モンスターハンター 〜舞い踊る嵐の歌〜   作:亜梨亜

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久々に、ヤマトとリタの二人の話です。よろしくどうぞ。


不安と安心

 ヤマトがリタの部屋に入るのは久しぶりである。

 小さなベッドが一つ。その上にはプーギーやアイルーを模した彼女自作のぬいぐるみが幾つも置かれている。本棚にはそういったぬいぐるみを作る為の手芸本、そして仕事である農業のノウハウが書かれた本等が主に並んでいる。床に敷かれたカーペットや壁に掛けられた可愛らしい時計。以前ヤマトが来た時と変わらない、リタの部屋である。

 変わったことと言えば……

 

 「ぬいぐるみ増えたな」

 

 「新しいの一個作ったんだよねー」

 

 恐らくガーグァを模しているのだろう。以前来た時にはいなかったぬいぐるみが一つ、増えていた。

 

 リタはそのぬいぐるみだらけのベッドに腰掛け、ヤマトは机の脇に置いてある座布団に腰掛ける。二人でこの部屋に居る時の、お互いの定位置だ。

 

 「どう?殺風景なアンタの家にこの子。あげるよ?」

 

 「要らねえ。可愛がってやれる時間が無いからな」

 

 そしてヤマトがリタの部屋に来た時に必ずするやり取り。リタとしてはあの殺風景なヤマトの家に彼女のぬいぐるみを置いて欲しいのだ。

 

 「えー、可愛いのに……で、今日は急にどうしたの?しかも夜に来るなんて珍しいじゃん」

 

 にひひ、と笑いながらガーグァのぬいぐるみを抱きしめるリタ。例え朝でも昼でも夜でも、好きな人が家に遊びに来るのは嬉しいものなのだ。

 

 「まあ、たまにはな」

 

 「……なんかあったね?」

 

 抱きしめていたガーグァのぬいぐるみを放し、ベッドから少し身を乗り出すリタ。ヤマトはそんなリタを見て少し思案顔になり、そして諦めたように両手をあげた。

 

 「流石幼馴染だな。察しがいい」

 

 「まぁヤマトが私の家来る時は決まってなんかある時かよっぽど暇な時だからねー。大体暇な時だけど」

 

 「……緊急のリオレイア狩猟クエストのメンバーに選ばれた」

 

 ゆっくりと両手を下ろし、さっきまでと特に変わらないトーンでさらりと言ったヤマト。そのせいで、リタは少し反応に困ってしまった。

 そんなリタを見て察したのか、ただ独白したいだけなのか。ヤマトはそのまま話し始めた。

 

 「まあ、選ばれたってことはそれなりに俺の実力も認められてるっていうことだからな、素直に嬉しいぜ。他のメンバーもかなりの実力だから負けるってことも考えてねえ」

 

 リタは黙って聞き続ける。彼はきっと、ただ話したいだけだ。

 

 「でもやっぱり、一人で家で準備してると思い出すんだよな、あの日を」

 

 あの日。

 

 まるで村が丸ごと吹き飛ばされるのでは無いだろうか、という程の風。

 

 まるで村を丸ごと沈めてしまうのでは無いだろうか、という程の大雨。

 

 幼き日のヤマトがハンターになる事を決心した、あの日。

 

 両親はあの大嵐の中で命を落とし、その嵐の元凶となったモンスターを狩猟する為に立ち上がったハンターは半分が死に、半分が息も絶え絶えに帰ってきた。当時ユクモ村で最強だった四人のハンターがそこまでの犠牲を払って、その元凶を討伐することは出来ず、撃退と言えるかも解らない状態までしか持っていけなかった。

 

 ヤマトはその嵐の中、ハンター達がモンスターの狩猟へ向かう直前、見たのだ。

 

 

 

 

 ーーー吹き荒れる風、降り注ぐ雨の中、禍々しく、しかし余りに美しく舞い踊る龍の姿を。

 

 白く、揺蕩う巨大な龍が見せた、無情なまでに紅いその瞳をーーー

 

 

 

 

 「……唯一ヤマトが怖いものだもんねー」

 

 ユクモ村を襲った未曾有の大嵐。それはヤマトの両親を奪い、彼の心に大きな傷を付けた。

 その大嵐が古龍によって引き起こされたものだとヤマトが聞いた時、真っ先に浮かんだのはあの時見た禍々しい瞳だ。あの龍が両親の仇であり、自分の中の恐怖心の根源である。

 だから、ヤマトはハンターを志し、いつの日かあの古龍を倒すことを目標とし、日々稽古に励むのだ。

 

 しかし、恐怖心とはいつ、どのようにして引き起こされるか解らない。ヤマトはリオレイアという名前しか知らない強力なモンスターとの命懸けの戦いを目前にして、あの強者足り得る瞳を思い出していたのだ。

 

 「情けない話だけどな。頭では違うって解ってるのにあのイメージが離れない」

 

 いつもの不敵な笑みとは違い、少し自嘲的な笑みを見せるヤマト。

 彼にとって乗り越えなくてはならないものに対して恐怖心を覚えていることは恥ずかしいらしい。だからこの話は、嵐の日に古龍を見た事も含めて、ヤマトはリタにしか言っていなかった。

 

 リタは黙ってヤマトの顔を眺め、そして手でベッドの上にある一番お気に入りのぬいぐるみを探す。やがて一番お気に入りであるプーギーのぬいぐるみを膝に載せ、ゆっくりと話し始めた。

 

 「あたしさ、ヤマトのこと尊敬してるんだ」

 

 「は?急にどうした」

 

 「まあ、聞いてよ」

 

 そう言うとにひひ、と笑う。

 

 「毎朝木刀振ってさ、アオアシラとか、ジャギィとかそういうモンスターをバサッと倒してさ。ケロッとした顔で帰ってくるじゃん?ぶっちゃけあたし、ヤマトが狩猟行く時、結構不安なんだよね。危険な仕事だしさ。でもヤマトはケロッとした顔で帰ってくるんだよね。あたしの不安返せー!って感じ」

 

 表情豊かな彼女を見て、思わずクスリと笑ってしまうヤマト。

 

 「でもさ、いつも無事なのってやっぱり嬉しいの。ヤマトが怖いっていう気持ちといつも戦ってるのも知ってる。自分は怖いって気持ちと戦ってるのにさ、私を安心させてくれるから、私はヤマトを尊敬してる」

 

 リタは続ける。

 

 「だから、今も怖いって気持ちと戦ってるんだよね。でも私を心配させない為にここに来たんでしょ?で、明日も私を心配させない為に無事に、ケロッとした顔で帰ってくるって私、信じてるよ」

 

 窓の外には昨日石段を照らしていた月が、昨日より一層輝いていた。明日には満月になるんだろうか。

 

 「……死ぬまでお前にはかなわないんだろうな」

 

 またもや自嘲的な笑みを浮かべるヤマト。しかし、先程の笑みとは少し違うもののように、リタは見えた。

 

 「ありがとな」

 

 そして、いつもの不敵な笑みに戻るヤマト。それを見て、リタもにひひ、と歯を見せて笑った。

 

 「頑張れ、ヤマト!あたしがついてるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よし、全員集まったね」

 

 翌日早朝、集会所。まだ人も殆どいない中、ヤマト、ディン、リーシャ、シルバの四人は準備を終えて集まっていた。

 

 「改めて確認しよう。狩猟対象はリオレイア、制限時間は渓流に到着してから48時間。作戦は昨日伝えた通りだ。全力で行くよ」

 

 「勿論ですっ!」

 

 「おうっ!」

 

 「ああ!」

 

 「よし……出陣()るよ!」

 

 戦場となる渓流に向かう竜車の手配は整っている。四人のハンターは、意気揚々と竜車に乗り込んだ。

 

 ヤマトの心に恐怖心はない。

 

 幼馴染を不安にさせないために、ケロッとした顔で帰ってこなくてはならないから。

 

 

 

 

 

 




リオレイア登場まで持って行きたかったんですが......ヤマトとリタの話で切らせて頂きました。

感想、評価等、お時間あれば宜しくお願いします。

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