モンスターハンター 〜舞い踊る嵐の歌〜   作:亜梨亜

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独りぼっちじゃない

 ヤマト達が旅芸人パノンの芸を見た次の日。

 ヤマトは温泉に浸かって疲れを癒していた。特に仕事に行く予定も無かった為、早朝の稽古を済ませてからその汗を流しに来たのだ。

 

 一人、温泉に浸かりながら考える。

 

 昨日の、パノンの天才論。天才とは孤独である、という彼の持論。

 恐らく、彼と同じ事を彼以外の旅芸人がやろうとしても、モンスターに喰われて死ぬのがオチだろう。そう考えれば、確かに彼は孤独なのかもしれない。

 

 ヤマトは身近にいる「天才」を思い浮かべる。

 ……彼女は果たして、孤独なのだろうか?

 天空剣と呼ばれる女性ハンター、アマネもまた孤独なのだろうか?いや、彼女にはロックスという彼氏がいる。まあ、ロックスも往々にして天才なのだが。

 そもそも天才とはどのような存在を指すのだろうか?

 

「あれ?ヤマト君」

 

 ふと、声を掛けられた。

 

「……シルバ。奇遇だな」

 

「そうだね。……少し、お邪魔しても?」

 

 声の主はシルバだった。ヤマトは問に対して頷きで返し、シルバが隣に座る。ちゃぷん、と湯が揺れ、ヤマトの肩を温かく揺らした。

 

「今日はパノンさん、何処で芸をしているんだろうね」

 

「村の何処かであることは間違いないんだろうが……ちょっと俺は今日は会いたくねえな」

 

「僕もかな。凄い人だけど……不気味だよ」

 

 結局あの後、リーシャがパノンにユクモ村近辺で見かけるモンスター達の情報を渡した。ガーグァ、ファンゴ、アオアシラ、クルペッコ、ドスジャギィ、リオレイア、ナルガクルガ……パノンはそんな様々な自然の強者達の情報を聞いては目を輝かせていた。「会ってみたいなぁ、面白い芸のネタになりそうだ」、と。

 その瞳は恐ろしい程に無邪気だった。もし本当に出会ってしまったなら、死ぬ可能性だってあるのに。

 

「なんか、あいつ……自分が芸を磨く為なら命すら投げそうだよな」

 

「実際、今まで何度も投げてるだろうね……昨日の話聞いてるとどうしてまだ生きてるのか不思議なくらいだよ」

 

 シルバはいつか、初めてホロロホルルと遭遇した時のことを思い出す。ハンターであるシルバですら、見たこともないモンスターと遭遇してしまったあの時、何も考えずに全力で走った。ただただ逃げた。「戦う」という意識も、「観察する」という意識もありはしなかった。しかし、それが「普通」なのだ。命の危機を感じた時、人はただ生きようとする。それが普通なのだ。

 

「リーシャちゃんも、似たような節はあるけどね」

 

「言われてみればそうだな……」

 

 ヤマト、ディン、リーシャ、シルバの四人で狩猟をする場合、リーシャは常に最前線でハンマーを振るう。相手となるモンスターが怒り狂っていようが、疲れていようが、常に一番前で攻撃を掻い潜っては奇妙な掛け声と共に勢い良く殴りつけるのだ。

 ヤマトも基本的には最前線で猛攻をいなしつつ的確に攻撃を当てる役なのだが、それでもモンスターが怒り狂っている時は一度回避に徹したりと動く。リーシャはそれをしないのだ。なのに、狩猟が終わってしまえば一番怪我が少ないのはリーシャだったりする。

 

「……天才は孤独、か。凡人が天才と同じことをしようとすると、きっとダメになっちゃうんだろうね。身体か、心が」

 

「まあ、アマネとかリーシャみたいな狩猟出来る奴は確かにそういないだろうな」

 

 君もだけどね、と言いたくなったシルバだが、その言葉を飲み込んだ。そう言ってしまうと、自分の凡才さを際立たせてしまう気がして。

 

「先にあがるぜ」

 

「ん。またね、ヤマト君」

 

 ヤマトは湯船から立ち上がり、肩をぐるりと回してから暖簾の方へと向かった。その背中にひらひらと手を振って見送るシルバ。その背中は大きく、綺麗な筋肉がしっかりと付いていた。

 

「……天才、か」

 

 あの時、リーシャは「シルバだって」天才だと言った。

 誰もが認める天才少女リーシャと、武術の心得を応用してナルガクルガと一人で互角に戦ったと言われるヤマト。そして誇り高き狩人になる為にどんな時でも味方を守るディン。三人の天才と共に狩りをしていれば嫌でもわかる。

 

 自分はああはなれない。

 

 天才が孤独なのではない。

 少数派が孤独なのだ。

 

 このパーティの中では、凡人の方が少数派だった。それだけの話だ。

 

 それでも、リーシャが自分のことを「天才」だと言ってくれたことは素直に嬉しくて。だけど何を思ってそう言ったのかが解らなくて。

 

「……ダメだなぁ」

 

 一人で悩んでしまう。

 独りになりたくないから、一人で悩むのだ。

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「けほっ、けほっ」

 

 布団の上でか細い咳が繰り返される。

 リーシャの姉、エイシャによるものだ。

 

「お姉ちゃん大丈夫?」

 

「だーいじょうぶだって。明日にはお父さんから薬も届くし」

 

 不安そうな表情でエイシャを見るリーシャ。そんな彼女を不安にさせないように、いつもと変わらない声色のエイシャ。

 彼女の薬は郵便屋によって両親から送られてくる。その薬さえ飲めば、咳は取り敢えず治まり楽になるのだ。明日届くことも解っているため、本当にエイシャの言う通り彼女は大丈夫なのだ。

 

「あ、そうだ!今ね、この村に旅芸人が来てるんだ」

 

「へぇ、それは面白そうだね。アンタは観に行ったのかい?」

 

「うん!その時にね、お姉ちゃんにも芸を見せてあげてほしいってお願いしたの!明日、きっと来てくれるって!」

 

「本当!?……ありがとね、リーシャ」

 

 エイシャはリーシャの瞳を見る。彼女はエイシャを悲しませまいと元気に振る舞い、そしてエイシャの為に危険な狩りへ赴き、命を懸けて戦うのだろう。

 妹が何処か遠い所に行ってしまうのではないか。

 何故かそう感じずにはいられない。

 

 そんな不安を、一瞬考えてしまったその瞬間。

 

「……うぉえっ」

 

「お姉ちゃんっ!?」

 

 エイシャの視界が反転した。いや、反転したように思えた。

 起こしていた上半身を支えられず、そのままフラリと倒れる。呼吸が上手くできない。咳が止まらない。

 

「ゲホッ、かっ……ゴホッ!」

 

「お姉ちゃん!落ち着いて!?落ち着いて息がしやすい姿勢を作って!楽な姿勢でもいいよ!」

 

 リーシャの声が遠い。本当に彼女は遠い所に行ってしまったのでは無いだろうか?

 朧気に聞こえる声に従うように、少しでも楽になれるように体を横向けに倒し、身体中の悪いもの全てを吐き出すかのように咳き込み続ける。経験上、こういう場合は咳を止めようとするより、出せるだけ咳を出しておいた方が楽になる。

 何か暖かいものが背中をさする。恐らくリーシャの手だろう。しばらく咳き込み続けると、ようやく呼吸がしやすくなり、咳も止まった。

 

「ぜぇ……ひゅー……」

 

「大丈夫、お姉ちゃん?」

 

「大丈夫大丈夫。……じゃないかもね。明日になったら薬来るし今日だけの我慢だよ」

 

 息を整えながら、無理に微笑むエイシャ。リーシャはそんな痛々しく弱々しい彼女を見て何とも言えない気持ちとなる。

 しかし、実際に今日我慢すれば、明日には薬が届く。そうなれば症状も和らぐことだろう。ある意味ではタイミングが良いとも考えられる。

 

 エイシャがまた、軽く咳き込む。そんな時。

 

「おい、エイシャ!大変だ、お前の親父からの荷物を載せた行商隊、明日に来れそうにない!!」

 

「え?」

 

「どうしてっ!?」

 

 家のドアをノックもせずに開けた男性は、村の交易等を取り仕切っている者だ。薬が両親から送られてくる際には、彼に予め連絡が入る。そして薬の到着予定日を前もって教えてくれるのだが。

 何故か、今回に限って行商隊がユクモ村に到着出来ない。それはつまり、エイシャが病の苦しみに耐える必要日が増えたということだ。彼女の病は重い。薬の無い生活が数日続けば、意識を保つことすら出来なくなるだろう。つまり、文字通り「死活問題」だ。

 

「どうして届かないんですか!?」

 

「厄介な事に……渓流近辺にジンオウガが居るらしい!そいつを何とかしない限り、薬が届かな━━おいリーシャ!?お前どこ行くんだ!?」

 

 リーシャは家を飛び出し、脇目も振らず走り出した。

 行先は決まっている。集会所だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「マネージャーさんっ!渓流の近くでジンオウガが出たって━━」

 

「んん?リーシャか。ちょうどその事で話そうとしてたところじゃよ」

 

 リーシャが鬼気迫る表情で集会所に到着した時には、集会所は普段より静まっており、ハンター達はマネージャーに注目していた。

 

「……渓流近辺で雷狼竜、ジンオウガが目撃された。そのせいで明日この村に到着する筈の行商隊が足止めを食らっているんだが……うぃ、このジンオウガは早急に対応するべきだと思ってる。誰か狩猟を頼みたいんだが……」

 

「私が行きますっ!」

 

 真っ先に手を挙げたのはリーシャだった。マネージャーもそんなリーシャをまじまじと見つめる。何かに取り憑かれたかのような、そんな表情。

 白兎少女ではない。白兎獣そのものが乗り移っているようにさえ思える。

 

「リーシャ。チミ一人では手に負えない相手だ……誰か付き添いはいないか?」

 

「じゃあ、僕が行きます」

 

 続いて手を挙げたのはパノンのような夜鳥の衣では無く、「鎧」としての夜鳥の衣に身を包んだ銀髪の青年。紛れもない、シルバだ。その表情は固く決心したような強さと、リーシャを安心させる優しさに満ちていた。

 

「シルバさん!」

 

「というか、いつものメンバーで行きます。ヤマト君と、ディン君は僕から話すよ。……マネージャー、それでいいですか?」

 

「んん……アマネもロックスも仕事で居ないし、チミ達四人なら問題はねえだろう。死ぬナよ……コノハ!正式にクエスト手続きしろぃ」

 

「ありがとうございます」

 

 シルバは頭を下げてから、リーシャの方へ歩いて来る。そして肩に手をポン、と置き、リオレイア戦の前にもよく見せていた、くしゃっとした笑顔を見せた。

 

「事情はよく知らないけど、安心して。君は「独り」じゃないから」

 

 天才とは孤独である。パノンのその一言は、何故かずっとシルバにのしかかっていた。だからこそ、リーシャを「独り」にしてはいけない。

 

 天才とは孤独である。何故か、その一言がリーシャによぎった。ジンオウガを早く倒さなくては、姉の命が危ない。リーシャが「独り」になってしまう。だから「一人」で戦うつもりだった。

 だが、「一人」じゃなくなった。「二人」になった。いや、恐らく「四人」だ。「一人」でも「独り」でもない。

 

「……ふぇ、うぇぇん」

 

 気が付けば、リーシャは泣いていた。

 白兎獣そのものが乗り移っているように思えた彼女が、ただの少女になった瞬間だった。シルバはそんなリーシャを見て、少し驚いたものの、無言で頭を撫でる。そして、ヤマトとディンを探しに向かった。どちらも恐らく今日は自宅にいるだろう。






頭を撫でるとかこいつイケメンか?


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