行ける時に、行っとかないと!
突如舞い込んだ緊急クエスト。
突如組むこととなったチーム。
クエスト開始までのタイムリミットは今日一日のみ。
アマネは早々に集会浴場を出て、何かの準備に向かった。
そしてヤマト達は一度四人で集まり、改めて各自の得意とする戦法や武器を紹介し、作戦を練り始めた。
「改めて自己紹介しよう。僕はシルバ。弓を使って後ろから援護をするのが得意だ。この中では僕が一番ハンター歴が長い、何かあったら頼ってくれ」
夜鳥と呼ばれる最近発見されたモンスター、ホロロホルルの素材を使った防具に身を包む、銀髪の男性。彼はユクモ村の中ではそれなりの腕利きであり、ギルドマスターやマネージャーからも信頼の厚い男、シルバだ。普段は柔和な顔付きをしているのだが、今の表情は真剣そのものだ。
「私、リーシャです。ハンマーを使って最前線で暴れるのが得意です!」
ウルクススの防具に身を包み、ウルクススの如く暴れ回ることから「白兎少女」と呼ばれるハンター、リーシャ。ハンター歴は浅いものの実力は確かであることはヤマトも共に狩りをする事でよく知っていた。
「誇り高き龍歴院のハンター、ディンだ!ガンランスの砲撃で注意を引いて、盾でしっかり受け止めてやるぜ」
ベルナ村の龍歴院からやってきた大型新人、ディン。マッカォの素材に彩られた防具と銃槍での立ち回りは、新人とは思えない程である。
「ヤマトだ。太刀の剣筋と、足の速さには自信がある。リーシャ同様、前線で暴れられるぜ」
そしてユクモ村の大型新人、ヤマト。岩すら斬り裂く踏み込みの速さと太刀筋、そして武術の心得から繰り出される必殺剣は、恐らく彼以外に真似できる者は居ないだろう。
各々の自己紹介が終わると、シルバはメンバーをぐるりと見回して、にこやかに頷いた。
「今回のリーダーは僕が務めるようにマスターから言われている。みんな、宜しく頼むよ。そして早速作戦なんだが......」
そう言うとシルバは酒場の適当な席に腰掛け、渓流の簡単な地図を開いた。他のメンバーもその机を囲むように椅子に腰掛ける。
「まず、この中にリオレイアと戦ったことがある人は居ない、と聞いている。恥ずかしながら僕もだ。だから、手分けしてリオレイアの居場所を探り、見つけたらペイントボール、という作戦は少し危険だと思うんだ。だから基本的には四人全員で行動しようと思う。ここまで異論は?」
三人は首を横に振る。
「ありがとう。そして、リオレイアがいると思われるエリアだが、6、7、8の何処かの可能性が高い、と観測隊から聞いている。エリア6か7なら水が流れている場所が多い、リオレイアの吐く炎のブレスの脅威が少し和らぐ分、メインで戦うエリアは6か7にしたい。ここまで異論は?」
「エリア6か7以外で見つけた場合はどうしますか?」
リーシャが手を挙げて質問をした。その目は昨日ヤマトが散々見た少し不安になる涙を溜め込んでいるような目ではなく、ハンマーを構えた時の真剣な目だ。
「その場合はディン君と僕で注意を引き、リーシャちゃんかヤマト君がこやし玉を投げてほしい。遠距離から攻撃出来る僕と盾を持ったディン君の二人なら、手痛いダメージを受けることはないだろう」
モンスターの糞尿が中に入れられ、対象物に当たると激臭を放つアイテム、こやし玉。殆どのモンスターはこれを当てられるとその臭いに我慢出来ず、エリアを一度移動して臭いを取ろうとする。それを利用して、リオレイアを無理矢理こちらの戦いやすいエリアに移動させようというのだ。
「さて、じゃあ次の話に移ろう。リオレイアの厄介な攻撃はブレスだけじゃない、尻尾を使ったサマーソルトだ。尻尾の棘には毒があり、これを食らうと体に毒が回る。だから太刀使いのヤマト君はまず最初にこの尻尾を斬り落としにいって欲しい。そうすればサマーソルト攻撃の脅威も和らぐだろう。頼めるかい?」
「ああ、任された」
「ありがとう。恐らく尻尾を斬り落とすまでサマーソルトの脅威に一番晒されるのはヤマト君だ。ディン君はヤマト君を襲うサマーソルト攻撃を盾でガードしてくれ」
「任せな!ヤマト、安心しろ!俺が全部止めてやるよ」
「期待してるぜ」
サムズアップを作ってヤマトにグッと笑いかけるディン。ヤマトもそれに応えてガッツポーズを作った。
ディンの実力はヤマトもよく知っている。だからこそ信頼できる。その二人を見て最もほっとしているのはシルバだった。二人になら任せても大丈夫そうだ。
「で、僕とリーシャちゃんだ。僕は常に動きながら弓で攻撃する。恐らくそれなりに気を引くことは出来ると思う。リーシャちゃんはいつも通り、最前線で暴れてほしい」
「得意分野ですっ!」
リーシャの目がキラキラと輝く。シルバも握りこぶしを作って、そして力を緩める。そして柔和な顔付きに似合った、クシャッとした笑顔を作った。
「今回のリーダーとして、僕は君たちの命を預かる。相手は飛竜種、陸の女王と言われるリオレイアだ、とても厳しい戦いになるだろう。……でも、勝つよ。皆で、帰ってご飯を食べよう。いいかい、勝つよ!!」
「「「おうっ!」」」
四人で右手を前に突き出し、全員で拳を合わせる。ディンの快活な笑み、リーシャの無邪気な笑み、シルバのクシャッとした笑み、そしてヤマトの不敵な笑み。
「よし、じゃあ明日の六時にここに集合だ。各自アイテムや武具の調整等、準備があると思う。ここからはそういう準備時間にしよう。じゃあ、解散!」
リオレイア討伐班、結成の瞬間である。
「ディンさん!ヤマトさん!」
アイテム等の準備の為に集会所を一度後にして、雑貨屋へ向かおうと石段を降り始めた二人の後ろから、彼らを呼ぶ声が聞こえた。
振り返ってみるとそこにいたのはミク。パタパタと手を振りながら走ってこちらへ向かってきた。
「どうしたんだ?」
軽く息を切らしながらやってきたミクを見て、一度足を止める二人。ミクは二人の目の前まで走ると、不安そうな顔をして二人を見上げた。
「緊急クエスト、危険だと思うんです。だからこれ、持って行ってくれませんか?」
そう言ってミクは懐から小さな袋を二つ取り出す。赤い袋と、黄色い袋。
「御守りです。無事に帰ってこれるようにって今おまじないをかけておきました」
照れ臭そうに笑いながら二つの御守りを掲げるミク。しかしその表情に不安そうな雰囲気は消えない。
二人は顔を見合わせ、そして頬を緩ませて御守りを受け取った。ヤマトは首から提げ、ディンは手首に巻き付ける。
「ありがとな、ミク!心配すんな、ヤマトは俺が守る!そんでもって俺のことはヤマトが守ってくれる」
どんと胸を叩くディン。それを見てミクは初めて素直に笑った。
「そういうことだ。御守り、ありがとな」
「俺達の帰りを待っててくれよ!!」
「はいっ!お二人共、頑張ってくださいっ!!」
ディンの御守りの方には少しいい紐が使われていることはミクしか知らない。それは山賊に襲われかけた時に助けてくれた礼の意味と、その時にミクが抱いたある心によるもの。
ミクはディンに恋をした。
「ごめんなさいね。一人は狩猟経験者を入れたかったのだけど、皆先に仕事が入っていて」
場所は変わって商業区の足湯。白粉を塗った竜人族の女性ーーーユクモ村の村長と、シルバの二人が足湯をしながら会話をしていた。
「いえ、信頼がものを言う仕事ですから。そこはしょうがありません」
今回の緊急クエスト、リオレイアを狩猟したことがないメンバーのみで組まれたことには理由がある。一つはそもそもユクモ村のハンターが少ないこと、もう一つはその中でリオレイアを狩猟したことがあるハンターはアマネを除き、皆別の仕事に向かっていたか向かうところだったのだ。
ハンターは依頼主から依頼を受けて仕事をする、その為しっかりと仕事をこなす信頼が必要不可欠である。幾ら緊急と言えど、クライアントである依頼主に迷惑をかける訳にはいかないのだ。
「それに、今回集まったメンバーは歴こそ浅けれど、実力者揃いだ。きっと大丈夫です」
シルバの顔は柔らかく、あまり何を考えているか解らない事が多い。しかし、今の顔は心の底からそう思っているであろう表情だった。
「リーシャちゃんとしか一緒に狩りをしたことは無いけど、目を見ればわかる。リオレイアを相手にするっていうのに、高揚感も恐怖心も焦りも見えない、あるのはただ「勝つ」っていう意志だけだった。ヤマト君もディン君も、噂に違わぬ強さに違いない」
村長は少し意外そうな顔をしていた。普段シルバはあまり感情を出さない。話はよくするのだが、この様に他人のことを熱心に話す様は少し珍しいように感じた。
「珍しいですね、シルバさん。貴方が活き活きして見える」
そう言われたシルバは、少し照れ臭そうにクシャッと笑った。
「一番歴が長いとか言っておいて、リオレイア討伐に一番高揚感を抱いてるのは僕かも知れませんね」
果たしてその高揚感はリオレイア討伐の依頼を受けたからか。村長にはそうは見えない。結成されたパーティのポテンシャルに高揚感を抱いているように感じた。
「やっほー!元気?」
居住区のとある家の扉が開け放たれ、快活な女の声が聞こえる。小柄な白ウサギを彷彿とさせる少女、リーシャだった。
「まあそれなりにね。リーシャはどうなの?」
その家の主である女性、エイシャは布団から体を半分起こしてそう答えた。それなりに、とは言っていたが、あまり元気、健康そうには見えない。
「私はいつでも元気だよ!......緊急で、リオレイアの討伐に向かうことになったんだ」
エイシャは彼女の姉にあたる。エイシャはリーシャが12歳の頃に病気を患い、それ以来あまり外にも出られていない。その病気が少し厄介なもので、薬を買うのにそれなりの値段が張るのだ。
その為、父は出稼ぎ、母は少し前までエイシャの看病をしていたのだが、病状が悪化したことにより薬をより良いものに変える必要に迫られ、父と同じく出稼ぎに向かった。
リーシャがハンターを営む理由は、エイシャの薬代の補助になるためである。
「リオレイア?それって陸の女王の!?あんたそんなのと戦うの!?」
リーシャが感情豊かになった理由も、やはりエイシャが関係している。病気を患ってすぐの頃、塞ぎ込んでしまった彼女の分まで感情を解放していた為だ。
「大丈夫!私はいつでもお姉ちゃんのパワーを感じてるもん!それに……」
「それに?」
しかし、リーシャのハンターとしての実力が歴に似合わない高さである理由。それはエイシャが関係している訳では無い。
「とっても頼りになる仲間がいるから!!」
彼女は、素直に他人の、自分以外の強みを受け入れ、自分の強みを理解出来ていたからだ。
「……そっか。頑張りな!お姉ちゃんも応援してるよ」
心なしかエイシャの表情が健康的になる。無邪気で元気な白兎少女の狩人たる理由。そして、白兎少女が白兎少女たる理由。
それは、雌火竜とて簡単に焼き尽くせるものでは無いのだろう。
「聞いたぞぃ?リオレイアと戦うらしいぢゃねーか」
狩猟区、加工屋。完成したであろうフロギィシリーズを受け取りにやってきたヤマトだった。
加工屋は一日に様々なハンターと関わる仕事だ。恐らく他のハンターから緊急クエストの話を聞いたのだろう。
「まあ、そういうことだ」
「だったらこのフロギィシリーズはタダでやる。せいぜい頑張ってくれヨ?」
そう言いながら加工屋のオヤジは帽子だけ無いフロギィシリーズをヤマトに向かって放り投げた。ヤマトは戸惑いながらもそれを受け取り、深々と頭を下げた。
「ありがとな、オヤジ」
「あぅ!また帰ってきたらイイもん作ってやる。そんときゃピンキリで代金もらうからな」
フロギィシリーズを一度家に置き、ヤマトが向かった先。
リタの家である。
家の前に着くと、二階にいたリタが窓からヤマトを見つけ、ヒラヒラと手を振った。
「ヤマト!私の家来るなんて珍しいね。上がる?」
「おう、頼む」
リタとヤマトのお話は次回へ。次回はそこから狩猟開始まで行けたらいいな。
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