モンスターハンター 〜舞い踊る嵐の歌〜   作:亜梨亜

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幼馴染み

「はっ!」

 

 歯切れの良い叫び声が聞こえる。

 

「せいっ!」

 

 気持ちのいい風を切る音が聞こえる。

 

「せぁっ!」

 

 威勢のいい地面を踏む音が聞こえる。

 

 ユクモ村には商店区、居住区、農業区、そして狩猟者区の四つの区域に分けられている。商店区は商店が立ち並び、居住区は村民の家が立ち並ぶ。農業区はその名の通り農場だ。では狩猟者区は何があるのか。ハンター達の家、ハンター達が使う店、そして加工屋、集会所。

 

 その狩猟者区のハンター居住エリアに家を構えるヤマト。アマネの家より小さいものの、一人で住むには十分だ。

 そのヤマトの家の近辺では、早朝からヤマトの修行の音が聞こえてくるのは最早目覚まし替わりである。

 

 修行用に自作した、太刀と同じ長さの木刀を持ち、家の前でそれを振る。ヤマトが狩場に出てから毎日続けていることだ。

 

「おっはよー。やってるねぇ」

 

 ヤマトが修行しているこの時間帯に彼を訪ねて来る人物は一人しかいない。赤く長い髪の毛をポニーテールにして、服の上から前掛けをしている少女、リタだけだ。

 彼女はヤマトの幼馴染みであり、農業区で野菜を栽培している。時たま、その野菜を朝早くからヤマトへ配達しに来るのだ。尚、お代はきっちり取っていく。

 

「リタ、いつも悪いな。上がってくか?茶くらい出すぜ」

 

 木刀を振るのを一度止め、汗を拭きながらリタの持っている野菜の入った篭を受け取る。リタはにっこり笑いながら、じゃ、上がろうかな、と答えた。

 

 ヤマトの家はアマネの家を殺風景だと笑えない程殺風景である。ベッド、机、椅子、キッチン、アイテムボックス、食料保存庫、武器立て、本棚。たったこれだけしかない。いや、寧ろハンターの家などこれだけあれば十分なのだ。

 

「なんかもうちょいオシャレすれば?」

 

「ほっとけ」

 

 その必要最低限のものしか置いていない家がお気に召さないらしく、リタはヤマトの家に上がる度にこの言葉を口にする。そしてヤマトの返答もお決まりだ。二人にとっての簡単な挨拶のようなものだった。

 ヤマトはお茶を入れる為、コップを取り出し、ヤカンを手に取る。リタは椅子に腰掛け、前髪を弄り始めた。

 

「どう、ハンター稼業。上手くいってる?」

 

「それなりにな。……ほれ、茶」

 

「ありがと。……お母さんが、たまにはウチにも遊びに来いって」

 

 リタの家は自家栽培した野菜を売っている傍ら、武術の道場を開いている。ヤマトとリタは幼い頃から、リタの母に武術を教えこまれているのだ。

 

「そういや武術、役に立ってたりする?ハンターに」

 

 パッと思い出したようにリタが尋ねる。ヤマトはニヤッと笑い、当然さ、と答えた。

 

「ハルコさんがよく言ってたろ、突きは腕じゃなくて体全部使って打て、とか骨盤をうまく使え、とかさ。あとは押すより引け!とか」

 

「あー、言ってる言ってる。今でもよく言ってるよそれ」

 

「それが役に立ってる」

 

「は?ごめん、ちょっと意味わかんない」

 

 ヤマトの話はリタにはさっぱりだった。いや、リタ以外が聞いてもさっぱりだろう。

 

「実演してやるよ。ちょっと来い」

 

 そう言いながらヤマトは外へ出る。リタもその後を追う。

 ヤマトは先程まで振っていた木刀を持ち、上段に構えた。そしてそれを振り下ろす。ブンッ、という音が鳴る。

 

「今のが普通の斬り下ろしな」

 

 そう言いながらヤマトはもう一度上段に構えた。そして目を閉じ、深呼吸を始める。リタは何を見せてくれるのか聞きたかったが、今は何故か話しかけてはいけない気がした。

 

 そしてヤマトが目を開き、木刀を振り下ろす。と同時に、腰を思い切り木刀の進行方向に引いた。

 するとどうだろう、先程のブンッという音ではなく、ヒュンッ、という音に変化した。リタもその変化に気付き、おっ、と声を上げた。

 

「今のが役に立ってる、って斬り方。全身を使って「斬る」んじゃなくて「引く」ことをイメージするんだ。そんで腰をしっかり引けばモンスターの鱗も簡単に斬ることが出来る。でも相当集中しねえと出来ないから、戦闘中のテンションによるけどな」

 

「なるほどねー、頭ではわからんけどなんとなく理解した。ま、役に立ってるんならお母さんも喜ぶよ。私なんか手合わせすら最近してないのに、こりゃもう今やったらぼろ負けかなー」

 

 幼い頃、同年代で武術を習っていたのはヤマトとリタの二人だけ、ということもあり、二人はよく手合わせ、試合をしていた。リタの武術の腕は相当であり、女性ながらも戦績は五分だった。

 

「最近はモンスターしか相手にしてないからな、人間とは俺も手合わせしてねえよ。……なんだったら今からやるか?」

 

「お、いいね。じゃあ早速……はっ!」

 

 ヤマトが提案した途端、リタは不意打ちとも取れるような拳を繰り出した。それを紙一重で躱し、木刀を捨てるヤマト。

 

 二人の手合わせはいつも唐突に始まる。先手必勝。ルールなど無いに等しい。

 

 リタは姿勢を落とし、次々とキレのある突きを放つ。ヤマトはそれを後ろに退きつつ、躱し、いなし、被弾を避ける。簡単に当たってはくれないと判断したリタは突きからの流れで蹴りを繰り出した。急な攻撃の変化に驚いたヤマトは咄嗟に防御するが、腰を落とした蹴りの威力は思った以上に高く、腕がしびれた。

 

「スキありっ!」

 

 それをチャンスとみたリタが更に回し蹴りを放つ。それも受けるわけにはいかないヤマトは後ろへ飛び退き、痺れた腕を振りながらリタへ肉薄した。

 

「それこそスキありだぜ!」

 

 回し蹴りという大技を躱されたリタの姿勢が崩れている所に、ヤマトの小さな突きが繰り出される。その突きで転んでしまったリタ。起き上がろうとしたその瞬間に、耳元でズドン、という音が鳴った。リタの耳元をヤマトが踏み抜いた音だ。

 

「勝負あり、だ」

 

「……やっぱりボロ負けだねー」

 

「いや、ぶっちゃけあの蹴りは結構痛かったぜ。お前もハンター、目指せばいいのに」

 

「ハンターねぇ......ま、考えてみるさ」

 

 二人はその後茶を飲みながら、話に花を咲かせた。

 




 武術の件の話ですが。

 私はあまりその系統には詳しくありません。が、腰をしっかり引きながら刀を振ると骨まで斬ることが出来る、という話は本当です。

 日本人は押すより引く動作の方が力を入れやすいらしく、腰を引くと自然とその力が入るそうです。

 と言ってもにわかの知識。「へぇそうなんだ」位に覚えておいてください。これが正しい、とは言いきれません。

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