日間ランキングに載りました。
本当にありがとうございます。
本編をどうぞ。
ヤマトが目を覚ますと、竜車の上だった。
リタを襲う凶針を目にして、そこから自然と体が動いて……その先の記憶が混濁している。。
「痛っつ」
体を起こそうとすると脇腹に痛みを感じた。そこを見るとぐるぐる巻に包帯が巻かれており、包帯には軽く血が滲んでいる。これは……リタを守るために負った傷だろう。あの凶針からリタを守るために負った、その傷だろう。
飛竜刀『翠』を振るリタ、天空から舞い降りたアマネ。その辺りの記憶はあるが、誰が包帯を巻いてくれたのか、全く記憶に無い。恐らく気絶していたのだろう。
痛みに耐えつつ、体を起こす。そこで初めてヤマトは、自分がリタと同じ竜車に乗っていたことを知った。
「やっと起きた」
体を起こしたヤマトを見て、嬉しそうに微笑むリタ。その笑顔に反して服はボロボロで、顔も恐ろしく疲れて見えた。
「ネコさん達が手当してくれてたのよ」
「……あー、アイルーか」
アイルーの技術や文明は、人間を超えている部分も幾つか見受けられる。ネコタクシーで運ばれるハンターは、大概の場合が大怪我を負っているので、ネコタクシーを引くアイルー達は、独自の応急手当術を持っているらしい。
「動いても平気?」
心配そうにリタが尋ねる。ヤマトは少し体を捻ったり腕を回したり、と様々な動きを試した後、痛みに耐えかねて首を横に振った。
「……まぁ、その怪我じゃそうだよね」
はぁ、と一つ溜息を付いたリタは……いきなりヤマトの頬に平手打ちをぶちかました。所謂、ビンタである。
不意打ち。まさにその一言。今迄ヤマトはリタの不意打ちを何度も食らってきたが、ビンタの不意打ちは初めてだった。
「バカっ!ヤマトのバカ!」
ジンジンと痛む頬。リタは目に涙を浮かべていた。
「どうして生きることを諦めた私なんかを助けて死にかけてんのよ!もしそれであんたが死んでたら……死んでたら……バカぁ」
堰を切ったようにボロボロと泣き出すリタ。ヤマトは何も言わず、リタの次の言葉を待っていた。最後まで聞かないと、行けない気がした。
竜車がガタゴトと揺れる。
「もう二度と……失いたくないの。失うくらいなら……私が死ぬ方がよっぽどいいの」
「…………」
それはあの日植え付けられた恐怖に対する、リタの逃避。「三人」だったのが、「二人」になったこと。「一人」になる位なら、これ以上大切なモノを失うなら、代わりに私が消える、という逃避。
ヤマトはリタのこの上なく「弱い」部分を初めて見た気がした。だからこそ、今は言葉を紡がないと行けない気がした。
「俺だって同じだ、リタ。これ以上失いたくないから、俺はお前の代わりになろうとしたんだ」
その逃避は、恐らく残された方を絶望へ叩き落とすであろう、最悪の逃避であることを、どちらも理解していた。しかし、そんな絶望であっても、「生きていれば」希望に変わるかもしれない。だから互いに、自らを殺し相手を生かそうとしているのだ。
それを意味するヤマトの言葉。それを聞いた途端、リタはヤマトの傷もお構いなく抱きついた。そして、彼の逞しい胸に顔を埋めて、ただただ泣いた。
「バーカ!バカ、ヤマトのバーカ……うぇ、うぇぁぁぁん、バカぁ……」
竜車はガタゴトと揺れる。
ヤマトはふと、リオレイアの火球からシルバを守る為に武器を捨てて飛び込んだディンのことを思い出した。
あの時、ヤマトはディンを殴った。
今、ヤマトはリタに殴られた。
理由は殆ど同じようなものだ。
「……でも、二人共生きてた」
ヤマトはそう、呟いた。あの時、ディンも同じようなことを口にしていた気がする。
そしてそれは結果論でしかない。ヤマトも、リタも、アマネの助けが無ければ無理をして二人共死んでいただろう。
しかし、それでも生きていた。
それだけで、いい気がしていた。
「……リタ、痛え」
「うるさぁい……バァカ……やっぱりあんたに助けられるのは恥よぉ……」
泣きじゃくりながら、肩をぽかぽかと殴りつけるリタ。ヤマトはもう痛いと言わずに、ただリタのされるがままになっていた。
結局、集会所に着くまでリタはヤマトに抱きついて泣いていた。そう長くない時間ではあったが、傷の痛みとリタの涙に耐えていると、恐ろしく長いように感じられた。
「リタ、着いたぞ」
そういえばアマネはどうしているのだろうか。先に戻っているのか、まだナルガクルガと死闘を繰り広げているのか。ヤマトは少し不安になった。
リタも流石にずっと抱きついたままは申し訳ないと思ったのか、真っ赤になった目と鼻を擦って竜車から降りた。
ヤマトも傷口に響かないように注意しながら竜車を降りる。そのまま二人で集会所の中へと入る。
集会所の中はいつものように騒がしくなく、少し落ち着いていた。ヤマトとリタが入って来るなり、更に場が静まり返る。
ギルドマスターが、ヤマトの事を正面から見据える。その目はいつものような酔っ払いでは無かった。
「……無事かい?」
「……ああ」
その言葉を聞いて、ギルドマスターの顔はいつもの呑んべぇに戻った。
「なら、何も言うことはないねェ。これからは無茶はしなさんな」
「……悪い、じいさん」
「あら、私には謝らないのね」
ふと聞こえてきた声。集会浴場の入り口に目をやると、そこには全く怪我などの様子が見受けられないアマネが立っていた。
「あなたの応急手当の時間がかかりそうだったからね、先に戻ってたのよ。……まあ、リタちゃん的には正解だったみたいね」
涙でぐしゃぐしゃになったリタの顔を見てウインクするアマネ。リタは赤かった顔を更に赤くしていた。
「あう……えと、助けてくれてありがとうございます」
「気にしないの。生きててよかった」
生きててよかった。その言葉はリタにひどく刺さる言葉となった。
その時、ヤマトが片膝を付いて倒れかけた。リタはそれに驚き、肩を貸して立たせてあげる。
人間の命は思っているより短い。そして弱い。
しかし、生きるためになら何よりも強くなれるのだろう。
あんなにカッコ良く戦った二人が、吹けば倒れる程ボロボロなのだ。それ程に二人共意味は違えど、「生きよう」、「生かそう」としたのだろう。
「あなた達、そこまで相手の為に命張れる奴なんか早々いないんだからね、互いを大切にしなさいよ?じゃ、私温泉入るから」
ひらひらと手を振って暖簾の中へ消えていくアマネ。その光景を見届けると、少しずつ集会所に活気が戻り、少しずつ騒がしくなり始めた。
そして。
「なんッでアンタがここにいるのよ!!」
温泉から、そんなアマネの声が聞こえてきた。
〜〜〜
信じられない。
私一人だと思ってたから、湯浴みセットも適当にしか付けていない。具体的に言うと胸があんまり隠せてない。
でもそんな事よりも、何よりも、どうしてここにコイツが居るのか。それが全く理解出来なかった。
金髪の髪、耳に付けられた派手なピアス。背中しか見えていないけど、それだけでそれが誰なのか、私が間違えるはずもない。
なんで。
なんで……
「なんッでアンタがここにいるのよ!!」
気が付いたら全力で走っていた。湯浴みセットがはだけていくが、そんなこと気にしていられない。
今日はなんて日だ。ヤマトが無茶して、リタちゃんも無茶して、私は久々に制御出来なくて……
「ロックス!!」
大好きな……ロックスに会えた。
ロックスは振り向き、綺麗な赤い目を私に見せてくれる。久々に、本当に久々にその優しい顔を私に見せてくれた。よく見ると、彼の隣には盆が浮いていた。盆の上には私とロックスが大好きなお酒が置いてあった。
「よ、久しぶり」
「久しぶりじゃないわよ!アンタ全っ然連絡くれないんだから本当に今度は死んだかと思ったわよバカ!」
二年くらい連絡が取れなかった。「ちょっとヤバい仕事が入った」とだけ手紙が届いて、それ以来音信不通。マジで死んだものかと思ってた。ホンットにこのバカは……人をどれだけ心配させたら気が済むのかしら。
そっか、ロックス生きてたんだ。
生きててよかった。
「悪いな、ちょっと世界中転々としてて。……酒、飲むか?」
「飲むに決まってんでしょ!バカ!」
「おう注いでやるよ、飲め飲め。……お前すんげえエロい格好してるな、襲っていい?」
「アンタのせいよバカ!襲ってみなさい、ホントに殺すわよ」
あー……涙出てきた。
私も今日まで生きててよかった。
前書きでも言いましたが日間ランキングに載りました、本当に皆さんのおかげでございます……ありがとうございます。
ロックスに関しては「死んでるんじゃないか」という予想も頂いてました。ごめんなさい、生きていました。
感想、評価等宜しくお願いします。