこらえてなんとか返答しようとする。

「…そりゃあ怖かったけどさ、けど、ずっと傍で一緒に戦ってくれてた奴がいたからさ。なんてことないぜ」

 そういってちらりと横にいる蒼太郎を見やる。彼のことは紫朗には言っていなかった。説明が面倒であるし、もうこれ以上心配もかけたくなかったので黙っていた。蒼太郎も分かっているのか、何も言わず小さく笑ってかえした。

「そうか、強くなったな、大河」

 紫朗もその言葉を聞いてフッと体の緊張を解く。

「言いたいことはいろいろあるが、まあ今日はもうゆっくり休みなさい。その代り、後日た~~~~っぷりとお仕置きだっからな!」

「うげぇ! マジかよ!?」

「はっはっは! マジだ!」

 そう言って席を立つ紫朗、ようやくいつもの調子に戻れたと大河が胸をなでおろした時、

「そうだ、大河。もう一つ言い忘れた」

 紫朗が居間の出口から背中越しに語り掛ける。

「ん、まだ何かあんのかよ?」

「お前の話に出てきた勝という子としろがねという娘だがな……、もう二度と会いには行くな」

「………は?」

 それはあまりにも予想外の言葉だった。

「なに、言ってんだよ、親父」

「その子等に関わってから、お前は事件に巻き込まれるようになった。これ以上関わると、もう無事ではいられんぞ」

「そうだけど! それはしろがね達のせいじゃないだろ! それにもう殺し屋はやっつけたゼ!」

「また必ず別の事件が起こる、必ずな」

「そんなことわかんのかよ!?」

 立ち上がり紫朗の胸倉をつかみ上げる。それでもなお冷淡に紫朗は言葉を続ける。

「才賀の一族としろがねには、呪われた宿命がある、そしてそれは近くの人間を必ず不幸にする。だから決して近づいてはならんのだ」

「一体何のことだよ!どうして…」

 その時大河は今まで忘れていたある事実を思い出す。

「そうだ、なんで忘れていた…。【サイガ】グループ、親父が前に働いてたとこじゃねえか!」

 本当に、今まで忘れていた、直ぐにでも思い出しそうなことなのに、今まですっかりと。では何故忘れていたのか、それは当時そんな事よりも大きな事件が起きていたからだ。

「三年前…、そうだ三年前だ。あの時親父が仕事を辞める前、…交通事故で、母ちゃんが死んだ後だ」

 大好きだった母が急死した。それは望月家にとってあまりにも大きすぎた変化だった。母を失った喪失感が体を縛り思うように動かない、しかし生活は大河を待ってはくれず、襲い来る日常にそれぞれが必死にあらがっていった。大河が己の日々と格闘する間に尊敬する兄は奇病の研究のために家を出、父はいつの間にか会社を辞めてフリーになっていた。己のことに精一杯で、思い出すのも嫌で封印していた記憶の蓋が開いていく。

「家のことをする時間を作るために辞めたんだって、あんときは言ってたけど、本当は別の理由があったのか? あの時、何があったんだよ教えろよ、なあ親父ィィ!」

 再び紫朗に詰め寄る大河しかし、

「……お前は、知る必要は無い」

 帰って来た返答は拒否の言葉だった。瞬間、あのメイドの言葉が過る。

 

(今はその時では無いということです。これ以上お聞きになるというのでしたら…)

 

 目の前の父親も同じく必要は無いという。

「…………どいっつもこいつもなんっだよ、知る必要はねぇとか、まだその時期じゃねえとか好き勝手言いやがって。オレ自身のことじゃねぇか! なんで周りがごちゃごちゃ言いやがる!!」

「それはお前がまだ子供だからだ! 子供だから、私たち大人が守らねばならんのだ!」

 ここで初めて声を荒げる紫朗、大河の肩を抱き必死に言葉を投げかける。しかし、その手を掃い、大河は紫朗に向かい合う。

「確かにオレは子どもかもしれねえ…、だけど、いろいろ隠し事されてはいそうですかと素直にいうこと聞けるほどガキでもねえ! なあ教えてくれよ親父! 会社を辞めた事と、しろがね達はなにか関係はあるのか!?」

 真っ直ぐな視線が紫朗を射抜く、その眼は眩しいほどに煌々と輝いていた。知らずのうちに顔をそむける紫朗。

「……お前は、知る必要はない」

 その時、大河の中で何かが切れた。

「あぁ…、そうかよ、だったらいいぜ! 勝手にすらあ!!」

 紫朗を置いて居間を出ようとする大河。

「どこへ行く気だ」

「さあな、ここ以外さ!」

 そういって居間を出、ドカドカと廊下を踏み鳴らしたが、すぐに乱暴に扉を閉める音が響き静かになる。残された紫朗は疲れた体をゆっくりと椅子に預けていく。壁際の棚の上、飾られている写真を見やる。そこには笑顔で笑う女性の姿が写っていた。

 

「……すまない。君との約束をもう守れそうにないよ…、真由美さん」

 

 

 

======

 

 

『ホントに良かったんかい? あれで…」

「うるせぇ…」

 勢いで家を飛び出してきた大河達。夜遅くで行く当てもなく、近くの公園のブランコに腰かけて時間を潰していた。先程から蒼太郎が大河に語り掛けているが本人は上の空で、時折一言二言返すだけでそれきりであった。

『はぁ……、しかし儂も難儀なことになっとるが、お前さんも負けず劣らず難儀なお家にいたみたいじゃのう』

「うるせぇ、オメーにてぇなのが家にいる時点でだろうがよ」

『ハハハッ、それもそうじゃ』

 大河の言葉にカラカラと笑う蒼太郎。

『…で、どうするんじゃ、これから?』

「分かんねぇ、けどこのまま黙ってお仕舞いにはしたくねえ。だってよ…、思い出したんだ…、あの時の親父、いつも夜に一人で、泣きそうな顔してたんだ…!」

 昼間はうるさいほど絡んでくるようになった紫朗、しかし時折夜に灯りもつけずに酒を少しだけあおり悲しみに耐えているのを見たことがあったのだ。

「あの時は仕方がねぇんだって、忘れちまってた。でも、親父があんな顔してた原因があるってんなら、そしてそれに勝としろがねが巻き込まれてるっていうなら、放っておけねぇじゃねえかよ…!」

 悔しさでブランコの鎖を握る手が赤くなるほどに力がこもる。

『なら、一緒に探そうかの』

「え?」

 見上げるともう見慣れた同伴者の姿がある。

『しろがねの人形やあのカーミラてのを見た時、よくわからんけど何かを感じたんじゃ。儂の過去とお主の事情、もしかしたら関係があるかもしれん。なら、一緒に探した方が速いじゃろう。な?』

 ……そういってまた笑う。一人じゃない、というのがこうまで心強いというのを教初めて知った大河である。

「へ! どうせオレの周りしか行けないんだろう? イヤでも連れ回してやんぜ!」

『おぉ、望むところじゃ!』

 そしてお互い笑い合う。最初倉庫で出会った頃はこんな間柄になるとは思わなかった二人である。

『しかし、ホントこの後どうするお前さんの親父さんはあの通り口は割らんじゃろうし、なんか当てはあるのかい?』

「あぁ、それなんだけどよ…、もう一人、知ってそうな人間から聞くってのはどうだ?」

「ハァ? どういう…、どこを向いとるんじゃ………、あ?』

 公園の出口を見つめる大河に合わせてその方向を見やる蒼太郎。そこには、

「望月 大河様、お迎えに上がりました。旦那様がお待ちです」

 先程のメイドと、長い黒塗りの車がとまっていた。

 

 

 

 

===========

 

 

 

 その後、大人しく車に乗ると、大河の町から少し離れた山の中の立派な屋敷に案内される。入り口には数名のメイド達がずらりと並び、揃って大河に歓迎の挨拶を口にする。覚悟をしてついていったものの、その絢爛さに少々怖気づく大河。

「どうされましたか?」

「べ、別になんでもねぇ…、ここに住んでんのかアンタ等?」

「いいえ、ここは日本に幾つかある別邸の内の一軒です。丁度ここが一番近かったのでご案内させていただきました」

「あ、あぁ、そうかよ」

 日本にというからには他の国にもこのような豪邸を所有しているのだろう。これから会う人物が自分の想像の遥か上をいっているようで益々心細くなっていくが何とか顔に出すまいと腹に力をいれる。そのまま案内されると大きなテーブルの置かれた部屋へ通された。

「お食事のご用意をしております。こちらにどうぞお掛けください」

 と、キレイな装飾がなされた椅子をひくクィン。

「そんなことより早く旦那様ってのに…」

 

         グウウゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・

 

「あ……」

「食材が無駄にならなくて良かったですわ。さ、どうぞおかけに…」

「う…、じゃあせっかくなんで」

 ゆでだこのように真っ赤な顔をしながら椅子に座る。運ばれてきたのは暖かいスープにホカホカのパン、それに大河の好物のハンバーグであった、空腹も手伝ってすっかり綺麗に平らげてしまう。その様子を横から蒼太郎が苦笑交じりに眺めていた。

『生身は大変じゃの』

「うるへ~」ボソッ

 メイド達が食器を片づけるとクィンが食後の紅茶を大河の前でカップに注ぐ。

「あ、あの、ごっそうさんでした。うまかった、です」

「はい、旦那様が貴方の好みのものをとおっしゃいましたので、そのように…」

「むぅ……、随分とオレのこと調べてんだな。でも当の本人はまだ来ねぇのかよ。連れてきたのはそっちだぜ!」

「もうお越しでございます」

「………は?」

 大河が首を傾げた時、

『食事に満足してくれたようで大変に良かったよ、タイガ君』

 部屋にどこからか声が響く。すると奥から一人のメイドがスピーカーを抱えてきて大河の前に置く。

『このような形での対面で済まないね。始めまして、私がこの子たちの主人であり君を陰ながら見守っていた者だ』

「盗み見ていた、の間違いだろ。コソコソとよ! こんなモン(スピーカー)通さずに直接出てきやがれってんだ!」

 前に乗り出しスピーカー越しに話し相手に食って掛かる。

『ハハハ、これは手厳しい。しかし申し訳ないが今わたしの身体は日本にはなくてね。こうする以外に君とゆっくり会話など出来ないのだよ』

「ならせめて誰かぐらい教えてくれよ」

『私が誰か、か…、ふむ。では今から私のことは【あしながおじさん】とでも呼んでくれたまえ』

「…ふざけてんのか?」

『大河、落ち着くんじゃ』

 相手の冗談のような態度に怒りがこみ上げるが、横で蒼太郎が大河の名を呼ぶ声を聞き、なんとか理性を保つ。もし目の前に相手がいたならおそらく掴みかかっていたであろうが…。

「…アンタなにか知ってるんだろ? サイガグループについてとか、オレが知らない親父たちの事情とかよ! それを教えてくれよ、全部! この通りだ!」

 顔の見えない相手に対して、テーブルに額をつけて頼む大河。勢いよく叩きつけたのでガチャリとカップが揺れる。

『……知って、どうする気かね…?』

 あしながおじさんと名乗るものがマイク越しに疑問をよこす。少し考える大河だが、

「正直…、分かんねぇ。でも、このまま何もせず、知らなかったことにして放っておくなんて出来ねぇ! 例えどうしようのないことでも、オレが手を伸ばせば、たった一人でも誰かの涙を止められるってんなら…、オレは知りたい! そして、三年前オレ達家族が失ったものを取り戻す!」

 もう迷いはない、真っ直ぐな本音を、決意をもって口にする。

『そうか……フフフッ。なるほど、君は私が思っていた以上に面白い青年のようだ。だがしかし、やはり今の君に全てを教える訳にはいかないなぁ』

「なっ!? どうしてだよ!」

『簡単なことさ…、君が弱いからさ。今のままでは君は真実にたどり着く前に命を落とすことになるだろう』

「なんだと……」

『信じられないかい? なら、証明してみるとしよう…、君たち!』

「「「「ハイ、旦那様(マスター)」」」」

 マイクの声に反応し、クィン以外のメイド達数人が大河を囲む。

「オイ、なんの冗談だ!?」

『そこにいる彼女達を見事退けてみたまえ。上手くやれたならその時は私の知っていることを全て話そうじゃないか』

「手前ェ、ふざけ…」

 その時、一人のメイドが大河の腕に抱き着く、振りほどこうと腕に力を込めた時、違和感に気づく。

(すげえ力だ!? 振りほどけねえ!)

「そぉれ!」

「うおおおお!?」

 メイドの力に驚いているとその子がなんと大河を振り上げて投げ飛ばす、そのまま壁に打ち付けられる大河。

「ぐうぅぅ…」

「「「「ウフフ…」」」」

 またも迫りくるメイド達、対抗しようと流走を目で探す大河。刀は襲われた時のまま椅子の傍にあった。なんとかあそこまで行こうと立ち上がる。迫るメイド達の間を通り抜けようと進むが、服の端を掴まれまたも引きずり倒される。

「つ~~かまえた」

「クソッ! なんて力だ!」

 彼女たちはまるで鬼ごっこでもするかのように逃げ回る大河を引っ掴んでは放り投げるを繰り返す。そしてまた投げようとメイドが大河の服を掴んだ時、

「そう、何度も同じ手喰らうか!」

 渾身の力で振り払う、今までのダメージでボロボロになった服が裂け、メイドの手から逃れるとそのままテーブルに突っ込み流走()を確保する。

 刀身を鞘に納めたまま、メイド達に刀を構える。

「オラァッ!」

 数人の内、一人が大河に突っ込んで来たので懐に入り、柄頭で思いっきりみぞおちを打ち付ける。が、全く効いた様子を見せずにまた大河を追ってくる

「嘘だろ、コイツらまさか…」

 殴った時に手に伝わってきた感触、それと同じものを今日知った。

「全員人形か!?」

 その事実に怯んでいたとき、背後から掴まれて腕を極められ、床に押さえ付けられる。

『大河!』

「ぐああぁっ…」

『勝負あり、かな』

 身動きのとれない大河の前にクィンが拡声器を携え立つ。

「何なんだよ、コイツら…」

『この子達は私の可愛い作品達だ。まあカーミラ程ではないが手強かっただろう?』

「クソ! 最初からそう言えば…」

『手を抜か無かったと? 悪いがそれは言い訳にもならんね。真の悪というものは、一目見てそれとわかる姿では無く、親しい隣人の顔をして近づいてくるものさ』

「チックショオオォォォオ…!」

『さて、誠に残念だが、君は不合格だ、諦めて全てを忘れ家に帰るのだな』

『た、大河…』

(諦、める…? 今まで起こった全てを忘れて…?)

 何を忘れろと言うのだろうか。命を狙われる身に遭いながらもお日様のように笑う少年を?その少年に付き従い、己を犠牲にする女を?夜中一人泣きした後も昼間そんな顔一つせずに笑う父の姿を、全て?

「そんなこと、出来るわきゃねええぇぇぇぇぇ!!」

『何?この状況でまだ抗うというのかい?』

 極められた肩が軋み痛む、それでもお構いなしに全身に力を込める。その内、

 

      ゴキンッ

 

 鈍い音が部屋に響く、と同時に、

「オリャアっ!」

 メイドが体勢を崩したところを大河が蹴り上げて退かせる。

『肩を自分で外したのか!?』

 直ぐに他のメイドが大河に近づく、抑えようと伸ばしたその腕が、

 

    カツンッ

 

 音をたて文字通り宙へ飛んでいく。

『馬鹿な!? 片腕でどうやって刀を抜いた!?』

 そしてそこに身にしたものは、鞘を口にくわえてぬいた剣を片手で構える大河の姿をがあった。

「ろうふぃは? ほいほ(どうした? 来いよ)」

 状況が一変したわけではない。未だ周りを囲まれ、体はボロボロで肩は外れたままである。それでも眼だけは先ほどよりも一層ギラギラと煌めいていた。その姿に心など無いはずのメイド達も主人の命を忘れ後退る。

「まるで、【獣】ですわ…」

 その様子を見てクィンが呟く。

『あぁ、まさしく。だがあれは猛獣の類いかもしれんぞ』

 そう答える【あしながおじさん】の声は何処か弾んでいた。

『もう結構! 諸君、やめたまえ十分だ!』

「ん?」

『なんじゃ?』

 その声でメイド達も大河から離れていく。その場に膝をつく大河、そこにスピーカーを抱えたクィンが近づく。

『君の決意はよく分かった。この位では揺らがないこともな』

「!? じゃ、じゃあ教えてくれんのか!?」

『いやまだ駄目だ。君が弱く、経験がないという事実に変わりはない。だから、一つ提案をしよう』

「何だよ?」

 首をかしげる大河。

『君は今日よりここでメイド達を相手に戦闘の鍛錬を積む。その後、私から提示したミッションを行って君の適性を見極める。そのミッションの結果如何によって今後をきめようじゃないか』

「チッ、テストかよ! 冗談じゃないぜ!」

『テストとは少々風情のない言い方だね。これはつまり君の……、そう!』

 

 

 開幕のベルが鳴る。これが始まり、これこそが開幕の知れせ。

 大河と蒼太郎の運命の舞台の幕が上がる!

 

 

『オーディションさ!!』

 

 

 

 

 

 




1話見た。
ヤバイぜ、最高!
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