レンキンスタイル楽しいよぉ(使いこなせていない)
水没林での狩りを終え、そこから竜車で揺られること数時間。二人がユクモ村に到着したのは丑三つ時を過ぎるあたりか、という時間だった。
「流石にこの時間ともなると商業区も狩猟区も静かですねー」
リーシャがそうボヤく。眠らない区画と言われる商業区、狩猟区の二つもこの時間は流石に提灯は消え、殆どの店が閉まっている。集会浴場は開いてはいるが、クエストの達成報告と契約、そして湯浴みの三つしか出来ない。
「私、達成報告しとくのでヤマト君先に帰って寝てもいいですよ?」
目を擦りながらそう提案するリーシャ。
「いや、いい。温泉入りてえし俺がやるよ」
「あ、そうですか?すみません、じゃあ私帰りますね。また一緒に狩り行きましょうね!おやすみなさい!」
一瞬で目がパチッと開き、深々とお辞儀をして回れ右。居住区目指して歩き出すリーシャ。しかし、三秒後には既に欠伸が聞こえてきた。恐らく相当眠いのだろう。
家に着く前にどこかで倒れて寝てしまうのではないか、と謎の不安を抱えつつ、ヤマトは月の灯のみが照らす石段をゆっくり昇りだした。
こうして石段をゆっくり歩いていると、とある女性と初めて出会ったことを思い出す。あの時彼女は全身に怪我を負って、ヤマトがおぶって西日に照らされた石段をゆっくり降りていた。
「あら?ヤマトじゃない」
突如掛けられる声。そこには、石段を降りてきた件の彼女ーーーアマネがいた。
「アマネ。仕事終わりか?」
「達成報告終わった所よ」
あの時おぶられていた彼女は、無傷で仕事を終えて一人で石段を降りてきていた。二人の間に紅葉が一枚落ちる。
「どしたの、左手」
アマネはユクモノコテが取られていて、代わりに包帯が巻かれているヤマトの左腕に目を向けた。
「あー……まあちょっとヘマして」
「まあそんなこともあるわよね。……今から達成報告?」
「ああ。あとついでに温泉入る」
「そ。じゃあ私も」
そう言うとアマネは先程のリーシャのように回れ右をして、のんびりと歩き始めた。ヤマトもそれに並んで歩き始める。
「お前達成報告終わってんだろ、別に付き添わなくていいぞ」
「付き添いじゃないわよ、私も温泉入りたくなっただけ」
「一緒に入るのかよ……」
「あら、嫌なの?」
二人で肩を並べながら、月灯が照らす石段をのんびりと昇る。時たま吹く風が涼しげで、紅葉達を揺らして囁かな音を鳴らした。
「てか、お前彼氏いるんじゃねえの。怒られるぜ?」
「あれ、いるって話したっけ?まあいいや、大丈夫よ。あの人そういうの気にしないから」
「飲みに行った時店主のおっさんが言ってたぞ」
「あぁ、なるほどね」
集会浴場は何時でも提灯は明るく、石段を昇りきった頃には月灯のみの少しだけ幻想的な道は無くなっていた。中に入ると昼間の三分の一程度の喧騒が聞こえる。
「じゃ、私先に入ってるから」
「……ああ、そうかい」
ドスフロギィの討伐に成功した、と達成報告を行い、ヤマトの分の報酬を受け取ってから集会浴場の男性更衣室に入る。慣れた手つきで防具を外し、湯浴み用のタオルを腰に巻く。そして暖簾をくぐり、どこかいい香りのする湯気に出迎えられ、その先にタオル一枚のアマネを見つけた。
「お疲れ様。どう?一杯」
湯船に胸まで浸かり、岩盤に肘を置きながら徳利を掲げるアマネ。ヤマトは溜息を一つ付き、そして微かに笑った。
「サンキュ。貰う」
かけ湯をしてからゆっくり湯船に入る。アマネの横にゆっくり腰掛け、注がれた酒を呷った。この時間では集会所でビールを頼む事も出来ないため、これが今回の狩りの自分へのご褒美である。
「……美味いな、これ」
「でしょ。私のお気に入り」
温泉には自分で酒を持ち込むことが出来る。この酒は恐らくアマネが持ち込んでいる酒なのだろう。
「何の仕事行ってたんだ」
「渓流に出たリオレイアの討伐。まあ、もう慣れたもんよね」
ちょろちょろと酒をつぎ、ぐいっと呷るアマネ。空は黄金に輝く月が灯を灯していた。
「上位候補筆頭なんだってな」
「あー……まあね。近々なると思うわ」
上位ハンター。狩猟環境が恐ろしく不安定な狩場や新種のモンスターの調査、更には伝説とも言われる古龍種との戦闘をも任される、ハンターの中でもトップレベルの実力者のみが名乗れる称号である。ユクモ村に今、上位ハンターは一人もいない。
過去にユクモ村にいた上位ハンターは嵐を呼ぶと言われる古龍と戦い、勝利したと言われる。
「ヤマトだってセンスあるわよ。頑張れば上位ハンター、行けるんじゃない?」
「……まだ先の話だな。想像もつかねえ」
二人は暫し無言になる。ちゃぽん、という湯船の音と酒を注ぐ音、そして酒を呷る音のみが暫く続いた。
「そろそろあがるわ。おやすみ、ヤマト」
「ああ。おやすみ」
酒が空になったのだろうか。徳利を持って立ち上がり、ひたひたと更衣室に向かうアマネ。ヤマトもゆっくりと立ち上がり、更衣室に向かった。
次の日。
ヤマトは稽古を少し早めに切り上げ、フロギィから剥ぎ取った素材を手に加工屋を訪れていた。
理由は至極単純。防具を作ってもらう為である。
「あぅ!こんだけありゃ十分だ、また夜に来な!しっかり作っといてやるぜ」
「悪いな、オッサン。サンキュ」
そのままの足で集会浴場へ向かうヤマトだった。
昨日(時刻的には今日である)、少しだけ幻想的に映されていた道は、あまりにも平凡な石段と変わっていた。しかし、集会浴場内の様子が平凡では無かった。
いつもより緊迫した騒がしさなのだ。
中央に立っているギルドマスターが咳払いを一つする。そして、あまり大きくは無いもののよく通る声で話し始めた。
「うぃ、ちとまずいことになってる。昨日、アマネの奴が狩猟したはずのリオレイアがまた渓流に現れた。そんでもって孤島にジンオウガとラギアクルスが現れた」
ギルドマスターのその言葉にハンター達は大きくどよめいた。
リオレイアは言わずと知れた雌火竜、陸の女王とも言われる飛竜種だ。ジンオウガもラギアクルスも途轍もなく強力なモンスターであり、上位相当のハンターで無ければ同時に相手など出来ないだろう。
「そこでだ!コレをワシらは緊急クエストとしてチミ達に頼みたい。まず孤島だがアマネに頼む。そんでもって渓流だが……シルバ、リーシャ、ヤマト、ディン。チミ達に頼みたい」
ギルドが緊急事態の際にギルドから依頼を出すクエスト、それが緊急クエスト。ギルドマスターはこの事態を「緊急」と見なし、ハンター達に依頼したのだ。
「解ったわ、任せて」
「頑張ります!」
「任された!龍歴院の誇り高きハンター、ディン!行くぜ!」
「オッケー!」
呼ばれたハンター達はそれぞれの返事をする。ヤマトも急な指名に驚きつつも、口元を緩ませた。
「ああ!」
五人の返事を聞き、ギルドマスターは満足気に頷いた。
「急なクエストだ、準備もいるだろう?明日の朝に竜車を手配した、存分に準備してくれィ」
彼らの、戦いが、始まる。
次回から第2章のクライマックスへ向かいます。
そして名前しか出てないけど、第2章最後の新キャラ、シルバ。彼にもご注目下さい。
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