モンスターハンター 〜舞い踊る嵐の歌〜   作:亜梨亜

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 投稿期間空いてしまって申し訳ございません。

 私生活が多忙を極めていましたので......何はともあれ今回から第二章、開幕です。




第二章 狩人は何を見る
誇り高き狩人


 ロアルドロス狩猟から二週間。

 

「お、ヤマトさん久々の狩猟クエストですね!」

 

 ロアルドロスとの戦いで負った傷を治すこと、そしてアマネが居なければ勝てなかったであろう実力不足の自分を見つめ直すために、ヤマトは採取クエストをこなす日々を送っていた。ハンターは何もモンスターと戦う職業ではない。自然と共存する為の職業なのだ。ヤマトはそのことを再確認したかった。

 

「ドスジャギィの狩猟ですね、場所は渓流。制限時間は渓流到着確認後48時間となります。参加人数は……」

 

「一人で」

 

「かしこまりました。外に竜車を手配しますので、それまで準備でもどうぞ!」

 

「いつも悪いな、ミク」

 

 ユクモ村新米受付嬢、ミクは実はヤマトがハンターになった時期に同じくして受付嬢になっている。そういったこともあり、ヤマトがクエストを受注する際はミクが受けることが多いのだ。

 

 竜車の手配が終わるまで恐らく十五分少々はかかるだろう。それまでに今回の狩猟に持っていくアイテム、愛刀である鉄刀「楔」のメンテナンス等をしようかと集会所の狩猟準備場に向かおうとしたその時だった。

 

「ヨォ!いきがってる酒飲み諸君!」

 

 見るからに柄の悪い(ハンター達も似たようなものではあるが)男達が数人、集会所に入ってきた。それと同時に放たれる挑発。集会所で昼間から酒を飲んでいるハンター達は一瞬、そちらを見た。

 しかし、その後は目もくれず騒ぎながら酒を飲む。男達はそれを見て眉を顰めつつも、受付の方へと向かった。

 

「おい姉ちゃん。ハンター様ってのは外にいる犬っころみてえなのをぶっ殺すだけですんげえ儲かってんだろォ?ンなもん俺らにも出来るからよぉ。俺らにも仕事くれや」

 

 先頭に立っている男がわざとらしく大声で話す。それを聞いて後ろの男達がギャハハ、と笑う。急な招かれざる客に、新米受付嬢のミクは戸惑ってしまっている。

 

「あの、ハンターの仕事はギルドに加入するか、資格を持っていないと受けられない決まりで……」

 

「ンだよ、ここにいる奴らより俺らの方が強いぜェ?ギルドなら入ってるよぉ、山賊ギルド」

 

 どうやらこの男達は山賊らしい。山賊ギルドってー!それはないっすよー!と後ろの男達はまたもや下品に笑った。

 ヤマトは準備場に行くことを一度断念し、適当な席に座る。どうやらミクが受け答えしている間に、後ろで敏腕受付嬢、コノハを呼びに行ったらしい。

 

「よぉヤマト。ミクちゃんが不安なのも解るがな、ほっときゃいいんだあんな奴ら。コノハの奴が何とかする」

 

「ああ。……でもなんかあったらぶっ飛ばすぜ」

 

 隣で酒を飲んでいた顔馴染みのハンターが騒ぎながら、小声でヤマトに話しかける。ヤマトもそれに小声で応えつつ、状況を伺っていた。ミクは同期のようなものだ。同じ新米として仲も悪くない。そんなミクに何かあろうものなら、ヤマトはあの男達を許さないだろう。

 

「オイィ、仕事寄越せっつってんだろォ!?なんならお前が仕事するか?俺らの相手しろよ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ヤマトの堪忍袋の緒が切れた。いや、殆どのハンターの堪忍袋の緒が切れているだろう。

 ヤマトが立ち上がろうとした瞬間、

 

「おい下衆共!俺達誇り高きハンターを馬鹿にするだけじゃ飽き足らずその子に手を出すとは……ふざけんじゃねえぞ」

 

 男が立ち上がり、山賊に向かって堂々と言い放った。山賊達は(ハンター達も)一斉にそちらを見る。

 

 緑色が強く出た防具。ユクモ村近辺では見ない防具だ。背は高く、赤い髪を後ろで縛っている。一年近くユクモ村のハンターをしているヤマトだが、見たことのないハンターだった。

 

「ンだよ、ハンター様は引っ込んでな!俺らモンスターと違って強えからよォ、怪我じゃ済まないぜぇ?」

 

 あいも変わらず馬鹿にした態度を崩さない山賊。ハンターはそれを見て山賊達のすぐ側まで移動し、ミクと山賊の間に立った。

 

「俺らハンターは例えどんな下衆野郎でも人に武器向けちゃなんねえ。素手で相手してやるからそのハンター様が本当に弱えのか試してみろよ」

 

「んだとォ……?」

 

 逆に挑発を返すハンター。先程まで笑い散らしていた後ろの山賊達も眉をひそめ、一人のハンターを睨んだ。

 

「おいおい、まさかビビってんのか?ハンター様に」

 

「んだとォ!?ぶっ殺してやる!!」

 

 怒り心頭となった山賊の頭が腰に下げていた曲刀を抜き、ハンターに振り下ろす。

 しかしその集会所にいた全てのハンターがこう感じていた。

 

 あんなの、ブルファンゴの突進に比べたら止まっているようなもんだろ。

 

 緑色のハンターも当然同じことを考えており、その太刀筋を見切り、躱すことなど容易い。刀は空を切り、山賊は大きく体勢を崩した。そこに放たれる小さな蹴り。それが当たるだけで山賊の体は大きく飛ぶ。

 

「親方ぁ!」

 

「テメェ殺してやる!!」

 

 一瞬の出来事にキョトンとしていた後ろの手下達も刀を抜き、ハンターに襲いかかろうと刀を振り下ろす。しかしその一つ一つの動きも、群れで襲ってくる鳥竜種に比べたらなんと遅いことか。華麗な足さばき、バックステップで攻撃をかわしつづける。

 

 周りで見ているハンター達はただヤジを飛ばすだけのガヤと化していた。当然である、一人で事足りるのだから。

 

「畜生、馬鹿にしやがって……全員殺してやるァァ!!」

 

 蹴りを入れられ呻いていた親方と思われる山賊が起き上がり、刀を振り上げた。

 しかしその途端に振り上げた腕を何者かに捻られ、刀は地面へ落ちる。そして痛みと共に崩れた体勢に容赦なく払われる足。山賊は再度地面に転がる事となり、脇腹に鋭い蹴りが食いこんだ。

 

「山賊風情がいきがってんじゃねえよ」

 

 静かな怒りと共に山賊を見下ろしているのはヤマトだった。山賊は正常な呼吸すら出来ずに喘いでいる。ふと受付の方を一瞥すると、そちらは半分程が地面に沈み、半分程が逃げ出している所であった。

 

「山賊共、よく聞け。俺達ハンターはこの仕事に誇りを持って生きている!その誇りを軽い気持ちで汚す奴らは許さないぜ」

 

 その言葉を合図に集会所が沸いた。はっきり言って相手にするだけ無駄だと考えていた大半のハンターであったが、馬鹿にされて怒っていなかった訳ではない。緑色のハンターはそれに笑顔で応え、そしてヤマトの方へと向かっていった。

 

「リーダーっぽい奴が立った時、攻撃したのはアンタだな。サンキュ!助けてくれて」

 

 先程までの誇りを掲げた真面目な正義の味方、という印象から少し外れ、気さくに話すハンター。心なしか声の質まで少し変わっているように感じた。

 

「あんたこそ強えさ。あの受付嬢、俺と同期でまだ新米だったんだ。助けてやってくれてありがとな。……それにしても、あんたユクモ村のハンターじゃねえよな?」

 

 ヤマトは疑問に思っていたことをぶつけた。そのやりとりを見ていた周りのハンター達も少し静かになる。その問いを聞いて緑色のハンターは照れくさそうに笑い、鼻を擦りながら応えた。

 

「俺の名前はディン。誇り高き龍歴院のハンターで、今日からこのユクモ村で仕事をすることになったんだ。実は俺もまだまだ新米ハンターなんだが、これからよろしく頼むぜ!」

 

 龍歴院。それはベルナ村に設置されている、各地に存在するモンスター達の生態を調査している機関だ。ハンターズギルドとの連携も強く、生態調査の為に各地の村に龍歴院の専属ハンターが赴き、仕事をすることも珍しくない。

 

「俺はヤマト。同じくまだまだ新米だ、よろしくな」

 

 ヤマトも自己紹介をし、口元を緩める。その時、ちょうどミクがこちらに向かってやってきたところだった。ミクの代わりに今は敏腕受付嬢、コノハが受付をしている。

 

「あの、助けてくれてありがとうございました!私、ミクです。受付嬢始めてまだ一年なので、ああいうの初めてで……ヤマトさんもありがとうございます!あと竜車、準備できたみたいです!クエスト、いつでも行けますよ!」

 

「おう、俺はディン。よろしくな。……ヤマト、今からクエストか?」

 

「ああ、ドスジャギィの狩猟だ。渓流まで」

 

「へぇ、ドスジャギィ!なあミク、そのクエストって俺も付いて行っていいのか?」

 

「「はい?」」

 

 ディンが唐突に言ったその言葉。つまり、これからヤマトが向かうクエストをチームで行きたいと言うのだ。

 

「まあ、一応参加人数に問題はありませんが……」

 

「じゃあ俺も参加するぜ。狩猟許可は昨日ロックラックで貰ってる。 ヤマト、お前も新米なんだろ?これから長い付き合いになるかもしれねえんだ、お前の実力が見たい」

 

 てきぱきとミクに事務的な話をつけ、ヤマトに向き直る。その表情は先程山賊と対峙していた時の表情であった。

 

 そのような表情であるから、ヤマトも真剣に考える。そして真剣に、正面からディンの目を見据える。集会所は喧騒を取り戻しつつあるが、二人の間には静寂が生まれた。

 

「……連携を即興で取れる程のハンターじゃないからな、俺は。自分の身しか守れないし、お前も自分の身は自分で守ってくれよ。三十分後、用意を済ませてここに集合だ」

 

 それを聞いてディンの表情はとても明るくなった。相当嬉しかったらしい。

 

「よっしゃ!よろしく頼むぜ、ヤマト!」

 

 そう言い残すと、ディンは飛ぶように集会所を飛び出した。思い立ったらすぐ行動、はっきりした人間だなぁ、そんなことを考えるヤマトであった。

 

 ミクはディンもヤマトのクエストに参加するにあたり、依頼用紙に書き込む事が増えた為、受付に戻る。ヤマトも準備場で準備をしようと回れ右をした時だった。

 

「ヤマト!!」

 

 背中に浴びせられる自分を呼ぶ声。振り返ると、息を切らせたディンが立っていた。頭にクエスチョンマークを浮かべたヤマトに走り寄るディン。

 

「……道具屋ってどこにあるんだ?」

 

「……お前今日来たって言ってたな、そういえば……」

 

 ヤマトの最初の準備は、ディンの為に地図を書くことと、集会所にも道具屋があることを教えることからであった。




 第二章からはヤマトとアマネの他にも、ハンターが何人か登場する予定でございます。そのうちの一人がディン。彼もまた新米ハンターですね。

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