人外ヒロイン、アマネさんの本領発揮です。
てかこの人ヒロインなんですかね。
それではどうぞ。
「さァ……ユクモ村の上位ハンターの実力、ミセてあげル」
人では無い何か。
今のアマネを表現するには正にそれである。
目の前の
本来なら強者であるはずのナルガクルガが、人間に圧されているのだ、今のアマネは異常としか思えなかった。
アマネが滅多にチームハントを行わない理由はここにある。
こんな悍ましい姿を他人に見せたくないことと……味方すら殺そうと剣が勝手に動いてしまうからだ。
既にアマネの頭に思考というものは存在しない。あるのは生存本能と殺戮衝動。正に獣宿し餓狼。
「うぁぁあォぁあッ!!」
両腕に引っ張られるかの様に飛び出すアマネ。ナルガクルガはアマネと直線上に立たないように、横にステップを踏む。
しかし、それは無駄に終わった。
「ギャウッ!?」
アマネはナルガクルガがステップを踏もうとした動きを見切り、片方の剣をその動きのルートに投擲したのだ。その剣はナルガクルガの潰れた目に刺さり、確実に怯んだ。
「アハハハハァッ!」
怯んだ隙に人間とは思えない速度で接近し、剣を引き抜くと同時にその潰れた目を踏みつけて飛び上がる。空中で体にひねりを加えて背中から尻尾までを回転するように幾度も斬りつけた。
アマネが着地した時には背中に付いた切創は両手では数え切れない程である。明らかに人間の動きを超えていた。
「あぁぁ……ヒヒッ、えァァアッ!!!」
返り血で真っ赤に染まった全身を捻らせ、軸足も程々に無理矢理ナルガクルガの脚を切り刻む。一度剣を振れば二度切創が付く。手負いの獲物を逃がさないと言わんばかりの無慈悲な攻撃。
「ギャオァァァォォォアッッ!!!」
しかし、ここまで一方的に攻められて黙っているナルガクルガではない。瞳から、文字通り耳まで真っ赤に輝かせ、怒り心頭の雄叫びをあげた。
その雄叫びすら薄ら笑いでのらりくらりと躱し、怒りの迅竜に少しずつ近寄るアマネ。今の彼女にとって咆哮は圧倒的強者の威圧ではない。ただの耳障りな音だ。
ナルガクルガは先程より数段素早い動きでアマネの周りを飛び回り始めた。ヤマトすら残光しか見極めることが出来なかった速度だ。
アマネの周りに現れては消える赤い光。普通の精神をしたハンターならその速度と、遅れて見える赤い光に恐怖し、それだけで戦意を喪失するようなものだ。
「ァァあぁ〜……」
殺意と狂気に満ちた瞳で光を追いかけるアマネ。さしもの彼女であっても、このナルガクルガの動きを見極めることは出来ないらしい。
赤い残光を追いかけていてもナルガクルガを捉えることは出来ない。ナルガクルガは、アマネの見ている方とは逆側から飛び出していた。
「ゲギャァゥァ!」
「フゥっ!」
しかし、アマネはナルガクルガが飛び出して来た瞬間を見計らったかのように、ナルガクルガを踏みつけられる最適なタイミングで跳んだ。全く、見えていなかったのに、である。
獣の生存本能に全てを任せ、生きるが為に自らが人間であることすら捨てる。そしてその本能は、無意識に危険な攻撃を察知し、無意識にそれを回避するのだ。
完全に不意打ちを透かされたナルガクルガ。その間抜けな頭を踏みつけ、頭が下がった瞬間に首を片方の剣で突き刺す。そしてそれを支点にアマネはナルガクルガの上に乗っかった。そして満面の笑みで……もう片方の剣で狂ったように斬り始めた。
「ア〜はァ〜♪ヴァァあ!!」
「グギャァァァアッ!?」
最早言葉すら捨てている。今のこの状況を見て、彼女を「人間」と呼べる人間は居ないだろう。
ナルガクルガは必死に暴れ回り、なんとかしてアマネを引き剥がそうとするが、どれだけ暴れても背中の人間が振り落とされる気配は無い。焦りに焦ったナルガクルガは無理に体を捻ろうとした結果、足をもつれさせ、その場に転げ落ちることとなった。
「ハハハはハはッ!」
転げ落ちた勢いで巨体に潰されないように剣を引き抜き、いち早く地面に着陸していたアマネ。無防備なナルガクルガの顔面を嫌という程切り刻む。その腕を振る速度は異常な程に速い。
もっと。もっと血を見せてくれ。そう言わんばかりの血に飢えた狼の如く、返り血を浴びれば浴びる程、その剣筋は速くなっていく。悪鬼羅刹すら震えるその光景は、滝が流れ緑豊かな渓流には余りにも似合わない光景だった。
「ギィァァアァァァォァアッ!!」
それでもまだ反撃を止めないナルガクルガ。一気に飛び上がり、棘まみれの尻尾をしならせ、その遠心力で叩きつけるように振り下ろした。
「二ィアッ!」
アマネはそれを、体を思い切り捻って横に飛ぶことで躱してみせた。まるで首がもげてしまうのではという程の捻り方は、普通なら躊躇うような躱し方である。
そしてナルガクルガの叩き付けられた尻尾は……いつの間にか半分程無くなっていた。いや、斬り飛ばされていた。
「ガァァァァッ!?」
無理矢理体を捻って躱した瞬間に、尻尾を思い切り斬り裂いていたのだ。ナルガクルガ最大とも言える武器の尻尾を、攻撃を躱す片手間にやってのけたのだ。
この時点で、ナルガクルガの戦意はほぼ喪失された。
このままやっても殺される。この人間は自分より圧倒的に強い!
さっきまで戦っていた人間達よりも遥かに強い、傷を負った状態で戦ったことがそもそもの失敗!
すぐに逃げの体勢を取り、上空へ逃げようとした。
「シェアォァァァッ!」
しかし、このモンスターのような人間は、そんな隙すら与えてはくれないのである。
空を飛ぼうと上空を確認したナルガクルガの視界に映ったのは……忌まわしき殺意剥き出しの人間だった。
アマネはナルガクルガが逃げる事を予測し、思い切り跳んでナルガクルガの頭上から双剣を振り下ろす準備をしていたのだ。
「ヴェアァッ!」
両手をクロスさせるように双剣を振り下ろす。ナルガクルガの両目を潰すと言わんばかりに振り下ろされた双剣は上空に逃げようとしたナルガクルガを地上に縛り付けるには充分すぎた。
「ァハハハハハハハハハッ!」
そしてまたもや顔面を滅多斬りにするアマネ。既にナルガクルガの目は両方共赤黒く染め上げられており、黒い体毛も赤く変色している。しかし、何よりも赤いのはナルガクルガでは無く、アマネ本人だった。
もう、いつからナルガクルガの命は絶えていたのだろうか。
動かぬ屍となっても、アマネはまだ血が足りないと言わんばかりに二本の剣を振るい続けていた。
恐らく……気が済むか、意識が帰ってくるまでそのままなのだろう。
「ハァ……ハァ……ウゥぁぁ!!」
おい、折角美人なんだから顔拭けよ。
「っ!!」
アマネの頭の中にそんな言葉が蘇った。
それと同時に人間の意識が帰ってくる。
人間として復活して初めての景色は……獣の自分が先程まで戯れていた、見るも無惨なナルガクルガの屍体だった。
「あっちゃー……久々に制御効かなかったのね」
その場にドサッと倒れ込むアマネ。恐らく顔も真っ赤で酷いことになっているのだろう。
体のあちこちが痛い。また無意識に無理な姿勢で剣を振ったりしていたのだろう。
「……ヤマトもリタちゃんも、私等に似てるからなぁ……絶対助けるって気負い過ぎたんでしょうね」
自分が落ち着いていれば落ち着いていられるほど、獣の自分から無理に人間の自分を取り戻すことが出来る。どうやら彼女は、ヤマトとリタの危機に自分でも気付かない程、焦っていたらしい。
そこまで焦っていた彼女を人間に引き戻してきた声。
「結局私も恋する乙女って訳ねー……もう乙女って歳でもないか」
頭の中に蘇った言葉。それを掛けてくれた人物は……
「あーあ。ロックスに会いたいなぁ……」
彼女の、愛する人物だった。
唯一、アマネの獣宿し『餓狼』を見たことがある人間であり……唯一、そんな彼女を「人間」として見る人間である。
リタがアマネに似ていたから。そしてヤマトがロックスにどこか似ていたから。アマネは獣の自分から戻れなかった。しかし、人間に引き戻してくれたのも、ロックスの言葉のお陰である。
「ホンット、恋ってムカつくわね」
結局、彼女はロックスに振り回されていただけだったのかもしれない。
それでも、彼女はロックスに対する愛情を切ることなど出来ないのだ。
だから、彼女はいつだって、「恋はムカつく」と豪語する。
自分を振り回すくせに、それを楽しんでいるのだから。ムカついて仕方が無いのだ。
「……帰ろ」
痛む体に顔を顰めつつ、ゆっくり立ち上がり、ダラダラと歩き始めるアマネであった。
空は、快晴である。
太陽は、血塗れの女ハンターを強く照らしていた。
この人強すぎひん?()
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