モンスターハンター 〜舞い踊る嵐の歌〜   作:亜梨亜

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いよいよ飛竜戦でございます。


雌火竜リオレイア

 渓流エリア1、2を経由してエリア6へ。シルバ、リーシャ、ヤマトは勿論、ディンも覚えたエリア6へ向かう最短ルートだ。

 

 「……エリア6にはいない、か」

 

 現在いる可能性が高いと思われているエリアは6、7、8の何処か。彼らはまずエリア6に到着したのだが、そこに目標となるモンスター、リオレイアの姿は無かった。

 ふぅ、とシルバは息を付いた。初めて戦う相手になるのだ、ここに到着するまでに幾らかの緊張はある。エリア6に居なかったことで、一瞬だけ緊張を緩めた。そしてすぐに意識を張り詰めらせる。

 

 「さて、どっちに行く?」

 

 「7に居てくれたら嬉しいんだが……8に行こう」

 

 フロギィシリーズの初陣となったヤマトがそう答えた。千里眼の薬を持ってきているメンバーはいないため、ここはもう完全に勘で考えるしかない。誰もヤマトの意見に反対しなかった。

 

 「オーケー。リーシャちゃん、ヤマトくんはこやし玉の準備を頼むよ」

 

 エリア6の中心を流れる川の上流にある滝。そこを潜ると洞窟になっている。その先がエリア8だ。彼らは川を沿うように歩き始めた。

 

 その時。

 

 「っ!シルバさん、来ましたっ!」

 

 突然、全身が震え上がるような気配を感じたリーシャ。その気配を感じて上を見上げると、青い空に紛れて黒い影が見える。それは少しずつ、少しずつ大きくなっていき、やがて影の形がはっきりと見て取れた。

 

 飛竜種であることをはっきりと示す巨大な一対の翼。

 

 陸を縦横無尽に駆け回れるであろう筋肉が詰まった脚。

 

 堅牢な鱗と鋭い棘に覆われた体。

 

 間違いない。雌火竜リオレイアだ。

 

 リオレイアは降下してくると共に四人のハンターを見つけ、一気に警戒態勢へと入る。そして地面へ着地し、はっきりと敵意を示した。

 

 「来るよ!」

 

 「ギャアォォアォアァ!!!」

 

 そして放たれた、恐ろしい程に巨大な咆哮。強者の咆哮を前に、非力な人間は耳を塞いで蹲ることしか出来ない。例えどんなに経験を積んだハンターであっても、その咆哮から来る恐怖心には勝てないのだ。

 ヤマト達も例に漏れず、リオレイアの咆哮に対して耳を塞いで蹲ることしか出来なかった。やっと恐怖心から開放されたと同時に、強者相手に立ち向かう為、武器を構える。

 

 「作戦通り行くよ!」

 

 「はいっ!」

 

 「おうっ!」

 

 「合点!」

 

 

 シルバは得物である弓、スポンギアを構え矢を番える。そしてリオレイアの頭目掛けて放った。

 弓は堅牢な鱗に守られ刺さることは無かったが、リオレイアははっきりとその攻撃がシルバから放たれたものだと理解し、狙いを定める。

 

 その隙を見て一気に駆け出す三人。シルバはリオレイアから距離を取るように走り出し、次の矢を番え、そして今度は足を狙って放つ。

 しかし矢は当たることは無かった。リオレイアは猛烈な速度でシルバに向かって走り出した為、足の位置がズレたのだ。そして突進の速度も予想より速い。シルバは全力で横に飛び、体を捻ってその突進を躱す。

 

 急に視界から消えたハンターを探すために体を回し、頭の位置を入れ替えるリオレイア。するとそこには、小さな体で巨大なハンマーを構える、もう一人のハンターがいた。

 

 「でぇぇぇい!!」

 

 力任せにハンマーを振るうリーシャ。それは綺麗にリオレイアの頭部にヒットする。急な衝撃にリオレイアは驚き、リーシャを睨み、軽く吼えた。

 

 すると次は足元に衝撃が走る。小型モンスターなら一撃で吹き飛ばすガンランスの砲撃。ディンだ。その隙にリーシャはすばしっこく頭部から離れている。

 そして更に尻尾を襲う鋭い痛み。鱗に守られている為大したダメージでは無いがそれは確かに軽く痛みとしてリオレイアの脳に刺激を与えた。ヤマトの太刀が尻尾を斬ろうと襲いかかっているのである。

 

 イラついたのかリオレイアは脚を支点に体を思い切り回し、尻尾で周りを薙ぎ払った。リーシャは既に離れており、その周りにいるのはヤマトとディンの二人。しかし、その二人に攻撃が届くことも無かった。ディンが盾を使い、尻尾の攻撃を受け止めていたのである。

 

 「ただ尻尾振ってるだけなのに結構痺れるな、クソッ!」

 

 盾を持つディンの手には、尻尾の衝撃が伝わり、痺れが来ている。ただ尻尾を振っただけなのに、ドスジャギィが全体重をかけてタックルしてきた様な痺れがディンを襲っていた。改めて彼女が雌火竜であることを思い出す。

 

 「ナイスだディン君!」

 

 しかしディンは役目をしっかり果たしている。ディンが尻尾を止めたおかげで、ヤマトは一切傷を負わずに二太刀目を振るっていた。

 

 「もう一発!」

 

 そしてリーシャが下から潜り込み、アッパーカットの様にハンマーを振り上げる。それはリオレイアの顎を突き上げ……ることは出来なかった。

 

 「えっ!?重っ!」

 

 力が足りずに不完全燃焼のまま攻撃が終わる。そしてリオレイアが牙だらけの口を開け、リーシャに噛み付こうと首を伸ばした……が、それもまた失敗に終わる。

 

 「させないよ!」

 

 鼻先に突き刺さる矢。間違いなくシルバの放った矢だ。リーシャを襲おうとしたリオレイアは文字通り出鼻をくじかれ、シルバを大きく睨んだ。そして翼を大きく動かし、リオレイアの脚が地上から離れる。

 

 「飛びやがった!」

 

 飛竜種が「飛竜種」と呼ばれる所以。それは文字通り「飛ぶ」からである。巨大な翼を持った彼らは地上以外にも自分の空間を持ち、「空中」という空間を自由に動き回ることが出来るのだ。空中を自由に動けない人間にとって、それは大いなる脅威となる。

 

 リオレイアは大きく息を吸い込み始めた。口からチロチロと覗く紅い炎。その紅さが炎が如何に高温かを物語っている。ブレスだ。

 一気に吐き出された息は火炎の珠となってシルバを襲った。シルバはすぐさま横に転がり火球を躱す。そしてすぐに体制を立て直し、空にいるリオレイアを睨む。

 

 しかしその目前に浮かぶ景色は……二発目の火球だった。

 

 「シルバさんっ!!!」

 

 「しまっ……」

 

 言うが早いか考えるが早いか。自然と体は動いていた。余りにも無理な形ではあったが、体を更に横に転がすシルバ。それによって火球の直撃は避けたものの、爆風に煽られ地面を転がる。

 

 そしてそれを見て足の爪を剥き出しにして急降下するリオレイア。狙いは勿論シルバである。

 

 「シルバっ!!」

 

 そしてそれを見たディンも言うが早いか考えるが早いか。何を考えたのか彼はガンランスと盾をその場に放り投げ、身軽になった体でシルバに向かって全力で走り始めた。

 

 「なっ!?おいディン!!」

 

 あまりに急な出来事で反応が遅れるヤマト。リオレイアの爪がシルバを襲うまであと数瞬……というところで間に丸腰のディンが割って入った。そうなればその爪の餌食になるのはディンである。

 

 「がぁっ!?」

 

 爪に吹き飛ばされ、いとも簡単に地面を転がるディン。リオレイアはそんなディンを足で抑え、ぎらりと並んだ牙でディンを喰い始めた。

 

 「あがァァァ!?うぇっ、ぐぉあっ……」

 

 渓流に響く、ディンの叫び声。耳を塞ぎたくような痛々しい叫び声を肴にでもしているのだろうか、リオレイアは顔を上にあげて満悦そうな表情を浮かべた。

 

 「いやぁぁぁぁ!!!」

 

 半狂乱になりながらリーシャがこやし玉を投げつける。それは運良くリオレイアに命中し、あまりの劇臭にリオレイアはたじろぎ、ディンから離れた。

 

 「嫌!嫌だ!!ぁぁぁぁ!!!」

 

 顔をぐしゃぐしゃにしながらハンマーを振り回すリーシャ。しかしあまりに適当に振り回されるその一撃は、リオレイアにヒットすることは無い。

 

 「ヤマト君、ネコタクっ!!!」

 

 「解ってる!!」

 

 体制を立て直したシルバが独特な臭いのするペイント液を入れたビンを弓にセットし、矢を放つ。この際当たる場所はどこでもいい、当たりさえすれば。

 

 矢は背中に命中し、リオレイアのその部分にピンクの液体が付着した。それと同時にヤマトはネコタクシーを要請する信号弾を空に投げた。肉球のマークを模した煙がポン、と上がり、これで遅くとも一分以内にネコタクシーが到着する。

 

 「リーシャちゃん、落ち着いて!!ネコタク来たら引くよ!」

 

 「はぁ、はぁ、うぅ……お゛え」

 

 暴れ疲れたのか、その場で戻すリーシャ。しかし、彼女がリオレイアの前で暴れたおかげで、軽く時間稼ぎは出来た。

 

 「あとは俺が稼ぐ!シルバ、引く準備頼むぜ!」

 

 そんなリーシャを襲おうとしたリオレイアの首をスラリと斬りつつ、足元に滑り込むヤマト。そしてディンの返り血が付いた脚を横薙ぎに斬り裂いた。

 リオレイアは一度リーシャからヤマトへと標的を移し替える。足元にいるなら蹴り飛ばせばいい、そう考えたのかいきなり走り始めた。

 

 「ぐっ……」

 

 反応が少し遅れ、尻餅を付いてしまうヤマト。そんな彼を更に襲うかの様にリオレイアは少し脚を引き、まるで何か溜めるような仕草を見せた。

 

 「やばっ……!」

 

 リオレイアのことを軽く調べたシルバから聞かされた情報によると、毒の棘を持ったリオレイアの脅威となる攻撃、サマーソルト。その攻撃をする前、少し溜めるような仕草をする……

 

 その時、ヤマトの頭の中にリタの母が昔教えてくれた、「武術の極意」がふと浮かんだ。

 

 

 

 

 

『いいかい、相手の攻撃が読めたらそれを躱そうとしなくてもいい。ただ流れに逆らわず、体の動きを理解して……』

 

 

 

 

 

 

 「一かバチかだっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ヤマトは太刀を斜めに構えた。それと同時にリオレイアがヤマトに向かってサマーソルト攻撃を繰り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

『いなせ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 サマーソルトの勢いそのままに襲ってくる尻尾。それを無理に躱そうとせずに、太刀を滑らせるように動きに乗る。そして、足を支点に身体の向きを入れ替え、そのまま納刀。ヤマトは、リオレイアのサマーソルト攻撃を「いなし」た。

 

 そしてヤマトの耳に聞こえてくる、ガタガタゴトゴトという慌ただしい音。ネコタクシーが到着したらしい。

 

 「ヤマト君!引くよっ!」

 

 「解った!!」

 

 そのままエリア2に向かって走り出すヤマト。眼前にはリーシャをおぶって全力で走るシルバと、ネコタクシーで運ばれているディンとガンランスが見えた。そしてシルバが後ろ手に何かを投げる。それは恐らく……ヤマトは目をつぶった。

 

 「ゴォォ!?」

 

 予想通り、それは閃光弾。目を貫く様な閃光に当てられ、リオレイアは獲物が何処にいるか解らない。ヤマト達はなんとか逃げることには成功した。

 

 

 

 

 

 第一ラウンドは余りにも早く、敗北という結果を残した。

 





え?勝てる気がしないですって?

......。

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